第八章 夏の終わり



 暗い夜が終わった後……眩しい太陽の下で、俺は墓に花を供えた。

 それはデリックの墓だった。俺と俺の組織員たちは、デリックにもくとうささげた。

 そしてデリックの墓から少しはなれたところに……フクロウの墓がある。俺はフクロウの墓にも花を供えた。

 仲間や強敵との別れ……俺が道を進めば進むほど、こういう別れは続くだろう。しかし失ってばかりではない。戦いを通じて、俺は多くのものを手に入れた。

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 それから俺たちはだん通りの生活に戻った。身体をきたえて、知識を勉強して、結束を強める……俺たちはまだまだ強くなっていくのだ。

「ボス」

 ふとレイモンが話しかけてきた。

「以前、ボスが言いましたよね。ぼくたちの組織がこの都市最強になれば、次の目標を教えてやると」

「ああ、確かに言ったな」

 俺がうなずくと、レイモンが笑顔を見せる。

「今回のことで、みんな一層強くなりました。もう僕たちはこの都市最強になったと思います」

 それを聞いて俺は少し考えてみた。『レッド組』の組織員は、みんな一人で十人以上を相手できる強者だ。ボスの俺まで加われば、真っ向勝負で俺たちにかなう組織は……無い。

「反論できないな。俺たちはもうこの都市最強だ」

「でしょう?」

 レイモンが満足げに頷いた。

「じゃ、教えてください。ボスの次の目標は何でしょうか?」

「それは決まっているだろう?」

 俺はたんれんしている組織員たちを眺めた。

「次の目標は……もちろんこの王国で最強になることさ」

「王国で……?」

 レイモンが目を丸くする。

「いつも思うんですが、ボスの考える事は……僕の想像を超えています」

「安心しろ。これからもずっと想像を超えてやるから」

「はい、期待しています」

 大きな戦いが終わっても……止まるつもりはない。俺はまだまだこの道を進む。

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 その日の夜、ロベルトのしきで大きなパーティーが開かれた。俺たちの勝利を祝うパーティーだ。

みなさん、思う存分に楽しんでください!」

 広い応接間でロベルトがかんぱいあいさつをし、ワインを一口飲んだ。流石美中年というか、こういう場面がよく似合う。人々もロベルトに次いでワインを飲んだ。

 それにしても本当にれいなパーティーだ。食べ物も飲み物の最高だし、楽団が美しい曲を演奏している。こういう貴族のようなパーティーは初めてだ。

 問題は……礼服が不便だということだ。俺も俺の組織員たちも礼服なんか持っていないので、ロベルトが用意してくれたのはありがたいけど……。

「レッドさん」

 ロベルトが近づいてきた。かれは俺の姿をじっと眺めてから頷く。

てきですね。レッドさんに合う大きさの礼服が用意できて幸いでした」

「それはありがたいけど……こんな動きづらい服装は、生まれて初めてだ」

「ふふ、それは仕方ありませんよ。これからもパーティーに参加なさることはたくさんあるはずですから、早く慣れないと」

いやだな……」

 俺はごうなパーティーより、強敵との戦いの方が楽しい。化け物あつかいされるのもある意味ごうとくだ。

「ところで、ロベルトさん」

「はい」

「あの女たちは何だ?」

 俺は明るい顔で話し合っている女たちを眺めた。彼女たちはみんな若くて、美しいドレス姿だ。

「この都市の有力家系のごれいじようたちです」

「偉いところのむすめたちが何故なぜこのパーティーに……」

「それが……」

 ロベルトが苦笑する。

「実はですね……もうレッドさんのごかつやくは、裏社会を超えてこの都市全体の話題になっています」

「……はあ?」

「もちろんしようさいな情報までは知れわたっていませんが……レッドさんがこの都市の組織全体を率いておそろしいいんぼうを打ちくだいた、といううわさが流れているんです」

 確かに俺は数百に至る人々を率いてこの都市をすみずみまで調べた。噂されるのは当然のことか。

「それでみんな、えいゆうの姿を拝見したくてきたんですよ」

「英雄って」

 俺はつい笑ってしまった。そういえば、若い女たちは時々俺の方を見つめた。『こわいけどこうしんく』という態度だ。

「好奇の目で見られるのは、もう慣れているから構わないけど……おかげで俺の組織員たちが困っている」

 俺の組織員たちも、着慣れない礼服を着てパーティーに参加していた。しかも彼らは若い女たちのまなしに慌てていた。ゲッリトやリックを除けば、みんなじゆんすいすぎる反応だ。何が『この都市最強の組織』だ、こいつら。

 やがて若い女たちが俺の組織員たちに話しかけ始めた。俺は応接間の隅で食べ物を食べながら、組織員たちの慌てる姿を見物した。

「おい、化け物」

 太った体型の中年男性が近づいてきた。この都市の裏をぎゆうっているボスの一人、ビットリオだ。

しやくほうされたのか?」

「もちろんだ。ろうごくなど、べつそうみたいなもんだ」

 ビットリオはワインを飲みながら話を続ける。

「話は聞いた。お前が直接……薬物の黒幕を倒したと」

「ああ」

 俺が頷くと、ビットリオは少し間を置いてから口を開く。

「……昨日の夜、夢にむすが出てきた」

「そうか」

「息子はへいおんに見えた。お前のおかげだ」

 ビットリオはいつもとは違う、まるでつうの中年男性みたいな顔になっていた。

「息子が生きていれば、お前の組織に入らせるのによ」

「それも悪くないな」

「……ありがとう」

 ビットリオは応接間を出て、どこかに行ってしまった。俺はしばらく一人でジュースを飲んだ。

「レッド!」

 いきなり後ろから少女の声が聞こえてきた。振り向いたらそこには……。

「どう? 私たちのドレス姿!」

 そこにはシェラ、そしてアイリンが可愛かわいいドレス姿で立っていた。俺は目を見開いた。

 シェラは自信満々な顔で空色のドレスを着ていた。いつもは『かくとう好きのじゃじゃ馬』の印象しかなかったのに、今日は『色っぽいおじようさん』だ。しかもスカートがわりと短くて、シェラの美しいあしが強調されていた。

 シェラとは対照的に、アイリンはずかしそうな顔で真っ白なドレスを着ていた。純粋な少女の印象なのはいつもと同じだけど、今日は『貴族の令嬢』に見える。

おどろいた。二人共ちがえるほどだ」

「えへへ」

「特にシェラ、お前も本当に女の子だったんだな」

「それどういう意味よ!?

 シェラがカッとなって俺を睨んでくる。

「ムキになるな。めているんだ」

「もうちょっと分かりやすく褒めてよ! 可愛いとか、れいだとか」

「可愛くて綺麗だ」

「……本当?」

「本当さ」

 シェラが横目で見てきた。俺はそんなシェラを無視してアイリンの頭をでてやった。

「それ禁止」

「はあ?」

「アイリンちゃんを撫でることが出来るのは私だけ!」

 シェラはアイリンを後ろからきしめる。

「レッドにはゆずれないよーだ!」

「何でだよ」

 アイリンは俺とシェラのやり取りを見て笑った。

 最初は少し心配もしたけど、シェラとアイリンが親しいようで安心した。ちょっとうるさい姉と大人しい妹に見えるほどだ。