舎弟が増えますが何か?
リューはワクワクしていた。
ランドマーク領内から出たのは魔境の森だけなので他所の街に出かけるのは初めてだった。
それも、王国南東部域ではスゴエラ侯爵領の街が最も大きいらしい。
今後のランドマークの街を発展させる為の参考になりそうだ。
リューは堪えていた。
一日中馬車に乗っているとお尻が、もの凄く痛い。
衝撃がもろにお尻に伝わってくる、衝撃を和らげるクッションの様な物が馬車に付いていないのだ。
この道から伝わる凸凹の衝撃に一日中襲われる現状に、リューは早くも心が折れそうになっていた。
これは馬車を早急に改造しなければならないとリューは思うのだった。
「お父さん、よく王都までの片道三週間も我慢できたね」
「いや、私も馬車は当分乗りたくなかったよ」
ファーザが本音を漏らし苦笑いした。
「わははは! ワシも馬車より馬に直接乗る方がまだ楽だな。ジーロもさぞ、うんざりしただろう?」
「あの子は我慢強いから愚痴は漏らしませんでしたが、当分は乗りたくないでしょうね……」
そういえばジーロお兄ちゃん帰還直後、げっそりしていたもんなぁ……。
リューはその時の事を思い出した。
確かにこの状態で三週間、それも後半は昼夜休まず乗っていたら、これはほとんど寝られないとジーロに同情した。
自分が王都の学校に行くまでには馬車を改造して、楽しく行けるようにしようと思うリューであった。
途中、村に一泊して昼過ぎにはスゴエラの街に到着した。
初めて見た高い城壁に囲まれた立派な街である。
ランドマークの街しか知らなかったリューには外から眺めるだけでも圧巻の光景だった。
「これは凄いですね、お父さん、おじいちゃん。ランドマークの街もこんな風に栄えると良いですね!」
目を輝かすリューに、「そうだな。栄えると良いが、道のりは遠そうだな。ははは」と、父ファーザは答えるのであった。
領主として、息子の願いに応えたい想いはあるが、それは少なくとも数十年はかかる事業になるだろう。
「わははは! ランドマークの街には田舎ならではの良さがある。こんなに栄える事だけが、良さではないぞリュー」
祖父カミーザならではの答えだった。
確かに、田舎ならではの良さがある、そしてそれは住んでいる人にとっての過ごしやすさで、それを守るのもランドマーク家の務めだろう。
発展と過ごしやすさの両立、今後の課題にしよう。
城門を馬車が通過した。
そこに広がるのは大きく沢山の建物と高い塔、そして想像をはるかに超える人の数、そこは人種のるつぼだった。
前世の記憶では映画で観た記憶がある「エルフ」とか「ドワーフ」とかがいる。
うん? 犬みたいな耳と尻尾を持つ人がいるけどあれは何だろう?
母セシルが勉強の時に言っていた獣人族だろうか?
よく見ると、耳や尻尾も違う種類がある。
あれは猫人族だろうか?
前世では猫好きだったから撫でたいけど、流石に怒られるよね?
リューの興味は尽きなかった。
馬車の引き戸窓に顔を張り付けたまま離れないでいた。
「リュー、そうしていると顔に跡が付くからそろそろやめておきなさい。あとは、着いてからじっくり見物するといい。今日は、到着を伝える使者を出すくらいだからな」
ファーザから注意されてやっと顔を離したリューだったが、もう手遅れで顔に窓枠の跡がしっかり残っていた。
街に来た時にいつも泊まる宿に到着した。
受付で空きの確認をしていると奥から宿屋の主人が現れた。
「これはこれはランドマーク男爵様! 実はスゴエラ侯爵様から使いが来まして、うちではなく違う宿屋に泊まる様、仰せつかっております。……ここだけの話、うちとは比べ物にならないくらい、とても良い宿屋です。侯爵様が宿泊費は負担してくれるそうですからタダですよ。良かったですね♪」
ここの主人とは、ファーザが騎士爵時代からの付き合いだ、とても親しい。
それだけに宿屋を移るのは申し訳なかったが、主人は気にしていなかった。
ファーザがお礼を言うと、「いえいえ、男爵様のご活躍は聞き及んでおります。うちを長い事ご利用いただけていた事は自慢でございますよ。あ、男爵様の名前を使って宣伝していいですか?」と、答えてきた。
親しい間柄の冗談だ。
「もちろん自由に使ってくれ。今回は指定された宿に行くが、次回はこちらを利用させてもらうよ」
ファーザ達は挨拶するとまた、馬車に乗り込み移動するのであった。
新しい宿はスゴエラ侯爵の領都であるこの街で一番の宿屋だった。
それこそ上級貴族やお金持ちが訪れた際に宿泊する様な
リューは少し、エランザ準男爵の屋敷を思い出したが、あそこと違うのは品の良さがあることだろう。
高そうな調度品も置いてあるが、ゴテゴテしておらず、前世で言うところのわびさび的な質素な美しさもある。
一介の貧乏男爵風情が泊まる宿ではないのだが、これがスゴエラ侯爵なりのお礼の一つなのだろう。
宿泊代が気になるところだが、ここは敢えて聞かないで黙って泊まろう、聞くと緊張でゆっくりできない自信がある。
「じゃあ、街を見てくるね」
「ああ、遠くに行き過ぎて迷子にならないようにな」
「はーい!」
リューは返事をすると走り出した。
夕方まで時間は少ない、色々と見て回りたかった。
「だ・か・ら! 働かないと食べられないから雇われるって言っているの!」
金髪に緑の瞳の十六歳くらいの一人の美少女が鍛冶屋の店先で鍛冶屋の主人であるドワーフに噛みついていた。
「だから、ワイが何でエルフを雇わんと、いかんのじゃ!?」
そう、ドワーフに噛みついていたのは耳が尖り、華奢で力仕事が不向きな者が多いエルフだった。
そして、ドワーフにとってエルフは相性が良くない。
それだけでもドワーフには雇いたくない理由だったが、鍛冶屋の仕事となると、このエルフに適性があるとは思えない。
「仕事募集の張り紙を出していたのはそっちでしょ!」
「お主、絶対、鍛冶屋適性ないじゃろ!? せめて体格が良ければ助手が務まるが、それも期待できない奴をなんで雇わないといかんのじゃ!」
「そんなの無いわよ! 私の適性は誇り高き『精霊使い』に『追跡者』、『森の神官』よ! 馬鹿にしないで!」
「やっぱりじゃないか! それで、その体格でなんでワイが雇うと思ったんじゃ!」
「知らないわよ! 私はお金がないから食べられない、だから、その為に働く。そこにあなたが人手を募集しているんだから私が雇われる、それがこの世界の仕組みでしょ!」
「無茶を言うなエルフ! こっちも使える奴を雇わないと損にしかならんじゃろが!」
「エルフを使えない奴呼ばわりとは失礼でしょ! 謝りなさいよ! 謝らないとこのお店を潰すわよ!」
うわー。
揉め事から一転、エルフがクレーマーになる瞬間を目撃したよ……。
現場に遭遇する事になったリューは、最初、ドワーフとエルフという珍しい組み合わせに感動すら覚えて見ていたが、ただの揉め事だった。
だが、今言ったスキルの持ち主ならうちが雇いたいぐらいだ。
お父さんに相談しないといけないが、個人的に異種族のエルフには興味がある。
自分の従者になってくれないだろうか?
「あのー……。そこのエルフさん。良かったら家で雇いましょうか?」
リューは口喧嘩の最中の二人に割って入っていった。
「「?」」
突然の子供の乱入にドワーフとエルフも思わず口喧嘩を止めたが、そこに雇うという言葉にさらに思考停止した。
が、すぐ、ドワーフは正気に戻ると、「ボウズ、止めとけ。今の聞いていただろ? 店を潰すと脅すような奴じゃぞ」と止めに入った。
「ちょっと、人を悪党みたいに言わないで!」
エルフの少女が再びドワーフに噛みつく。
「ほら、自覚がないのが一番危険なんじゃ。エルフという奴はこれだから」
「いえ、エルフさんのスキルは優秀そうなのでうちで欲しい人材です」
「?」
リューは自分がランドマーク男爵家の三男である事を自己紹介した。
「あの巷で評判のランドマーク家の坊ちゃんかい!」
鍛冶屋のドワーフが驚く。
「誰、それ?」
エルフの美少女は全く知らない様だ。
「最近この街の領主様であるスゴエラ侯爵の命を救ったランドマーク男爵家を知らんのか!?」
「仕方ないでしょ? 私、森から出てきたばかりなんだから!」
「ともかく貴族様なんだよ!」
「……じゃあ、私を雇ってくれるの?」
ぐー。
言うタイミングでお腹がなり、エルフは顔を真っ赤にした。
「とりあえず、食事にしましょう、奢ります」
リューはニッコリ笑うとエルフの手を取って食事に誘うのであった。