マリー、ヘンゼッタ王城に到着 第一王子視点
「第一王子! 聖女を連れ帰りました! 解毒薬を飲ませたのですぐに目覚めるでしょう」
「え? 本当に連れて来たの? それに解毒薬って……」
私はダジールの言葉に驚いて、最側近のラーセンを見た。
「はい。離れの部屋にお連れしました」
ラーセンも満足そうに頷いている。
私は怖くなって来た。本当に連れてくるとは思わなかった。それどころか、すっかり忘れていたのだ。それに、やるならもっと穏便に、聖女を説得して……と、平和的に連れてくるものだと漠然と思っていたからだ。あれは、勢いで言ったのに。
「だ、大丈夫なのか? どう考えても〝犯罪〟じゃないか」
二人があまりにも誇らしそうな顔をしているので戸惑った。
「王子、ダジールは第二王子の護衛主任なのですよ?」
「元な」
逆にラーセンは「この好機が分からないのですか?」と戸惑っている。
「いいですか王子。第二王子が聖女の偽物をこの国に連れて来て、教育し、着飾らせました。そして本物の聖女を攫ったのは第二王子の護衛のダジール。証拠はすべて第二王子を指しています。要するに、第二王子を犯人に仕立て上げるのです」
ラーセンの言葉を頭の中で整理した。
「えっと……。偽物を連れて来たのはメイルス。実行犯はメイルスの元護衛……。おー、なるほどな! これでメイルスは終わりだ!」
やっとすべてを理解した。弟のように、側近に任せておけばすべて上手くいく。
「しかも王子は誘拐犯から聖女を助けた英雄になるのです。これを機に聖女と仲良くなり、ゆっくりと口説いて頂ければよろしいかと」
ラーセンが悪い顔で笑っている。
英雄? 口説く? ……メイルスを陥れるだけでなく、聖女も手に入れる計画だったな。
「女性を口説くのには自信がある。そちらは任せておけ」
実際に、第一王子は女性に人気がある。彼の言葉はとても優しい。ラーセンもダジールも、聖女が第一王子を気に入ると信じていた。
「でも、ダジールは大丈夫なのか? 捕らえられたりしないのか?」
「ご心配には及びません。捕らえる際に死んだことにして国外に逃がします。彼がそう望みました」
ダジールは膝を突き「ありがとうございます」と頭を下げる。
私は少しだけホッとした。口封じが必要なのかと心配になったから。王族は、綺麗ごとだけではいられない。利用し切り捨てる非情さも必要なのだ。甘い理想を語る弟にイラつくのも、そのせいだった。いつもブリッドに守られて、楽しそうに。
「そうか。ご苦労だったな。それにしても、どうやって聖女をすり替えたんだ? 教会の警備はかなりのものだろ?」
そうなのだ。教会は王城に入り込むより警備が厚い。
「簡単ですよ。人が多い昼下がりに堂々と入りました」
「堂々と?」
「はい。聖女は普段、教会を自由に出入りしていたので、すれ違う神官ですら同じ顔の偽物を疑いませんでした。女の方も、ちょっと脅せば簡単に言うことを聞きましたし」
「なるほどなぁ。でも、光魔法が使えなければすぐに偽物とバレるのでは?」
すると実行犯のダジールは、とても嬉しそうに微笑んだ。
「あの女は殺しました」
「……」
そういえば私怨があったと言っていた。そうか、殺したのか。同情はするけれど、それほど気にはならなかった。
「王子。教会本部は聖女が死んだと思っています。連れ出してから丸一日が経ちました。教会がいつ、第二王子へ調査を向けるか分かりません」
ラーセンが厳しい口調でそう言った。
「よく考えてみたら、メイルスが犯人では国が滅びそうなんだけど。本当に大丈夫なのか?」
王族が聖女を殺したと誤解されたままじゃ、教会がすぐにでも攻めて来そう。
「ですから王子。早く聖女に事情を説明し、こちら側に引き込んでください。王子は聖女を救う英雄になるのです。後で聖女から教会に説明して頂ければ問題ありません」
早くこちら側に引き込めと言われても、突然連れてこられて心細いだろうし……。
味方は私だけ、私にしか頼れない。この状況を利用すれば……。