『互いの意味』



 南の都市は今日も活気に溢れている。

 巨大な港にいろんな国の貿易船が入ってきて、様々な品物を降ろす。すると行商人や港の労働者が集まり、品物を取引したり運んだりする。それで品物は都市の隅々に広がり、やがて都市の外へと……王国各地へと送られる。

「いつ見ても面白い風景だな」

 俺とアイリンは港の隅でクリームパンを食べながら、港の風景を眺めた。格闘場の試合が無い日には、こうやって二人で都市を眺めるのがお約束になった。

「あう」

 アイリンが笑顔で頷いた。『うん、そうだね』という意味だ。

 甘いクリームパンを食べ終えて、俺たちは大通りに向かった。大通りには大勢の人が行き来していて、その周辺には商人たちが客を引くために叫んでいる。うるさくて混雑だけど……だからこそ活気があるのかもしれない。この都市は。

「あれは……」

 大通りの隅に小さな屋台があり、炭火と肉の匂いがしてきた。

「焼き鳥か」

 俺は普段から鶏肉をよく食べる。でもいつもは味付けなんてしない。俺にとって鶏肉はあくまでも『巨体を維持するための燃料』なのだ。でもせっかくだし……アイリンと焼き鳥を食べよう。

 俺とアイリンは屋台の前に立ち、二人分の焼き鳥を注文した。そしておばさんから焼き鳥を受け取り、即座に食べ始めた。焼きたての肉と薬味の味が絶妙で美味しい。

「あう……!」

 アイリンが焼き鳥の串を掴み、一口食べて幸せな顔をする。この顔を見られるだけで今日の外出も成功だ。

「あうあう」

 焼き鳥を食べ終えた後、アイリンが串で地面に『お腹いっぱい』と書いた。

「いっぱい食べて、お前も早く大きくなれよ」

 俺がそう言うと、アイリンは笑って『レッドほど大きくなるのは無理』と書いた。

 それから俺たちは都市の中央、旧市街に向かった。旧市街は古い建物が多く、比較的に静かだ。でも寂れた感じはしない。妙な優雅さのあるところだ。

「あう……!」

 アイリンが前方を指さした。そこには古くて小さな教会があり、周りに人が集まっていた。

「女神教の祝祭日か?」

 好奇心に導かれ、俺たちは教会に近づいた。多くの人が教会に向かって礼拝を捧げていた。

「救世主様の到来を……」

「この世に平和と安寧を……」

 人々の礼拝の声が聞こえてきた。どうやらこの人たちは『女神に選ばれし救世主が到来して、もっといい世界を作ってください』と祈っているようだ。

「へっ」

 俺は笑ってしまった。

「救世主なんかいるわけねぇだろうが」

 貧民街で子供たちが酷使されても、誰も助けてくれなかった。俺が石を投げられても誰も助けてくれなかった。女神や救世主なんか現れなかった。俺は女神教の礼拝を冷笑した。

「あう……」

 俺の言葉を聞いて、アイリンが指で地面に文字を書いた。それは……『私にとってはレッドが救世主だよ』だった。

「あうあう」

 アイリンが無垢な笑顔を見せる。『ありがとう』という意味だ。俺は自分の瞳に涙が浮かぶのを感じた。

「逆だ……」

 俺は涙を堪えて、首を横に振った。

「逆だよ、アイリン。お前こそ俺の……」

「あう……?」

 アイリンが怪訝な顔をした。今はそれでいい。俺はアイリンの頭を撫でてやった。