ランドマーク家は先代であるカミーザ、その妻であるケイを始めとし、現当主ファーザと妻のセシル、その子供達、長男タウロ、次男ジーロ、三男リュー、そして、家族の最年少、末っ子のハンナ六歳がいる。
これは、そんなランドマーク家の大事なアイドル、ハンナのお話である。
ハンナは六歳になると、みんなと同じように洗礼の儀を受けたが、その結果、教会の神父はもちろんの事、親であるファーザとセシルも驚かせることになった。
それは貴重なスキルである『賢者』に、誰も知らない特殊スキルである『天衣無縫』の持ち主であったからである。
神父は守秘義務があったから大丈夫だとして、母セシルにすると心配なのは本人から誰かに漏らす事だったから、すぐに口外しないように魔法契約を結んで口止めをする事になった。
ハンナはそういう事はあまり気にしないというか、マイペースで天真爛漫、親の言う事には疑問を持たず信じるタイプの子供であったので、母セシルの言い付けもしっかり守るのであった。
六歳という遊びたい盛りのハンナは、いつも忙しくしている兄達の隙間の時間に遊んでもらう事が多かった。
特に長男タウロ、次男ジーロと一緒に遊ぶ事が多い。
この日もハンナは長男タウロが受験で派閥の盟主であるスゴエラ辺境伯爵の領都にある学校へ進学する事が決まり、もうすぐ遊んでもらえなくなるから、一番に長男タウロのところに遊べるか様子を窺いに行った。
だがこの日、長男タウロは学校の寮に引っ越す準備の為に部屋の荷物を整理しているところで、忙しそうであった。
そんなハンナに長男タウロもすぐに気づいた。
「ごめん、ハンナ。お兄ちゃん、今ちょっと忙しいからまた後でね」
と、最愛の妹に断りを入れた。
「大丈夫だよ。ハンナ、ジーロお兄ちゃんのところに行ってみる!」
と、長男タウロに気を遣わせまいと答えると、パタパタと足音を立てて駆けていった。
その次男ジーロもハンナにとって、よく遊んでくれるとても優しいお兄ちゃんだ。
次男ジーロは午前中みっちりと勉強した後、午後からは剣術の合間などによく遊んでくれる。
そんなジーロは、庭で父ファーザ、領兵隊長スーゴと一緒に剣術を学んでいる最中だった。
どうやら、ジーロが自分の動きに納得できなくて、父ファーザに踏み込みについて事細かに学んでいるところで、ハンナの目からは到底遊んでもらえる雰囲気ではない事が伝わってきた。
ジーロは長男タウロの首席合格での進学に刺激を受けていたのだ。
「ジーロお兄ちゃんも今日は駄目みたい……。頑張れジーロお兄ちゃん……!」
ハンナは残念そうにしたが、頑張っている兄達が大好きなハンナである。
ワガママひとつ言うどころか、逆に隠れてこっそり覗き、ジーロにエールを送るとその場を後にした。
こうなるとハンナの遊び相手の最後の砦は三男リューである。
兄弟の中で一番年齢が近いから、遊んでもらえそうな気がするところだが、いつも忙しくしている兄達の中で、実はもっとも忙しくしているのが三男リューであった。
いつもどこかに出かけているし、一番何かをしている事が多い。
だからハンナは兄達の中で実は一番リューと遊んでもらえていなかった。
だがしかし、そんなリューをハンナは嫌いというわけではない。
それどころかハンナは、兄達の中で一番リューが好きかもしれない。
というのも、父ファーザや母セシルはもちろんの事、執事のセバスチャン、領兵隊長スーゴ、長男タウロや次男ジーロなどからリューの活躍を色々と聞いていた。
それに、以前遊んでもらった時は遊び道具の木馬を作ってくれたし、領都に散歩に出れば領民からも慕われ、ことある毎に褒められていたから、一緒に歩くハンナにとっても自慢の兄であった。
ハンナはそんなリューを探したが、みつからない。
「リュー坊ちゃんですか? さっき出かけていかれましたよ。探してきましょうか?」
と、メイドがハンナに答える。
「ううん! リューお兄ちゃんの邪魔をしたくないから、別にいいの」
いつも忙しくしていて、家族と領民の為にいつも何かをしているリューにワガママを言って困らせたくなかったハンナは、遊んで欲しいとは中々言えなかった。
この日もリューは午前中勉強を熱心にしていた後、すぐにいなくなっていたので、忙しいのだろうなと思っていたから、その時も声を掛けられなかった。
今日は家族みんなが忙しくしているみたいだと感じたハンナは、一人で遊ぶ事に決めた。
「今日は何の遊びしようかな?」
ハンナは独り言をつぶやき、首を傾げて考え込むと、母セシル譲りの金髪の長い髪がさらさらと肩を流れていく。
「そうだ……! お兄ちゃんごっこをしよう!」
ハンナの言うお兄ちゃんごっことは、これまで実際見たり、周囲から聞いたりしてきたリューのマネをするというもので、子供らしい遊びに聞こえた。
ハンナは遊び方を決定すると、早速、近くの森に出掛ける事にした。
「ありゃ? ハンナお嬢ちゃんじゃないか。今日は一人かい?」
金髪、青い瞳、整った顔立ちに、青いワンピースを着た可愛らしい女の子がすぐにランドマーク家のアイドルだと気づいて領民が声を掛ける。
「ちょっと遊びに出掛けるの!」
ハンナは知っている領民に笑顔で応対する。
「そうかい。あんまり遠くに行っちゃ駄目だよ?」
「うん!」
領民はランドマーク領の天使の姿に癒されて笑顔になるとハンナを見送るのであった。
領民に温かく見送られながら、ハンナはリューが以前からよく通っている森へと到着した。
するとハンナはポンッとどこからともなく籠を出した。
なんとハンナはとても容量が小さいながらもマジック収納を持っているのだ。
その籠には紐の束と小さい刃物も入っている。
ハンナは紐の束と刃物を籠から出して木の傍に置くと、早速「お兄ちゃんごっこ」を始める事にした。
まずは、今日の晩御飯の為におかずになりそうな植物の採取を始める。
「これは良い植物……。これは良い薬草……。こっちは悪い雑草……」
ハンナはそう口に出しながら植物を選別し良いものだけを摘んでいく。
まだ六歳の女の子であるハンナだが、この歳で植物の見分けがついているのが驚きである。
これもまた、「お兄ちゃんごっこ」の賜物だった。
ハンナは父ファーザから、「リューは小さい時から植物図鑑を一人で読んでいたんだぞ」と、教えてもらっていたのだ。
だから、「お兄ちゃんごっこ」の一環として、家にあった植物図鑑を最初から最後まで読んで覚えてしまっていた。
もちろん家族はリューのマネをして読んでいるだけで、中身を理解しているとは思っていない。
まさか、リューに続いて一番下のハンナも神童だとは思っていなかったのだ。
ハンナのスキルには『賢者』があるが、それも努力で伸ばしていかなくてはいけないものである。
最初から神童ぶりを発揮する者はそうそういないから、これはかなりの驚きであった。
もしかしたらもう一つの謎の特殊スキルである『天衣無縫』が関係しているのかもしれない。
だが、この時はまだ、誰もハンナの神童ぶりを理解していなかったから、ただ単にお利口な子供という解釈でいた。だから、このハンナの姿を見たら、誰もが驚いただろう。
ハンナはしばらくの間、相も変わらず、「これもいい植物……、こっちは悪い植物……」と、ひとつひとつチェックしながら籠に食べられる植物を入れていき、籠をこんもりとさせた。
その成果を確認すると、「よく出来ました!」とハンナは自分を褒めた。
今度は、木の傍に置いておいた刃物と紐の束に手を伸ばす。
そして、ハンナの言う良い植物の入った籠をマジック収納に回収した。
それからハンナは刃物を腰に差し、紐の束を肩に掛けると次は枝を集め始めた。
枝は手頃なものを木から刃物で刈って落とし、それを一か所にまとめる。
ある程度集まると、ハンナはその傍に座り込んで、今度は枝の先を刃物で削り始めた。
枝先を削って尖らせるとその出来栄えに満足したのか、「上出来!」とハンナは頷いて、マジック収納に収めた。
ハンナはそこから森の奥へ歩き始めた。何かを探しながら進んでいるようだ。
しばらくすると、何かを見つけたのか、しゃがんで左右を確認する。
「獣さんの通り道、発見!」
どうやら本で知ったのであろう獣道を探していたようだ。
ハンナはその獣道に罠を仕掛ける事にした。
なんとハンナは、まだ六歳ながら土魔法を詠唱し始めると見事に、獣道上に穴を掘る事に成功した。
「……これはちょっと大変だったけど、成功……!」
ハンナは額に汗をかき、それを拭いながら慣れない魔法の成功に満足する。
その穴の底にマジック収納にしまっていた先の尖った枝の束を出し、先端を上に向けて地面に刺して敷き詰めていく。
落とし穴方式の罠だ。
リューもこの罠でビッグボアを仕留めていた実績があるから、その話を聞いて真似したのだろう。
ハンナは垂らしておいた紐を伝って穴から出ると、その穴の上に細い枝を幾重にも敷き詰めた上に草を敷き、さらにその上に落ち葉を被せて穴を完全に隠した。
近くの木には目印になるようにロープを縛っておく。
「完成! ハンナ偉い!」
今日のメインイベントだったのだろう、落とし穴の完成に満足すると自分を褒めるのであった。
ハンナはここで少し考え込んだ。
「うーん……どうしよう? まだ時間あるしなぁ……」
思ったよりもやりたい事が捗ってしまい、空はまだ明るい事から、あまり時間が経っていない事に気づいて、ハンナは悩んでしまうのであった。
「ちょっと、木の上で休んで獣さんを待ってみよう」
ハンナは待機する事を選ぶと近くの木に登り、落ちないように紐で木と自分を縛るとしばらく休むことにするのであった。
その時、ランドマーク邸では……。
「ハンナは?」
長男タウロが、引っ越しの為の荷物をまとめ終わったのか自室から出てくると、室内を一通り回ってハンナがいない事を確認し、庭で素振りをしていたジーロに、妹の所在を確認した。
「僕は知らないよ? 庭には来てないと思う。お母さんのところにいるんじゃないかな?」
ジーロは、ハンナが気を遣って庭に近づかなかった事を知らずに答えた。
「家の中にはいないみたいなんだ」
タウロが返事に応える。
「ただいまー!」
そこへリューが帰ってきた。
「あ、リュー。今日は帰ってくるの早いね」
タウロがリューの早めの帰宅に素直に驚いた。
「ちょっと領民から気になる事聞いたから、早めに戻って来たんだ」
「「気になる事?」」
タウロとジーロは声を揃えて聞き返した。
「うん、その人が言うには、ハンナが一人で出かけていたから気になったんだって。それを聞いたから今日は早めに戻ってハンナと遊ぼうかなと思ったんだけど、もう帰っているかな?」
「ハンナ、外に出掛けていたのかぁ……。家にはいないみたいだから、帰っていないみたいだよ」
ジーロがおっとりした口調でリューに答える。
「……もしかしたら、最近ハンナがハマっている遊びを今日は一人でやっているのかもしれない」
タウロは思い出し笑いのようにくすっとすると、そう告げた。
「ああ、あれかぁ」
ジーロは、タウロの言葉に思い出したように頷く。
「ハマっている遊び?」
リューは一人わからずに聞き返した。
「「リューごっこだよ」」
タウロとジーロは二人同時に答えた。
「僕ごっこ?」
リューはいよいよ謎の遊びに首を傾げる。
「リューのマネをして色んな事をやっているんだよ、ハンナは」
「そう。ずっとリューが読んだ書物を真似して一日中読んでいる事もあるし、外で遊ぶ事もあるよ」
「そうなの?」
「普段は僕達がハンナと遊んでいるのだけど、リューとも遊びたがっていてね。でも、リューがいつも忙しそうに動き回っているから、時々僕達がお母さんと一緒にリューのお話をするんだ。すると『ハンナもやってみたい!』って言って、聞いた話の真似をして遊ぶのがハンナの流行になっているんだよ」
タウロの説明にリューはなんだかその状況を想像するとほっこりするのであった。
それと同時に普段ハンナが遊んで欲しいとほとんど言わない事に気づいた。
すると、リューのはっとした表情から兄二人は察したのか、
「ハンナはね、僕達が忙しいと、それが終わるのをワガママも言わずにいつも待っているんだ」
「そうだね、僕も気づいた。ハンナはお利口だから周囲を観察していて、駄目な時は駄目と判断してじっと我慢しているんだよね」
と、説明してくれた。
「そうだったんだ……」
普段あんまり遊んであげられていないリューはそれを聞いて反省する。
自分は自分のやりたい事ばかりやっていたのかもしれない、と。
そんな姿のリューの気持ちを察した長男タウロが、声を掛けた。
「リューはみんなの為に色々とやってくれているから、気にしないでいいからね? ハンナもそれをちゃんとわかっているからこそ、リューごっこをやって遊んでいるんだから」
「そうだよリュー。ハンナはリューが大好きだからね。僕達からリューの話を聞くと目を輝かせているよ。はははっ!」
次男ジーロはそう言ってリューを励ました。
二人の兄の優しさと兄想いの妹にリューは、泣きたくなりそうなくらい心が温まる思いがした。
そして、可愛い妹ハンナに不憫な想いをさせていたと反省せずにはいられないのであった。
リューは、そんなハンナは今どこにいるのだろうかと考えてみた。
「僕の真似だと今頃何をしているのかな……」
「きっと森じゃないかな? 最近、リューの狩りの話とかしたよね」
ジーロがタウロに確認するように聞いた。
「ハンナにはちょっと早くない?」
リューが、少し心配して答えた。
「そうだね、近くの森も危険がないわけでもないし……」
そんなやり取りをしていると、玄関の方から庭に一人の領民が回ってやってきた。
「あ、坊ちゃん方お揃いでしたか」
「どうしました?」
タウロが代表して応対する。
「実は近くの森の事でご相談がありまして……」
「「「?」」」
リュー達は丁度その話をしていたから、目を見合わせた。
「最近、その森から親子のビッグボアが現れるんですが、親の方がこれが凄くでかくて畑も荒らすし、子供がいるから気性も激しくて、攻撃的ときてやがるんです。村の人間も手を焼いているので、退治してもらえないかとお願いに来ました」
領民のその言葉にまた、目を見合わせるリュー達。
それが事実なら今ハンナはその森に出掛けている可能性が高いから危険だ。
「その件は僕達で何とかします!」
タウロが代表して答えると三人は近くの森に急いで駆けていくのであった。
その頃、心配の対象になっているとは知らないハンナは、リューのマネごっこを楽しんでいた。
木の上で、鼻歌交じりに足をプラプラさせている。
そこへ、「プギー!」という断末魔が森に木霊した。
ハンナはそれが自分の仕掛けた罠の方からだとわかり、急いで自分と木を縛っていた紐を解いて地面まで下りた。
そして、急いで落とし穴の場所まで駆けていく。
ハンナは現場に辿り着くと、落とし穴を覗き込んだ。
そこには小ぶりながらビッグボアが落下して、見事に罠に掛かっていた。
「やった! 成功した!」
ハンナは喜ぶと、その仕留めたビッグボアをマジック収納で回収しようと手をかざそうとした。
そこへ、茂みを分けて大きな物体が出て来た。
ハンナは思わず、落とし穴越しの茂みから現れた物体に後ずさりした。
そこには、ハンナとは比べ物にならない大きさのビッグボアがいたのだ。
「大きい……!」
ハンナが驚き身構えるのと、ビッグボアが落とし穴の中に落ちて絶命しているリトルビッグボアを確認するのが一緒であった。
「プギー!」
親ビッグボアは、怒りに声を上げると、目の前のハンナに対峙する。
ここで普通の六歳児なら、背中を見せて逃げ出すところだろう。
だが、ハンナはそうしなかった。
読んだ本に背中を見せて逃げ出したら問答無用で襲ってくると書いていたからだ。
ハンナは冷静に落とし穴を間において、ゆっくり回り込もうとする親ビッグボアと対角線上になるように努めながら思考を巡らした。
そして、この大きさの相手の魔物相手に逃げられないと冷静に判断したハンナは戦うという選択をする。
落とし穴を常に間に置きながら、風魔法を詠唱し始める。
親ビッグボアは、魔法の気配に鼻息が荒くなっていく。
そしてハンナは詠唱し終えた風魔法を親ビッグボアに行使した。
「かまいたち!」
ハンナが親ビッグボアに放つと魔法は、見事に無数の風の刃となって親ビッグボアを切り刻む。
「プギー!」
悲鳴を上げるビッグボア。
だが、仕留めるまでにはいかず、親ビッグボアの怒りは頂点に達した。
ハンナは改めて、魔法の詠唱を始めながら今度は、落とし穴を間に少しずつ後ろに下がっていく。
怒りの親ビッグボアは、後ずさりするハンナを逃がしてなるものかと思ったのか、落とし穴に向かって全力で走り始めた。
「!?」
驚いたハンナが、思わず詠唱を中断する。
すると、親ビッグボアが落とし穴を飛び越えてきた!
想像を超える行動に、ハンナは体が凍り付いたように固まってしまった。
落とし穴を飛び越えた親ビッグボアは、勢いそのままに小さいハンナへと猛然と襲い掛かるべく突進した。
その瞬間であった。
「土壁!」
リューの声がハンナの背後でした。
すると、ハンナと親ビッグボアとの間に小さい壁が出来て、親ビッグボアの突進を防いだ。
その両脇からタウロとジーロが剣を抜いて駆け抜けていく。
親ビッグボアは壁に突進を防がれた事で脳震盪を起こしたのかふらついている。
そこへ剣を抜いたタウロとジーロが両脇から迫っていた。
グサッ!
親ビッグボアは態勢を整える暇もなくタウロとジーロの剣に交差する様に首を突き刺されると、「プギィィィ!」という断末魔と共にその大きな巨体は地面に倒れ込むのであった。
「大丈夫、ハンナ!?」
リューがいち早く最愛の妹に駆け寄ると、怪我を確認する。
ハンナは泥だらけだ。
一見するとビッグボアとの格闘の為と思われるだろう姿だが、それは単に遊んで汚れただけであった。しかし、リューはそうとは思わず、慌ててジーロを呼ぶ。
「ジーロお兄ちゃん! 治癒魔法をお願い!」
「怪我したのか!?」
いつもおっとりしているジーロも、この時ばかりはハンナに急いで駆け寄る。
「ありがとうお兄ちゃん達。私は大丈夫だよ」
「「「本当に?」」」
兄達三人はハンナを上から下まで見て怪我の有無を確認する。
「うん、ありがとう!」
ハンナは揃った兄達の心配する顔に、大丈夫だという気持ちを満面の笑みで表すのであった。
「この落とし穴は、ハンナが作ったのかい?」
リューが出来のいい落とし穴に感心しながら、リトルビッグボアをマジック収納に回収する。
「うん!」
ハンナは自慢気であった。
「そっか、僕が初めて作ったものより立派だなぁ。それにこの大きな方のビッグボア、生傷が多いけどこれもハンナ?」
リューは自分が想像する以上に有能なハンナに感心し、さらに質問した。
「うん、風魔法を使ったの。でも、あんまり効いてなかったみたい……」
「相手が悪かったな。このくらい大きなビッグボアが相手だと皮と脂肪が厚いから効果が薄いんだよ」
風魔法が得意なタウロがリューの代わりに説明した。
「でも、これだけの威力があれば、普通サイズの相手なら仕留められていたかも。──ハンナは僕の六歳の時よりも優秀だね」
リューは素直に自分の時と比べて、ハンナを褒めた。
ハンナは大好きなリューに褒められて、嬉し過ぎるのか満面の笑みが崩れない。
「でも、もうひとりで無理するんじゃないぞ?」
リューは兄として注意する事も忘れなかった。
もし、自分の真似をしていて何かあったら自分もだが、家族みんなが悲しむ。
それだけは嫌だったのだ。
「そうだぞ、ハンナ。今回は僕達が駆け付けられたから良かったけど、いつも傍にいるわけじゃないからね」
もうすぐ学校に通う為にランドマーク領を離れるタウロには、実感がこもっていた。
「ごめんなさい……」
ハンナもそれが伝わって来たので、素直に謝った。
「それじゃあ、ビッグボアも回収できたし、帰ろうか。今日は、お肉がいっぱい食べられるよ!」
いつものおっとりなジーロらしい台詞が飛び出すと、兄妹は笑い合う。
そして、みんなで手を繋いでどんな料理を食べたいか話しながら、夕暮れの中、家路につくのであった。