「メイルス? 誰だそれは? 分かるように話してくれ」

「第二王子? だから、隣国の? ドレスを貰いにお城に行ったの。それでね、お料理とか。後、教室にも通った! 半年くらい。楽しかった。なのにメイルスが家に帰れって。嫌だって言ったのに。で、帰る途中、一緒に来た護衛が聖女にするから教会に……あっ!」

 リリーが慌てて口を両手で塞ぐ。

 隣国の第二王子とは、とんでもない大物を釣り上げたな。

「教会に? 聖女にするってどういうことだ?」

「秘密!」

 ため息を吐いたシドさんが一睨みすると、リリーは慌てて話し出した。

「噓、噓! 言うってば! キラキラの粉を二人で浴びろって言われたの! でも聖女になれる粉なんてさんくさいでしょ? だから細かく問い詰めたのよ! それで色々聞き出したら、思ったよりも話が複雑で……。でも、悪い話じゃなかったの!」

 シドさんは、ペラペラと喋りだした彼女から手を離す。いつの間にか殺気も消えて、全身を刺すような痛みも消えていた。


「では、マリーも同じ毒を受けたのか?」

「毒? 何言ってんの? 聖女になれるキラキラの粉だってば」

「落ち着いて聞きなさい。その粉は毒だったんだ。お前さんは騙されたんだよ。口封じにお前さんは殺されかけて、マリーは攫われた」

「ええ?」

 リリーが信じられないという顔でシドさんと俺を交互に見た。本当に何も知らなかったらしい。利用されただけなのか。

「噓だったの? それじゃマリーは……。どうしよう、でも……」

 彼女の顔は真っ青だ。ブツブツと「どうしよう」と繰り返している。

「何を聞いた? 何を見た? マリーはどこだ?」

「どうしよう……。何が本当だか分からない……」

「何でもいい。お前さんの知っていることを、全部言え」

「信用して平気なの? 一緒に来た護衛のダジールが、第一王子の命令で動いてるって言ってたよ? 逆らえば殺されるって」

 第一王子? 第二王子じゃなくて? リリーはどれだけの大物と関わりがあるんだ。

「大丈夫だ。ガインがそれを許すと思うか?」

 彼女は俺を見て、肩の力をフッと抜いた。


「……帰りの馬車で、ダジールから袋を渡された。それをマリーと二人で浴びれば、私にも光魔法が使えるようになるって。さっきも言ったけど、こんな話、信じられるわけないでしょ? それにダジールは、凄く嫌な奴なの」

「では、なぜ撒いたんだ?」

「ダジールが言うには、マリーは教会から解放されたがっているって。だから第一王子が、マリーを助け出すんだって言ってた。そしてこの粉は、そのために王族が用意した本物だって。そう言われたらそうなのかなって。それに、何かあっても第一王子が責任取るって言ってたし」

「第二王子は? そのメイルス王子は絡んでいないのか?」

「メイルスが? フン、まさか。あの人はそんな人じゃない」

 リリーが鼻で笑ってそう言った。

 どうやら馬鹿王子で有名な彼は、そういうタイプではないらしい。

「それで? マリーのいる場所に見当はつくか?」

「マリーはお城に行くはずだった。第一王子と結婚するために。予定では二人で粉を浴びた後、マリーに事情を説明するはずだった。仲直りもしたかった。それにお城はとてもいいところだから、それも話そうと。私にもハートが手に入るし、悪い話じゃなかったから……」


 無茶苦茶な話だが大体のことは分かった。マリーは隣国の王城にいる可能性が高い。護衛は口封じを前提に、リリーに色々と話して聞かせたんだろう。こいつを黙らせるのは骨が折れる。マリーが万能解毒薬を用意していたことも、それが双子のリリーに効いたことも、敵には想定外だろうな。本当にこいつは悪運が強い。


「これ以上は何も出てこんよ」

 シドさんが厳しい表情のまま、俺の後ろに向かってそう言った。

 振り返るとそこには、黒い制服の第五諜報部隊が立っていた。


 欲しいのは、マリー自身か、権力か、それとも聖女の力か? 結婚話は噓だろう。マリーには魅了も洗脳も効かねぇからな。マリーが断れば終わる話だ。どこかのカルトが聖女を見せしめに? それもねぇな。それなら先に第五が情報を手に入れている。

 敵の目的がまったく分からねぇ……。ヘンゼッタの第一王子はこれだけのリスクを冒して、何が目的なんだ。



「教皇様、お体は大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃ。おぬしも疲れたら休むといい」

 昨夜は明け方まで対応に追われ、今朝は少し遅めに起きた。窓の光が疲れた目には少し辛い。

 わしが作戦本部に戻ると、息つく間もなく白神官が滑り込んで来た。

「教皇様! 聖女様の妹君が先ほど目覚め、聖女様の居所が分かりました!」

「マリーは無事か?!

「安否までは分かりません。ですが、隣国の王城に囚われている可能性が高いと。黒幕はヘンゼッタの第一王子の可能性。すべて裏は取れてません。それと、第二王子も関与している可能性があるそうです」

「な、なんじゃと!? 王子二人でマリーを攫っただと!?

 その場にいた誰もが耳を疑った。部屋の中は一瞬で緊張感に包まれる。

 ヘンゼッタ王国は教会に盾付く気か?


「教皇様! 手紙が届きました!」

 またもや白神官が手紙を握って滑り込んで来た。

 次から次へと、今度は何じゃ。

「そのままでいい、それを……」

 動揺する皆は、手紙を開くわしに注目している。

「ハートからじゃ。賊が国境を越えた……国がらみの犯行の可能性がある、と。……マリーの居場所はヘンゼッタで間違いなさそうじゃな」

 あちこちから苛立ちの声や呆れる声が聞こえてくる。

 あの国には聖女がいない。災害時は周辺国から聖女を派遣してるのに。

 恩をあだで返しおって。


「ヘンゼッタ王国支部に手紙を! 向こうの教会に、情報を集めさせるのじゃ!」

 神官たちが一斉に動き出した。


「モーラス司教、幹部たちを招集してくれ」

「もしかして、あれを?」

「うむ」

 モーラス司教は何も言わずに部屋を後にした。

 至急、幹部会を開かなくては……。