第七章 マクファーレン公爵家の人々
ライニールの背中を見送った凪は、改めて気合いを入れ直す。凪とて、これからが本番なのだ。何しろこれから向かう教室には、彼女の護衛チームだけではなく、マクファーレン公爵家の後継者どのがいらっしゃるのである。
(クラス分けの資料を見たときには、ちょっと笑っちゃったよねー。腹違いのお兄サマとやらの顔は、遠くから見られれば充分だったんだけどな)
シークヴァルトたち護衛チームが凪と同じクラスなのは、王宮からそうするようにとの通達があったからだ。その時点で、この四名の少年少女は王宮絡みで訳ありなのだと、これ以上ないほど明確に示している。
それなのに、その『訳あり』の理由として、真っ先に想像がつくだろうマクファーレン公爵家の後継者と、わざわざ同じクラスにするとは。これはいったい、どういう意図なのだろう。
(まあ、ただ単に面倒ごとの種は一カ所にまとめておいたほうが、管理しやすいってことかもしれないけど。……とりあえず、教室行こっと。あー、緊張するー)
新しい学び舎というのは、どうしても緊張するものだ。先ほどまでは『うちの兄さん、カッコよかろ? ホラホラ、カッコよかろ?』と密かにドヤっていたため、はじめての場所にいても平気だった。だが、ひとりになるとやっぱり心細さがやってくる。
そして──。
「おい、きさま! ライニール・シェリンガムとはどういう関係だ! 今すぐ答えろ!」
(………………は?)
指定された教室にたどり着くなり、とんでもない大声を浴びせられた凪は、つい絶対零度の眼差しで相手を見つめてしまった。
ふわふわの明るい栗毛に、淡いグレーの大きな瞳。いかにも傲慢で、我の強そうな雰囲気を持った少年だ。男子の制服を着ていなければ女生徒と間違えたかもしれないくらいに、華奢で愛らしい顔立ちをしている。だが、そこに浮かぶ表情が可愛げもへったくれもないせいで、ものすごく憎たらしく見えた。
まるで初対面の相手に牙を剥いて威嚇してくる、茶色い毛並みの愛玩犬のようだ。まったく怖くはないが、煩わしい。躾がなっていないにもほどがある。
立ち上がってびしりと凪に人さし指を突きつけている彼の身長は、さほど凪と変わらないだろう。同い年の少年たちの中で、とびきり小柄というわけではないけれど、たくましさとは無縁の体つきだ。