私、セレナ・ハートフィールドとノクス・レイヴンクロフトの婚約が発表されてから半年が経過した。

 季節が巡って春になり、私たちは二年生になった。

 私は今、幸せな学園生活を送っている。

 この学園生活が始まって以来の悩みの種であった、マリベル・シュガーブルームがいなくなったことにより、入学して以降一番平和でストレスフリーな学園生活を送っていると言っても過言ではないだろう。

 最初の頃は、第二王子であり、学園でも女性から圧倒的な人気を誇るノクスと婚約したことで、嫌がらせを受けたりするのではないか、という心配もあった。

 でも、公爵家となった私に面と向かってそんなことをする人間はいなかった。

 それはそうだ。公爵家はこの国の最高位の貴族だし。

 それに、最近私に嫌がらせをずーっと続けてきた令嬢がどうなったかを見せたばかりでもある。

 私にずっと嫌がらせを仕掛けてきていた令嬢こと、マリベル・シュガーブルームが老人の貴族に嫁ぐ直前、失踪した。

 いまだに捜索は続けられているが、恐らく隣国に逃げた、ということでそこから捜査ができず、行方知れずとなっている。

 隣国にはマリベル・シュガーブルームはいないか、という質問状を送っているのだが、返ってきたのは「いない」の一言。

 まだ何か仕掛けてきそうで気味が悪い。

 ……とまあ、私に嫌がらせをするような人間はいなくなった。それによって、新たな問題も発生しているのだけど……。


***


 私はその日、一人で昼食をとることになった。

 ……友人がいないわけではない。決して。いや本当に。

 今日はたまたま、いつも一緒に昼食を食べているメンバーである、ノクスとリリスに生徒会の用事が入っていたのだ。

 別に一人食堂で昼食を食べてもおかしなことはないだろう。……目立つかもしれないけど。

 こんなことならもっと交友関係を広げておけばよかった……。いや、友人がいないわけじゃないんですけども。

 ……あ、そうだ。ノクスもリリスもいないということは、もしかして今日は食堂のデザートを食べ放題なんじゃないだろうか。いつもならノクスの目があるし、スイーツばかり食べていたらリリスに叱られるけど、今日はその心配はない。ふふ、ババロア、タルト・タタン、季節のフルーツタルト、前から目をつけていたスイーツはたくさんある……。

 食べすぎたら太るので要注意だが、最近は甘いものもあまり食べてないし。うん、大丈夫。

 よくよく考えてみたら、一人で昼食を食べるのも悪くないような気がしてきた。

「へへ……」

 気がつけば、そんな気の抜けた笑みが漏れていた。でも仕方がない。女の子は誰だってスイーツパーティーが始まるとわかればこうなるのだ。顔がにやけてヘニャヘニャになってしまうのも無理のないことなのだ。

 そしてふらりと吸い寄せられるように、スイーツを片っ端からカウンターで注文しようとしたところで。

「あの、セレナ様?」

「ふぇっ」

 やば、変な声が出ちゃった。

 小さな鈴を転がすような透き通った声に振り返ると、そこにはオドオドとした小動物のような女子生徒がいた。

「ジュリエットさん」

 彼女の名前はジュリエット・ウィンザー。以前婚約者の男子生徒にどうかつされていたところを助けてから、交友関係がある女子生徒だ。こう見えて芯はしっかりしていて、以前私は助けてもらったことがある。

「えっと、今の声は……」

「う、ううん。なんでもないわよ。どうしたの?」

 さっきの変な声を聞かれていたようだ。私は慌てて誤魔化す。冷や汗がじんわりとにじみ出てきてさらに焦る。

 どうやら運よく誤魔化されてくれたみたいで、ジュリエットは可愛らしい笑みを浮かべて私に尋ねてきた。

「あ、えっと、セレナ様。今日はお一人でお食事を?」

「え、ええ……。今日はたまたま皆用事でね。あ、決して友人がいないわけではないのよ? ほんとに」

「え? あ、はい。そうですね」

 必死に友人がいないことを否定したけど、キョトンとした顔をされてしまった。ごめんなさい、変なことを言って……。

「それでセレナ様。もしお一人なら……ご一緒しませんか? 私も今日はたまたま友人が用事でいなくて一人で昼食を食べるつもりでしたが、それも少し寂しいので。もしセレナ様が嫌でなければ、いかがでしょう?」

 ジュリエットはその可愛らしい大きな瞳で、上目遣いに尋ねてくる。

「え」

「あ、あの……どうかしましたか?」

「う、ううん……」

 私は目を泳がせる。するとジュリエットは何かを察したのか瞳に涙を溜める。

「も、もしかして私とは嫌でしたでしょうか……」

「い、いやそういうわけではなくて!! 嫌なわけないじゃない!」

 私は慌ててジュリエットの言葉を否定する。別にジュリエットと昼食を食べるのは嫌じゃない。これは本心だ。逆に誘ってくれて嬉しいくらいでもある。でもジュリエットと昼食を一緒に食べるとなると、それはつまり……当初計画していたスイーツパーティーが中止になることを意味している。スイーツを食べているところを見せて引かれたくない。

 けど、泣きかけのこんな可愛い子の頼みを断るのはちょっと気が引けるし……。

 その宝石みたいな目で見つめられて……私の心は折れたのだった。

「昼食、ご一緒させてもらおうかしら」

「本当ですかっ!?

 ジュリエットがパッと笑顔を浮かべる。

 いつもはオドオドしているのに、笑顔を浮かべたらまるで別人みたいだ。

「えへへ、行きましょうセレナ様」

「ええ」

 私はジュリエットにニッコリと笑みを返してカウンターの方へと歩いていく。注文するのはもちろんいつものお昼のセット。

 ああ、私のスイーツパーティー……。

 そうして私はスイーツ食べ放題パーティーの開催を泣く泣く断念したのだった。


 とはいえ、私がただで起きるわけがない。

 今日の昼食はパンケーキに、デザートに生クリームがたっぷり使われたケーキにした。

「並ばず受け取れてよかったですね」

「ええ、そうね」

 私とジュリエットはいつものテラス席に座る。

 ふふ、作戦は成功だ。パンケーキならギリギリ昼食に見えなくもない。男子界隈では知らないが、女子界隈ではパンケーキはギリギリ昼食に入るのだ。メインをパンケーキに置き換えることで、自然に甘いものを摂取できる。

 そしてそれに加えて、デザートとしてケーキも揃えることで、私のプチスイーツパーティーは完成したのだ。

 完璧な計画。誰にもバレるはずがない。

「今日はその……甘いものが食べたい気分なんですか?」

「ええ、そうなの」

 一瞬でバレた。作戦は失敗だ。

 まあ、考えたら当然なんだけど、さすがに無理だったか……。仕方がないからこのまま勢いで押し切ってしまおう。

「今日は特別甘いものが食べたい気分なの。別にいつもこういう昼食を食べてるというわけではなくてね? 今日はたまたま、そうたまたまなの」

「あの、別に何も思ってませんから……」

 早口で話していたせいで言い訳みたいに聞こえてしまったようだ。

「セレナ様が毎食デザートを頼むことはリリス様から伺っていますので……」

「へ?」

 また変な声が出た。どうしてジュリエットがリリスから話を聞いているんだろう?

「え、えっと……ジュリエットさんはリリスとは知り合いなの?」

「あ、はい。何度かお話もさせていただいて、お茶会にも招かれたことがあります」

 初耳なんだけど。私の記憶のなかではジュリエットとリリスが話しているところを一度も見たことがないのに、どこで知り合ったというのだろうか。

「二人はどこで出会ったの?」

「セレナ様と知り合ってしばらくしてから、リリス様の方からお声がけいただいて……」

 驚いた。リリスは積極的に自分から他の令嬢には話しかけにいかないタイプだったのに。

「その時にご友人であるセレナ様を助けた件でお礼を言っていただいて、そこから交友関係を続けさせていただいています」

「あ、なるほど……」

 私は納得した。恐らく、リリスはジュリエットを守るためにそうしたのだ。

 マリベルに私が囲まれた時、ジュリエットの機転によって私は助かったが、逆にジュリエットはマリベルに顔を覚えられ、報復を受けるおそれがあった。そのため、同じ公爵家のリリスがジュリエットと交友関係を持つことによってマリベルをけんせいし、報復を受けないようにしてくれていたのだろう。

 あの時のマリベルは私に関わるものはすべて害しかねない言動をしていた。ジュリエットを助けるのはリリスにしかできない行為だ。

 そこから交友関係が続いているということは、共通の友人としては嬉しいものがある。

 ……でも、私が昼食後に毎回デザートを食べるってことを共有する必要はあるのかなぁ。

「何にせよ、二人が仲よくなってくれたなら私も嬉しいわ」

「それはよかったです。実は今日もリリス様に、セレナ様が一人で昼食を食べるのでスイーツの暴飲暴食を止めてほしい、と頼まれまして……」

「えっ、じゃあリリスに私と一緒に昼食をとるように言われたの?」

 単純に好意で誘ってもらったものと思っていた私はちょっとショックを受けた。

「いえ、無理やりではありませんよ。私もセレナ様と昼食をご一緒したかったからお引き受けしたんです」

 ジュリエットは柔らかく微笑む。

「ジュリエットさん……」

 私はその微笑みに心を打たれ……かけた。いや待って、今聞き捨てならないセリフが聞こえたな。一人の私がスイーツパーティーを開くことが当然のように予知されている。しかも友人と一緒ではなく一人で食べるであろうということまで断言されている。リリスさん、親友に酷くないかしら……?

「リリスにはあとでしっかり話を聞かないと……」

「あっ、あのっ、リリス様はセレナ様のことをとても大切になさっていますので……!」

「もちろんわかっているわ。ちょっとした冗談よ」

「それならよかったです」

 私とジュリエットは微笑み合う。

 その時、私が公爵家になったことで浮上した新たな問題が、私たちの元へとやってきた。

「セレナ・ハートフィールド様」

 声をかけられたので顔を上げると、そこには男子生徒が立っていた。青い髪が特徴的な、優しそうな印象の男子生徒だ。穏やかな笑みを浮かべて、紳士っぽく胸に手を当てている。

 見知らぬ男子生徒の登場に、人見知りなジュリエットは肩を小さく縮めてしまった。

「なんでしょう」

 せっかく楽しく談笑していたのに邪魔をされた私は、その青髪の男子生徒に何か用事があるのかと尋ねた。

「僕はイザーク・コルベールと申します」

 コルベール。私の記憶が正確ならたしか伯爵家だったはずだ。名前は知っているが、彼とは面識がないどころか、コルベール家とハートフィールド家自体に交流すらあまりない。そんな彼がなぜ突然話しかけてきたのか……私にはなんとなく理由に見当がついていた。

 イザークと名乗った男子生徒は穏やかな笑みのまま続ける。

「今日はとても天気がよく、テラスでお昼を食べるのにはぴったりですね。よければご一緒できないでしょうか」

 私はイザークにはバレないように、小さくため息を吐いた。

 というのも、最近こういう人間が多いのだ。公爵家に爵位を上げたハートフィールド家と親交を結ぼうと、私に対して話しかけてくる人間が。私の声色が冷たかったのも、私に話しかけてきた目的が見え透いていたからだ。

 特に私が一人でいる時に多い。今日はジュリエットがいるのだが、どうして話しかけてきたのだろう。

「あの……」

「君、ハートフィールド様と話がしたいので、少し席を外してもらってもいいかな」

「えっ……?」

 私が口を開こうとした瞬間、イザークはジュリエットに向かってそう言った。話しかけられたジュリエットがビクリと肩を震わせる。

(へー、そういうことするんだ……)

 私の心のなかがグツグツと沸き立ってくる。どうしてジュリエットがいるのに話しかけてきたのかが疑問だったが、ジュリエットは男爵家。伯爵家の自分ならいつでもどかせると、そう考えていたということだ。このイザークという名の男子生徒は。

 ジュリエットは私の大切な友人だ。そういうことをするなら容赦する必要はないだろう。

「あのですね」

 公爵令嬢としての、戦闘用の笑みをニッコリと浮かべる。

「彼女は、私の友人で、今は談笑中です。私の大切な人に向かって『どけ』とはどういう了見ですか? そもそも私はあなたと話すと言った覚えはありません」

「……」

 イザークの笑顔が少し揺らいだ。

「第二に、今は食事中です。食事中に横から話しかけてこないでください」

 これだけ言えば大抵の人間は帰っていく。イザークもそうだろう、と私は思っていた。

 しかし……。

「……これは申し訳ございません。大変失礼いたしました、ウィンザー嬢。この通り謝罪します」

 イザークは笑顔を取り繕ったまま、私に謝ると、次いでジュリエットに深々と頭を下げ謝罪する。

「ハートフィールド様、無礼をお詫びいたします。ですからどうか、このイザークに名誉挽回の機会をいただけないでしょうか。もちろん、都合のつく時で構いません」

 まずい。このイザークという男子生徒、相当やり手だ。知らぬ間に話す機会を設ける流れに誘導されてしまった。

 ここまで平身低頭で謝罪しているのに突き放してしまうと、今度は私の方が礼儀知らずということになってしまう。

 今思えばはじめにジュリエットに失礼な態度を取ったのも、この流れに持ってくるためだったのだろう。

 非常にまずい……!

 私が内心とても焦っていると。

「だめだ」

 夜のとばりのような、美しい黒髪。透明感のあるアイスブルーの瞳。

 私は自然と頬が緩んでしまう。

 その声の主の名前を呼んだ。

「ノクス様」

 イザークの背後にはノクスが立っていた。急いでやってきたのか、少し息が乱れている。

 テラス席にいた周囲の生徒も「ノクス様」「ノクス様だわ」とにわかに騒がしくなった。

「ノ、ノクス様……」

 イザークの笑顔がついに崩れ、後ずさる。

「セレナは俺の婚約者だ。もし話がしたいなら、俺も同席するが……それでも構わないならいいだろう」

 すべてを圧倒するようなオーラを放ち、ノクスはイザークにそう言った。イザークは少ししゆんじゆんを見せたあと、落ち着きを取り戻したのか取り繕った笑みを浮かべた。

「いえ、出直します。ハートフィールド様。ウィンザー嬢。本日は大変失礼いたしました」

 イザークは最後に次につなげる可能性を潰さないようにか、もう一度謝罪して去っていった。イザークが去っていったのを確認して、ノクスは私に向き直る。

「大丈夫だったか、セレナ」

「はい、大丈夫です。ですが彼は少しやり手でしたね。焦りました」

「セレナが焦るか。まあ、お前も抜けてるところがあるからな」

「ん? 違いますよノクス様。彼がやり手だったんです。あと私はしっかり者ですから」

「いやいや」

「いえいえ」

 ははは。ふふふ。私とノクスは笑い合う。

 ひとしきり笑い合って、私はノクスに質問した。一旦何も聞かなかったことにしましょう。私はしっかり者なので。

「それでノクス様、どうしてこんなところにいるんです」

「俺がいるのは嫌か?」

 ノクスがテーブルに手をつき、顔を近づけて質問してくる。

 うっ……暴力的なまでに整った、美しい顔が間近にある。私は照れるのを隠すように目をそらした。

「そうではなくて……生徒会の仕事があるのではなかったのですか?」

「俺の可愛い最愛の婚約者が男に言い寄られているかもしれないと思ってな、すぐに全部終わらせて飛んできたんだ」

「もう……」

 私は何も言えなくなってしまう。

 マリベルがいなくなってから半年、日に日にノクスの言動は甘くなっていた。

 そして今では、息をするようにこんなことを言うからズルい。

「俺とは会いたくなかったか?」

 それに、わかってて聞いてくるんだから……卑怯だ。

「……会いたくないわけないじゃないですか。婚約者に」

 ノクスがフッと表情を緩める。

「……ひゃぁ……これが噂の……」

 そんな小さな消え入るような声が、私の耳に届いた。

 私はジュリエットの方を向く。ジュリエットは両手で真っ赤になった顔を覆い、そして両手の指の隙間から私たちのことを覗いていた。

「あの、ジュリエットさん。噂って……?」

「へっ!? あ、えっと、いや、違うんですこれは別に悪い噂とかではなくて、リリス様から伺っていた……あっ、なんでもないですっ!!!」

 ジュリエットは口を滑らせたことに気がつくと、慌てて口を閉じた。なるほどなるほど、あとでリリスにはどういうことか聞かないと、と私は心のなかのメモに書き込んだ。

「それにしても、最近ああいう輩が多くなってきたな。もっとガードを固くするべきか……」

 考えながらぶつぶつと呟くノクスに、私はむっと頬を膨らませた。

「私はしっかり者なので大丈夫ですよ。それよりもノクス様だって、最近他のご令嬢が近寄ってくるじゃないですか。ノクス様の方がもっとガードを固めるべきです」

「俺はセレナ以外見ていないから問題ない」

「それだったら、私だって同じです」

「……ひゃぁ~」

 またジュリエットからそんな声が聞こえてきた。

「ま、警戒するに越したことはないだろう。最近はきな臭い噂もあることだしな……」

「きな臭い噂ですか?」

 私はその噂とはなんなのか質問する。

「いや、まだ確定ではないから心配する必要はない」

 ノクスはそう言うと、ポン、と頭に手を乗せてきた。

 その日は、それ以上何も聞くことができなかった。


***


 休日、街中のカフェで。

「レオン、今日は付き合ってくれてありがとう」

「別に構わないよ、私もちょうどセレナと一緒に出かけたいと思っていたところだし」

 私の親友、リリスが黒髪を揺らして、ミルクを入れたコーヒーをスプーンでくるりと回した。

 目の前に座るリリスは男装姿だった。レオン、というのはリリスの男装時の名前だ。

 今日のリリスはあの綺麗な銀髪をまとめ上げて黒髪のウイッグのなかに押し込めており、服装も肩からジャケットを羽織っている。なんだか今日の服装はノクスに似ている気がするが、気のせいだろうか。

「それで相談って何? セレナが相談してくるなんて珍しいね」

「そうなの、最近、困ってることがあって」

「……へぇ」

 リリスの顔がちょっと強張ったような気がした。私は最近の悩み事をリリスに告げた。

「ノクス様がカッコよすぎる……」

「……」

 リリスがぱちぱちと瞬きをした。

「…………セレナ」

「最近、ノクス様が格好よすぎるの! あんな整った綺麗な顔で私の顔が真っ赤になるようなことをポンポン言ってくるんだよ!? 心臓がバクバクしすぎてこのままじゃ心臓の病気か何かになって死んじゃうっ!! ねえ、どうしたらいいと思う!?

「はぁぁぁぁぁ……」

 リリスが大きくため息を吐いて、力が抜けたようにぐったりと項垂れた。

「ど、どうしたのレオン」

「セレナ……」

 リリスは眉間を手で押さえながら、呆れたような表情でため息をつく。

「な、なに……?」

「重大な悩み事かと思ったら、ただの惚気話で気が抜けた」

「えっ」

 の、惚気話!? 私的には結構深刻な悩みだったんだけど……。

「そ、そんなつもりはなかったんだけど……」

「どう考えても惚気話です」

 リリスはピシャリと断言する。

「そんなぁ……」

「惚気話は程々にしてほしいわ」

 リリスに相談できないなら、この暴走しそうな感情をどうすればいいのだろう。私は以前の婚約者と幼少期から婚約していたせいで、恋というものを最近まで経験したことがなかった。

 だから、この今にも爆発しそうな気持ちを抑えられなくて、行き場を持て余しているのだ。

 私の表情を見て、リリスがぽん、と頭に手を乗せた。

「……まあ、これからも程々に惚気話は聞くから。そんなに落ち込まないで」

 リリスが話を切り替えた。

「それよりも話は変わるけど」

 リリスはそう言って、前髪を指でいじる。私からは目をそらして、頬を少し赤く染めている。

「この髪型と服装、どう?」

「どうって? 似合ってると思うけど……」

 私はリリスの質問の意図がつかめず、首を傾げる。