この物語は、リンドの森の村、リンデス村長の娘リーンが、四五年過ごした村を飛び出し、リューと出会うまでのお話である。
エルフは人間の約三倍の寿命を持つ種族であり、とても長命である。
だが、成長も緩やかで、四五歳になったリーンは人間の歳でいうと、十五歳程度の思春期であった。
これに対してハーフエルフは成長が人間と同じくらいの早さだが、寿命はさらに長い為、長命で森の民としての誇りあるエルフからは汚らわしい半耳と差別されたし、人間からも偉そうな耳長族の血筋と敬遠される存在であるが、リーンはれっきとした純粋なエルフの血筋を持つ家系である。
リーンの血筋と言えば、父親であるリンデスは隣国の大侵攻があった前回の大戦において、森のエルフを率いてクレストリア王国側で戦う当時のスゴエラ辺境伯率いる南東部貴族連合軍に組して活躍をした救国の英雄の一人である。そんな父と、その父を支えた母をリーンは誇りに思っていたが、その二人を動かした人間の友人達も誇りに思っていた。
今から二一年前の事、リンドの森はエルフ達によって幾重にも結界が張られ、外部からの訪問者を拒絶していた。
特に人間はエルフを差別していたし、エルフ側も人間を野蛮な種族として忌み嫌い拒絶していたから、リンドの森周辺は人間が好んで近寄ろうとは思わないし、エルフも森の外の世界に出かける事はほとんどなかった。
だが、中には森の外に出て人間の文化を持ち帰る奇天烈なエルフもいた。
当時のリーン(二四歳=人間の歳で八歳)は、そんな奇天烈なエルフが持ち込んだ人間の文化に密かに興味を持つ子供に育っていた。
「パパ、人間ってなんで木を切り倒して森を破壊するのかしら?」
リーンが、父親であるリンデスに自宅の一室で質問した。
「馬鹿だなリーン。父上にそんなどうでもいい質問をするなよ。答えは簡単、人間が野蛮な生き物だからさ」
兄である長男リグが当然だと言わんばかりに答えた。
「意味もなく木を切り倒すの?」
「あいつらを理解しようとする方が、無駄さ。それよりもリーン。また、変人の家に遊びにいっていただろう? 村長である父上の顔に泥を塗るな。そんな奴はドワーフの住処の穴倉に置いて帰るぞ」
人間の歳で十六歳である長男リグは、犬猿の仲であるドワーフの名を口にして妹リーンを怯えさせようとした。
「ドワーフって、頑固だけど悪い種族ではないって聞いたよ?」
リーンは怯えるどころか、ドワーフにも好奇心旺盛な面を見せた。
「父上! リーンの奴、変人に毒されています!」
長男リグは、全く怯えず悪びれないリーンを父リンデスに言いつけた。
「……興味を持つ事自体は悪い事ではない。だが、人間は危険な生き物だ。あいつらは争いを持ち込んでくるから、気を付けなさい」
「「はーい」」
リンデスが人間を警戒するのも仕方がない事だった。
実際、隣国からこの村に、こちらに組する様にと、再三使者が訪れていた。最初は、お願いから始まり、最近では恫喝に近い内容の時もある。そんな礼儀もわからない様な野蛮な者は相手にしないに限る。まぁ、使者が訪れたと言ってもダミーで用意している森の外れにある小さい集落までで、ここの事は知られていないから恫喝されてもどうという事はない。結界がちゃんと働いている限り、この村へは入る事ができないのだ。
そんな中の、ある日。
人間がダミーの集落ではなくリンドの森の村に直接現れた。
「ファーザとセシルちゃん、ほれ、やはりあっただろう! ここが噂に名高いリンドの森の村だと思うぞ。本当に大きな木々に家が建っているぞ。凄いな、なあ、母さん」
若かりし頃の冒険者カミーザ(二六歳)が、息子のファーザ(十歳)とセシル(十歳)、そして、妻であるケイ(二六歳)に自慢げに言う。
「あなた、エルフのみなさんが驚いているから挨拶だけでもしないと」
妻のケイは、村のエルフ達の反応にいち早く気づいて、夫カミーザに指摘した。
エルフ達は突然の来訪、それも人間の侵入者に驚き固まった。
これまで、結界を一部解いて客を迎える事はよくあったが、招かれざる客、それも人間が結界を破って入って来る事などほとんどなかったのだ。
「そこの人間達動くな! それ以上動くと命はないぞ! ──皆の者、武器を取れ! 周囲を警戒せよ。一部の者はその者らを包囲せよ!」
村長であるリンデスは、侵入者であるカミーザ達に警告するとエルフ達に厳戒態勢を敷かせるのだった。
「私と同じ歳くらいの子が二人もいるよ、パパ。危険な人達には見えないけど?」
リーンが、木の上にある家からカミーザ達のいる場所を見下ろして、父リンデスにそう告げる。
「下がっていなさい、リーン。ここまで侵入して来た人間だ。危険である可能性は高い!」
リンデスは、リーンを家の中に下がらせた。
「ここの長はあんたかー!? ちょっと話をしたい! 下に降りて来てもらっていいかい!?」
カミーザがリンデスの姿を捉えて何か感じたのか大きな声で話し掛けた。
そう言っている合間に、エルフ達がカミーザ親子の周囲を囲み、拘束しようと近づいて来る。
「お主ら、うちの子達はまだ十歳だぞ? そんな子に剣や弓矢を向けるとは正気か?」
カミーザが、厳戒態勢のエルフ達に呆れ返った。
「あなたが力任せに結界の一部を開いて通ったから、術士も気づかなかったのね。きっと、急に現れたと思っているのよ」
妻のケイが状況を何となく把握して夫カミーザに知らせる。
「結界の一部を強引に開いた、だと!? そんな無茶苦茶な話、聞いた事がない!」
リンデスは、下にいるケイの発言に驚愕した。
「うちの父さんが規格外ですみません……」
ファーザが、十歳ながら、しっかりした口調で謝罪する。
「カミーザおじさん、超凄いから」
セシルはおかしそうにクスクスと笑う。
緊張感のないこの人間の一団にリンデスは呆気にとられると、毒気を抜かれた。
そして、いつの間にかまた、傍に来ていたリーンが、
「悪者だったら、あんなに色々と教えてくれないと思うよ、パパ」
と、無邪気に言う。
「……そうだな。──人間達、ここは、我々の許可なく訪れる事は出来ない場所だ。悪いが武器は一時預からせてもらおうか。それで良ければ、私が話を聞こう」
「リンデス村長!?」
「相手は人間、何を企んでいるかわかりませんよ!」
「そうです。子供が二人もいるとはいえ、罠の可能性も……」
リンデスの判断に異議を申し立てるエルフもいたが、カミーザ達が素直に従って武器を近くのエルフ達に渡すので、その声も収まるのであった。
「──冒険者?」
村長宅に招かれたカミーザ一行は、ここに来た理由を説明する事になった。
「そうだ。こちらは妻のケイ、息子のファーザと、そして、友人の娘で、うちで預かっているセシルちゃん。その四人で冒険者をやっとるんだが、雇い主の依頼で、この森に『千年樹の木片』を探しに来たんだ。だが、リンドの森と言えばお主らエルフの土地だからなぁ。挨拶と許可をもらえればと思って立ち寄ったのだ」
カミーザは軽いノリで結界を破って通ってきたようだ。
「……我れらがリンドの森の村の結界はそんなに容易く通れるものではないはずだが……」
「村長さん、気にしないでください。うちの人、これでも冒険者としては規格外な事で名が通っているの。だから、こんな事はこの人以外ではそうそう起きないと思うわ」
妻のケイがエルフの自尊心を傷つけたと感じたのだろう、リンデスをフォローするのであった。
「そ、そうか……」
リンデスは、ケイの言葉に納得せざるを得なかった。
実際、結界を破った本人達が言っているのだ、そうなのかと信じるしかないだろう。
「あなた達、人間でしょ? 外の世界って楽しい?」
扉の隙間から様子を窺っていたリーンが、ちょっと隙間を広げてカミーザ達に質問した。
「これはまた、可愛らしいお嬢ちゃんだな。外の世界は楽しいぞ。──お宅の娘さんかい? うちの息子達と同じ歳くらいか?」
「エルフは長命な種族だ。この子の歳は二四。人間に換算すると八歳くらいだ」
「ほう! 長命とは聞いていたが、あんなに小さいのに、二四年も生きておるのか。八歳ならうちの子供達と遊んでやってくれるかお嬢ちゃん」
カミーザは可愛らしいリーンに和むと、息子達の相手をお願いした。
「うん、いいわよ!」
リーンが、胸を張って答えると、その可愛らしさにファーザとセシルも笑顔になり三人で手を繋ぐと外に出て行くのであった。
「……やっぱりエルフは人間が嫌いなんだね」
リーンと三人で遊ぶファーザは周囲のエルフの視線が刺さる様な鋭さに気づいた。
「私にはそれがわからないの」
リーンは頬を膨らませると不満そうな表情を浮かべた。
「リーンちゃんは、どうして疑問に思うの?」
セシルは目の前の同年代の女の子の考えが気になった。
「エルフの中にも悪い人はいるし、それは人間も同じじゃないかなと思うの」
リーンはエルフの価値観とは違うところで、生きている様だ。
「僕もそう思うよ。人間にも良い人、悪い人がいるからね。僕やセシルは誠実であろうと努力はしているよ」
「ファーザは超良い人過ぎるけどね」
セシルがファーザに茶々を入れる。
「二人とも仲良いね。私はこの村で歳が近い子がほとんどいないから羨ましい……」
エルフはその寿命の長さから欲求に対して希薄な種族の為か子供もできづらい。リーンは、同世代に遊び相手が少なくて寂しいのだった。
「僕達が友達になるよ! セシルもいいよね?」
ファーザが笑顔で答えるとセシルにも同意を求めた。
「もちろんよ、リーンちゃん。私達とお友達になろう!」
セシルは承諾するとリーンに抱き着く。
リーンも満面の笑顔でセシルに抱き着き返すと、初めてできた人間の友達に喜ぶのであった。
父リンデスは交渉の末、カミーザ達が探しているという『千年樹の木片』の捜索に協力する事になったようだ。
この決定に他のエルフ達は不満な者も多かったが、村長であるリンデスが自分の家に泊める事、万が一何か起きた時には責任は負う事を約束したのでみんな我慢する事になったのであった。
「カミーザおじさん達はやっぱり外の世界では強い方なの?」
リーンは友達になったファーザやセシルが、親であるカミーザやケイが凄い人なのだと自慢するので本人に直接確認する事にした。
「そうだなぁ……。儂やケイは冒険者の中では強い方かもしれんが世界はとてつもなく広い。強い連中は沢山いるだろうな。──なんだ、強い人間に興味があるんか?」
カミーザは、リーンの好奇心旺盛な目の輝きを微笑ましく感じながら聞き返した。
「ファーザ君や、セシルちゃんが、『強くないと世界は回れない』って、言うから。私も将来、外の世界を見てみたいの」
「あらあら。リーンちゃんは、エルフにしては珍しい子供みたいね。ふふふっ」
ケイが保守的で外の世界に興味がない者が多いエルフの中にあって、リーンがとても珍しいタイプである事を指摘するのであった。
「そうか。それなら自分の身は自分で守れるくらいには強くなった方がいいかもしれん。人間の中には珍しいエルフを攫って見世物にしようとする者もいる。王国法ではそんな事は許されておらんが、無法者はまだまだ多いからなぁ」
カミーザはリーンが盲目的に村から飛び出す事が無いように、外の世界の残酷さも伝えるのであった。
「……私、強くなる!」
八歳の少女の決意表明は、カミーザ達にとっては微笑ましいものであった。
「リーンが強くなるなんて無理に決まっているじゃん! 僕よりも弱いのに」
リーンの兄であるリグが、人間であるカミーザ達と距離を取りながら、一見無謀な事を言う妹に注意する様に指摘した。リグは他のエルフ同様、カミーザ達を警戒していたから、妹が毒される事を好ましく思っていない様だった。
「お兄ちゃんの歳までには強くなっているもん!」
リーンは負けず嫌いな面もみせて言い返す。
成人を迎えたばかりの兄リグと、まだ、小さい妹リーンの兄妹喧嘩は微笑ましいものであったから、部外者であるカミーザ達は優しく見守るのであった。
リーンはカミーザ達が村に滞在する間、常にファーザとセシルと行動を共にした。
村長の娘であるリーンが一緒だと、他のエルフ達もあまり文句を言えなかったのだ。
そのお陰で村のいろんなところにリーンが案内する事で、エルフ達の目に触れる事が多くなり、エルフ達も意外に早く慣れる事になった。
カミーザやケイは気さくにエルフ達に話しかけていたし、森でのエルフ達の狩りにも積極的に参加、手伝いもよく行ってエルフとの関係を良くしようとする姿勢が、人間嫌いである他のエルフ達に徐々に浸透して、カミーザ達は話せる人間であるというレベルまでには滞在中に認められるのであった。
その結果、『千年樹の木片』を探して森にあるダンジョン「千年樹」に、入る事も村長リンデス以下、長老達にも認められて許可を得る事ができた。そこで『千年樹の木片』を無事入手する事が出来たのであった。
ダンジョンからの帰り道。
カミーザはすっかり仲良くなったエルフ達と話しながら森の村への帰路についていた。
「……ケイ?」
カミーザが何かに気づいたのか、妻であるケイに確認する。
「……私達以外のよそ者が集団で村に向かっているわ。数にして五百くらいかしら」
ケイは、スキル『野伏』の能力のひとつで広範囲の気配を察知する事ができる。
「何!?」
エルフ達がその言葉に、驚く。
「村に早く戻った方が良さそうだ、皆の衆」
カミーザは一緒にいるエルフ達に警告すると、走り出すのであった。
リンドの森の村に急いでカミーザ達が戻っている頃。
リーンはファーザとセシルの三人で、村の外れの泉で遊んでいた。
「きゃっきゃっ!」
リーンがセシルと一緒に水面に足だけつけてバシャバシャと水を跳ねさせていた。
「二人とも、あまりやり過ぎると濡れてしまって風邪引くよ?」
ファーザは二人を案じて注意する。
その時であった。リーンが何かに反応した。
「どうしたの、リーンちゃん?」
セシルがリーンの反応にいち早く気づいた。
「……急に村の傍でいっぱいの人間の反応を感じるの。凄く嫌な気配……」
「嫌な気配?」
ファーザがリーンの言葉に聞き返した時だった。
村の方向から煙が立ち上った。
「「「!」」」
その煙にリーンとファーザ、セシルは顔を見合わせる。
「リーンちゃん近道は!?」
「こっち!」
リーンは急いで二人を先導すると村に戻るのであった。
三人が村の傍まで急ぐと村からは火の手が上がっていた。
悲鳴や怒声、「殺せ!」という物騒な言葉も行き交っている。
「誰かの襲撃だ!」
ファーザはこれで、ようやく状況を把握する。
そして、逃げ惑うエルフを追いかけて襲う黒ずくめの人間達がそこにはいた。
「みんなが大変!」
リーンは、手に持っていた弓を構えると非力ながらも正確な技術で矢を放ち、襲う人間を射る。
ぎゃっ! 黒ずくめの襲撃犯の一人が首を射抜かれて絶命した。
「やるな、リーンちゃん! 僕達も行くよセシル!」
「超任せて!」
ファーザは剣を、セシルは杖を構えると、襲撃犯に攻撃を仕掛けた。
ファーザは十歳とは思えない剣捌きで襲撃犯の一人を簡単に切り捨てると、同じく十歳のセシルは風魔法を繰り出して襲撃犯の体を切り刻み、三人は逃げてきたエルフの追手、三人の全てを片付けるのであった。
「リーンちゃん無事だったか! ──急に村の傍に黒ずくめの人間達が現れ、突然村を襲撃して来たんだ。今、戦える者がリンデス様の指示のもと抵抗しているが、奴ら相当腕が立つ。家や森も躊躇なく焼きやがる……!」
逃げてきたエルフ三人は村長の娘であるリーンの無事を確認してほっとしたが、村の悲惨な状況を助けてくれた子供達に語った。
三人は、それを聞いて村に戻ろうとした。
逃げてきたエルフ達は子供だけ行かせるわけにはいかないからと、引き返そうとしたが、それはファーザが止めた。
「他に逃げてくるみなさんの保護をお願いします。リーンちゃん、君もみんなと一緒にいて」
ファーザは、リーンを押し留めた。
「私も行く。私はリンドの森の村、リンデス村長の娘、リーン。その誇りにかけてみんなを護るの!」
「それならば、ここに逃げてくるみんなを超護ってあげて!」
今度はセシルがそう言ってリーンを説得した。そして、承諾させるとリーンを置いて二人で、村に戻るのであった。
その直後、村に天気雨とも言うべき、大雨が降り始めた。
いや、これは水魔法による消火活動だったのだ。
何者かによる大雨に、驚く襲撃者達。
「ば、馬鹿な! こんな大魔法を使える者はそうそういないぞ!?」
驚く中、足元が突然揺るぎだした。
ゴゴゴゴゴ……!
「こ、今度は何だ!?」
地鳴りと共に、襲撃者達の足元が崩壊した。
「『地面大陥没』!」
今度は土の大魔法であった。
ギャー! 襲撃者達は地中に呑まれて行く。
「どうやら、敵にも俺レベルの魔法使いがいるらしい」
黒ずくめの襲撃者のフードを目深に被った人物が、そうつぶやくと、術者を探した。
「そこか! 出て来い、術者。この俺が相手では怖くて出てこれないか?」
襲撃者の安い挑発であったが、カミーザとケイは堂々と木の陰から姿を現した。
「どっちが、これらの魔法を行使した術者だ? まさか、二人共ではないだろう?」
「なんだ、貴様は確か隣国の自称・大魔法使いとかで有名なヤルダバートとかいう魔法使いだったか?」
カミーザが相手の言う事を無視して、襲撃者の確認をした。
「ほう……。この俺を知っているのか」
「嫌でも知るわ。貴様の趣味の悪い肖像画が、国境付近で出回っているからな。ちと目立ち過ぎだな」
カミーザは呆れた顔をした。
「……俺をコケにして生きて帰れると思わない事だ」
「そうなのか? 儂は儂でこの村を襲撃した貴様らをタダで帰す気はないんだがな」
カミーザは目を細めると、殺気漂う鋭い眼光をヤルダバートに向けた。
ゾクッ! 自称・大魔法使いのヤルダバートは、その殺気に敵の術者がこの男であると確信した。
「魔法使い同士、魔法で決着をつけようではないか!」
ヤルダバートは、そう言うと間を置かず詠唱を始めた。
カミーザに先制しようという卑怯さであった。だが、カミーザにはそんなつもりは一切ない。
雨を降らせたのは、妻のケイであり、地面を陥没させたのは自分だが、術士対決をするほど、ぬるま湯に浸かった戦いをするつもりはなかった。
カミーザは次の瞬間剣を抜くと、ヤルダバートに距離を詰める。
「え?」
詠唱中のヤルダバートはこのカミーザの不意を突く行動に反応できなかった。
そして次の瞬間、その首が宙を舞っていた。
「……お父さん、容赦ないです……」
駆け付けた息子のファーザが、ツッコミを入れる。
「……よし。掃討戦じゃ。リンデス殿、やるぞ?」
そこへ仲間を引き連れて駆け付けたリンデスに声を掛けると、カミーザ達は怯む襲撃犯達を掃討する為、敵に斬りかかるのであった。
何者かの襲撃を撃退してから、一か月後。
「カミーザ殿、感謝の言葉もない……。そなたらは我々の命の恩人だ」
村長リンデスは、エルフを代表して感謝の言葉を口にした。
「なんの、お互い様さ。『千年樹の木片』の入手に協力してもらったし、息子達には可愛い友人もできた。儂も、お主らと仲良くなれたからな。わははっ!」
カミーザは笑うと、感謝するリンデスの見えない重荷を取り除いてやった。
「……そうか、そう言ってくれるか、カミーザ殿。もし、何かあった時、我々はそなたにいくらでも力を貸そう。その時は言ってくれ」
「そうか? それなら、また、立ち寄った時はよろしく頼む!」
カミーザはそう言うと、リンデスとがっちりと握手を交わすのであった。
「二人共、行っちゃうのね……」
リーンはせっかくできた友人達との別れに涙を浮かべていた。
「父さんの言う通り、また、きっと会いに来るよ」
と、ファーザ。
「そうよ、リーンちゃん。私達、超仲良しじゃん。友情というのはいつまでも続くものよ!」
とセシル。
「……うん! また、遊びに来てね!」
リーンはあふれる涙を拭いながら、カミーザ一行を見送るのであった。
それから、数年後、カミーザ一行は、スゴエラ辺境伯の使者として再び村に訪れ、隣国の大侵攻に対して手を取り合い一緒に戦う事になる。
そして、その活躍でリンドの森の村は、王国内におけるエルフの立場を確固たるものにし、その村の村長であるリンデスの名は王国を救った英雄の一人として歴史に名を刻むことになる。
あの人間との初めての出会いから、二一年後。
「だ・か・ら! 働かないと食べられないから雇われるって言っているの!」
リーンは、スゴエラ侯爵の領都にいた。
父リンデスや、兄リグからは、「まだ、お前は弱いから外の世界に出るのは早い!」と、止められたが、待てずに村を、家出同然で飛び出してきたのだ。リーンは、これでも人間との出会いから二一年間、我慢に我慢を重ねて強くなれるように励んできた。
周囲のエルフ達と比べて結構やれるはずだと自信がついたのも事実だったから、後悔はしていない。
だが、強くなる努力はしていても、旅に出る準備はしていなかったから、領都に辿り着けはしたものの、リーンは無一文になっていた。
そこでお金を稼ぐ為に、職人を募集している鍛冶屋に交渉をしたのだが、相手はエルフと犬猿の仲であるドワーフだ、案の定喧嘩になった。だが、そこへ一人の子供が声を掛けてきた。
「あのー……。そこのエルフさん。良かったら家で雇いましょうか?」
聞けば、ランドマーク男爵という貴族の三男坊らしい。
「……じゃあ、私を雇ってくれるの?」
ぐー! 言うタイミングでお腹が鳴り、リーンは顔を真っ赤にした。
「とりあえず、食事にしましょう、奢ります」
少年はニッコリ笑うとリーンの手を取り、食事に誘うのであった。
こうして、リーンは初めての人間の友人であったファーザとセシルの子供であるリューと奇跡的に出会う事になり、その舎弟……、もとい従者として付き従う事になるのである。