「よせって! これ以上、周りに迷惑かけんな!」

 キリカに腕を引っ張られ、お御堂の外に出されてしまう。

「でもハートだよ?」

「ダメだ」

「ハートに頼めば、マリーに会わせてくれるかも」

「ダメだ」

 どんなに上目遣いで頼んでみても、キリカは首を縦に振らなかった。

「はぁー。リリー、見るだけだって約束したろ?」

「ハートは約束に入ってないもん」

 キリカが呆れた顔で私を見る。

「頼むから、このまま俺と一緒に帰ってくれ。な?」

「……」

 話にならない。私はくるりと背を向けて、キリカを無視して扉へ向かった。イラつく気持ちを抑えながら、行列を押しのけてお御堂の中に入る。嫉妬や驚き、邪魔されることへの不満もあって意地になっていた。でもそれ以上にどうしてもマリーに会いたかった。


「ハート! ねー! ハートってば!」

 ジャンプしながら手を振っていると、白神官が慌てて私に駆け寄って来た。

「困ります。大きな声を出さないでください」

「ハートを呼んで来て、ハートは私の護衛なの」

「護衛?」

 困った顔の白神官は、奥の白神官たちと話し始める。しばらくすると、ハートと同じ灰色の制服を着た若い男が裏から出て来た。

 どうもあの若い男は白神官たちの親玉っぽい。背も高くてかっこいい。私は手を振って、その親玉に首を傾げてニッコリと笑いかけた。

 彼は話をしながらチラチラと私を見てる。ふふふ、私が笑えばこんなに簡単。成り行きを見ているうちに、彼はハートに近付いた。早くこっちに来ないかな。


 その時ハートがマリーの肩にそっと触れた。その手はまるで、宝物に触れるかのように。

 マリーが気付いて顔を上げる。

 すると、ハートはいとおしそうにマリーを見つめて微笑んだ。

 その光景があまりにも衝撃的で、時間の流れがゆっくりに感じた。


 ハート……。

 冷めた目でしか私を見なかったくせに。笑いかけたことなんて無かったくせに。感情なんて一度も見せなかったくせに。その思いが胸に突き刺さる。

 私は目を閉じて、マリーの姿に自分を重ねた。あんなふうに見つめて欲しい。あんなふうに愛されたい。……私もマリーになりたい。


 いつの間にか私の周りに白神官がやって来て、お御堂の外に出されてしまう。

「もう! 私を誰だと思ってんの! 私は自分の護衛に会いに来ただけなのに!」

 少し向こうの人ごみで、キリカが私を必死に探していた。

 でも、頭の中はさっきの光景でいっぱいだ。どうしても欲しい。我慢出来ない。

 キリカに見つからないよう身を低くして、建物の裏手に急いで回った。


 ここからじゃ、中に入るのは難しいな。

 建物の周りをウロウロしていると、裏口のドアを見つけた。ドアは少しだけ開いている。

「鍵が……開いてる?」

 ドアノブを触ったら、抵抗もなく開いた。誰もいないし、良いのかな?

 そーっと奥を覗くと薄暗い廊下が見える。

「……。祭壇はどこだろう」

 慎重に周りの様子をうかがいながら一歩足を踏み出した時、何かが腕に飛んで来た。


 パン!

「痛っ!」

 え? なにこれ? 水?

 辺りを見回しても誰もいない。

 パン、パン、パン。

「ちょっと! 痛いってば!」

 灰色の制服を着たさっきの親玉が姿を見せると、無表情で小さな水を当ててくる。

 魔法?

 けているうちに、いつの間にかドアの外に出されてた。

「何すんのよ! ハートは私の護衛なの! ハートに聞けば分かるって!」

 親玉は何も言わずにドアを閉めると、ガチャリと鍵をかける音が聞こえた。


「は?」

 なんなのあいつ。なにあの人を見下すような紫の冷たい目。

 しかも一言もしやべらずに締め出すなんて、もの凄く失礼なんだけど。

 あまりの仕打ちにぜんとしていると、キリカが走って来た。

「はぁ、はぁ、向こうまで声が聞こえてたぞ。こんな所にいたのか。さ、一緒に帰ろう?」

 中腰になって苦しそうに息をするキリカが、右手を差し出して私を仰ぎ見る。

「触らないで!」

 キリカの手を反射的に叩いて振り払う。嫌だと思った。

 キリカは驚いて目を見開くと、体を起こしてゆっくりと背を向けた。

「……分かった。先に帰る」

 初めて聞くキリカの冷たい声。

 キリカのくせに。


 私はもう一度表に回って人込みにまぎれ、今度は静かにお御堂に入った。すぐにマリーがハートや白神官に守られて奥の部屋へと消えて行く。そんなマリーの後ろ姿が悔しくてたまらなかった。


 私が光の加護を受けたのに。私がそこにいたはずなのに。

 欲しいものは全部マリーが持っている。

 魔法だって使えるし、マリーばっかり大事にされる。ずるいよ。


「痛い……」

 私は赤くなった腕を見下ろした。

 孤独だなって気付いたら、涙があふれた。