年が明けてランドマーク家も新年を迎えた。

家族はみんなゆっくりしている。

なので、リューは妹のハンナと手を繋ぎ、ランドマークの街に遊びに来ていた。

シーマも同行している。

「リューお兄ちゃんと街に来るの初めてだよね」

「そうだね」

リューは笑顔でこのかわいい妹に答えた。

ハンナは母セシルに似て金髪に青い瞳をした美人さんだ。

まだ二つ下の五歳だがしっかりしていて、普段リューが仕事を手伝って忙しい時は、それを察してか遊ぼうと誘ってこない。

なので普段はタウロとジーロが相手をしている事が多かった。

前世では子供の頃、児童養護施設にいたので、妹の様な子はいたが、実際の妹は初めてだった。

なので、どう接していいかわからない部分もあったのだが、もしかしたらハンナは、それをどこかで感じていたのだろうか?

とにかく今日はそんなハンナの為に、一緒に遊ぶと決めて街に来ていた。

「リュー坊ちゃん、ハンナお嬢ちゃん、こんにちは」

この兄妹を見かけた街の人達が挨拶をしてきてくれる。

屋台の親父さんは、「ハンナお嬢ちゃん、これ食べるかい?」と、串焼きをくれた。

「ありがとう♪」

ハンナが笑顔でお礼を言うと、「しっかりお礼が言える良い子ですね」と、褒められた。兄としてはまんざらでもない。

木工屋に行くと新年間もないのに手押し車の荷台部分の製造が行われていて、熱気に溢れていた。

「凄いね!」

その雰囲気を感じたのかハンナは目を輝かしている。

意外にモノ作りに興味があるらしい。

なので端っこのスペースを借りて、ハンナの為に木のおもちゃを一緒に作ってあげた。

木馬である。

乗って前後に揺れる仕組みの単純なものだが、ハンナは喜んだ。

「お兄ちゃん凄いね!」

出来栄えに感心し、乗って遊ぶハンナ。

それを見て、和むリューとシーマ。

そして、現場のおじさん達も手を休めて和んでいた。

ひと時の癒しを職人達に提供したところで、木工所を後にした。

もちろん、木馬はマジック収納に入れてお持ち帰りだ。

散歩を続けていると、リューとシーマくらいの数人の子供達が駆け寄ってきた。

シーマが、念の為、間に入る。

「リュー様、子分にしてください!」

ビックリの申し込みだった。

それをシーマが追い返す。

「リュー様の、一番の子分は俺だぞ! あっちいけ」

いや、そうじゃないから。

内心シーマにツッコミを入れた。

「子分はいらないよ。でも、友達として妹のハンナも大事にしてくれるなら一緒に遊んでも良いよ」

リューが言うと、子供達は目を輝かせて喜ぶ。

「「「はい、お願いします、リューの兄貴!」」」

だから、そうじゃない!

この子達からはシーマと同じ匂いがする……!

そう思うリューだったが、ハンナが喜んでいるのでよしとしよう。

この後みんなでかくれんぼや、高鬼、影踏みを教えて遊び、盛り上がった。

「俺達、こんな遊びがあるなんて知らなかったです、リュー様凄いです!」

と、子供達がリューを褒めて喜んだ。

聞けば普段はかけっこや、騎士ごっこ、冒険者ごっこをしているらしい。

男の子らしい遊びだが、ハンナにはやらせられないなと思うリューだった。

そんな中、リューが褒められた事が嬉しかったのかハンナも喜んでいた。

ハンナの為にもこの子達には、女の子は大事に扱うものという事を教えなくてはならないと使命感に燃えた。

が、子供ウケはすこぶる悪かった。

「うちの姉ちゃん口が悪いから苦手だなぁ」とか「うちの母ちゃんすげぇ怖い」など、愚痴がこぼれだす。

なのでハンナの事は僕の妹だから何があっても守れ、それが男として騎士として当然の義務だ、と教えると騎士という言葉に男の子達は強く反応した。

「騎士! ──わかりました。リューの兄貴!」

それ自体はわかってくれたようだ。

でも、兄貴は本当に止めて!

リューは自分の呼び方だけは注意させる事にした。

自分がいない時は、この子達がハンナを大事にしてくれると信じよう。


帰り道。

嫌な噂を耳にした。

隣領のエランザは昨年も豊作だったらしい。

という事は、エランザ準男爵が不作を理由にお金を借りてきたのは、嘘だったようだ。

嘘をついて貧乏な隣領にお金を借りてくるとはたちが悪い。

時期が来たら容赦なく取り立てる事にしよう。

リューはハンナの手を引きながら、あのランドマーク家の天敵をよく調べてみる必要がありそうだと思うのだった。


リューは八歳になった。

長男タウロは今年十二歳、次男のジーロは十歳、末っ子ハンナは六歳である。

今年から長男のタウロは、スゴエラ辺境伯の街にある学校に通う事になる。

王国南東部では一番の学校だ。

騎士爵領からも近いし、後継ぎとして頑張ってきてほしい。

と言っても、タウロは文武両道で風魔法も優秀なので心配はいらないだろう。

次男のジーロも勉強は普通だが武芸と治癒魔法に秀でている。

頭はキレるのでこちらも心配なし、兄を支える最高の補佐になるだろう。

問題は自分だった。

騎士爵領の三男ともなるとさすがにこのまま居座るわけにはいかない。

成人したら家を出ないといけないだろう。

やはり、以前父が言っていた王都の学校に通い、箔をつけてどこかに就職するというのが一番無難なところだろうか?

となると、王都の学校に行く為にはお金がいる。

今のうちにランドマーク家の財政をもっと良くし、自分でもお金を貯めないといけないだろう。

これまでの特許は全て、名義は当主であるファーザにしている。

全てはランドマーク家の家族の為だ、自分には一銅貨も入ってきていない。

そこで、また、一つ思いついた事があった。

それは、ハンナと遊んでいて考えたのだが子供のおもちゃに「けん玉」はどうかと思ったのだ。

早速、商業ギルドに行き、特許申請して認められると、数日後にはいつも通り商人がきて、契約してくれた。

これは、じわじわと広がってくれればいい。

何でも、ヒットするとは限らない、色々試していこう。


タウロが学校に通う為、スゴエラ辺境伯の街の学校の寮に引っ越しする日が来た。

これからしばらくは会えなくなる。

珍しくハンナが泣いたがタウロは夏休みには帰ってくるからと励まして泣き止ませた。

ジーロには自分が留守の間、お父さんを助けるんだぞと叱咤激励し、リューにはこれまで通りみんなをサポートしてあげてと、お願いしてきた。

「タウロお兄ちゃんがいない間、僕頑張るよ」

とても無難な言葉だったが、タウロは頷くと行ってくるね、と馬車に乗り込んでいった。

「寂しくなるわね」

母のセシルが、つぶやく。

二年後にはジーロ、四年後には自分が続く事になる。

親としては子供が巣立つ嬉しさの反面、寂しさもあるのであった。


ひと月半後、タウロから何度目かの手紙が届いた。

学校では成績優秀で、中間試験では学問、武術、魔法共に学年で一番になったらしい。

これは稀な事でスキルで左右される部分も多いが、相当な努力の賜物と言えるだろう。

この報告にはファーザもセシルもとても喜んでいた。

リューもタウロは絶対良い成績を残すと思っていたのだが一番とは……。

なら、ジーロも良い線行くのではないだろうか? 二年後が楽しみだ。

これで、ランドマーク家の将来が安泰なのは確実だ。

タウロの通う学校は、辺境伯領以外のところからも沢山集まっている学校なので、身分を超えて友達も沢山できたらしい、南部のブナーン子爵の子息と良いライバル関係で友情が芽生えたと綴ってあった。

その報告を聞いて、タウロは確実に成長していると、リューは感じるのだった。

だからこそ、ちょっと後悔がある。

それは、もう少し自分が頑張っていればタウロを王都の学校に行かせられたのにという思いだ。

今の学校で一番なら王都の学校でも良い成績が取れるはずだ。

やはり先立つものはお金だった。

ゴメンよ、お兄ちゃん、僕が不甲斐無いばかりに……!


ジーロとリューはタウロの手紙に刺激を受けた。

それで二人ともより一層、自分のスキルを上げる事に励んだ。

その中で、ジーロは最近、治癒の中位魔法である領域回復を覚えた。

この歳で覚えるのはまさに天才と思われる速度なのでファーザとセシルもとても驚いていた。

ますます、ランドマーク家は安泰だ。

その陰で実はリューも、ゴクドーの能力の一部が解放され[経験値増大]を取得していた。

どのくらい増大するのかはわからないが、『器用貧乏』でほとんどのスキルが使えて、ゴクドーの[限界突破]で限界が無いリューにとってとても助かる能力のはずだ。

あとは努力を重ねていこう。


リューとジーロの武術の腕はめきめき上がっていった。

シーマも頑張っているのだが、この二人には及ばない。

「お二人とも最近凄いっす! 俺、ますます差がつけられて悔しいっす!」

「でも、リューの方が、腕上げている気がするよ。最近、危うい場面が増えたし。このままだと、どこかで追い抜かれそうだよ」

ジーロは弟の成長速度が嬉しそうだった。

「そうだな。リューは最近伸びてきている、だが、ジーロも急激に伸びているのは確かだぞ。シーマ、安心しろ、お前の成長も十分、びっくりするくらいだから」

ファーザが三人を褒めた。

その後ろで領兵隊長のスーゴが賛同する様に頷いている。

「旦那様、本当ですか! ジーロ様とリュー様が凄すぎて自分では全く分からないっす」

「ははは! 親の目から見てもジーロとリューの成長は目を見張るものがあるからな。シーマ、お前も来年は学校だ、その為にも今は勉強も頑張っておけよ」

ランドマーク家がお金を出す事でシーマも学校に行かせる事が決まっていた。

来年はタウロと同じ学校に入学する予定だ。

「でもいいんでしょうか、俺の様な平民が学校に行っても……」

「大丈夫だ。スゴエラ辺境伯の街の学校は、平民出身の者も沢山いる。タウロの手紙にも書いていたから安心しろ」

ファーザがシーマの不安を拭いとってやった。

「……ありがとうございます! いっぱい勉強してランドマーク家の為に頑張ります!」


リューは八歳になって魔法の訓練も本格的に行っていた。

魔法は母セシルが教えてくれている。

母セシルは凄い人で、魔法使い(風・雷・水)スキルに治癒士スキルを持つ稀な人なのだそうだ。

その上をいくとすれば、それは賢者などの上位特殊スキルになってくるだろう。

さらにセシルの凄いところは、平民出身だったのでそれらを独学で覚えた事だ。

学校に行く事なく、子供時代や、冒険者をやって腕を磨いたらしい。

そこで気になったのが父との馴れ初めだ。

聞くと母は普通に話してくれた。

父ファーザとの出会いは祖父カミーザがまだ、騎士爵ではない平民時代に冒険者をしていて、その時、魔物に襲われていたある冒険者を助けたのだが、それがセシルの父親だったらしい。

そして、親しくなり子供同士を引き合わせたのが最初の二人の出会いだったとか。

のちに、家族ぐるみの付き合いをするようになり、その子供時代は冒険者も一緒にやっていた。

そこで二人は急接近、そのまま結婚したそうだ。

二人の馴れ初めだけで物語ができそうだと思いながら母ののろけ話を聞くリューであった。


リューは今のところは土魔法が抜きん出ていた。

森の開拓を何度も魔力切れでぶっ倒れそうになりながらやっていた結果で、今では無茶な繰り返しのおかげで魔力量が増大し、広大な森の開拓が容易に可能になってきた。

おかげでコヒン畑も拡げられ、来年頃からは安定してコヒン豆を加工した商品「コーヒー」が出荷できそうだ。

話を戻すと、今は母セシルの指導の下、魔法の緻密な操作を学んでいる。

その実践としてひたすら母セシルの石像を作らされていた。

これが、色々と難しい。

鼻が大きくなったり、胴体が太くなったり、足が太くなったりとバランスが取れない。

もちろん、自分の魔力操作が問題なのであって、母の体形が問題なわけではない事は、名誉の為にも言っておく。

言っておかないと怒られそうだし……。

連日、不出来な像を作っては壊す、を繰り返していたが、やっと納得がいくものが作れた。

思わずガッツポーズが出る出来だったが母セシルからは、「胸の部分が小さいわね」という何故か本能的に圧を感じる指摘を受け、作り直させられた。

自分的には忠実に作ったつもりだったのだけど……。

それを言うと母の違う一面を見そうな気がしたので口にせず、心の中に留めるのだった。


緻密な魔力操作が出来るようになったリューはある事に着手した。

それは屋敷のトイレ事情の改善だ。

一応、外にトイレはあったが、粗末で衛生的とは言えない。

そこで土魔法で粘土の便器を作り、それを火魔法で絶妙な加減で焼いてみた。

何度も失敗したが、ついに一つ完成した。

それを新たに土魔法で作ったレンガ風の小屋に設置する。

さらに井戸から汲んだ水を溜めるタンクを上部に設置し、紐を引っ張ると流れる仕組みを作った。

ちなみに流した排泄物は、下に作ったスペースにいる捕獲したスライムが処理するシステムにしてある。

スライムは基本、綺麗好きな魔物なので、進んで消化してくれる。

これで少なくとも屋敷の衛生面は断然に良くなるはずだ。

残念ながら便器を大量生産するのは難しそうだ。

焼き加減が難しい。それは実際やってみて痛感した。

これを生産ラインに乗せるのは難しすぎる。これは商売にはできないだろうと思うリューだった。

早速家族に使い方を教えたら、好評だった。

特に女性陣には喜ばれた。安心して座ってできるからだ。

これまでは、取っ手を握って中腰姿勢を取らねばならず汚さと相まって大変だったのだ。水で流すから衛生的でもある。

スライムを使った処理システムには驚かれたが、ほぼ無害な魔物である、大丈夫だろうという事になった。


さらにリューは道の整備を始めた。

魔力回復ポーションを片手に土魔法で街道風道路をどんどん作っていく。

それで、ランドマーク家の屋敷からランドマークの街までの道を整備した。

これには、父ファーザも大喜びで、「うちの前から街道が続いているみたいだ! リューよくやってくれたな」と、褒めてくれた。

なので、その日から毎日、リューは領地内の主要な道路の整備を始める。

雨で水たまりが出来る道も、馬車が通る事で出来た轍も、リューの土魔法で平らになり、石畳が敷かれ一気に交通の便が良くなっていく。

もう、道の整備はリューの日課になっていった。

領民達はこのリューの姿に感謝し、拝む老人も現れる程だった。

わずか八歳の子が領民の為に、道を毎日少しずつ整備して回っているのだ、心を打たれる者が現れるのも当然だった。

「リュー坊ちゃんのあの姿。何と健気な事か!」

「毎日、私達の生活向上の為に、ああやって道を整備してくれるなんてね……」

「あれは、ランドマーク領の現人神あらひとがみじゃよ……!」

本人は、褒められた事が嬉しかった、喜ばれた、整備が楽しくなったなど色々あったが、ここまで反響があるとは思っていなかった。

その噂はこのところの景気の良さや、領主が善良な人だという話と共に領外にまで広がり、ランドマーク領という田舎に足を運ぶ人もぽつぽつと現れ始めた。

その者達は領地内に入ると、本当に片田舎の道が街道の様に整備されているので、噂が本当である事に驚き、街も小さいが景気がよく、活気に溢れているので移住を決断する者も増え始めた。


「隣領からの移住の申請が増えたな?」

ファーザが今月の移住者が二桁になったのでセバスチャンに確認した。

「はい、隣領も豊作続きのはずですが、ランドマーク領より税が高いようです。その為、こちらに移住したい者が増えたのかと」

セバスチャンの指摘は間違ってはいなかったが、それに加えてリューの噂、ファーザ本人の善政によるランドマーク家への好感度がアップしていた事は想像していなかった。

ファーザもセバスチャンも善政を敷く事は、施政者として当然の事と思っている善人なので、その辺の想像が出来ていなかった。


そんな中、数か月間、毎日、道路整備をしていたリューであったが、「道路の整備が結構できたから、便器も少しずつ作ってみんなに配ろうかな?」と、考え始めた。

便器作りは大変だから、設置するところは限られるだろうけど、無いよりは有った方が良いよね?

と、ランドマーク領のインフラ整備を一人でやろうとしているリューであった。


夏。

領地の南が慌ただしくなってきた。

ランドマーク領の南は魔境と呼ばれ、一帯が深い森で覆われた空白地帯で、治める者はいない。

その為、開拓次第では領地を拡げるのも可能だが、さすがに中央の許可無しに領地を勝手に拡げる事は出来ない。それに、魔物が多い為、そう容易な事ではなかった。

そんな危険地帯から、祖父カミーザが鎧姿で馬に跨り、石畳の道を駆け、屋敷に現れた。

普段は離れに祖母と住んでいてこちらに顔を出さないが、定期的に南の魔境を警戒して森で魔物を狩って過ごしており、今日はその途中で引き返してきた様だ。

「ファーザ、人手が足りん。冒険者ギルドにクエストを出せ」

「……相手は何ですか?」

「オークの群れだが、ちと数が多そうじゃ、八百はおるかもしれん。今回はワシ一人だけでは骨が折れそうだ」

オークとは太った直立歩行する人型の豚で、牙が生えており、性格は粗野で力が強い。

人を下等種と見下している魔物だ。

「わかりました。それと同時に、スーゴにも領兵の徴集を伝達します。セバスチャン冒険者ギルドに連絡を頼む!」

「はい、早速!」

屋敷が慌ただしくなった。

「リューは、おじいちゃんと一緒に南の境に行って、指示に従って土魔法で城壁を築いてくれ。ジーロ、お前は怪我人が出た時に備えて後方で待機。──スーゴ来たか! オークの群れがこっちに来ているらしい、領兵を集めてすぐ南に向かってくれ。私もすぐに向かう」

それぞれ返事をすると、持ち場に向かう事にした。

みな迅速だった。

スーゴは馬車を出し、領兵を拾いながら、南の領境に向かう。

リューは祖父カミーザの馬に同乗し、シーマはそれに走って付いていく。


セバスチャンがギルドに駆け込むと、冒険者ギルドでも緊急クエストが出され、緊張が走った。

普段、大物の魔物はカミーザとファーザが冒険者ギルドを頼らずに倒すので領主からのクエストが出される事は滅多にない。

なので緊急性は大という扱いだった。

田舎の冒険者ギルド・ランドマーク支部だが、武者修行で来る者も少なくない。

今も、Bランク(一流)冒険者が来ていた。

「もしや、赤髪鬼カミーザ殿や、鮮血の騎士ファーザ殿もおられるのか!?

「ランドマーク家からの緊急クエストですので共闘になります」

「よし、うちのチームが受ける! すぐに向かおう。地元の冒険者、道案内を頼む」

元冒険者でもあるカミーザとファーザは有名人のようだ。

「おい、その赤髪鬼とは凄い奴なのか?」

同じく他所から来たらしい冒険者が興味を惹かれた様だ。

「元Aランク帯冒険者だが戦場で活躍し、平民から騎士爵になった大人物だ! その息子ファーザ殿も一緒に活躍した事で有名だぞ!」

「元Aランク!? そいつは凄いぜ! 一緒に戦えたら、自慢できる! よし、俺も受けた!」

クエスト受注者は続々増えて田舎のギルドにもかかわらず、その数は二十人にもなった。

それも、Bランク(一流)帯、Cランク(強者)帯、Dランク(熟練)帯で、構成されていた。

「それでは向かうぞ!」

Bランク冒険者チームがリーダーを引き受けて指揮を執り、南の領境に向かうのであった。


祖父のカミーザと馬に跨って疾駆してきたリューは一足先に現地入りした。

シーマも息も絶え絶えだが付いてこられている。

「シーマは少し休んでおけ。リュー、あの背の高い木の辺りからあそこの岩の辺りまで低めの土壁を築いてくれ。わしは本戦に向けて魔力は温存しておきたいのでな」

「わかりました、おじいちゃん」

リューは頷くとすぐ作業に移る。

地響きと共に大地がせり出し、石の壁が続々と出来上がる、魔力回復ポーションをマジック収納から取り出すと飲み干して続けた。

「うん? リュー、そのポーションはどうした?」

「? 自作の魔力回復ポーションです」

「そんなものがあるなら先に言わんか、ほれ寄越せ」

魔力回復ポーションを受け取るとそれを片手に、カミーザが土魔法を使うと地鳴りと共に指定した以上の石壁を一気に作ってみせ、すぐ魔力回復ポーションを飲み干した。

「!!!」

リューとぐったりしていたシーマはその光景を目の当たりにしてただただ驚いた。

規模が違う。

「ポーションはまだあるか、リュー?」

「あ、はい」

マジック収納から数本出すとカミーザに渡した。

「味は不味いが良い出来だぞリュー。お前は薬剤師の才能もあるのう。わははは!」

緊張感がない祖父の豪快さに、緊張がほぐれたリューとシーマであった。


土魔法で築いた石壁の上に胡坐を組んで座り込む祖父カミーザ。

魔力回復ポーションを飲みながら見つめるのは、オークの群れが来るであろう、森の方向だ。

「……数に惑わされたが、指揮しているのはもしや……」

考え込む祖父カミーザの横でリューは座って様子を見ていた。

相手のオークは大軍らしい。

多勢の相手に芋を引いたらその時点で負けだ、あ、ビビったらその時点で負けだ。

勝つにはビビらず、まっしぐらにてっぺん(指揮官)のタマ(命)を取る、そこに勝機がありそうだ。

となると、先制攻撃……か。

そうリューが考えている事を察したのか、「……リューも、ワシと同じ考えっぽいのう?」と、祖父カミーザが言った。

「……はい」

「敵の出会い頭に一発どでかいのを喰らわせるか。……お、間に合ったか」

カミーザが森とは反対側に振り向く。

スーゴ達、領兵隊が乗る馬車とその傍らを馬で進むファーザとジーロ、その後から徒歩で続く冒険者の一団だ。

「数では圧倒的に負けとるが、要はココと質よ」

リューに対して、カミーザは頭を指さしてみせた。


偵察に出ていた冒険者が森から走って戻ってきた。

「来るぞー!」

「数は約千! 指揮官はオークキング! ハイオーク隊にオークジェネラルも確認!」

領兵や冒険者からどよめきが起きる。

「オークキングにオークジェネラルだと!?

これはAランク帯案件だ。

単体ならBランク帯クエストだがこの数とリーダー格が複数となると話は変わってくる。

「やはりおったかー。いやーすまん。ワシの見落としだわい。キングはワシが、ジェネラルはファーザが相手するから後はお主ら頼んだぞ」

元Aランクの冒険者、赤髪鬼カミーザの発言だ、全員頷いた。

引けばランドマークの領民が蹂躙される。どちらにせよ、逃げる選択は無い。

「ファーザ、合図を頼む。どでかいのを一発、リューと一緒に奴らに叩き込む」

ファーザは頷くと『索敵』スキルを駆使してタイミングを計る。

「正面、八十メートル先が奴らの中心辺り」

森の木々で視覚では確認できないが、ファーザの『索敵』スキルは正確だ。カミーザは頷くと、「リュー行くぞ!」の合図と共にカミーザは火魔法による大きい火球を、リューは土魔法による地中から伸びる岩の槍の範囲攻撃を放った。

地鳴りと轟音が森に鳴り響き爆発と共に森が広範囲に渡り抉れた。

冒険者達はこの威力に、「これが噂のAランク冒険者の威力か!」と、驚嘆する。

「あの子供は何なんだ!?

「赤髪鬼の孫!? 道理で……!」

と、驚いていたが、ファーザはすぐ様、「スーゴ確認!」と、名指しした。

呼ばれたスーゴは『鷹の目』で遠視し、吹き飛んだ現場を確認した。

「ハイオーク隊全滅。キング健在! ジェネラル負傷、オークも一割は削れたと思います!」

「よし、他の魔法使い、周囲に攻撃!」

ファーザの合図と共に領兵と冒険者の魔法使いが各々の最大火力で石壁の上から攻撃を開始する。

カミーザは、魔力回復ポーションを飲みながら石壁から飛び降りると他の戦士タイプの領兵、冒険者を率いて突撃を開始する。

ファーザも、魔法使い、遠距離タイプに細かい指示を出すと降りて参戦する。

リューはシーマとジーロと一緒に魔法使い達に魔力回復ポーションを配って回った。

戦いは始まったばかりだった。


祖父カミーザと父ファーザを先頭とした隊形でオークの群れへ切り込み、道を切り拓く。

カミーザとファーザの戦いぶりはまさに鬼だった。

紙の様にオークを切り裂きどんどん前に進む。

味方の援護もあって、あっという間にジェネラルに到達した。

ファーザが一歩前に出る。

「では、ワシはその奥のキングを頂くとしよう」

ジェネラルの脇をすり抜けようとするカミーザに、オークジェネラルは手にした戦斧で斬りつけようとした。

「私を前にしてよそ見をすると死ぬぞ?」

瞬時に接近したファーザが、オークジェネラルの戦斧を握る右腕をあっという間に斬り落とした。

「ナニ!?

「経験の浅さが出たな」

ファーザの言葉と共に、その手に握る剣が煌めくと、ジェネラルの首は宙を舞っていた。


石壁の上から見ていたリューは、祖父と父の強さに驚くしかなかった。

オークの群れが二人が進んでいくと半分に割れていくのだ。

その光景だけでも凄いのに、父があっという間にオークジェネラルを討ち取った。

オークジェネラルは祖父と自分の最初の魔法攻撃で負傷していたとはいえ、一瞬で倒すとは……。普段、稽古の相手をしてもらっていて、これ程の強さだったとわからなかった自分が恥ずかしかった。

そんなリュー達は他の冒険者達の支援の為、石壁から降り戦いの最中に飛び込むのだった。

カミーザはオークキングと対峙した。

「下等ナ人間如キガ調子ニ乗ルナヨ!」

オークキングが威嚇の形相をすると、手にしていた大剣を振るう。

カミーザがそれを長剣で受け流す。

数回打ち合うと、「こやつ、ただのキングではないな」と、カミーザは驚いた。

元の力の強さに加え、筋力強化、敏捷強化の魔法をかけているようだ。カミーザが押されていた。

「見テナイデ、オ前等モ攻撃シロ!」

カミーザの胴に大剣を横薙ぎに払いながら部下のオーク達に命令する。

後方に引いてオークキングの攻撃を寸前でかわすカミーザ。

そこにオークが殺到しようとするがファーザがそうはさせない、間に入ってオークの首を飛ばしていく。

オーク達はそのファーザの剣技にたじろいだ。

「やはりオーク。サシの勝負も関係なしか」

ファーザが怒気をはらんだ気配を発してつぶやいた。

「助かった、息子よ。ちとワシはこいつに集中する」

カミーザがファーザに礼を言うと、「筋力強化、俊敏強化」とつぶやき自分に魔法をかけた。

「本番はこれからじゃ、豚の王よ。オークエンペラーに進化する前に始末してやるわい」


リューの前世の経験上、見た目からは、形勢は五分五分だった。

未だ祖父とオークキングの勝負はつかず、オーク達も数で冒険者達に対している。

リューとジーロは数で劣る冒険者達の怪我をまめに回復し、シーマはその二人を守る。

このまま持久戦になるとこちら側が不利だとリューは感じていた。

力、体力、数、どれもオーク側が有利だ。

なので、カミーザとオークキングの戦いをずっと観察していた。

リューは前世の極道時代に敵対組織との抗争で共闘した殺し屋からのアドバイスや、それに伴う経験上、敵には必ずどこかで隙が生まれるはず、と読んでいた。自分の読み通りなら、その時は祖父と父に怒られてでも、躊躇せずに横やりを入れるつもりでいた。

リューにとって、前世では持てなかった大切な優しい家族である。その家族や領民に、仇なす相手には容赦するつもりはなかった。

家族カタギに手を出す外道は許さない! 落とし前をつけさせてやる!」

リューは、決意を口にするのであった。


「こやつ、戦いの中で成長し始めとるの」

一時互角だった対決だったが、徐々にカミーザが押され始めていた。

ここで自分が負ければオークエンペラーに成長させる事になるかもしれない。

それだけは死んでも許されない。

ファーザもそれを感じたのか、オークと対峙しながら、参戦する機会を窺っていた。

「サッキマデノ勢イハドウシタ?」

有利を悟ったのかオークキングが、挑発する。

「やれやれ、歳は取りたくないもんじゃ。昔ならとっとと勝負がついていたはずだろうに」

祖父カミーザがボヤいてみせた。

まだ余裕があるようにも聞こえたが、オークキングに明らかに押され始めていた。

攻撃を凌ぐのも紙一重になってきたのだ。

剣を交えるのも百合目を超えた頃。

バキン。

甲高い鉄が折れる音がした。

オークキングの大剣を受け流そうとしたカミーザの長剣が真っ二つになった音だった。

「しもうた!」

カミーザの悲痛の声。

「父さん!」

祖父の声にファーザが振り返る。

「終ワリダ! 死ネ!」

オークキングが叫び、大剣を振り上げた。

「岩槍!」

その瞬間、カミーザとファーザの背後でリューの声がした。