第2話 放課後は友だちとカフェで
「あの、ことりちゃん。実は相談したいことがあるのですが」
月曜日の放課後。
私は制服姿のことりちゃんに話しかけていました。
いま私たちがいるのは
文化祭実行委員のお仕事の一環として、メイドの衣装を見るためにレンタルショップに行ったのですが、
「メイド服のこと?」
「一つはそれです」
「
「お店のインスタで見たときはよさげだったのですが、実物はクオリティがイマイチでした。あれならいっそ安めの物を買った方が」
「もっといい方法思いついた! 先輩に借りちゃおう!」
「えっ、学校のですか?」
「うちの女子テニも去年メイド喫茶をやったんだって。そのとき衣装を買ったらしいからみんなまだ持ってるはず」
「なるほど。それをお借りできれば……」
「費用はタダ! 後輩のためなら貸してくれると思うし、予算はホスト衣装に回せる」
「すごいです。できれば、ことりちゃんから先輩さんたちに話をつけてもらって──」
「今LINE送っといた!」
「行動力エグすぎませんか?」
陰キャとしては見習いたいアクティブモンスターっぷりです。
今日もテニス部が休養日ということで、実行委員のお仕事を手伝ってくれていますし。
なんとしても結果を出したい私にとってはありがたいかぎり。
ただ……。
「どうかした? お顔が固いよ?」
「実はスタバに来るの初めてで……私、浮いてないでしょうか? さっきから周りの人たちがチラチラこっちを見てる気が」
スタバ=リア充の巣窟というイメージがあります。
しかもここは我が国有数の陽キャスポット・原宿。
非リアお断り結界が張られている気さえして、私にとってはもはや魔窟。
早くお家に帰りたいと思っていると、ことりちゃんは母性たっぷりなやわらかな笑みで、
「注目されるのは
「それはことりちゃんが
ふわふわしたウェーブがかかった
さらに端整な小顔を彩るのは天使みたいなアルカイックスマイル。
私とは正反対の天然陽キャガール。
(今さらながらに、信じられません)
学年一可愛い陽キャ女子とお友だちになって、放課後にカフェでお茶してるなんて。
引き合わせてくれた
「ありがと~! それはそうとさ、他にも
「……そうですね。実は……」
「庵のこと好きになっちゃった?」
物の見事に言い当てられて、顔が一気に熱を帯びるのがわかりました。
「……バレるくらい顔に出てますか?」
「ううん。ただ、庵を好きになったって相談されるの初めてじゃないから。私と庵が付き合ってるってウワサを流すまでは5回くらいあったかな?」
「そんなに!?」
「あいつってモテるからね~」
「それはことりちゃんも一緒ですよ」
庵くんとことりちゃんは双子。
両親が離婚した名字が違う兄妹という少し重い事実を隠すために、周囲にはそのことを秘密にしています。
「う~ん、否定はしないかな。告白
「本当に仲が良いですよね」
「キスみたいなイチャラブはしてないよ?」
「でも、二人でたくさんお出かけしているでしょう?」
IORIとオタ友になったころから、妹と色んな場所に遊びに行くという話をDMで聞かされてましたっけ。
あのころは仲の良い姉妹だって勘違いしてたわけですが。
「先月も二人でプールに行ったとか」
「あれは証拠作りの一環だよ。私インスタやってるんだけど、あいつとのツーショを上げるのが一番の恋人アピールになるんだ」
こんな感じで、とことりちゃんが見せてきたスマホには
(なんですかこの映え映えカップルっ)
屋内レジャーランドのプールサイドで輝く水着姿の美男美女。
売れ線少女漫画の表紙よろしく青春感フルスロットル。
灰色の高校生活を送ってきた私にはまぶしすぎて溶けそう。
というかうらやましすぎる!
人ごみは死ぬほど苦手ですが私だって……!
「プールに行きたい? あっ、正確には庵と行きたいのかな? 二人きりで」
「う……ことりちゃん、いじわるです」
「ふふ、ごめんごめん。照れる
おわびにどうぞ、と差し出された
そして、胸にたまった気持ちを吐き出します。
「こんなに好きになっちゃうなんて思っていませんでした……」
「恋ってそういうものじゃないかな? 病気と一緒。どんなに予防してても、ある日突然誰かを好きになっちゃう。文字通り恋の病ってわけ」
「そのたとえはすごくよくわかります」
初恋未経験の私が恋をするなんてありえないと思ってましたしね。
(けど、あの笑顔を)
教室でも話すようになった日に見せてくれた、偽物じゃない心からの笑顔を見てしまった瞬間から。
(毎日、庵くんのことばかり考えています)
またあの笑顔を見たいって胸の奥がうずいて仕方ない。
お家で彼とすごす毎日が前よりもずっと幸せだけど、ふとした彼の仕草にどきどきしてしまう。
ここまで自覚症状が出たら、もはや彼への
昨日だって、甘えたり、甘えてもらったり、ひざ枕しながらついあんな恥ずかしい
(私のことを頼ってくれた。『綺奈』って呼んでくれた)
たったそれだけのことで。
昨夜はお布団の中で
「あっ! さっきあんなお店に行ったのも庵に見せてあげるため!?」
私たちが行ったのはランジェリーショップ。
別々の試着室に入ってから、二人だけのLINEトークで下着自撮りを送り合って、互いに似合う下着を選びましたっけ。
「あの下着は
「とっても似合ってたよ?」
「それは……ありがとうございます」
「
「ことりちゃんも人のことは言えませんっ」
さすがに画像保存はしませんでしたが、今でも目に焼き付いています。
すべすべした肌はどこまでも健康的で、ウエストもきゅっとくびれてましたね。
さらに胸元には深い渓谷。
こっそりサイズを聞いたらFで……ああ。
(描きたい)
絵描きとしての血が騒いだせいか、つい裸体を脳内保存してしまいました。

それほどまでに
絵画を描くのは無理ですが、
「あの下着なら
「いえ、あれを買ったのは仕方なくというか……最近夢を見て」
「夢?」
「
……って待て私!
庵くん以外の人との会話に慣れてないせいで、とんでもない爆弾を投下しちゃってませんか!?
「ほうほう。どんな夢を見たのかな?」
恋バナしようぜ~? とにやりんすることりちゃんですが、絶対に言えません。
庵くんに「大好きだよ、
私のお部屋で抱きしめられて、
ベッドに押し倒されて耳元で甘い
ついには色々なところを優しく触られる夢を見て、
そのせいで「同居してるんですしもしものときのために準備しなくちゃ!」とつい夜間戦闘用下着を買ってしまったなんて……!
それに、陰キャな私がこんな欲求丸出しドリームを見てるなんて、他人からしたら気持ち悪いでしょうし……。
「恥ずかしがることないよ? 別に普通のことじゃん」
「う……そうでしょうか?」
「前に言ったでしょ? 私にも好きな人がいるってさ」
「
「ワイルドで格好いい人。優しいだけじゃなくて、ちゃんと誰かを守るために努力してるの。その人を見てると元気をもらえて、つい力になってあげたくなる。お世話とかしたくなっちゃうんだ」
「なるほど」
「私もその人の夢とか割と見ちゃうよ? たとえば壁ドンされる夢とか」
なんて王道的な少女漫画シチュエーション!
「その後ベッドでえっちなことしちゃう夢とか」
「エッッッ!?」
「そこまで驚く?」
「なんというか、ことりちゃんは天使みたいに
「あはは。私も人間だしさ。それなりに欲求はあるよ?」
クラスメイトは優しい笑顔で続けます。
「好きな人に『好き』って言ってもらいたい。優しくされたい。色んな感情を分かち合いたい。たくさん触れ合って、愛し合いたい。それって別におかしいことじゃないでしょ?」
同い年とは思えないくらい母性たっぷりのおだやかな声。
「好きな人と親しくしたいのは女の子ならフツーのことだもん。だから夢くらいで悩まなくたって平気だよ!」
けれど、小さなお耳がちょっぴり赤くなっていました。
「本当に、ことりちゃんは優しいですね」
私が失言したのを察して、フォローするためにあえて恥ずかしい秘密を打ち明けてくれたんでしょう。
今日も実行委員じゃないのにお仕事を手伝ってくれました。
私をからかうような発言も多いけど、人見知りでよく言葉に詰まる私にとってはリードしてもらった方が会話が進みやすい。
(本人もそれを自覚して、私のために実践してくれてる)
まさにクラスのムードメーカー。
たくさん告白されるのも当然ですね。
「もしことりちゃんが妹じゃなかったら、
「ふふ。私も
「やっぱりですか?」
「あいつってとにかく気が利くし、お母さんの仕事手伝ってたせいか高校生とは思えないくらい物事への考え方が大人だからね」
「わかります。それに街川くんって他人をほめることにためらいがありませんよね」
「そうそう。思春期男子ってさ、割と恥ずかしがっちゃって女子に『
「街川くんは違います」
「うん。ただごめん。それ私のせい」
ことりちゃんは手を合わせながら大げさに頭を下げてきました。
「私って昔は割と甘えんぼだったんだ。怖い映画を
「………。ことりちゃん、まさか……」
「えっと、他にも『女の子には優しくしなきゃだめ! 髪形とか変えたら絶対ほめて!』ってしつこく言い聞かせてた。だから
「
「大変反省しております! 私があいつを育ててしまったんだよ~!」
「落ちこまないでください。街川くんが女の子をほめるのは優しいからでもあります。だからこそ女友だちが多いわけですし」
フォローしつつも、ことりちゃんが言っていた「最近庵とすっごく仲良くしてる人がいる」という言葉がフラッシュバック。
(一体、誰なんでしょう?)
庵くんは心当たりがないって言っていましたけど。
「そうだね。
「
「うん。てか香純の件、本当にごめんなさい。同じテニス部員として
「どんな?」
「恋愛がからむと暴走しちゃう! だから庵の彼女ってことになってる私が下手に刺激するのはマズいんだ」
「もしかして……朝比奈さんはまだ街川くんが好きなんですか? それで私を敵視してる?」
「当たり。ほら、綺奈ちゃんって庵に『世界で一番嫌い』って言っちゃったことあるでしょ? なのに今仲良くしてることがうらやましいんだと思う」
「だとしたら、根っからの悪人ってわけじゃないんでしょうね」
なんとか朝比奈さんを懐柔するプランを思いつきたいです。
でも、どうすれば?
朝比奈さんの嫉妬心を私への好意に変換できるわけがありません。
「綺奈ちゃんも庵の優しいとこが好きなの?」
「えっ、あっ、はい。ただ……学校の街川くんは周囲に気を配ろうと優しい自分を作ってるように思えて」
きっと、過去にいじめられたせい。
周囲の空気に合わせて生きるのが
「優しくなろうとがんばってる街川くんも好きですけど、自然体の街川くんも大好きです」
二人で食事をしたり、
ダイニングで対戦ゲームをしたり、
推しアニメを
何もせずにただソファで一緒にくつろいだり……。
私を信頼してくれているからこそお家で見せてくれる、
互いが親友だからこその心地いい距離感。
私だけにくれる、偽物じゃない本物の笑顔。
「気を抜いたときに見せてくれる素顔が、とっても
「──なるほど。すごいや、
「えっ」
「今まで
「そうなんですか」
「だけど綺奈ちゃんが好きなのは庵の内面。しかも可愛いとまで言っちゃった」
「う……妹として不服でしたか?」
「ううん! 綺奈ちゃんの言う通りあいつってけっこー可愛いとこもあるんだよね~! 絵がものすごく下手だったり、疲れがたまると猫動画ばっかり見ちゃうとかさ!」
よし、任せて!? と。
ことりちゃんは笑顔で手を
「相談してきたってことは、他の子たちと一緒で庵との距離を縮める手伝いをしてほしいんでしょ? これまではやんわり断ってきたけど、今の話を聞いたら安心できた。私が綺奈ちゃんの恋をサポートして──」
「いえ、逆です」
覚悟を決めるように、私は深く息を吐いてから。
「もし私の気持ちが
「えっ!? ……どうして?」
「私と街川くんじゃ釣り合いませんから」
みんなに好かれる陽キャ優等生と誰にも懐かないソロギャル。
陰キャぼっちな私は庵くんにふさわしくないと思います。
いつものネガティブが
「今の関係も壊したくないんです。私たちは友だち同士。この関係が崩れるのは、街川くんも嫌だと思いますので」
私にとってIORIは憧れのクリエイターでたった一人の親友。
もし告白してフラれたら互いに気マズくなって距離ができてしまう。
そうしたらルームシェアも中止になってしまうかも。
(それだけは、絶対に嫌です)
私の家にお泊まりした夜。
それに一度庵くんの家を出て一人暮らしに戻ったときに思い知った、孤独。
そして再び同居し始めたときの幸福感を思い出したら、
(もう、庵くんがいない
私たちはルームシェアがバレないように時間をずらして登校しています。
だから毎朝必ず交わすやりとりがあります。
──いってらっしゃい。
──いってきます。
たったそれだけの会話。
けど、私にとってはずっと漫画やアニメの中にしかないと思っていた、
(庵くんと一緒にいられない生活なんて、考えられない)
昨日はついほっぺちゅーまでしてしまいましたが、もう二度としません。
「このままの関係を維持します。絶対に」
「そんな……」
「私たちが付き合うのを好ましく思わない人も多いですしね。教室で
「たしかに、
「6月に彼を拒絶した私が普通に会話してることに怒りを感じてるはず。
『はああっ!? なんでソロギャルがいるわけ!?』
教室で
勇気を振り絞って話しかけても、そっぽを向いて無視されましたっけ。
松岡組LINEでは
「やっぱり、私が街川くんに冷たくしたことを怒ってるんですよね」
「それは違うよ!」
「? ではなぜ私を無視して……」
「ごめん。詳しい理由は私からは話せない。ただ萌果は見た目は派手だけど、すっごくまじめな子だから。部活だってがんばってるしさ」
「部活?」
「美術部。
綺奈ちゃんって有名な画家さんなんでしょ? と
(ああ、なるほど)
たしかに私は家庭の事情──
海外のコンクールでいくつかの賞を受賞。
美術評論家に『天才の血統』なんて大げさなあだ名をつけられてしまったのも事実。
(ただ、IORIのおかげで漫画やイラストを描くことは大好きになれましたけど、絵画は
選択授業も美術じゃなくて書道。
絵の具の匂いを嗅いだだけで吐き気がする。
キャンバスを前にした自分をイメージするだけで震えが止まらない。
あの人に絵を描くことを強制されてた毎日を思い出すから。
(だから実家を出てから絵画は描いてませんでしたけど)
きっと
でも、彼女は
だからこそやっぱり私は庵くんの恋人にはなれません。
もし私と付き合ったら、西野さんや他の人たちと庵くんの関係が変わってしまうかも。
(それだけは嫌です)
親友が必死に築き上げた交友関係を台無しになんてしたくない。
だから、どうにか庵くんへの
「だいじょーぶ! すぐに答えを出さなくてもいいと思うよ?」
「ですが」
「やっぱり
ことりちゃんは私をはげますように、
「庵が好き、庵を恋人にしたい、庵を独り占めしたい! って感じだった。けど綺奈ちゃんは違う。ちゃんと庵のことも考えてる」
「………」
「私、
テーブルの上に置かれた私の右手を。
ことりちゃんは温かな両手でにぎってくれました。
「だからもし悩んだら遠慮なく相談して? 他人のために庵への恋心を否定しなくていい。もっと肯定していい。自分の気持ちを大事にしていいんだよ」
「ことりちゃん……」
ぼっちな私にこんなことを言ってくれるのは今まで庵くんしかいませんでした。
だからうれしくてたまらない。
庵くん以外の友だちとここまで仲良くなれるなんて。
放課後に二人で色々な意見を交わしながら下着を選ぶのも楽しかったです。
陽キャカフェから早く逃げたいってあんなにも願ってたのに、今ではもっとことりちゃんとお話がしていたい。
「ことりちゃんとお友だちになれて本当によかったです」
「私も同じ気持ち! 綺奈ちゃんは私と庵が兄妹だって知ってるから、他の人にはできない話ができる! 綺奈ちゃんは私にとってすごく特別な存在だよ!」
春の日差しみたいに温かい言葉。
はげましてくれたことりちゃんに少しでもお礼がしたくて、つい口を開きます。
「そういえば、前に恋愛で悩んでるって言ってましたよね?」
10月に「相手が全然私の気持ちに気づいてくれなくてさ。よかったら今度相談に乗ってよ」と言ってましたっけ。
「私でよければ相談に乗りましょうか?」
「わっ、うれしい! けどもういいんだ! あっ、綺奈ちゃんに相談したくないってわけじゃないよ!?」
ことりちゃんは、いつもと同じにこやかな笑顔を浮かべながら、
「私の恋は、
「えっ──」
なぜ、そんな
「だから今は綺奈ちゃんと庵の話をしなきゃ!」
戸惑っていると、ことりちゃんはやや強引に話を変えました。
「前にLINEで話したでしょ? 最近庵とすっごく仲良くしてる人がいるって。このままじゃその人に
「たしかに付き合うかもしれないって言ってましたね」
ことりちゃんがここまで断言するんです。
きっと、私とは真逆の素敵な女の子で──。
「名前まだ言ってなかったよね? 『サバトラ』っていう人なんだけどさ」
&
「
時刻は夜の9時すぎ。
ダイニングソファに座って私の髪を乾かしてくれていた庵くんが、ドライヤーを止めて
私はソファ前のフローリングにクッションを置いて座り、彼が大きく足を開けた隙間にすっぽりと入るスタイル。
(
お風呂上りはよくこうして髪を乾かしてもらっています。
きっかけは「髪長いと乾かすの大変でしょ?」と庵くんに言われたこと。
うなずくと「よければやろっか? 昔よくことりの髪を乾かしてたんだ」と返答が。
ちゃんと髪の根元から乾かしてくれるし、キューティクルが傷まないように丁寧に扱ってくれるし、何より好きな人に大事にしてもらえるのは髪だけじゃなく胸の中までぽかぽかになって……。
気づいたら週4で乾かしてもらうようになって、今日も「
「……特に何も」
「でもいつもより口数少ないし、目も合わせてくれないし……ごめんね? 夕飯のロールキャベツシチュー、
「そうじゃないんですっ」
スタバでことりちゃんから聞いた話が脳内リピート。
『綺奈ちゃんは庵がWEB漫画を作ってること知ってるでしょ? その漫画の作画担当で一緒にルームシェアしてる男の子が、サバトラくん』
ええ、それはもうよく知ってますよ。
実は男の子じゃないことも含めて、と言えない私にことりちゃんは「その人SNSで庵との関係を毎日匂わせてるの!」とスマホを見せてきました。
【IORIお手製クリームコロッケ絶品だったな~】
【IORIと
【まだアップされてない小説読ませてもらっちゃった! 神作! やっぱりぼく、IORIの物語大好き~!】
【IORIとルームシェアできて、毎日幸せ!!】
『ほら! 間違いなく
『どうでしょうかっ。親友との同居生活が楽しすぎてつい
『お
『は!?』
『同居する前から事あるごとに私に自慢してきたんだ。絵が
『う……』
『庵にとって家は大切な場所。学校みたいに周りの空気を読まなくていいからね。だからこそ家族以外の他人と住むなんて考えられない、家での時間だけは大切にしたいってずっと言ってた。けど、サバトラくんは特別らしいの』
たしかに。
お家での庵くんは学校では決して見せない一面を見せてくれますが。
『この前プールに行ったときも何回もサバトラくんの話を聞かされたもん。本当に優しくて素敵な同居人だって大絶賛で……あれ? 大丈夫?』
『……何がです?』
『顔、真っ赤だよ? もしかしてデレデレな庵に怒ってる?』
『ええそれはもうもちろんですともっ!』
IORIのばかばかばか。
ことりちゃんに何を言ってるんだよぉ。
おかげでお家に帰ってきてから、恥ずかしくてお顔を見れなくなってしまいました。
だってこれじゃ、つい期待してしまって──。
「あなたに怒ってるわけじゃないんです。実はプールの件で」
「あ、そのこと!? 本当にごめん!
「えっ、あっ」
「ああいう場所は苦手だと思ってことりと行ったんだ。今度行くときは絶対誘うよ!」
いえ、私はプールであなたがサバトラを絶賛したのが恥ずかしかっただけで……とは言えませんでした。
(たしかに人ごみは大嫌いですが)
「はい。ぜひ」
「ありがとう!」
にこやかなお礼の後で、ドライヤーが再稼働。
さっきよりあきらかに庵くんの手つきがうれしそうで、なんだかこそばゆい。
【さっきはごめんね】
と、ことりちゃんからスマホにLINEが。
【スタバであんなこと言っちゃってさ。庵を狙ってる人がいるって聞いたら不安になっちゃうよね】
きわどい内容に息を
親友はスマホ画面を
というわけで、緊張を押し殺しながらスマホをフリック。
【あの、ことりちゃんはサバトラくんが嫌いだったりするんですか?】
私は毎日オタクトークを
だからあまりよく思われていないのかも。
【まさか! サバトラくんのイラストは大好き!】
【ええええええっ!? なんというか、あからさまにバズりを狙ったような……えっちな絵も多いのに?】
【えっと、うちのお母さんってティーンズラブ漫画も割と描いてたから、ここだけの話ああいうえっちな絵は見慣れてるっていうか……む、むしろほんの少し興味があるっていうか……】
どうしよう、天使すぎます。
あんなに
今すぐオギャバブ天国を建国できそうなくらいママみ100%。
【何が言いたいかっていうと! サバトラくんを嫌ったりしないよ? えっちなイラスト以外にもつい見ほれちゃう
堕天させたい!
興味があるのならエロゲ布教して私のオタ友2号にしたい!
【ただ、私はサバトラくんよりも
いえ、それを言ったら。
私の生活は毎日がお家デートみたいなもので……。
【二人きりになれたら、いっそちゅーしちゃおう!】
「なっ!?」
天使からの思わぬ助言につい驚きが口から脱走しました。
すると
「どうかしたー?」
「何もっ」
後ろにいる彼に赤くなった顔を見られないことを幸いに思いつつも、返信。
【木曜日のLHR、よろしくお願いします】
【あ、話を
【おやすみなさい】
【お家で二人でまったりしてるときに予想外の攻撃をすれば、普段と違う反応を見せてくれるはずで──】
庵くんに不審に思われないように、トーク終了。
たった一人の女友だちが応援してくれるのはうれしいです。
(でも、やっぱりこの気持ちはちゃんと吹っ切らなくちゃ)
そのためにも今度の
好きな人と実行委員のお仕事で結果を出して、お祭りを盛り上げた。
そんな思い出があればきっと満足できます。
この恋心に幕を引くことだってできるはず。
「終わったよー」
「ありがとうございます」
「むしろお礼を言うのはこっち。綺奈の髪ってさらさらでブローするの楽しいんだ。いい気分転換になった。ただ、ごめん」
「なぜ謝るんです?」
「実は……見ちゃいけないものが目に入って」
振り返ると庵くんがひどく深刻なお顔をしていました。
まさか、さっきのLINEを見られて……!
「えっとさ。今日のキミの寝間着、割と胸元が開いてるでしょ?」
「あっ」
「安心して。目はそらしてた。けど今度からその寝間着のときは俺がブローするのはやめよう?」
ソファから立ち上がった
黙ってればバレないのに正直に告白してくれたのはなんとも彼らしい誠実さですが……。
(た、たしかに私も油断していましたね)
今着てるネグリジェミニワンピは本日ランジェリーショップでお買い上げしたもの。
ことりちゃんに「絶対似合う!」と花丸100点をもらったのですが、胸元が大きく開いていたせいで、背後からは割と悩ましい眺めになっていたはず。
「──私は気にしませんよ?」
でも今は、いつもとは違う彼の表情がもっと見たい。
立ち上がりながら、恥ずかしさをこらえて言葉を絞り出します。
「服装に関係なくまたしてください」
「けど……」
「親友同士なら平気ですよ。それとも、庵くんは平気じゃないんですか?」
「もう、冗談言うのはやめよう?」
むっ、笑顔でごまかす気ですか。
さすが対人コミュニケーションの鬼。
ちょっとやそっとじゃこの
ならば……!
「あなたが見たいなら……好きなだけ、見てもいいんですよ?」
ネグリジェの右肩部分をずり落として、肌を露出させて、誘惑。
「っ」
同居人の
わずかに
(か、
庵くんのこんな表情が見れるなんて!
冒頭3ページでオチるラブコメチョロインみたいなあざとムーブをかましたかいがありました!
彼が恋心を抱いてくれているかはともかく、この反応は間違いなく私を女性として見てくれているということで──。
(ただ、私の行動はひどく矛盾していますね……)
庵くんへの
でも、ことりちゃんと話した通り、陽キャな彼は大変モテます。
いつ彼女さんができてもおかしくないでしょう。
(当然、彼女さんができたらルームシェアできなくなってしまう)
ならせめて今夜くらいは……。
(それに多少大胆なことをしても平気ですよね)
庵くんは絶対に何もしてこない。
彼は陽キャですが、まだ初恋未経験な、優しい男の子なんですから。
「!」
油断していたら、ぽふんっと。
私の体はソファに倒されて……えっ!?
(今、何が起きました?)
まるで格闘技の投げ技。
庵くんに二の腕あたりをつかまれたと思ったら、鮮やかに重心と体勢を崩されて、そのまま優しくソファにダイブさせられて……!
「訂正するよ」
見たことないくらいに真剣な顔で。
ソファに

「ああいうことされると、とてもじゃないけど平気じゃいられないね」
少女漫画に出てくる
「
「い、
「
小声でささやかれて思考がぐつぐつ沸騰。
今にもくちづけされちゃいそうな距離。
ほっぺちゅーはしないって決めたのに、それ以上のことをこれからされるんじゃ……!
「目を閉じて?」
「っ」
言われるがままにまぶたを閉じました。
闇の中。胸の拍動がうるさくて仕方ありません。
でも──この感覚は初めてじゃない。
彼を初めて私のマンションに泊めた夜──。
「綺奈」
明かりの消えた部屋で、私は彼と大人になろうとしたんです。
今はあのときと違って服を着ていますが、このネグリジェの下には本日お買い上げした純白の下着を着けています。
『好きな人に「好き」って言ってもらいたい。優しくされたい。色んな感情を分かち合いたい。たくさん触れ合って、愛し合いたい。それって別におかしいことじゃないでしょ?』
ことりちゃんの言う通りです。
いけないことだってわかってるのに、こんなにも胸がうずいてる。
(ほっぺちゅーは二度としないって決めましたけど)
庵くんが望むなら……あ、あれ以上のことだって……!
「なんてね」
ぷにっと、指で
まぶたを開けると、そこには同居人のにこやかスマイル。
「こんな風に襲われちゃうこともあるから、今みたいなからかい方はやめようね?」
「まっ……まさか私のことからかって──」
「さ~て。俺もお風呂入ろ~」
「いおりくんっ!」
立ち上がった彼の背中を、両手でぽすぽすぽすぽす連打連打連打。
ああ、もうっ!
てっきり迫られてると思ったのに!
女の子としての覚悟まで決めちゃってたのに!
「先にからかってきたのは
「だからって押し倒しますか!」
「勉強になったでしょ? ラノベやアニメだとああいうシーンで主人公が寸止めすることが多いけど、現実はそうじゃない。相手が俺じゃなかったら襲われてたと思う」
「それはそうですが……いくら親友と言えど急に押し倒されたら驚きますよ! 何の伏線もありませんでした!」
「伏線?」
「前にDMで言ってたことがあるじゃないですか! 物語の中で主人公に突発的な行動をさせるとき、何か伏線を入れておくと読者が納得するって! なのにさっきのあなたの行動には何の伏線もなくて──」
「待って」
何やらお口に右手を当てて考えこみながら……。
「ナイス、綺奈」
「え?」
「おかげで朝比奈さんを懐柔する方法を思いつけた。そうだ、伏線だ。伏線を使えば……ああバカか俺は! WEB作家失格だ! あのエピソードを伏線として利用すれば話がうまくつながる! こんなことにも気づけなかったなんて……!」
「よくわかりませんが、私の言葉が役に立ったということでしょうか?」
「もちろん! 本当に助かった、これであのプランを使わずに済む!」
「あのプラン?」
「あ、いや、それはともかく!」
詳しくはお風呂でアイディアまとめてから話すよ! とゴキゲンな庵くん。
うれしそうなお顔を見たら、押し倒されてからかわれたことなんてどうでもよくなってしまいました。
親友の役に立つという結果を出せたのが、うれしくてたまらなくて──。
──結果を出せない子は、もう必要ない。
不意に、嫌な
結果さえ出せば、陰キャぼっちな私でも庵くんやみんなに必要としてもらえるはず。
(それに親友だからわかります)
──さっきみたいな
そんな風にいつもの笑顔で──。
「あとさ。さっきみたいな台詞、俺以外には絶対言っちゃダメだよ」
……ん?
俺以外には?
つまり……庵くんには言ってもいいって、こと?
「……じゃあ、また」
一度もこちらを振り返らずに。
まるで表情を隠すように庵くんはダイニングから出ていきました。
「ううっ」
ソファの上で両脚をばたばたさせながらなんとか心音を抑えようとしますが、効果はなし。
頭の中で
『お家で二人でまったりしてるときに予想外の攻撃をすれば、普段と違う反応を見せてくれる』
たしかにネグリジェ姿で迫ったら普段と違う彼の
だけど予想外の攻撃を
「……ずるいです」
彼への
あんなこと言われたらつい期待しちゃう。
「ひょっとしたら、庵くんも……」
私のことが好きなんじゃないかって。