第12話 今はまだ
「協定を結ぼう」
都内にあるプールつきの屋内レジャー施設。
いくつかあるプールの一つである流れるプール。
プールサイドに腰かけて、水に入れた足先をぱちゃぱちゃさせながら、黒い水着姿のことりちゃんは言いました。
「どうしたんですか、いきなり」
「少しお話したいなって思って。庵が来るまでちょっとかかりそうでしょ? まったく庵ってば。女の子を二人も待たせるなんてさ~」
なんて言いつつも、ことりちゃんはどこか誇らしそう。
庵くんから来たLINEによると、更衣室で水着に着替えていたら近くにいた小学生がお財布を
それを一緒に探しているとのことで、私たちはプールサイドに腰かけて待つことになったわけですが、
「
「あはは、ホントホント。打ち上げに来てまで人助けしちゃうなんてさ」
そう、今日ここに来た理由は、打ち上げ。
文化祭2日目、見事私たち1-Aは模擬店ランキングで1位を獲得。
その日のうちにカラオケで打ち上げ兼祝勝会。
クラス全員入る大部屋ではなく、仲の良いメンバーで別れることになったのですが、なんと私は
(カラオケなんて生まれて初めてでしたが)
忘れられない思い出になりましたね。
歌うのは苦手ですが、ことりちゃんや
それにクラスのみんなが実行委員の仕事をねぎらうために、代わる代わる部屋を訪れてくれて、お話しすることもできて。
さすがに全員と友だちになることは無理でしたが、陰キャぼっちな私からしたら大進歩。
(お祭りが始まる前は緊張してたのに、終わったらなんだかさびしい)
あんなに胸が高鳴ることなんてしばらくは……いえ。
もちろん庵くんとことりちゃんが二人で行ったこのレジャーランドにお呼ばれしてしまったことにはどきどきしてます。
ことりちゃんいわく「私たち三人だけの打ち上げがしたい!」とのことでしたが、
「ところで、協定というのは?」
「──ごめん」
ことりちゃんは、ひどく申し訳なさそうに告げてから。
「私、
「ことりちゃん……」
「ダメだった。なんとかあいつへの気持ちを吹っ切ろうとしたけど、できなかった。本当にごめんなさい」
深々と頭を下げてきました。
きっと今までの
ここで一歩引いて、自分の恋をあきらめていたと思います。
──私なんかより、ことりちゃんの方が庵くんにふさわしいですよね。
ことりちゃんは私とは正反対の存在。
明るくて友だちが多い文武両道な陽キャガール。
天使みたいに
(けれど、今の私は昔と違う)
庵くんが私に自信をつけてくれたんです。
親友の努力を裏切りたくない。
一緒にすごした
「──私も、
勇気を出して告白しました。
これで私たちは、恋敵。
(ひょっとしたら)
これからは敵になるから、最後に遊んでおこうとことりちゃんは私を呼んだのかも……。
「ありがと~! 本音を言ってくれて!」
私のネガティブな考えを、
「同じ人を好きになっちゃったわけだけどさ。私、綺奈ちゃんと友だちでいたいんだ」
「えっ!?」
「
「そ、そんなの決まっています! ことりちゃんと仲良くしたいです! 私にとってすごく特別なお友だちですから!」
「私も同じ気持ち! 綺奈ちゃんはすっごく特別! 私が自分の恋をあきらめないって思えたのは、綺奈ちゃんが電話で勇気づけてくれたおかげでもあるから!」
ことりちゃんにそう言ってもらえるのは、すごくうれしいのですが、
「でも……いいんでしょうか?」
「何が?」
「恋愛も友情も両立するなんて、普通じゃないような……」
「あはは、たしかに。でもさ、私──もう、いい子でいるのは卒業したんだ」
ことりちゃんの大きな瞳。
そこに映るのは、ゆるぎない決意。
「もっとエゴイスティックになっていい。庵がそう言ってくれた。だから私は自分が欲しいものを全部手に入れる。
天使と呼ばれた
でも、なぜか。
今のことりちゃんは、以前よりもさらに魅力的に見えました。
欲しいものをすべて手に入れると語った彼女は天使らしくない。
だけど──どこまでも、人間らしかった。
「というわけで、綺奈ちゃんとは協定を結びたいの。私と友だち関係継続ってことになったらさ。綺奈ちゃん、庵とのルームシェアを解消しようとか考えそうじゃない?」
「うっ」
「図星だったか~」
「だって私だけ毎日彼と一緒なのは、なんだか公平じゃないというか……」
「だいじょーぶ。むしろ妹として
「いいんですか?」
「もちろん! それに庵のエリート人たらしっぷりは知ってるからね~。綺奈ちゃんもあいつがいない生活には戻れないんじゃない?」
「そ、それは……」
……まさか
私たちが一つ屋根の下で暮らすのはことりちゃんにとって頭の痛い話なのでは?
「その代わり、私も庵との恋人ごっこを続けたいんだ」
「………っ! なるほど。協定とはそういうことですか」
「そう。庵と同居するのは綺奈ちゃんにとってかなりのアドバンテージ。だからこそ私だけのアドバンテージが欲しいの」
「言いたいことはわかります」
恋人ごっこをしていれば、堂々と庵くんにアピールできますからね。
前までは過度な接触は控えていたようですが、
(この前のキスみたいに、大胆な接触をする可能性も十分あります)
ことりちゃんは庵くんの義妹ですごく仲良し。
おまけにとんでもなく
偽恋人の存在は私にとって脅威以外の何物でもありませんが……。
「その協定、乗りましょう」
「おおっ。判断速いね」
「正直ことりちゃんが恋人役を務めてくれるのはとても助かります。庵くんはエリート人たらしであるのと同時に、天然女たらしマシーンでもありますからね」
「わかる! それすっごいわかるよ~!」
「あれは絶対野放しにしちゃいけないタイプです」
「誠に同感であります! 任せてライバル? 私がこれ以上恋敵が増えないための防波堤になる!」
「恋人役、お願いしますね」
私は同居という特大のアドバンテージをもらってるんです。
だとしたら、恋人として振る舞ってもらうくらいじゃないと不公平な気がしますし。
「はあ~……よかったぁ。協定を断られたらその時点で私の負け確だったもん」
「? どうして……ふひゃ!?」
突然ことりちゃんが人差し指で私のお
友人は
「こんなにスタイルよくて
「いえ、そんな……」
「そのビキニもすっごい似合ってるもん。気づいてた? さっきから何組もの男子グループが私たちを遠巻きに見てる! 絶対ナンパ狙い~!」
「それはことりちゃんが可愛いからですっ。その大人っぽい水着はずるいです」
「ずるいって何さ!?」
「前にランジェリーショップに行ったときも思いましたが、
「正々堂々おこづかいで買った一張羅なのに!」
「普段とのギャップが出て可愛いすぎるって意味ですよ! というか下着を見たときも思いましたがことりちゃんって、えっちですよね!」
「なっ」
「前にもティーンズラブ漫画が大好きって言ってましたし、実はかなりのむっつりさんなのでは?」
「だ、大好きとは言ってないよ!? よく読んでるって言っただけ! それにえっちなのはあなたも一緒でしょサバトラくん!」
「ぐっ」
「おセンシティブなイラストをSNSに何十枚もアップしてるじゃん。あれってもしかして庵に気に入ってもらうために──」
「断じて違いますっ! あれは私の趣味です!」
「趣味か。なんだ。やっぱりえっちなんじゃん」
「~~~っ!? ……教室であんな大胆なキスをしたお口でよく言いますね」
「あ、あれは
「だったら私だってお家で庵くんにたくさん甘えちゃいますっ」
「上等ぉ! 来るなら来い! 偽恋人パワーを見せてやる! 学校にいるときやデート中に庵のこといーっぱい甘やかしちゃうもんね~!」
互いに息を切らしながらつい赤面するような言葉を交わした後で、
まるで示し合わせたみたいに、
「「ふふっ」」
私たちは笑い合いました。
「あーあ。なんか不思議。この前まで恋愛なんてしてる暇はないって思ってたのにさ。こんな話ができる女友だちができるなんて」
「私も不思議ですよ。学年で一番
「やっぱり、
「ありがとうございます。私も心の底から同じ気持ちです」
「お互いがんばろうね?」
「ええ。オープンオタクくんを攻略しましょう」
もちろん未来はわからない。
私たちのどちらかが
もし自分が選ばれなかったらと思うと、すごく怖い。
この先ことりちゃんとケンカしてしまうことだってあるかもしれません。
それはことりちゃんだってわかってるはず。
(けど、今は──)
この恋愛感情を

改めて、ことりちゃんと引き合わせてくれた
「あ、そういえば。そろそろ教えてくれませんか?」
「何を?」
「庵くんを好きになったきっかけですよ」
今までずっと異性として意識してなかったのに、今年の5月に恋に落ちるなんて。
しかもことりちゃんいわく、庵くんはワイルドで
「あれ!? ことり!?」
聞き覚えのある声が響いて体が硬直しました。
手を振りながら歩いてきたのは、以前庵くんをいじめてた相手。
たしか名前は、
(そういえば、電話したときもプールに行く計画を立てていると言っていたような……)
まさかここで鉢合わせするとは。
私を
「わかる!?
「わっ! 久しぶりだね~!」
「おう! 最初はわかんなかったよ。おまえ、すっげえ
ほめてるつもりでしょうが。
あからさまにことりちゃんのお胸に目をやった後にその
「可愛くなりすぎてて驚いた。そんなに可愛いなら、彼氏とかいんだろ?」
「あはは、残念ながらいないや」
「えっ、マジで!?」
私も少し驚きました。
(いっそ『恋人はいる』と
そうすれば山岸を追っ払えたのに……とことりちゃんを見つめると、彼女の笑顔は少し
まるでヒナを外敵から守る親鳥みたいに。
(ひょっとして、緊張してる?)
相手は庵くんをいじめてた不良。
ことりちゃんの性格的に庵くんと会わせたくないと考えるはず。
庵くんを守りたいと思うあまり緊張して、恋人がいるって嘘を言えなかったんじゃ。
「ならオレらと遊ばね!? 男友だち何人かと来ててさ! 今から合流しようぜ!」
「でも、私は……」
「せっかくプールに来てるんだからさ。女だけで遊んでてもつまんねえだろ?」
あまりにも無神経すぎる発言が頭に来ました。
ただ、私が勇気を振り絞って抗議をしようとする前に、
「ほら、行こうぜ!」
「やあ」
にこやかな声。
やってきたのは膝上丈の水着と右腕に防水用のカバーを付けた
「い、庵!?」
兄の登場に焦った様子でことりちゃんから手を放す山岸。
しかし、その視線が庵くんの右腕を捕らえると、
「ギプスしてっけど、腕やっちまったのか?」
「この前ちょっとね」
「──へえ。そりゃあついてねえなぁ」
あきらかに山岸の態度が大きくなりました。
ひょっとしたら彼をいじめていたころを思い出したのかも。
──昔は弱っちかったし、強気に出りゃビビる。電話で恥をかかされた借りを返せる!
(だとしたら、マズい)
以前聞いた会話では、山岸は柔道をやっていて、大会でも好成績を残した実力者。
「今オレ、ことりと話してんだけど?」
「そうみたいだね」
「つーか、そこのギャルは彼女じゃなかったのか? 彼女とのデートに妹同伴ってどうなんだ?」
「俺が誰とプールに来ようとそっちには関係ないんじゃないかな?」
「………っ! 調子乗んなよ? 昔はオレにさぁ」
頭上がんなかっただろうがっ! と叫ぶのと同時に、山岸の右腕が庵くんの肩に伸びていました。
おそらく突き飛ばそうとしたんでしょうが、
「っ!?」
山岸の表情が
最小限の動作で、庵くんは体を横に
その後でカウンター。
しかも、ひびの入った右腕で。
「うおわあっ!?」
まさか怪我した方の腕で殴りかかってくるとは思ってなかったんでしょう。
けれど、
右フックを空振りした勢いそのままにくるりと体を
その回転力を利用して、左脚による後ろ蹴り。
あきらかに手加減が加えられた蹴りでしたが、後ずさったせいでプールの
「!」
ひょっとして、最初の空振りはわざと?
あえて山岸をあそこに立たせるために誘導した? と推測した瞬間、派手な水音。
蹴りを
「ぶはぁ!? て、てめえ!」
表情を憤怒に染めた山岸がプールサイドに上ろうとしましたが、
「──オイ、ナンパかませ犬」
今まで聞いたことのない声色。
水に落ちた山岸を見下ろす庵くんは笑っていました。
けれど、あきらかにいつもの笑顔じゃありません。
学校での人懐っこい表情とはまるで逆。
他者の戦意を喪失させるほどに冷たい笑顔を作りながら、
「二度とその汚い手で、ことりに──俺の妹に触るな」
「ひっ!?」
「返事は?」
「すっ、すみま……いえ……も、申し訳ありませんでしたっ」
「うん。ありがとう。あっ、ことりたちはジュースでも買いに行ってて?」
俺は事情を説明するから、といつもの笑顔で言う庵くん。
彼の視線の先にはこちらに走ってくる女性スタッフの姿が。
きっとケンカだと思って駆け付けたんでしょうが、
「行こ」
「えっ、でもっ」
「だいじょーぶ。庵ならうまいことごまかしてくれる」
私の手を引いて去ろうとすることりちゃん。
しかし、何かを思いついたように足を止めて、
「悪いね、山岸くん。私、恋人はいないけど──好きな人はいるんだ」
実ににこやな笑顔で言い放ってから、軽食エリアへ。
そして、ジュースの自販機前まで来たところで、
「何ですか今のは!?」
私は疑問をぶつけていました。
「あー、初めて見た?
「は、はい。まるで格闘技みたいな動きをしてて……」
「みたいじゃなくて格闘技。
もちろん憶えています。
たしか「その人を見てると自分も元気をもらえて、つい力になってあげたくなる」とも言ってましたけど……。
「庵って小5から中3まで道場に通ってたんだよ」
「道場って……空手とか?」
「そう。その道場、空手だけじゃなくて実戦的な護身術も教えててさ。庵って努力家でしょ? だから空手だけじゃなくて街中で襲われたときに相手を制圧する方法とかもがんばって練習してたの」
そういえば。
前に私がソファに押し倒されたときも、やけに鮮やかに重心を崩されて、文字通り制圧されてしまった気が。
「でも! 前に
「それには理由があって。聞いたことない?
あれって実は庵のお手柄なんだ、と。
アップルジュースを電子マネーでお買い上げしながら、ことりちゃんはスマイル。
「今年の5月に、私と庵と充哉くんの三人で歩いてたとき。駅でおばあさんが引ったくりにあったんだけど、最初に犯行に気づいたのは私だったの」
「ことりちゃんが?」
ことりちゃんが
走って犯人に追いついたけど、突き飛ばされて倒された。
それでもなんとか逃がさないように足首にしがみついたら、殴られそうになって……。
「そこで追いかけてきた庵が犯人の顔に飛び蹴りかましてた。そのままマウントポジションで乗っかって、戦意喪失するまでボッコボコに」
「えっと、さっきみたいな顔で?」
「うん。その後やってきた駅員さんに犯人を引き渡したんだ。相手は引ったくりの現行犯ってことで
「その気持ちはわかります」
「『おまえみたいな人畜無害さわやかマンがいきなり人間モグラ
「その気持ちもわかります!」
「でもさ! 庵は何も悪いことしてないよ!? 駅員さんや被害に遭ったおばあさんにすごく感謝されたし! 殴られそうになった私だって助けてくれた!」
目を輝かせながら兄のお手柄を語ることりちゃん。
「『二度といじめられないように体を鍛えたい、誰かが自分みたいにいじめられたときは守ってあげたい』って理由で空手を習い始めたから、その努力が報われてホントによかった! 庵はがんばったの! すっごくえらいよね!?」
ああ。
スタバで言っていた『ワイルドで
いつも優しい兄の意外な一面。
その姿に、ハートを打ち抜かれてしまったんでしょう。
ただ、普段は見せない姿にきゅん死してしまう気持ちは、ものすごく共感できます。
(庵くんのことですから、体を鍛えたのは柔道をやってた
もしさっきみたいにことりちゃんがからまれたときに、守るために。
「お待たせ」
小走りでやってきた庵くんは、すっかりいつもの
「大丈夫でしたか?」
「『ふざけて遊んでただけなんです』ってごまかせたよ。山岸も同意してくれた。二度とことりには手を出さないって誓ってくれたし」
「間違いなく庵くんに恐れをなしたんだと思います」
「すごかったよさっきの~! 庵のことだからちょうどプールに人がいなかったことも確認して落としたんでしょ!?」
興奮気味に語ってから、ことりちゃんが庵くんの左腕に……んんんっ!?
「さっきの庵、かっこよーって感じだったよ?」
照れくさそうにはにかみながら、ぎゅっと。
黒いビキニに包まれたお胸を押し付けるように抱きついて……。
「この前フラれちゃったけどさ、庵のこと……やっぱり好き。好き。好き。大好き」
この前フラれた!?
初耳なんですが!
「えへへ、助けてくれてありがと~。改めて思ったよ。双子じゃないってわかったときはすごくショックだったけど、結果的によかったなって。義理の妹なら、お兄ちゃんの恋人になれるもん」
ことりちゃんが見たことない顔してますー!?
なんていうか、
(い、いえ、落ちつけ私)
水着で抱き着くなんて恥ずかしくて私には絶対できないアピールですが、きっと
「そうだ。プールで遊んだら、久しぶりに
「ことりちゃんっ!」
恋敵の猛アプローチに、さすがに黙っていられませんでした。
「さすがに『なんでも』は……!」
「ふふ。誤解しないで? 家でお料理ご
「……本当に?」
「ホントホント! なんなら
庵くんの腕を離してから、いつも通りのエンジェルスマイルを浮かべることりちゃんですが、油断はできません。
以前だったら考えられないくらい、素直に庵くんと触れ合っています。
恋愛なんかしてる暇はないってずっと抑え込んでた感情が絶賛燃焼中なのかデレデレ甘々なスキンシップ。
でも、今まで見たことがない甘えっぷりが、すごく
(まあ、庵くんなら大丈夫でしょうが)
たとえ義妹だとわかった後とはいえ、いつもの余裕を崩すことはないはずです。
「ま、まあ、ことりの料理は楽しみだし、久しぶりに泊まるのもいいかもね……」
なんですかそのぎこちない作り笑顔は!?
これじゃ甘々スキンシップがしっかり効いているみたいな……!
「ねえ、IORI?」
ぷくっと膨れ上がったヤキモチを隠すみたいに。
ついサバトラモードで、
「ことりちゃんに聞いたよ? 格闘技習ってたんだね?」
「あー、まあ、うん」
「引ったくりを倒したこともあるんでしょ?」
「……そこまで聞いちゃったか」
「なんでぼくに教えてくれなかったの?」
親友なんだから話してくれてもよかったじゃん、と上目づかいで見つめる。
庵くんはなぜか気マズそうにそっぽを向いてから、IORI口調で、
「言ってたじゃないですか」
「は?」
「サバトラさん、暴力を振るう人が嫌いなんですよね? 現実でそういうことする人は軽蔑するって前にDMでも言ってました」
「………」
「
「もしかして、ぼくに嫌われたくなくて秘密にしてたの?」
「う……」
そういうことです……と観念する親友に、私はすぐさま弁解開始。
「嫌いになるわけないじゃん!」
「ホントですか?」
「もちろんだよ! ぼくが嫌いなのは理由もなく弱い者いじめをする人! IORIみたいに人助けのために力を使うのはすごくいいことだと思う!」
さっきはあまりの
あれは怒りで我を忘れたんじゃなく、引ったくり犯を倒したときと同じく、ことりちゃんを守るために相手を制圧しようと精一杯がんばった結果でしょうし。
「──そっか。よかった」
ただ、素の口調に戻った庵くんが浮かべた笑顔は、暴力よりも破壊的でした。
私に嫌われてないと知って心の底から
いつもの作り笑顔じゃない、本物の笑顔。
(ああ、やっぱり)
私はワイルドよりもキュート派ですね。
ふとした瞬間に見せてくれる親友の気の抜けた表情。
そういうのが、最高に
残念なことに。
ことりちゃんみたいに彼に気持ちを伝える勇気はまだありませんが……。
「──絶対、負けません」
「? どういう意味?」
「秘密です。今はまだ」
照れくささを
驚きながらも
やるなぁライバル! といった感じで微笑むことりちゃん。
さっきはお祭りロスになっていたのに、好きな人と触れ合っていることで──。
「えへへ」
胸の鼓動が文化祭以上のお祭り騒ぎを始めるのを、私はただ感じていました。