王都に乗り込みますが何か?

豊穣祭が無事大盛況で終わると、リューは時折、『次元回廊』の出入り口を設置しておいたマミーレ子爵領に行き来していた。

それはマミーレ子爵領の経済立て直しの為であったが、順調にいっていて、一番の収入源であるこの収穫時期も比較的に豊作で例年にない税収が見込めそうだという。

それは急に収穫率が上がったというわけではなく、田畑の正確な検地による税収の適正化により、誤魔化しが出来なくなった事、着服などによる不正が調査により発覚し処分された事、不要な部署の撤廃による経費削減などで入ってくるものが正常化したのだ。

昨年の帳簿と比べると歴然で、この結果には指導したセバスチャンも喜んでいた。

問題は、ブナーン子爵だが、そちらには足を運んでいない。

何しろ自分達を殺害、担保の品を強奪しようとした主犯だ。

父ファーザがスゴエラ侯爵からブナーン子爵が所属する派閥の長に話を通して圧力をかけた事は聞いていた。

表面上は何も起きていない事になっているが、危険な狼の巣に直接利息を回収しに行くほどお人好しではない。

なのでマミーレ子爵から人を出してもらい、この収穫期に予定していた支払い分を回収しに行ってもらった。

二日後、マミーレ子爵の屋敷を訪れると、マミーレ子爵からリューにすぐブナーン子爵から無事回収されたと報告がされた。

ブナーン子爵は意外にも素直に利息の支払いに応じたという。

よほど、派閥の長から厳しく叱責された様で、本当に大人しくしている様だ。

父ファーザにも報告すると、「下手をすると罪を問われてブナーン家の存続にも影響が出るから当然だろうな」と、何か知っている風ではあったが、リューには詳しく話してくれなかった。

一年後、ブナーン子爵が成人したての息子に爵位を譲って隠居した時、リューはファーザの含みのある言葉を思い出すのだった。


毎年恒例のコヒン豆の収穫が始まる頃には、リューはリーンと共に受験に向けて本格的に勉強に取り組んでいた。

カカオン豆の収穫も始まってランドマーク領内は仕入れの商人も訪れ繁忙期だったが、今はもう、一日中勉強している状況だ。

「魔法の実践練習もした方がいいんじゃない?」

一日中勉強させられているから体を動かしたくなったのだろう、リーンが勉強を見てくれている母セシルに探る様に提案した。

「魔法技術はリーンちゃんの歳なら私の時よりも十分優秀だから安心して。ほら、ここの問題、答え間違っているわよ。はい、やり直し」

提案が裏目に出てセシルから問題用紙を追加され、リーンはがっくりと肩を落とした。

リューもリーンの提案に期待したのだが、リーンが裏目に出たので何も言わずに問題とにらめっこし直す事になった。

「リューも何か言いなさいよ!」

小声でリーンがリューにこの状況の打破を提案した。

「言ったら逆に問題用紙増えるからやだよ!」

リューは小声で断固拒否したが、「女の子にだけ言わせて、男の子が言わないのも情けないわよ?」と、母セシルは指摘すると、罰とばかりに問題用紙をリューの机の上に追加した。

「それは、理不尽だよお母さん!」

頭を抱えるリューであったが、これ以上文句を言っても問題用紙が増えるだけなのは容易に想像できた。

なので、グッと堪えると追加された問題用紙を受け入れるのだった。

「二人とも、勉強がきついのはわかるけど、目指すのは国内最高位に位置する王立学園なんだから合格できるかもわからないのよ? 勉強して、し過ぎるという事はないはず。年が明けると受験の為に王都まで行かないといけないんだから今が勝負時よ」

確かにそうなのだ。

王都の学校は全国から当然ながら優秀な人材が集まってくる。

無事入学して卒業できれば将来が約束される様なものだから当然だ。

そんな学校であるから、リューとリーンも受験して二人とも落ちる可能性もある。

一応、一方だけ合格した場合は、入学を断ってスゴエラ侯爵領の領都の学校を受験する事にしている。

リーンがリューと一緒じゃないなら拒否すると言ったからだ。

ただし、リューが合格したら、リーンは従者として残ると言ったのだが、王都の学校は寮がある。

従者は基本、連れて行けないので、これはリューが拒否した。

「二人とも仲良いわね。うふふ。じゃあ、領都の方の受験手続きもしておくけど、基本は王立学園合格を目指してね」

「「うん!」」

二人は元気よく答えると俄然やる気が戻った。

母セシルはその二人のやる気に頷くと、容赦なく問題用紙を追加するのだった。

「お、お母さん!」

「セシルちゃん!」

二人は改めて母セシルの容赦なさに悲鳴を上げるのだった。


ランドマーク家の最大の収入源である、コヒン豆、カカオン豆の収穫は無事終わり、『コーヒー』と、『チョコ』の加工所が忙しくなってきた。

そして、年中、『乗用馬車一号』や『リヤカー』、『手押し車』などの生産も忙しく続いている。

あと、領内で生産して、主食になっていたパスタやうどんやお好み焼きもどきだが、じわじわと他の領地にも噂が広がり、近いところではスゴエラ侯爵の領都に大規模な製麺所を作ってその人気に火が付いた。

数年かかったが、ランドマーク領で食べられている味、という売り言葉を使うようになってから注目を集めて展開したら驚くほど簡単に売れ始めたのだ。

それほど、ランドマークの名が南東部で浸透し、信用を得て、流行になりつつあるのだと改めてリューは手応えを感じた。

こうなるとリューは次の手を考え始めていた。

それは全国展開である。

ランドマーク領は国内では南東部の端にあり、文字通り辺境からの発信の為、遠く王都から商人が仕入れにやって来るという不便さがある。

これまで、生産拠点はこのランドマーク領とスゴエラ侯爵領、ベイブリッジ伯爵領に集中している。

なので、受験の為に王都に行くのはチャンスだ。

もし、受験に落ちても王都に拠点を作れれば、本望だ! と、もし、転んでもただでは起きないつもりでいるリューであった。

そうなるとファーザに相談しないといけない。

リューは早速、執務室に行くと、書類に目を通していた父ファーザに提案した。

「王都に拠点を置く?」

ファーザはリューの提案に驚いて書類から目を上げた。

「はい! 物理的に遠すぎるから、これまで商人を通してのみの取引だけど、今後の事を考えると『乗用馬車一号』や、『リヤカー』などの製造拠点や、製麺所の拠点は、あちらにも置く事で全国展開が容易になると思うんだよ」

「そうだが……、管理が難しいぞ?」

「そこは、僕の『次元回廊』があるから大丈夫だよ! それに王都から来る商人にもここは遠すぎると愚痴こぼされていたじゃない」

「それはな……」

ファーザは思い出すと苦笑した。

「王都にも少しずつだけど『コーヒー』や『チョコ』でランドマークの名は広がりつつあるらしいし、ここは勝負どころだよ、お父さん」

ファーザは悩んでいたが、「よし、今年の予算の話し合いでの議題はそれにするか。みんなと話し合って答えを出そう」と、慎重に答えを避けた。


「──という事で、王都にも拠点を置くというリューの提案なんだが……」

ファーザは祖父カミーザ、執事のセバスチャン、隊長のスーゴ、休みで帰ってきたタウロとジーロにシーマ、リーンにリューの提案をどう思うか答えを促した。

「いいんじゃないか? この領地も豊かになり余裕も出てきた。嬉しい事に他所にも名が知れてうちの商品が評価されとる。ここは勝負してもいいじゃろ」

祖父カミーザは賛成だった。

「私もリュー坊ちゃんの提案に賛成です」

と、セバスチャン。

「いいんじゃねぇかな? 実際、王都方面からの注文も少しずつ増えているって話だし。納品に最低でも三週間かかる事考えたら、拠点を作ってすぐに提供できるのは悪い事じゃないと思いますよ?」

隊長のスーゴが何気に良い指摘をした。

「僕も賛成だよお父さん。幸いリューは『次元回廊』を持っているから、あちらに出入り口を設置すればすぐに行き来できるんでしょ? 話し合いもリューを通して密に出来るから問題はさほどないと思うよ?」

長男のタウロも賛成した。

「僕も賛成。王都で勝負する事は生半可な事じゃないと思うけど、今のランドマーク家の知名度なら勝負してもいいと思うよ」

ジーロもスゴエラ侯爵領でランドマーク家の名が知られていて、それを肌で感じていたから、自信に繋がっている様だった。

「自分も賛成っす! ランドマーク家の名と紋章が王都で有名になるならやるべきだと思うっす!」

シーマもジーロ同様、ランドマーク家の名に誇りを感じていたのだった。

「みんな、賛成じゃない! なら勝負すべきよ! あっちでのリューのお守りは私に任せて頂戴!」

リーンがみんなを代表したつもりになって挙手したが、その言葉に一同は不安になった。

「……王都に行く時はもう一人、誰かつけるか?」

ファーザが提案した。

「なら、俺が行っても良いですよ? 領兵も大分育ってきているし、カミーザさんに任せても良いでしょ。どちらにせよ、片道三週間の長旅だし、帰りは誰かが護衛の領兵を率いて帰らないといけないでしょ」

隊長スーゴが、名乗りを上げた。

「そうか、スーゴなら安心だな。では、リュー達が行く時は頼む」

豪快過ぎて不安が生まれそうな人選だが、ファーザの信頼は意外に厚かった。

「おう! 任せといてください!」

スーゴは胸を叩くと豪快に笑うのだった。

「……最後に、王都で展開するにはひとつ大事な条件がある」

父ファーザが真剣な表情で前置きした。

「「「条件?」」」

みなが、注目する。

「リューとリーンの合格がなければ、意味がないだろう」

「「「あ」」」

ランドマーク家にとって一番大事な事をみな忘れていたのであった。


長男タウロ、次男ジーロ、三男リュー、長女で末っ子のハンナ、そしてリーン。

五人はランドマークの街を散策していた。

シーマは、祖父のセバスチャンから仕事を学ぶ為に朝から走り回っていていない。

セバスチャンは相変わらず、身内には厳しい。

普段はリュー達には優しいセバスチャンだが、孫のシーマには休みに帰ってくると厳しく指導して執事見習いとして勉強させている。

シーマ本人もランドマーク家の為と励んでいるから、自分達も身が引き締まる思いだ。

「職人通りは随分人が増えたね」

兄タウロが、通りを眺めながら一人頷く。

「今うちは、職人は好待遇だから、他所からも移り住んでくる人が絶えないよね」

ジーロが兄に相槌を打つ。

「あ、タウロお兄ちゃん。それはそうと、もうすぐ学校卒業でしょ、今後は(エリス嬢とは)どうするの?」

リューがタウロにあの事を含ませて質問した。

「それはもちろんここに帰ってくるよ?」

タウロはリューの意図がわからなかったのかキョトンとした。

「そうじゃなくて、タウロお兄ちゃんが交際しているエリス嬢の事だよ!」

「「「ああ!」」」

タウロのみならず、ジーロ、リーンも、わかっていなかったのかエリス嬢の名前を聞いてやっと納得した。

あ、ハンナ、君は察したのね。それはそれでお兄ちゃん、複雑だよ?

リューは察していたらしく頷いていたハンナに違う意味でおませぶりを心配するのだった。

「卒業したら会えなくなるから手紙のやり取りになってしまうでしょ? それだと疎遠になる事もあり得るんだから、今後の事も考えないと」

「そうか、そうだね! ちゃんと考えなくちゃいけないね」

タウロは目から鱗とばかりに納得すると、歩きながら考え込んだ。

「やっぱり、ベイブリッジ家に伺って、伯爵にエリスとの婚約の申し出をしないと駄目だよね?」

タウロは、考えた末にその答えに辿り着いた。

「その前に、そのエリスって子本人に婚約の申し出をしないと駄目でしょ!」

リーンが、二人の会話に割って入った。

ハンナもリーンの言葉に強く頷いている。

「あ、そうか。エリスが先か!」

タウロお兄ちゃん、大丈夫か……!

リューは心配になるのだが、それだけエリス嬢との仲がうまくいっていて失念していたのかもしれないと思えなくもなかった。

「じゃあ、学校に戻ったら、エリスに婚約の申し出をするよ」

タウロが簡単にそう答えた。

雰囲気作りはちゃんとできるのだろうか?

リューは心配になった。

もちろん二人の事だ、二人の間があるだろう。

だがしかし、一生に一度かもしれない出来事だ、雰囲気作りは大事だと思う。

もちろん、自分は前世では未婚だったから想像でしか言えないけど!

どう言おうか迷っていると、「タウロ。エリスって子には特別な瞬間なんだから雰囲気作りはちゃんとしなさいよ? 綺麗な景色の見える場所とか、おしゃれなお店とか一生思い出に残る様な」と、リーンがそれっぽい事を言ってくれた。

リーンからそんな言葉が出てくる事にリューは驚きだったが、確かに前世のTVでそんな事言っていた気がすると、リューも頷いた。

「となると、当日はジーロお兄ちゃん、シーマが空気を読まず邪魔しない様に注意しないとだよ」

「そっか、言われてみれば、タウロお兄ちゃんとエリス嬢がいるところにはシーマが必ずいる気がする」

ジーロが、思い出しながら言った。

「必ずなの!?

リューは驚いてタウロに確認する様に視線を向ける。

「そうだね、授業以外ではいつも僕に付いている感じかな」

タウロがこれまでの学校生活を思い出しながら言った。

「執事見習いの鑑だけど……。当日はシーマには席を外す様に注意しておかないと……。ジーロお兄ちゃん頼んだよ」

リューがジーロに念を押した。

「……わかった。重大任務だね」

「シーマに直接言えばいいじゃない?」

リーンが、当たり前の事を言ったが、「言っておいても、そういう事には融通が利かなそうなのがシーマなんだよ」とリューがリーンに教えてあげた。

タウロとジーロは自分の事は棚に上げ、「「確かにそうかもしれない」」と、納得するのであった。

年明け、タウロは学校に戻ると卒業式前日にエリス嬢に婚約の申し出をしてOKを貰い、卒業後にベイブリッジ伯爵家に直接伺うと承諾を得て、晴れて婚約者になるのだが、それは少し先のお話である。


年が明け、リューとリーンの受験が近づいてきた。

王都までの距離は馬車で三週間もかかる距離なので余裕をもって出発しなければならない。

なので、出発を前にリーンの荷物はすでにリューのマジック収納にいれてある。

もし何か必要なものが出ても、リューに『次元回廊』で取りに戻ってもらえばいいので気楽なものだ。

問題は、受験そのものだ。

王都は国内最高クラスの優秀者が全国から集まってくるという。

リーンも沢山勉強してきたが、合格できるかどうかは受けてみないとわからない、というのが勉強を見てくれた母セシルの弁だ。

ランドマーク領で王立学園のレベルを知っているのは唯一、リューのスキル鑑定をしてくれたサイテン先生だけだが、その先生は今、王都に戻っていて聞き様がなかった。

実にタイミングが悪い。

リーンは、性格上、やることをやってそれで結果が出なかったらそれまでで、仕方が無いと切り替えるタイプだったが、今回は緊張していた。

もし、リューだけ合格して自分だけ落ちたらどうしようかと、心配していたのだ。

そうなると、リューは王立学園は諦めて、スゴエラの街の学校に行く事になっている。

さらには、王都進出の話も無かった事になるのだ。

責任重大だ。

「リーン、顔色悪いけど大丈夫?」

リューがリーンの顔色を気にして声をかけた。

「大丈夫よ。ちょっと不安になっただけ」

「ああ。受験はなるようにしかならないよ? これまで頑張ってきたんだし、合格はしたいけどね。お互い落ちてもそれはそれでいいんじゃない? 一緒に、スゴエラ領都の学校に行けばいいよ。あ、その時は、二人とも成績で一位二位を取ってランドマーク家は凄いんだとアピールしよう」

リューはリーンが珍しく緊張しているので緊張を解そうと声をかけた。

「……そうよね。落ちてもそういう道があるものね」

「うん。緊張して本領を発揮できずに終わるより、後悔しない様に全力を出しきって落ちてこようよ。ははは!」

リューが笑うと、リーンは緊張が解れてつられて笑った。

「全力出して落ちるんじゃ意味ないじゃない! ふふふ」

二人は笑うと翌日、みんなに見送られてランドマーク家を後に王都に旅立つのであった。


「……なんて笑っていた時期がありました」

リューとリーンは馬車に揺られながらため息をついた。

馬車に一日中揺られる日が、すでに一週間経っていた。

「やっぱり、片道三週間は気が遠くなるわね」

リーンが、座る位置をずらしながら言った。

「本当だね。もう少し行ったら、街道沿いに村があるらしいからそこで休憩しようか」

リューも座る位置をずらすと答える。

「ファーザ君やジーロが、このリューが設計した馬車じゃないふるいタイプで往復したなんて信じられないわね」

父ファーザとジーロが、ランドマーク家が刺客によって襲撃されたことを知って、旧い型の馬車で強行して帰ってきた時の事は笑い話になっていた。

リーンもそれを聞いて笑ったものだが、自分が当人なら笑えないと思うのだった。

「あの時はお父さんもジーロお兄ちゃんも馬車にはうんざりしていたからね」

リューは苦笑いしていると、外からスーゴの声がしてきた。

「坊ちゃん、前方で馬車が二台ほど止まっています。大丈夫だと思いますが、一応警戒しといてください」

スーゴの遠くを見通す『鷹の目』の能力で確認したのだろう、馬車から身を乗り出してもリューにはまだ見えない。

リーンも身を乗り出すと、「あ、本当だ。馬車の後輪の車軸が折れているみたいよ」と、確認した。

リーンの『追跡者』スキルにも同じ様な能力があるのだ、上級能力らしいがリーンは使えている。

しばらく進んでいると馬車が道の脇に止まっていて、御者と護衛の兵士が馬車の周りで右往左往していた。

その傍で、折り畳みの椅子とテーブルを出し、そこで優雅にお茶を飲んでいる、貴族らしい金髪の長いサラサラヘアーに青い瞳のリューと同じくらいの男の子がいた。

その脇に従者と思われる女性がお茶のお代わりをその男の子に聞いている。

「どうします坊ちゃん? 素通りしますか?」

スーゴが、リューに確認する。

「車軸が折れたなら、僕が代えの車軸持っているから渡してあげよう。このままだと村まで行かないと入手できないだろうし」

「わかりました」

リュー達は一旦通り過ぎて馬車を止めてもらい、降りて困っている一団に歩み寄ると挨拶をした。

「こんにちは。車軸が折れたのでしたら、こちらに代えの車軸があるのでお譲りしましょうか?」

この馬車の主であると思われる貴族の男の子は、聞こえないのかこちらを見ようともしない。

「本当ですか!? 車軸の代えなんて用意してなかったので助かります!」

御者の男性が、リューの申し出に喜ぶとお礼を言った。

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」

リューは感じの良い御者に、マジック収納からスペアの車軸を出すと、渡して立ち去るのだった。


リュー達一行は、近くの村の小料理屋で休憩する事にした。

「さっきの貴族、感じ悪いガキでしたね」

スーゴがお店の席に着くなりオブラートに包む事なくはっきり言った。

「私もそう思ったわ。リューが話しかけているのにあからさまに無視していたわよ」

リーンもスーゴに賛同する。

「彼はきっと僕が男爵家の子供だとわかっていたのかもね。馬車に家紋が入っているし。となると、あっちは格上の多分、この街道沿いで通り過ぎたトーリッター伯爵領の子息かもしれないよ」

「なるほど。リュー坊ちゃん冴えていますね。確かに伯爵家なら男爵如きは相手にしないかもしれないですね」

「ちょっと、スーゴ。如きって何よ、如きって! ランドマーク家を馬鹿にしているの!?

リーンがスーゴに噛みついた。

「いやいや! あっちがそう思っているって話だよ! 俺はそうは思ってないって!」

スーゴは慌てて弁解した。

「二人共落ち着いて。こういう事は今後いくらでもありえる事だから。王都に行けばそういう人は幾らでもいるよきっと」

無視された本人が気にしていない様なので、二人は黙るしかなかった。

「王都は沢山貴族がいるのだから、上下関係は気にした方がいいかもね。失礼があってトラブルになったら謝るのは男爵家のうちだから」

二人に念を押した。

特にリーンはその辺りにはこだわりがあんまりあるとは思えない。

ランドマーク家を誇ってくれているのはわかっているが、格上の貴族の対応について万全とは言えないだろう。

「……わかったわ。ランドマーク家の恥にならない様に気をつける」

意外と素直にリューに頷いた。

「俺は元から、貴族様には気を遣っていますよ坊ちゃん。まあ、会う機会はないんですが。わはは!」

スーゴは経験豊富なのでその辺はうまく立ち回れるかもしれない。

そんなやり取りをして休憩時間を過ごし終えるとまた、出発する事にした。

御者と領兵もすでに待機している。

馬車に乗り込もうとすると声をかけられた。

「ちょっとお待ちを! 先程はありがとうございました」

トーリッター伯爵と思われる貴族のところの感じの良い御者だった。

「あ、直りましたか?」

リューがチラッと御者の背後を見ると、丁度馬車から貴族の男の子が降りてくるところだった。視線が合うと睨まれた。

これは、逸らしておいた方が良さそうだ。

「はい、お陰様で。あ、私、トーリッター伯爵のところで御者を務めている者です。それでそちら様は?」

「僕はランドマーク男爵ファーザの三男で、リューと言います」

「そうでしたか! 失礼ばかりですみません! ……お陰で坊ちゃんの機嫌が悪くなる前に直せました、本当にありがとうございます」

こそっと御者はリューに言うと、再度お礼を言い立ち去って行った。

視線が合った時、睨まれたけどあれで機嫌は悪くない方なのか……。

あの御者さん大変そうだ……。

と、リューは思いながらリーンと一緒に馬車に乗り込むのだった。


その日の夕方。

とある村に辿り着くと早速宿屋を取った。

一応、リューも男爵という貴族の子息なので宿屋側は一番良い部屋を空けてくれた。

リュー的には、普通の部屋でも十分だったのだが、こういう時、貴族として多少のお金をバラ撒いて村を潤わせるのも貴族の務めだろうと思い直した。

食事では御者や領兵にも大盤振る舞いして多少お金を村に落とした後、部屋に引っ込んだのだが、しばらくすると宿屋の主人が部屋の扉をノックしてきた。

「すみません、お客様。実は折り入って相談が……」

深刻そうなトーンに扉を開けると、申し訳なさそうに青ざめて汗を拭く宿屋の主人が立っていた。

そして、急に土下座する。

「実は、今、下に新たなお客様がおいでになっているんですが、一番良い部屋を空けろと言われまして……」

貴族である自分に言うという事はそれ以上の貴族、つまり、子爵以上。

もしかして……。

「それは、トーリッター伯爵の名前が出ているんですね?」

「そ、そうです! ……なぜおわかりに……?」

「日中、遭遇しましたので、何となく。……わかりました。部屋を移動します」

「あ、ありがとうございます! 本当に申し訳ありません!」

宿屋の主人は、板挟みにあった気持ちで生きた心地がしなかっただろう。

リューが素直に応じてくれたので、青ざめていた顔に血の気が戻っていった。

最初、他の一般のお客の良い部屋を主人が空けようとしたのでそれを断った。

自分まで同じ事はしたくない。

スーゴやリーンの部屋の方が良さそうではあったが、寝るだけなのでリューはこだわらなかった。

そこでスーゴの部屋に転がり込もうかとも思ったのだが、酔っていてすでに寝ていたので諦めた。

隊長としてそこはどうなの?

リューはノックしても起きてこないスーゴに内心呆れた。

結局、リューは主人の案内で空いている部屋に移動したのだった。


朝になると、スーゴとリーン、御者に領兵二人は憤っていた。

それは、リューが部屋から追い出され、空き部屋に移動させられた事についてだった。

「リュー、どういう事よ! 朝起こしに部屋に行ったら、あの感じ悪い子になっているじゃない!」

「そうですぜ、坊ちゃん! 何で昨日の時点で声をかけてくれなかったんですか!」

いや、スーゴ、……君、寝ていて起きなかったよね?

リューは白い目でスーゴを見た。

「なんですか坊ちゃん、視線が冷たいですが?」

スーゴもそれは感じたらしい。

「昨日遅くにあっちがここの村に到着して宿屋の主人が部屋を空けないとまずい状況だったから僕が譲ったんだよ」

リューは少し端折ってオブラートに説明した。

「譲ったって、それ、追い出されたんでしょ?」

リーンが核心を突いてきた。

「あちらは伯爵、狭い村ではこういう事はあるよ。それに宿屋の主人の事を考えると可哀想でしょ? だからこれ以上は言っちゃ駄目だよ」

リューが全員に念を押した。

「……わかりました。坊ちゃん、道中、今後も被りそうなので食事が終わったら、とっとと出発して距離を広げましょう」

スーゴが、提案してきた。

その提案、採用!

リューもこの街道上を進んでいたら、きっとまた同じ事が起きると思っていたので勘のいいスーゴの提案は賛成だった。

御者や、領兵もその案に頷くと急いで食堂に向かう。

早く食べてしまおうという事だった。

そういう感じで、妙な事で一致団結する一行であった。

元々、馬車にはリューとリーンだけで荷物は全てリューのマジック収納に入っている為、軽くて済んでいる。

スーゴと領兵も騎馬で進んでいるので問題ない。

それからは王都までの二週間近くは、何かに追われる様に食事と睡眠、休憩は取りつつも、早く進み続けた。


そんなこんなで王都には予定より三日も早く到着する事になった。

王立学園の受験日がさらにその三日後だから合計一週間近く余裕が出来た事になる。

「スゴエラ侯爵の領都も凄いと思っていたけど、王都は聞きしに勝る大きさだね!」

リューが感心して王都の城門を馬車から身を乗り出し下から眺めた。

リーンも同じ様にして眺めると、「大きさでは負けるけど、ランドマーク領都の城門も十分立派よ」と、負けん気を見せた。

「いや、そこは勝負挑まなくていいから……!」

リューは苦笑いしながらツッコんだ。

リーンとしては、リューと自分で作った経緯がある為、思い入れも大きいのだ。

それはそれで嬉しい事だった。

王都内はやはり規模が違った。

何より人が多い。

ランドマーク領の豊穣祭と比べてもこちらの方が祭りでもしているのかと言うくらい人がごった返している。

そして、人種のるつぼだ。

ランドマーク領では見かけない人種も沢山いる。

エルフは珍しい人種だと思っていたが、王都ではそこら中に普通に歩いている。

リーンが目立つという事はなさそうだ。

「獣人族にも沢山人種がいるのね」

リーンが馬車の窓越しに外を眺めながら言った。

「そうだね。こっちではリーンでも目立たないね」

リューが笑いながら答えた。

ランドマーク領ではエルフはリーン一人だったので目立っていたからだ。

それに美少女とあっては、人気は絶大だったが、本人の性格上、その辺りはさほど気にはなっていなかった。

領主の三男であるリューといつもいるので注目されるのは当たり前と思っていた様だ。

「そうね。それはどうでもいいのだけど、これからどうするの?」

リーンは、やはりそんな事には興味はなかった。

「ドライだね。ははは。取り敢えず、お父さんが以前泊まったらしい宿屋に部屋を取ろうか」

父ファーザが以前泊まったところは、昇爵の話を断る為に王都まで来た際、手配した宿屋なので比較的に質素だった。

もちろん、貴族としてという意味で、普通に良い宿屋だ。

ランドマークの名を名乗ると、宿屋の女将は父ファーザと同行したスーゴを覚えていてすぐ、大歓迎ムードになった。

「女将、ランドマーク男爵の三男のリュー坊ちゃんだ。今回は王立学園の受験で来たから、その間よろしく頼むよ」

スーゴが言うと、「あらあら、そうなのかい!? それは凄いじゃない! 受験の間、うちでしっかり準備して合格してくださいな!」と、女将は答えると、従業員に一番良い部屋を案内させるのだった。

一番良い部屋に、拒否感が出てしまうリューだったが、そこは好意に甘えるのだった。


部屋が決まるとリューは早速、『次元回廊』でランドマーク領の自室に戻る事にした。

父ファーザに無事到着した事を報告する為だ。

これまでマミーレ子爵のところに設置していた出入り口をこの宿屋に設置し直す。

「これでよしっと」

リューはそうすると『次元回廊』に入って移動した。

すると、脳裏に『世界の声』がした。

「『次元回廊』が限界に達しました。ゴクドーの能力『限界突破』により、限界を突破します。……限界を超えました。移動距離、移動重量の限界値が上昇しました」

久しぶりの『世界の声』にリューは自室に到着と同時に驚いた。

「え!? という事は……。あ、その前にお父さんに報告しないと!」

慌てて執務室に向かうと父ファーザに無事到着した事を伝えた。

「おお! もう到着したのか、予定より早いな」

リューの報告を聞いて、ファーザは苦笑いした。

「……そうかそれは大変だったな。トーリッター伯爵はうちにも手紙が来てる。男爵風情が調子に乗るなとな」

「ああ、あの手紙の!」

リューも思い出した。

そういう手紙の類はスルーしていたので送り主まで覚えていなかったのだが、父ファーザは覚えていたのだ。

ちなみに父ファーザは調子に乗った覚えが皆無だったので、「どなたか違う男爵と間違えていませんか?」という返信をしてしまったので、あちらが大いにブチ切れた事は知らない。

リューは返信の手紙を出した事は聞いていたので、それで合点した。

「あ、お父さんが煽った相手だね……」

「私が煽った? そんなわけないだろう」

父ファーザはリューの指摘に心当たりがないという顔をした。

「ははは……。ともかく、到着した事は知らせたよ。また後で報告したい事があるから確認後また来るね。あ、お父さん、受験まで一週間近くあるから、その間、王都への進出計画進めていい?」

「馬鹿者。まずは、受験勉強だろう。リーンもいるんだ、勉強を優先しなさい」

リューは父ファーザに怒られると、素直に従う事にした。

確かに今は優先順位を間違えてはいけない。

「はーい。じゃあ、戻るね」

そう言うとリューは自室から王都に戻るのだった。


「あ、戻ったのね。報告してきたの?」

王都の宿屋に戻ると、リーンがやって来ていた。

鍵を閉めていたのに室内に入れているのは、盗賊の上位、追跡者スキルの賜物だろう。

って、勝手に鍵開けないで!

リューはリーンに呆れたが、本人曰く、

声をかけても返事が無いから何か起きたと思った、らしい。

「あ、そうだ。リーン、実験に付き合って」

「実験? 何するの!?

リーンは何をするのかわからないが、好奇心は旺盛だったので、すぐに乗り気だった。

「じゃあ、僕と手を繋いで『次元回廊』に入るよ」

「え? 『次元回廊』って、ハンナちゃんまでしか通れないじゃない。……もしかして、何か覚えたの?」

「さっき『世界の声』がして、『限界突破』したらしいから試してみたくて」

「本当に!? やったー! 成功したら、ここからランドマーク領まで行けるのね!」

リーンは素直に喜んだ。

移動で馬車に揺られる時間が無くなるかもしれないのだ、喜ばずにはいられないだろう。

「あ、スーゴも呼んで来よう」

リューはそう言うとスーゴの部屋に呼びに行った。

すぐにスーゴを連れて戻ってくると早速実験開始だ。

「じゃあ、まずは、リーンと一緒にランドマーク領に戻れるかやってみるね」

リューがそう言うと、スーゴはそこでやっと自分が連れてこられた理由が何となくわかったという顔をした。

リューとリーンは手を繋ぐとその場から消えた。

「おお! やっぱり坊ちゃん凄いな!」

スーゴが一人感心していると、手を繋いだリューとリーンが戻ってきた。

「よし、成功!」

リューは喜ぶと、

「じゃあ、今度はスーゴ」

「わかりました!」

そう答えてリューと手を繋ぐと、今いた宿屋の一室から見覚えのある部屋に移動していた。

「……ここはリュー坊ちゃんの部屋ですね!?

スーゴは初めての『次元回廊』での移動体験に驚いた。

人がやるのと自分が体験するのとではまるで違う。

「じゃあ、戻るね」

「これは便利ですね!」

「でしょ? 流石に魔力をそれなりに持っていかれるのがわかるけどかなり便利だよ」

リューはそう答えるとスーゴと手を繋いだまま王都の宿屋に戻った。

「体の大きいスーゴでも成功したから、帰りは御者や領兵のみんなも直接送るね!」

リューは実験の成功に大喜びだった。

「数人で試さなくていいの? まだ私とスーゴの一人ずつだけよ?」

「いや、スーゴの様な大きい人で確認できればいいんだ。要は一人ずつ確実に移動出来ればいいから、一度に沢山で移動する必要はないんだよ」

確かに、言われてみればそうだ。

リーンとスーゴは納得するのであった。


『次元回廊』で自分以外の人を通せる様になった事を父ファーザに知らせると、当初の予定は大幅に変更される事になった。

それは、リューとリーンの合否に関係なく王都進出する事だ。

そうなると、執事のセバスチャン、父ファーザ、そしてなぜか母セシルとハンナを王都に移動させる事になった。

ぞろぞろと宿屋の一室からランドマーク家一行が出てきた事に宿屋の女将は驚いたが、ランドマーク男爵当人を確認すると、喜んで歓迎してくれた。

「これはまず、どこか適当に家を借りてそこから出入りしないと、宿屋に迷惑をかけるな」

と、父ファーザが言ったので執事のセバスチャンが急遽家を探す事にした。

どちらにせよ、拠点を用意する必要があったのでこれは丁度良かった。

母セシルと妹のハンナは宿屋を出ると二人でお買い物に出かけた。

なるほど、それが目的だったのね……。

苦笑いするリューであったが、王都に来るなんて滅多にない事だから、仕方がないかと納得すると領兵の護衛と共に馬車で送り出すのだった。

「お父さんはどうするの?」

残った父ファーザにリューが聞いた。

「私は、王都にいる知人達に挨拶してくるとしよう。リューとリーンは……」

「セバスチャンが見つけてくる家を拠点化する事だね!」

「いや、待機して勉強だ。王都進出が前倒しになっても、一番大事なのは二人の受験だからな。残り時間、自分を追い込んで勉強しなさい」

ガーン。

リューは父の正論に反論できず、リーン共々机に向かう事になるのだった。


夕方になると、出かけていたセバスチャン、母セシルと妹ハンナが帰ってきた。

ぞろぞろとリューの部屋に入って行ったので、宿屋の女将さんも流石に声をかけるべきかと思い、部屋をノックして室内に入らせてもらうとそこにはリューとリーンしかいなかった。

「あら? さっき来たみなさんはどこへ行ったんです?」

女将が疑問に思うのも仕方がなかったが、正直にリューは答えた。

「あ、それならもう、家に帰りました。お騒がせしてすみません」

リューは女将に頭を下げて謝った。

「あら、そうなのね? それなら良いのよ。ランドマーク男爵はまた来るのかしら?」

狐につままれた様子の女将であったが、「父は挨拶回りでまだ帰って来てないので、戻ってきたらあとでまた挨拶させますね」と、息子のリューに言われたので恐縮した。

「あ、良いのよ、そこまで気を遣ってもらっちゃ、宿屋の女将として失格だわ。受験まで自分の家だと思ってゆっくりしていてくださいな」

そういうと退室する女将であった。

父ファーザは遅くに戻ってきた。

丁度勉強を終えてリューが寝ようとしていたところだったので少しお酒が入っている父ファーザをあっちに送り返すと早々にリューも寝るのであった。


翌日もセバスチャンは朝一番から王都にリューに連れてきてもらうと、出かけていった。

父ファーザは昼にまた迎えに行く事にして、リーンと一緒に勉強する事にした。

「セバスチャンは大変そうね」

リーンが執事のセバスチャンの心配をした。

「確かに言われてみれば……。こっちは土地勘が無いから流石のセバスチャンも家探しは苦労しているのかもね」

リーンに言われてリューも自分で答えながら、セバスチャンが一番大変なのかもしれないと思い始めた。

「今日戻ってきてまだだったら、気晴らしも兼ねて手伝ってあげた方がいいかもね」

リーンが勉強をさぼる為なのか、セバスチャンを本当に気遣ってか提案した。

「そうだね。手伝おう!」

リューは勢いよく賛成した。

もちろん、リューの場合はもう、勉強が嫌だったからである。

お昼をリーンと一緒にランドマーク家の自宅に食べに戻り、また、戻るついでにファーザを王都に連れてきた。

父ファーザは知人達に王都の情報を貰っている様だが、その為にお酒を奢るので自分も飲まざるを得ないらしい。

という言い訳をして父ファーザはまた、出かけていくのだった。

忙しいセバスチャンにはこの事は黙っておこう、と思うリューであった。


翌日の昼過ぎ。

セバスチャンが、好立地の物件を見つけてきたのだが、これが問題だった。

築五十年の石造りの頑丈な建物。

改装、建て直し自由、敷地面積も広く、価格も王都にしてはお手頃価格。

「さっき売りに出す事になったので今のタイミングを逃すと次のお客さんが九九%買うと思いますよ」

という売り文句にセバスチャンは、その建物の外装を確認後悩んでいた。

するとその場に次のお客が来て、買わないならうちが買うと言い出した。

聞けば聞くほど、これは仕込みだろう。

セバスチャンは決断の時とこれに慌てて契約したのだが、これが実は築百五十年で、「一」の部分が前の字に重なって見づらくなっていた。

さらに、外装こそ綺麗に見えたが内装はボロボロ、建て直すにも周囲にも建物がある為、撤去に莫大な費用がかかる。

さらには、いわくつき物件で、その土地自体に強い呪いがかかっている事がリューとリーンが確認の為に同行した時に、判明した。

完全に悪徳業者の手口だ。

内装は百歩譲っていいにしても築百五十年では建物自体の耐久性が怪しいし、何より呪いが大問題だ。敷地内での作業自体が出来ないし、ずっといれば、呪いがかかる可能性もある。

となると、放置するか売るしかない。

だが、いわくつき物件なので早々に売れるわけでもない。

所有している間、維持費だけがかかり、損しかないのでどうにかして安くでも売るしかないのだが、そこをまた、悪徳業者が買い叩いて二束三文でせしめ、また、同じ事を繰り返すというのがこれまでの手口だろうと思えた。

残念ながら契約書にも怪しいが不備という不備は無く、業者にいまさら文句を言っても、逆に衛兵を呼ばれるだけだろう。

「すみません、リュー坊ちゃん……完全に私のミスです……」

セバスチャンが責任を感じて明らかに落ち込んでいて、そんな姿を見るのはリューは初めてだった。

「いや、セバスチャン。良い買い物をしたよ。こんな主要な通りから近い好立地の場所、普通この価格では手に入らないよ」

リューは建物を一目見て、頷いた。

「ですが、それは呪いのせいですから……」

「ふふふ……! セバスチャン、うちには凄い妹がいるのを忘れてないかい?」

「ハンナお嬢様ですか? ……あ!」

「気づいたね? あ、その前に、この土地の上物うわものはいらないね」

リューはそう言うと大きな石造りの三階建ての建物をマジック収納に収納してみせた。

その道路沿いを歩いていた通行人達が視界から突如消えた建物を二度見して、その場所にあったはずの物を確認したが、完全に消えている事に「!?」となり、目をこすったりして確認していたが、リューはお構いなしであった。

「これで後はハンナを呼んでくるだけだね」

そう言うとリューは宿屋に戻り、早速、『次元回廊』でランドマーク領に移動すると、ハンナの授業をしていた母セシルに今回の件を説明した。

「それなら、私でも呪いは解けるかもしれないけど……、今回はハンナの方が確実かもしれないわね」

というと、ハンナの授業を中断して王都に向かう事にした。


セバスチャンが買った土地にリューの案内で母セシルと妹のハンナが訪れた。

「確かに、これは強い呪いがかかっているわね……。私でも解呪するのは大変そうだけど……、ハンナちょっといい?」

母セシルがリーンとしゃべっていたハンナを呼ぶ。

「なーに、お母さん?」

「以前教えてあげた解呪する為の魔法覚えている?」

「うん、もちろん! このもやもやしたのを消せばいいのね?」

どうやら、ハンナには呪いが見えているようだ。

「ええ、そうよ」

「わかった! じゃあ、やるね。『大浄化』!」

ハンナが何の予備動作も無く、賢者や聖女職が特別に覚えると言われる大魔法を唱えた。

天からまばゆい光が呪われた土地に降り注ぎ、黒いもやが地の底から根こそぎ天に引き摺られる様に昇っていく。

呪いの元と思われる黒い影が悲鳴を上げて天に召されていくのが、治癒士の母セシル、森の神官のリーン、賢者のハンナ、そして器用貧乏で簡単な治癒持ちのリューには見えたのだった。

セバスチャンは長年の勘で、不浄の土地が浄化された事に何となく気づいた様で、「これで、もう、安心ですね?」と、母セシルに確認した。

「ええ、セバスチャンご苦労様。後はリューとリーンに建物は作らせるから、戻ったら職人を集めてこっちに連れて来る手配をして頂戴。扉や窓、屋根は職人じゃないと無理だから」

「了解しました」

セバスチャンは頷くとリューと一緒に宿屋に戻って行った。

「じゃあ、ハンナ。この後は王都でお買い物しようか?」

母セシルは娘に言うと、「わーい! 私、また、お洋服見たい!」とハンナは喜び、母セシルと手を繋ぐと馬車に乗り込んで裁縫通りに出かけて行くのであった。


その日の内に、新しい建物が作られた。

リューが鉄筋を内部に仕込んでの丈夫な作りの五階建てだ。

この近辺では一番高い、前世で言うところのビルの様な建物になった。

一階の天井は高くして、敷地内に続く出入り口が脇にある。

馬車でも通過できる広さと高さだ。

その一階は敷地の奥に馬車を止められる様に駐馬車場を作り、それ以外は広いスペースを確保した貸店舗にし、二階も数店舗お店が出来る様に広く区切った。

三~五階はランドマーク家のプライベート空間という事にした。

あとで、また、変更するかもしれないが……。

あとは、職人達を入れて、細かいところを作ってもらう事になる。

セバスチャンに大まかな事を説明すると、「わかりました」と、一言頷いてリューの『次元回廊』で館に帰って行った。

もう、遅いので、セバスチャンと職人達を運ぶのは明日以降にする事にした。

日が落ち、外は街灯が灯りだした。

リューとリーンも宿屋に戻って食事にしようと帰ると、母セシルと妹のハンナ、そして、お酒の入った父ファーザが戻っていた。父ファーザが少々酔っていた為、母セシルに軽く説教されていた。ただ、娘のハンナがいる前なので、やんわりと、だった。なので館に送った後、どうなるかはリューでも何となく想像できたが、ここは触れずにおく。だって巻き込まれたくない!

父ファーザがリューに助けを求めるような視線を送ってきたが、リューは気づかないふりをして『次元回廊』を閉じるのであった。

「ファーザ君が、リューにずっと何かアイコンタクトしてきていたわよ?」

リーンが、不思議そうに指摘した。

「リーン。あれは夫婦の問題だから、気づかなくていいんだよ?」

夫婦喧嘩は犬も食わない。

リーンがその場で指摘しなくて良かったと思うリューであった。


あと数日で、受験だが、翌日も朝から『次元回廊』で、ランドマーク領の自室に戻ると、扉の向こうにはセバスチャンと職人様ご一行が待機していた。

「リュー坊ちゃんの部屋の改装じゃないんだよな?」

「王都に行くのにリュー坊ちゃんの部屋に行くのがいまいちわからねぇな」

「ともかく俺達は任された仕事やるだけだべ!」

職人達が扉の向こうでわいわい騒いでいるので、扉を開けて迎え入れると職人達の持ち込んだ材料や作業道具を全てマジック収納に入れて、一人一人『次元回廊』で王都まで連れて行った。

運んだ宿屋側は、リュー達の泊まる部屋から、次々に人が出てくるので軽く混乱する事態になった。

上の階から知らない男達が次から次に降りてくるのだ、他のお客たちも驚いていた。

「これが、リュー坊ちゃんの力か! スゲーな!」

「本当に一瞬だな!」

「こりゃたまげたべ!」

職人達は口々に感想を漏らすと宿屋の表に出ていく。

「一体、あの部屋で何が起きているのやら……」

女将はここ数日、宿屋で一番良い部屋が一番謎だらけの部屋に変わっていたのだから、軽く混乱するのであった。

セバスチャンがもちろん迷惑料という事でお金の入った革袋を女将に渡すのだが中身を見て女将は謎について一切触れない事にするのだった。

リューはこの日も、ランドマークビル(仮)に、セバスチャンの先導で職人達を案内した。

職人たちは現場に到着すると、すぐリューに荷物を出してもらい、作業に移る。

先程まで、王都の光景に驚いて観光気分でキョロキョロしていたのが嘘の様だ。

流石職人というところだろう。

木材を切る音、トンカチで釘を打つ音、材木を持ち上げる掛け声と、活気に溢れだした。

通行人もこれには興味を持った。

何しろ、昨日まであった建物が無くなり、すぐ、違う建物が建っているのだ。

まして、地元住民にしたら訳あり物件として有名だった土地に長い事聞く事が無かった活気ある作業音が鳴り響いている。覗かずにはいられなかった。この事は、売りつけた悪徳業者の耳にも入ったらしく、半信半疑で様子を見に来た。

すぐに、セバスチャンがこの悪徳業者に気づくと対応する。

「何の御用ですか?」

「そんな馬鹿な! ……いや、これは一体どういうことだ!?

「どうとは? 仰っている事の意味が理解出来ないのですが?」

「どうやってわずかな時間で建物を!? それに強力な呪いで人が入るのも大変なはずなのにどうしてだ!」

「それをわかって売ったのを認めるわけですね」

「あ、いや……」

「どちらにせよ、もう、契約してうちのものなので、とやかく言われる覚えはありません。地方貴族とはいえ、貴族を相手に悪質な商売をしようとした事は許されない行為ですが、我が主は大目にみるそうです。良かったですね」

セバスチャンは悪徳業者を静かにギロッと睨みつけた。

歴戦の強者であるセバスチャンの睨みである。

悪徳業者は「ひいっ! ごめんなさい!」と、悲鳴を上げると逃げていくのであった。


連日リューは受験までの間、勉強と職人達の送り迎えをしていた。

流石に宿屋に設置してあった『次元回廊』の出入り口は、ランドマークビル(仮)の五階の一室に設置し直した。これ以上はお金を支払っているとはいえ、宿屋側にも迷惑はかけられないからだ。

リューとリーンも宿屋からランドマークビル(仮)に移りたいが、まだ、内装工事が終わっていないので移るのは受験後になりそうだ。

リューの部屋で受験勉強をしていたリューとリーンは、勉強を見る為にやってきていた母セシルの下、最後の追い込みをかけていた。

「やっと明日ね」

リーンがリューに話を振る。

「そうだね。明日は筆記だから、今日で勉強も終わりだね」

リューはやっとこのテスト地獄から解放されると、その事に喜んだ。

「二人ともこれまでよく頑張ったわ。後は明日にぶつけるだけよ。結果は私もわからないけど、合格するにしても落ちるにしても悔いが残らないようにね」

「「うん!」」

二人は元気良く頷くと明日に備えるのだった。


筆記試験当日。

二人は王立学園の校門をくぐり、敷地内に入った。

「やっぱり人が多いね。こんなに同年代が沢山いるの初めてだよ。あ、僕達の試験会場はあっちみたいだ」

リューがリーンに声をかける。

「本当ね。私もこんなに多いの初めて。みんな頭が良さそうに見えてきたわ……」

普段緊張しないリーンも緊張してきた様だ。

リューももちろん緊張していたが、学校の敷地内の施設を見ながらランドマーク領で真似できる物はないかと観察する事に気を取られてリーン程は緊張していなかった。

「はっ。田舎者だとすぐわかる奴がちらほらいるな!」

数人の取り巻きを引き連れて、いかにも上級貴族と思われる少年が、歩いてきた。

周囲はその存在に気づくと、道を空けていく。

「何あれ? 偉そうな子が来たわね」

リーンがリューに呟いた。

「あれは、エラインダー公爵様のところの長男だよ。今年の試験でトップ合格を目指しているらしい。他にも王家の三番目の王女殿下も受験するから、この二人の争いだろうな。関わらない方が無難だぜ」

リューとリーンの近くにたまたまいた、リューより身長が高い茶色の短髪に青い瞳の少年が教えてくれた。

「へー。そんなに優秀なんだ? 教えてくれてありがとう」

「あ、俺は、ボジーン男爵家の長男でランス十四歳だ。今年で三度目の受験だからわからない事があったら聞いてくれて良いぜ?」

「僕はリュー、ランドマーク男爵家の三男で十二歳。こちらが従者で一緒に試験を受けるリーンだよ」

「ランドマーク男爵? この辺りでは聞かない名だな。地方出身かい?」

「そんなところだよ。スゴエラ侯爵の元与力だから、知らなくて当然だよ」

「ああ、スゴエラ新侯爵か! 先の大戦で活躍して勇名を馳せて、王国南東部で最大勢力を誇るところだよな。それにしても君の家は凄そうだな」

「え?」

「正直な話、従者にも受験させるレベルの男爵家なんてそういないって。ましてや、誇り高きエルフが、男爵の三男の従者って聞いた事ないぜ? 俺なんか長男だから三年連続受験させてもらっているけど、いい加減、合格できないと家がヤバいんだよ。このままだと食後のデザートが無くなりそうだ」

「そうなんだね。うちも数年前まではヤバかったからその気持ち、わかるな……」

リューはこのランスという少年に同感した。

「そうなのか?」

「うん。おかずを一品増やす為に四歳の頃から森で獣を狩ったり、食べられそうな草を摘んだりしていたよ」

「なんだよその、俺以上の貧乏エピソード!」

ランスは、リューに親近感がわいた。

リューも同じで、二人は合格前から意気投合するのだった。

「どうでもいいけど、そろそろ試験会場に行かない?」

リーンが蚊帳の外になっていたので、盛り上がる二人に水を差した。

「そうだった! 試験に合格しないと全て水の泡だからね。じゃあ、行こう!」

リューはリーンに答えるとランスを含めて慌てて試験会場に向かうのであった。


王立学園初日の筆記試験が行われ、リューとリーンも日頃の勉強の成果を発揮して無事終える事が出来た。

「リーンどうだった? 僕はちゃんと解けたと思うんだけど……、何か不安で……」

夕方まで及んだ筆記試験終了後、待ち合わせていた場所にリーンを見つけると、開口一番、リューは手応えを聞いた。

「私も出来たと思う。でも、ちょっと不安よね……」

リーンも上手く行き過ぎて逆に不安な気持ちになり、リューと同じ気持ちだった様だ。

「答え合わせもしたいけど……、まだ、実技が明日残っているし、気持ちを切り替えて明日も頑張ろう!」

リューは自分に言い聞かせる様にリーンを励ました。

リーンもその言葉に頷くと、「そうね。明日もあるんだもの。全ては明日の実技が終わってからよね!」そういうと本当に切り替えられるのがリーンの凄いところだ。

リューは、自分で言っておいて、まだ、筆記の結果が気になっているのであった。


実技試験は、受験者の得意分野での魔法の実技、得意分野による武芸の実技、それ以外でのスキルによる実技があり、一つだけ受ける者もいれば、多才さをアピールする為に全て受ける者もいる。

それは、個々のスキル次第で、沢山受ければ良いというものでもなく、いかに得意分野の能力でアピールできるかが重要なようだ。リューは魔法と武芸、その他のスキル三つとも受ける予定で、リーンも同じく、三つとも受ける。まずは魔法の実技試験だ。

二人は会場に早速入ると、他の受験者の魔法を見学する事にした。

「……あれ? 威力より、魔力操作や、的へ当てる正確性が大切なのかな?」

と、リュー。

「……でも、的に当ててない受験者もいるわよ? 違うんじゃない?」

とリーン。

「だよね? ……あ、もしかしたら会場を壊さない範囲でする配慮が必要なのかもしれないよ?」

「そうか……! だからみんな、加減しているのね?」

二人が不思議に思うのも仕方がなかった。

受験者のほとんどが、二人にとって凄いと思える魔法を使用していなかったのだ。

リューに関しては不得意な魔法がほとんどなく、その中で突出した土魔法を使う事にしていたのだが、他の受験者と比べると、会場の地形を変えてしまう大規模魔法だったので、疑問に思ったのだった。

「一応、試験官に前もって聞いておいた方がいいかな?」

「そうね。リューの魔法は地形を変えちゃうからやり過ぎると減点されちゃうかもしれないわ。私も、加減しないと的を全て吹き飛ばしちゃうから使用する魔法変更しようかな?」

二人は真剣に悩んだ結果、申告の際に試験官に聞く事にした。

「じゃあ、次、受験番号1111番! 使用する魔法の申告後、攻撃魔法なら的に。回復魔法、補助系魔法なら、この試験用魔法人形に使用してください」

「あの……! 地形を変える土魔法を使用するのですが、会場が壊れる可能性があるので、加減した方がいいですか?」

「……ほほう。自信満々だな。この会場は特殊な結界魔法で覆われていて、安全性は確保されている。地形変化(土ボコ程度)も試験官がすぐ直すので気にしなくていい。思いっきりやらないと後々、後悔するぞ」

「ほっ……。そうなんですね! じゃあ、会場範囲に収まる程度で本気でいきます!」

「大ぼらもそこまで行くと清々し──」

試験官が何か言おうとした次の瞬間だった。

ゴゴゴゴゴ……。

地響きが会場全体に伝わり、誰もが地震だと思った。

そして、

ドゴ──ン!

大轟音と同時に、会場全体が隆起し剣山の様に大規模な無数の岩の槍が天を突いた。

その天に向かって伸びる大きい岩の槍の先には地面に設置してあったいくつもの的が全て突き刺さっている。

「……よし、全ての的にも刺さっているし、これなら──」

リューは、試験官の反応を見ようと振り返ると、試験官は腰を抜かしていた。

「……あれ?」

リューはどうやら自分が何かやってしまった事に気づくのだった。


会場は一時、騒然となった。

当初、学園に対するテロが起きたと勘違いした学園側が厳戒態勢で乗り出したくらいだ。

受験生はみな避難を呼びかけられ、リューも一番現場近くにいたので、警備兵がリューを助けようと歩み寄ってきた。

「あ、いや、違いますよ?」

リューもなんと説明していいかわからなかった為、警備兵に事件に巻き込まれ動揺していると思われてしまった。

「もう、大丈夫だ、安心して。さあ、君も避難するんだ!」

「こっちの試験官が腰を抜かしているぞ、誰か担架を持って来てくれ!」

「負傷者がいないか確認するぞ!」

こうして中断されたのだが、試験官が、受験生がやったことだ、とすぐ証言した事で、違う意味でまた騒然となった。最初誰も信じなかったが、リューが地形を元に戻す為に再度土魔法を使用した為、誰もが愕然とした。

その後、試験は再開されたのだが、次の受験番号1112番のリーンが、今度は風魔法で会場に大きな風の渦を作り、全ての的を切り刻みながら空に巻き上げる大規模魔法を使った為、また、試験会場が騒然となるのだった。


午後の途中からは一部、武芸の実技試験が行われる予定だったが、時間が大幅に押した為、王族や上級貴族のみ実技試験が行われあとは翌日に回される事になった。

その為、他の受験者は翌日行われる予定であった、その他のスキルの実技試験が別会場で行われる事になった。

リューは1111番なのでリーンと一緒に待機していたが、意外に早く順番が回ってきた。

他の受験者を見てみると、鑑定スキルや、植物の栽培スキル、鍛冶師スキル、裁縫スキルなど、実技というより、試験官の『鑑定』スキルによる熟練度の確認などが主なようだ。

「では、次、1111番!」

「はい! 『次元回廊』と、『マジック収納』を使用します」

「では、『鑑定』! ……何々、『ゴクドー』? スキルに、『器用貧乏』、……駄目だなこれは、お、『鑑定』か……。……って、今、君なんて言った?」

試験官は『鑑定』スキルでリューのスキルチェックに気を取られ、リューの申告した能力が頭に入ってこなかった。

「『次元回廊』と『マジック収納』です」

「な! ……君、落ち着きたまえ。『次元回廊』は、勇者職などでしか確認されていない幻の能力だぞ? その勇者でさえも必ずしも覚えるとは限らないもの。それを君は出来ると言うのかね!?

試験官は、念を押して聞くと、また、リューの人物『鑑定』を行う。

そこで、やはり、確認できるのは、『ゴクドー』? と『器用貧乏』、『鑑定』の三つだ。『器用貧乏』は論外として、『ゴクドー』? これが、凄いのか? 聞いた事が無い……。それに『器用貧乏』のマジック収納は、収納率が小さい。それをアピールしてくるレベルだ、『次元回廊』と言っているが、名前だけで別の能力かもしれない、この私は騙せないぞ!

試験官は、気を取り直すと、「それではやってみたまえ」と、冷ややかに応対した。

「はい! まずはマジック収納からやります」

リューは元気よく返事すると、先日、回収した築百五十年の三階建ての家を会場に出して見せた。

突如現れた建物に会場に居合わせた試験官や受験者達はどよめく。

「うわ!?

試験官は不意に目の前に巨大な建物が現れたので、度肝を抜かれ後ろに倒れた。

「続きまして──」

リューは、試験官のリアクションを確認せず、ネタを行う芸人の様に『次元回廊』を使おうとした。

「ま、ま、待ちたまえ! まず、この建物を収納しなさい!」

試験官は倒れたまま、慌ててリューを止めた。

「あ、すみません!」

そう言うとリューは、すぐさま、建物をマジック収納に仕舞った。

試験官は倒れ込んだまま、唖然としていたが、リューが次に行っていいのかチラチラとこちらを見ているのにやっと気が付いた。

試験官はすぐ立ち上がって倒れた椅子を元に戻して座る。

「で、では、『次元回廊』とやらをやってみたまえ」

試験官は威厳を取り戻そうと、厳しい声色で言う。

「では、うちの領地に戻って、誰か連れてきます」

リューはそう言うと、その場から一瞬で消えた。

試験官はギョッとして周囲を捜す。

「ど、ど、どこに行った!?

次の瞬間だった。

リューがメイドの恰好をした女性と、消えた空間から現れた。

「丁度僕の部屋を掃除していたメイドがいたので連れてきました」

メイドは周囲をキョロキョロしながら、「リュー坊ちゃんここは一体?」と、困惑していたが、試験官を見て、偉そうな人と判断したのかお辞儀をした。

「それでは、彼女は仕事中なので元に戻ってもらいますね」

と、リューは言うと、メイドの手を握り、また、パッとその場から消えた。

この光景に、試験官はただただ愕然とすると思考停止し、その場に固まった。

リューが次の瞬間戻って来て試験官に何度か声をかけると、試験官はやっと正気に戻るのだった。

次のリーンは、実技アピールをする事はなかった。

リーンの『精霊使い』『森の神官』『追跡者』はただでさえ珍しくその上、そのスキルの熟練度が異常に高いのだ。

前の受験者のインパクトが強すぎて普通に見えそうだったが、このエルフの受験者は歴代の受験者の中でもかなり優秀な部類に入る、と試験官は判断し、アピールの必要性が無いと判断したのだった。


試験後、リューはリーンが戻ってくるのを待って、手応えがあったか確認した。

「どうだったリーン?」

「よくわからないけど、試験官に絶賛されたわ。私のスキルが優秀だって」

「そうなの!? 僕は、何も言われなかったんだけど……」

「あ、それ、見ていたわよ。あの建物出したのが印象悪かったのかしら?」

「そうかもしれない……。すぐ収納しろって怒られたし……」

「でも、印象には残ったと思うわよ? あとは明日の、武芸の実技で頑張れば大丈夫よ!」

「……そうだね! 一番、頑張ってきた事だし、そこでアピールしよう!」

そう言うと、二人は、気合いを入れ直すのだった。


試験三日目。

前半は武芸の実技試験で、後半は面接の予定だ。

リューは、前日の失敗? を取り戻すべく、気合いが入っていた。

そんな中、実技を終えた受験者達の声が聞こえてきた。

「剣の実技の試験官、強すぎるよ! お陰で何もさせてもらえなかった。あれじゃ、剣で実技受ける奴、みんな落とされるぞ」

受験資格はそれこそ、十二歳からあるのだが、受験者の中には二十歳前後の者もいる。

その為、剣の実技には差が出るので、試験官はそれに対応する為一流の者である事が多い。

今回の試験官はそれに加えて、時間を気にしているのか、早め早めに終わらせようとしている節があった。

「……最悪だ。昨日の失敗を挽回しないといけないのに……」

リューは頭を抱えた。

「落ち着きなさいよ、リュー。相手が早く終わらせ様としているなら、先手、先手で攻撃して粘ればいいのよ!」

「攻撃こそ最大の防御だね!? 確かに、リーンの言う通りだよ! 攻めまくって時間を稼いで印象に残って見せるよ!」

リューはリーンに感謝すると、気合いを入れ直した。

「次、受験番号1111番。得手は?」

「剣です!」

「では、そちらの試験官の前に」

「はい!」

リューは元気よく返事をすると、問題の試験官の前に歩み出た。

試験官から、模擬戦用の刃の無い剣を投げて渡される。

「……年齢は?」

試験官は相手がまだ小さい少年なので、確認してきた。

「十二歳です」

「……来年また受け直せ」

剣の試験官がそう言うと、「では、実技試験始め!」と、号令がかかった。

その瞬間、リューは一気に踏み込むと、距離を詰めて試験官に剣を突き付けた。

剣の試験官はピクリとも動けず、目の前に寸前のところで止められた剣先に冷や汗をかきながら、「参った……」と、一言、答えるのだった。

えー!? 終わるのが早すぎるよ! ……あ! わざと負けて終わらせるパターンもあるのか!

リューは一瞬で実技試験が終わったので、自分の受験もこれで終わった事を悟った。

隣では、リーンが弓矢で、動く的を次々に射て歓声が上がっている。

あちらは絶好調の様だ。

それを横目に、リューはショックにうな垂れながら、次の受験者に代わるのだった。


「リュー、どうだったの?」

リーンがリューの元にやって来た。

「一瞬で終っちゃった……」

リューはがっくりしながら、リーンに答えた。

「……えっと。……そうよ! まだ、面接があるからそんなに暗い顔しないの! 最後まで諦めちゃ駄目。私も最後まで頑張るから一緒に合格しましょう!」

リーンに気を遣わせる程、凹んでいたリューであったが、確かに最後まで諦めたら駄目だ。

ランドマーク家の名を汚さない様に最後まで堂々としていよう!

そう、自分に言い聞かせるリューであった。


「受験番号1111番の君は、ランドマーク男爵? の三男……?」

面接官が、書類を見ながら、確認してきた。

「はい! そうです!」

「ははは。長男ならともかく、よく三男で受験させてもらえたね?」

完全に小馬鹿にした物言いだった。

集団面接方式なので、受験生が他に四人並んで座っていたが、他の受験生もそれに賛同する様にクスクスと笑っている。

「いくら、この王立学園が平等な校風で上も下も無いと言っても、万が一、万が一合格できても厳しいかもしれないなー」

この面接官はどうやら、リューにターゲットを絞って、いびりにかかってきた様だった。

日頃のストレス発散が目的か、それとも、面接に飽きたのか、ちゃんと面接をする気が無い様だった。

この、試験官……!

リューは微動だにせず、面接官の言う事を受け流しながら、内心、かなりお怒りモードに入っていた。

あとで、住所調べて家の庭に、築百五十年の家を置いてきてやる!

と、誓うリューであった。

「おい、そこの助手の君。ここの受験者達の簡単な試験結果がまだ届いてないよ?」

面接官はどうやら、試験結果を見ながらリューをいじめるつもりの様だ。

「すみません、こっちの書類に挟まっていました! どうぞ」

助手の男性が面接官に慌てて試験結果の書類を渡す。

「本当なら、教えては駄目なんだが、早めに不合格は知っておきたいだろう。来年の受験の為に悪いところだけ指摘してやるよ」

ニヤニヤしながら、面接官は書類に目を通す。

そして、固まる。

受験生達は面接官の様子に不審がった。

面接官は、はっと正気に戻ると、リューの成績の書類とは別の履歴書に目を通し直す。

すると、その後ろに一枚のメモが添えられていた。

「王家からの推薦状有り!?

面接官は思わず、口に出してそう言った。

リューは一瞬何の事やらと思ったのだが、そう言えば、本当なら兄ジーロが以前、王家の推薦で受験する予定だった事を思い出した。

どうやら、ジーロを推薦できなかった代わりに自分を推薦してくれたらしい。

受験生達も面接官の言葉にざわついた。

「……と、まあ、こういう嫌がらせをする面接官もいるから気をつける様に」

と、面接官は言い訳をすると、今度は丁寧に面接を始めるのだった。


リューの面接は無事? 終わった。

別の面接官に振り分けられたリーンも無事終えた様だ。

終わってみると、王家の推薦状があった事を確認できた最後の面接だけが手応えを唯一感じる事になった受験であった。

リーンは全体的に感触が良さそうなので、合格もありそうだが、自分は難しいかもしれない。

あるとすれば、王家の推薦状の威力次第だが、王家に気に入られて本命だった次男ジーロではないので、どこまで効果があるのか未知数だ。

……くっ、推薦状頑張れ!

完全に他力本願のリューであった。


受験が無事? 終わった事を、ランドマーク領の屋敷で父ファーザは直接本人から報告を受けた。

母セシルも一緒に聞いている。

「……そうか難しかったか、まあ、王立学園がそんなに甘くないという事だろう。仕方ないさ。どうだ? 来年も受けてみるか?」

「え?」

「リーンは手応えがあったのなら、来年、二人で合格という可能性もあるだろう。リーンだけ合格しても行くつもりはないだろうし、二人でまた、来年受けてもいいぞ。それとも、シーマ、ジーロと同じスゴエラの街の学校に行くか?」

父ファーザは、リューとリーンのこれまでの努力を知っているので、後悔はしてほしくなかった。

それに、リューはランドマーク家一の神童だと家族みんなが思っている。

その可能性を思う存分発揮させてやりたかった。

「……わかったよ。今年落ちていたら、来年また受けるよ! そして、今度こそ合格する!」

「そうよ、その意気よリュー!」

リーンもリューを励ますのだった。


「という事で、来年の受験の間までは王都とランドマーク領を行き来して、王都進出の為の作業に従事します」

リューはもう、不合格を前提に行動する事にした。

合格発表は一週間後なので遠方からの受験生はその間、王都に滞在する。

だが、一旦、御者と領兵と隊長のスーゴは『次元回廊』でランドマーク領に帰ってもらった。

馬車もリューのマジック収納で回収した。

なので、宿屋も引き払った。

そして、ランドマークビル(仮)を拠点にリュー達は、王都進出の為の作業を始めた。

毎日、『次元回廊』を使って、職人達はランドマーク領から、王都のビルに通っている。

「作業が終わったら、王都観光していいかいリュー坊ちゃん?」

「あ、俺も、観光したい!」

「俺は王都の木工通りで仕事道具見てみたいな」

「まずは観光だろ? 折角王都まで来て仕事道具の物色すんなよ!」

内装工事をしている職人達から、笑い声が漏れた。

「わかりました。内装工事が終わったら、一日、自由時間を設けますので、好きに観光していいですよ。終わったらここに集合すればいいですし」

「「「やったー!」」」

職人達は喜びに沸いた。

「家族に王都のオシャレなお土産買って帰るべ」

「だな。子供に王都のかわいい服をお土産に買っていくか」

「おいおい、お前のセンスで子供喜ぶんか?」

「ちげぇねぇ! それを忘れていたわ!」

「「「ははは!」」」

現場は笑いに包まれつつ、作業ははかどるのであった。


合格発表までの一週間は充実したものだった。

ランドマークビル(仮)の一、二階はランドマーク領の商品を扱う商人に対しての貸店舗の予定だったが、父ファーザが王都で会っていた知人から直営店を出してはどうかと提案されていた。

天井が高い一階の店舗は『乗用馬車一号』や、『リヤカー』、『手押し車』等の販売店にし、二階のいくつもの店舗スペースはランドマーク領で主食になっている麺類や、甘味を扱う飲食店、もちろん、『コーヒー』も飲める。

その『コーヒー』を卸す店舗や、『チョコ』の持ち帰りできる販売店舗も出店する。

父ファーザの知人は現在商人を細々とやっているらしく、王都進出するならわざわざこっちの商人と契約して、間の手数料を取られるより、直営店にして王都価格で販売すれば品質も、知名度も上級貴族の間では有名になっているので、失敗はしないだろうと言ってくれた。

そこで、一枚噛ませろと言わないので、商人としては二流なのかもしれないが、信用は出来そうだ。

リューは父ファーザに、こっちのランドマークビル(仮)の全体的な管理をその人に任せてはどうかと提案した。

父ファーザも同じ事を考えていたらしく、頷くと知人である商人に責任者になってくれる様に依頼した。

最初その知人は断っていたが、強くお願いすると祖父カミーザに恩があるからと渋々承諾してくれた。


合格発表前日の夕方。

ランドマークビル(仮)は内装工事が完成し、(仮)が取れて、晴れてランドマークビルと命名される事になったのだった。


ランドマーク領の城館、合格発表の前日の夜。

発表を前に、リューは違う事に喜んでいた。

それは、王都にランドマークビルを構えた事だが、「ついに、王都にランドマーク家組事務所が持てるって嬉しいよね!」と、リューはリーンに喜びを伝えた。

「クミジムショ? ああ、いつものゴクドー用語ってやつね?」

リーンは慣れたもので、リューのこの辺りの意味不明な言葉にも柔軟だった。

「そんな感じ。あとは、表に組の大看板をドーンと出して、ランドマーク家をアピールしたいね!」

「それはいいわね。何の建物かわからないから、看板は大事だわ。職人さんにお願いした方がいいかも」

「もう、予約している!」

リューはとびっきりの笑顔でリーンにグッドサインを送る。

「一応聞くけど、ファーザ君にはちゃんと話したの?」

「後で話そうかと……」

「……変なの作ったら怒られるわよ?」

「それは大丈夫だよ。純和風な行書体で組の雰囲気を前面に出してもらう様にしているから!」

リューは、完全に《あちら側》に寄せようとしていた。

それを聞いたリーンはリューが暴走していると判断、ファーザに知らせてくると告げると、リューの部屋を出ていった。


三十分後、職人が城館に呼ばれ、看板製作の一時中断が決定した。

そして、その五分後、リューは執務室でファーザから説教される事になったのだった。

「明日は、合格発表だから、もう寝なさい」

ひとしきり説教すると、もう、寝かせる事にした。

ファーザはリューのこの行動力には頭が下がる思いだったが、たまにゴクドースキルに影響されているのかよくわからない言動がある。

親としてまだまだ、子供の成長を見守る必要がある様だ。

もうすぐ、長男タウロも学校を卒業して家に戻ってくるし、楽しみは尽きないな、と思うファーザであった。


合格発表当日。

リューとリーンは早起きすると、朝一番でランドマークビルに『次元回廊』で移動。

合否の発表会場である王立学園にすぐに向かった。

合否が気になったというより、ランドマークビルでやる事が多いので早く確認してしまおうという考えだった。

リューはすでに、合格を諦めていた。

リーンが合格していたら、それはそれで来年に期待が持てる。

自分は今年の失敗を教訓に頑張ればいい。

会場に到着すると、そこには沢山の受験生がすでに押し寄せていた。

「朝早いのに、みんな凄いな……」

自分達が早く来すぎたかもという心配は無用だった様だ。

受験生達にとっては、将来がかかっている一大イベントであるのだから当然だった。

学校関係者が掲示板の前に立っている。

掲示板は布で覆われていて、発表はまだのようだ。

受験者達は息を飲んでその前で待機している。

ざわざわと受験者と同行者が話していると、校舎内から別の学校関係者が現れ、掲示板の前に立つ学校関係者に合図を送った。

すると、頷いた学校関係者が一斉に掲示板を覆っていた布を外し始めた。

ざわついていた一同は息を飲んで静かになり、布が外された瞬間だった。

掲示板の最前列で待っていた受験生が、「あったー!」と、歓喜したのを皮切りに、方々で歓喜の声が上がった。

それとは対照的に、まだ、見つけられない受験生は何度も何度も掲示板を見ている。

リューとリーンも前の方に移動して、掲示板を見た。

リューは1111番、リーンは1112番だ。

ドクンドクン。

いざ掲示板を前にすると不合格を覚悟しているリューの心臓も拍動を速めた。

1100番、1107番、1118番……

「僕だけでなく、リーンも!?

リューは、自分はともかくリーンの番号が無い事に驚いた。

リーンは思ったより冷静で、「二人とも不合格みたいね。来年また頑張りましょう」と、リューに気を遣う様に声をかけてきた。

「……いや、ちょっと待ってリーン。これ、ジーロお兄ちゃんのパターンもあるよ?」

「ジーロの?」

そう、次男ジーロがリューに教えてくれたのは、成績優秀者は、別の掲示板に表示されているというものだ。

自分はともかく、リーンは高評価を受けていたのは確かだ。

落ちている方がおかしい。

すぐにリーンの手を掴むと成績優秀者が張り出されていると思われる掲示板まで引っ張っていった。

そこに張り出されていたのは、

一位エリザベス・クレストリア王女殿下

二位イバル・エラインダー公爵子息

三位リュー・ランドマーク男爵子息

四位リーン リンド森の村、村長の娘

五位ライバ・トーリッター伯爵子息

……。

「「え?」」

リューとリーンは二人とも無いと思っていた自分の名前が上位にある事に驚き固まった。

そこに、受験会場で意気投合したランス・ボジーンがリューとリーンを見つけて話しかけてきた。

「リュー・ランドマーク、元気だったか? ははは! 上位合格者が気になったのか? 上は気にするなよ。パッと見、王女殿下とエラインダーは王族と上級貴族枠だ。出来レースだよ。だから、順位は三位からが、本当の一位みたいなもので……。え?」

三位にリュー・ランドマークの名があるのに気づいてランスも固まるのだった。

説明してくれたランス・ボジーンの言う通りなら、自分は実質一位らしい。

ゆっくりと振り向きリーンと視線が合った瞬間、二人はハイタッチすると喜んだ。

基準がわからず、合格さえ危ういと思っていたのだからこの結果はあまりに意外だった。

どうやら、怒られはしたが、別段間違った事はしていなかったみたいだ。

そして、ランドマーク家のタウロ、シーマ、ジーロと続いた連続一位記録に泥を塗らずに済んだ様であった。

それも、リーンもリューに続く順位だからランドマーク家が優秀な事を示せたと言っていいだろう。

そこで、教えてくれたランスにお礼を言うと、ランスもそこで正気に戻った。

「……あ、俺も合格か確認しないと!」

ランスはリューのお礼も聞き流し、自分の番号を探しに行った。

「あれ? リュー、今気づいたのだけど……。五位のライバ・トーリッターって王都に来る途中、馬車が故障した時の、トーリッター伯爵家の子息の事じゃない?」

「え? そう言えば……。やっぱり、あの子も受験生だったのか。五位って事は優秀なんだね。あ、今の自分が言うと嫌味になるか……」

リューがそう答えていると、リーンは自分達に向けられる悪意ある視線に気づいて振り返った。

リューも続いてそれに気づく。

そこには、まさに今、話題にしていたライバ・トーリッターが、リューとリーンを睨みつけていたのだった。

なまじ金髪ロングヘアーの青い瞳の美少年なので、睨みつけるその顔は鬼気迫るものがある。

あの時は、完全無視を決め込む淡泊な少年かと思っていたが、そうでもない様だ。

きっと一番になる自信があったのに、選りにも選って、ぽっと出のランドマーク男爵風情のそれも三男とその従者に負けたから屈辱だ! と、言うところだろうか?

リーンが、そのライバ・トーリッターを睨み返そうとしたので、リューは慌てて止めた。

「駄目だよ、リーン。相手は伯爵子息。それに、学校に入学する前から波風立てるのは良くないよ」

リーンをリューが宥めていると、ランス・ボジーンが、ジャンプしながら走って戻ってきた。

「リュー・ランドマーク! 俺も多分合格みたいだぜ!」

「多分? ってどういう事?」

「補欠合格というやつらしいぜ!」

え? それは欠員が出ないと駄目なやつでは……。

と、思ったリューであったが、本人が喜んでいるので黙っておいた。

複雑な気分で合格を分かち合う二人に、「私もいるんだからね?」と蚊帳の外のリーンが二人の間に入ると、三人は笑い合うのだった。


リューとリーンは、ひとしきり会場で合格の喜びを満喫するとランドマークビルに戻った。

そして、すぐに『次元回廊』で館に戻ってみんなに合格を報告した。

「二人ともよくやった!!!」

と、大音量で祝福する父ファーザ。

「二人とも頑張ったものね、おめでとう!」

と、涙を拭いながら祝ってくれる母セシル。

「やったね! リューお兄ちゃんとリーン、おめでとう!」

と、手放しで喜ぶハンナ。