そしてカミーザの顔の横を何かが通過し、気づくとオークキングの口に土魔法『岩槍』が吸い込まれていった。

「ギャッ!」

リューの土魔法はオークキングの口から後頭部にかけて貫通していた。

カミーザはその瞬間を見逃さなかった。

短剣を腰の鞘から抜くとオークキングの首に突き立てる。

それを掴もうとするオークキングからカミーザは飛び退ると、入れ替わりにファーザも追い打ちで心臓に長剣を突き刺した。

「ウガー!」

断末魔の叫びと共にオークキングは倒れた。

その叫びにオーク達の手は止まり、「プギー!」という叫び声と共に、逃げ始めた。

オークキングの死は、ランドマーク側の勝利を意味するものだった。


オークキングの死後は掃討戦だった。

「逃げるのはいかんじゃろ」

ボロボロな祖父だったが、逃げるオークに火魔法を次々に叩き込む。

片手には魔力回復ポーションを持ち、それを飲みながらなのが何かシュールな光景だ。

オーク達は蜘蛛の子を散らした様に「プギー!」という悲鳴を上げながら逃げ回る。

容赦無いがこちらが負けていたらランドマーク領内でもっと悲惨な事になっていたはずだ。

「ランドマーク領に手を出そうとした報いじゃわい。リュー、魔力回復ポーションをもっとくれ」

リューは慌ててジーロと一緒に駆け寄るとマジック収納から魔力回復ポーションを出して渡す。

ジーロは治癒魔法を唱えて祖父の体力を回復した。

「うちの孫達は優秀じゃ。わははは!」

笑いながらも、火魔法でオーク達を掃討する姿はまさに赤髪鬼の異名通りだった。

そんな中、ファーザも抵抗するオークの首を続々と落とし、血しぶきが飛んでいた。

こちらも、鮮血の騎士の異名通りである。

この光景を見てリューは、自分は本当に凄い家族に囲まれていると、この時再認識したのだった。


終わってみれば、奇跡的な大勝利だった。

死者は一人も出ず、負傷者は沢山出たが、怪我したそばから治癒士とリューとジーロが治療して回っていたから致命傷になる事なく済んでいた。

そういう意味では支援に集中したジーロの領域回復は抜群の力を発揮している。

一度に複数の者の回復は、その分の手間と時間の短縮に貢献した。

大軍を相手にした領兵、冒険者の一団の生命線だったといえる。

そして、地味だったがリューの立ち回りも素晴らしかった。

貴重な魔力回復ポーションを手に動き回り、味方の魔力枯渇を防ぎながら時には緊急性の高い怪我にもすぐに中級ポーションを投げて回復するなど見事だった。

その中でもやはり、オークキングの隙を見つけて土魔法でのピンポイント攻撃は祖父のピンチを救った事のみならず、味方全体の勝利を招き入れたお手柄だった。

「リューがずっとこっちを意識していたのには気づいていたが、あのタイミングを狙っていたとはのう。わははは! おかげで命を拾うたわい!」

リューの頭をくしゃくしゃと撫でながら祖父カミーザは大笑した。

やはり、あの瞬間は、絶望的な状況だったのだ。

前世の極道時代の実体験で、勝利を確信した時が一番の隙を生む事を知っていたからこそできた事だった。

父ファーザも自分の息子の見事なタイミングでの介入には、驚いた。

あれを見極める事が出来るとは、自分が知らない間にどんな経験を積んでいたのだろうか? と、自分の子ながら感心した。

タウロといい、ジーロといい、息子達が立派に育っている事に嬉しい限りだった。

シーマもリューとジーロを守って剣を振るい頑張ってくれた。

「ランドマーク家は安泰だ」

ファーザは声に出して言った。

それを聞いた、カミーザも頷く。

「うむ、ランドマーク家は安泰じゃ。ほら、息子よ、領主として皆への報酬は奮発してやれよ」

笑いながら、自分は隠居の身だから後は任せた、というと帰っていく。

後始末もまだ残っていたので、事実上、祖父は厄介事から逃げたのである。


後始末でもリューは活躍した。

マジック収納持ちである。

領兵、冒険者達が一体一体運び、解体、魔石回収をこの疲れた状況でこの数をやるのかと、別の意味で絶望していたところに、リューがポンポンと手の平をオークの死体にかざしては回収していくのである。

手間が省けた冒険者達、領兵達には、リューが天使に見えた。


冒険者達は街に戻り緊急クエストの顛末を冒険者ギルドで報告すると、その内容に室内の職員、冒険者達は驚き震撼し、ランドマーク一家の活躍によって、この街が救われた事に安堵した。

その中、冒険者が倒したオークの処分の為にリューも付いてきていたのだが、その武勇譚を一人の冒険者が語って紹介すると、地元冒険者に担ぎ上げられ「ランドマーク領の未来は明るい! リュー坊ちゃん万歳!」と、ちょっとした祭りの様な騒ぎになるのであった。

「……今日は早く帰って寝たいんだけど……」

リューの本音はみんなにはしばらく届かないのであった。