第六章 必ず捕まえてやる
俺と爺とアイリンは、大きな木の下に一緒に座った。そして一緒にパンを食べた。
「どうしていつもクリームパンばかりなんだ」
「すまん、つい買ってしまうんだ」
「ったく……」
文句を言う割には爺も
「あうあう!」
アイリンはクリームパン一つで幸せな顔になる。それを見ていると俺も笑顔になる。
パンを食べ終えて、アイリンは薬学の勉強を始める。小さな手で乳棒と
「レッド」
一緒にアイリンを眺めていた爺が、小さな声で俺を呼んだ。
「左肩は誰にやられたんだ?」
「やっぱり気付いていたか」
俺は
「お前が傷を負ったってことは、よほどの強敵だったみたいだな」
「ああ、『夜の狩人』の暗殺者だった」
その名前を聞いても、爺は無表情だ。だが……長い間爺と暮らした俺には分かる。爺は今……少し
「詳しく説明しろ、レッド」
「分かった」
薬物『天使の
「不思議なことに、ラズロと一緒にいた女の首も持っていかれた」
俺は爺の顔を
「ロベルトは、あの女はただの娼婦ではなく連絡係だったんじゃないかと推測した」
「……その推理は半分正しい」
爺が口を開いた。
「それは夜の狩人が
「じゃ、ラズロが毎晩娼館に出入りしたのは……ただ女好きだからではなく、指示を受けるためでもあったのか」
女は娼婦でも連絡係でもなく、工作員だったのか。
「たぶん暗殺者は数日前からラズロを
「ラズロを助けるより、殺した方が簡単かつ確実ということだな」
爺は頷いた。
「やけに詳しいな、爺」
「まあな」
爺は相変わらず無表情だ。俺はそんな爺を注視しながら、話を続けた。
「ロベルトはラズロや女の周りを調査している」
「
「じゃ、この件の黒幕は夜の狩人なのか?」
「いや、夜の狩人はあくまでも
やっぱりか。
「爺、夜の狩人に依頼するためには莫大なお金が必要だと聞いたが」
「ああ、そうだ」
「莫大なお金って、具体的にどれくらいだ? 貴族なら
爺が首を横に
「暗殺の対象によって金額が違うけど……警備隊隊長くらいなら、大きな貿易船を買えるほどのお金を支払う必要がある」
「そんなに?」
俺は眉をひそめた。
「ということは、黒幕は
「そうだろうな」
黒幕は薬物を流通させてきたから、それで大金を
「爺の話を聞いてみると、黒幕の尻尾を
「レッド」
「ん?」
「何故必死になってこの件を解決しようとするんだ?」
爺が冷たい視線を送ってくる。
「別に関係ないだろう? 南の都市に薬物が広がっても」
「関係ない、か。確かに」
俺は
「
「いや、そんなわけがあるか」
思わず笑ってしまった。
「俺は化け物だ。それでいい。英雄の称号なんか
「じゃ、どうしてだ?」
俺は少し考えてから答えた。
「最初はただ気に入らなかっただけだ。大した理由は無かった。でも相手が強敵ということを知って、戦いたくなった」
「へっ、もう本当に化け物の思考だな」
「それに……都市一つ守れなくては、新しい王国を作ることなんて出来ない。そんな気がするんだ」
「……私はこれから少し旅に出る」
「旅? どこに?」
「その黒幕の尻尾を掴むためには、いろいろ調べる必要がある」
俺は
「やってくれるのか、爺?」
「ま、この件に関しては私も少し興味があるんでな」
「……ありがとう」
俺が礼を言うと、爺が
「言っておくけど、私の情報料は夜の狩人に負けないくらい高いぞ」
「
「へっ」
爺は足を運んで小屋に向かった。俺は心の中でもう一度爺に感謝した。
---
南の都市の
俺はこの屋敷に頻繁に出入りしている。ロベルトの
「あう……」
アイリンは少し
「さあ、入ろう」
俺は左手で荷物を持ち、右手でアイリンの手を取り、屋敷に近づいた。すると門番がすぐ扉を開けてくれた。
「あう!」
アイリンが目を見開いて、声を上げる。いろんな花々が
俺とアイリンはしばらく庭園の中を歩き回った。正直花にはあまり興味が無いけど、アイリンが傍にいると不思議にも楽しい。
「レッド!」
いきなり声が聞こえてきた。振り向いたらスカート姿のシェラが見えた。
「今日はどうしたの? しばらく授業は無いと言わなかった?」
「ああ、実は……」
「え? そっちの子供は
シェラとアイリンが
「まさかレッドの妹さん?」
「いや、外見からして違うだろう」
俺は笑ってしまった。
「こっちはアイリンだ。俺の……大事な存在だ」
「大事な存在って、レッドはそういう
「だから違うって」
もう一度笑ってから、俺はシェラに事情を説明した。
「アイリンは爺と
「ふむ」
「それで今日からこの屋敷に預けることになったんだ。もうロベルトの許可ももらった」
「そうか」
シェラがアイリンに近づいて手を伸ばす。
「私はシェラっていうの。よろしくね、アイリンちゃん」
アイリンは口を
「実は、アイリンは言葉が
「あ、そうだったのね」
「でも文字は読めるし、頭のいい子だ。よろしく
「うん、任せて」
シェラはアイリンを連れて屋敷に入り、空き部屋まで案内してくれた。俺は部屋の
部屋に入るや
「あの子には
「さあな」
「ちょっと
「どうしてだ」
「さあね」
シェラが笑った。
「で、結局二人はどういう関係なの?」
「それが……」
俺はアイリンとの出会いを簡単に説明した。
「家族ではないけど、家族みたいな関係……と言えるかもしれない」
「そうか」
シェラが
「じゃ、あの子の実の家族はどうなったの?」
「それは……知らない」
「え?」
「聞かなかったんだ」
俺は少し間を置いてから説明を続けた。
「
「そうか」
シェラがしんみりした表情になる。
「だから
「それは理解できるけど……家族みたいな存在なら、やっぱり聞いてみた方がいいんじゃないかな」
「そうかもな」
「ごめん、ちょっと出過ぎた発言だったね」
「いや、いいんだ」
シェラの言うことも一理ある。俺は内心そう思った。
「大体の事情は分かったし、私が大事に預かってあげるね。
「ありがとう」
俺が感謝すると、シェラは俺をじっと見つめる。
「ね、父さんもあんたも大変みたいだけど……何かあるの?」
「いろいろあるさ」
「詳しく説明する気は無い?」
「すまないが、知らない方がいい」
「ふーん」
シェラが横目で見てきたが、この件に関しては本当に知らない方がいい。
それから俺たちは庭園の
「そう言えばさ」
シェラが俺の顔を凝視する。
「この間聞いた、あんたの目標なんだけど」
「ああ」
「それ……理解できなくもないかな、と」
シェラは顎に手を当てる。
「王国を
「そうか」
「うん、それに自分を高めることは悪くないと思う。だからあんたの目標、私は認める」
「お前に認められてもな」
俺は笑った。
「そういうお前の目標は何だ?」
「私の目標?」
俺の質問にシェラは
「そうね。
「格闘場で?」
「うん」
「ロベルトがお前の参戦を許すはずがない」
「分かってるわよ、そんなこと」
シェラは不満げな顔になる。
「でも私は戦ってみたいんだよ」
「下手したら命まで危ない。たとえ命が無事でも、鼻が折れたり顔に傷がつくことは普通にあるぞ」
「そ、そんなこと
「いや、怖がれよ」
俺は苦笑した。
「一応俺も格闘場の選手だ。俺と散々戦ったからいいじゃないか」
「あんたは強すぎるし、私の先生だから別」
「ややこしいな」
その時、いい考えが思い浮かんだ。
「そう言えば、俺以外の選手たちと戦う方法がある」
「本当? じゃ、早く戦わせて!」
「スカート姿で戦うつもりか?」
「あ、
シェラは
---
それから十五分くらい後、俺はシェラと一緒に街を歩いた。
「あんたと一緒に
「面白い? 普通に歩いているだけじゃないか」
「いつも屋敷の中だったからね、私たち」
シェラが
「外ではずっとフードを
「ああ」
「暑そうね」
俺は夏にもフードを被って自分の
街の中は
「それにしても……」
街の中を
「格闘場で戦うのが目標だったのか。普通の女の子の発想ではないな」
「あんたが言ったでしょう? 私には
「なるほど」
真面目に強くなろうとしているんだな。確かにシェラもそろそろ実戦の経験を積んでいく必要がある。
「でもそれだけじゃなく、単純に戦いたいという気持ちもあるんだろう?」
「うん、それもある」
「本当に好戦的だな」
「それはあんたも同じでしょう? 『気に入らないから王国を滅ぼしてやる』とか言ったくせに」
シェラが俺の声を
「確かに反論は出来ない。俺も戦いが好きで好きでたまらないんだ」
「でしょう? 私たちって、ある意味お似合いかもね」
俺は少し驚いて、シェラの方を見つめた。シェラは素早く視線を
「こっち見ないで。失言だった」
「何を
「だからこっち見ないで」
シェラの反応に俺は笑った。
「何なら俺の女になれ。それなら恥ずかしがる必要も無い」
「な、何言っているの!? ぶっ飛ばすわよ!?」
シェラが本気で
やがて俺たちは港の近くの倉庫で足を止めた。ここは『レッド組』の
「ボス!」
俺が入ると、
「ボ、ボス……そっちのお
レイモンがみんなの代わりに質問してきた。
「ロベルトの娘のシェラだ」
「初めまして、シェラと申します」
シェラが挨拶すると、組織員たちも「は、初めまして」と挨拶する。彼らは明らかに
「何してるんだ? 鍛錬を続けろ」
「は、はい!」
組織員たちは急いで鍛錬を再開する。
「へえ、
「みんな格闘場の選手たちだ。そこら辺の連中とは比べ物にならないほど強い」
「凄い……」
シェラは目を
「ゲッリト、ちょっとこっち来い」
「はい!」
俺が呼ぶと、鉄の棒で筋肉を鍛錬していたゲッリトが
「何事ですか?」
「お前、今からここにいるシェラと対決しろ」
「わ、分かりました」
ゲッリトは慌てながらも対決の準備をした。シェラも前に出て、真ん中の広い空間でゲッリトと
「ゲッリト、手加減は無用だ。いつも通り、真面目に戦え」
「はい!」
ゲッリトとシェラが同時に
シェラは昔とは全然
「はあっ!」
ゲッリトが先に打って出た。彼は女の子に慣れているというか、女の子の前だからって必要以上に緊張したりしない。だからこそシェラと戦わせた。
「っ……!」
ゲッリトの激しい攻撃に、シェラは
「おらあ!」
ゲッリトの回し
「勝負ありだ」
俺が宣言した。ゲッリトは手を
「
「……だ、大丈夫。まだ戦える」
シェラは平静を
「無理するな。次の戦いは、完全に回復してからだ」
「うん……」
俺はゲッリトの方を振り向いた。彼はとても申し訳なさそうな顔をしていた。俺が頷くと、ゲッリトは鍛錬に
俺とシェラは一緒に本拠地の隅に座って組織員たちの鍛錬を眺めた。シェラは少し
「やっぱり私はまだまだ弱いんだね」
「いや、よく戦った。さっきも話したけど、ここにいる連中は全員強者だ。格闘場でも彼らの
「うん」
シェラの目に
「次は……もっと耐えてみせる」
「それでいい」
俺は頷いて、組織員たちに視線を戻した。そしてあの夜の暗殺者を思い出した。
レッド組の中で、あの暗殺者と対等に戦えるのは俺だけだ。レイモンなら少し
やっぱりあの暗殺者は俺が止めなければならない。問題は……どうやってあいつを俺の目の前まで
---
次の日……俺は本拠地で『夜の狩人』の暗殺者と、そいつを
俺が暗殺者と戦った時点から、当然黒幕も俺の存在に気付いたはずだ。そして少し調べれば、俺がロベルトやビットリオと手を組んだことも分かるだろう。
つまり黒幕は『ロベルト』、『ビットリオ』、『レッド』の三人が自分の敵だということを
何故だろう? 絶対失敗しない暗殺者を派遣すれば、簡単に敵を始末できるはずなのに……何故そうしないんだろう?
尻尾を掴まれることを恐れて、しばらく静かにするつもりなんだろうか? 次の計画のための準備をしているんだろうか? いや、単に暗殺を依頼するお金が足りないのかもしれない。爺の話によると、夜の狩人の依頼費は本当に
どちらにしろ、夜の狩人の暗殺者には俺を
「レイモン、ここは任せた」
午後になり、俺は組織員たちの指導をレイモンに任せて格闘場に向かった。そこでロベルトと情報を
格闘場の中はロベルトの部下でいっぱいだ。しかもみんな武装している。夜の狩人の暗殺者に対する備えだ。
事務室に入ると、そこにも数人の護衛が配置されていた。ロベルトは俺の姿を
「慎重だな」
「はい、
ロベルトが恥ずかしそうに笑った。
暑い夏なのに、事務室の窓は閉められている。外からの
「何か情報を掴んだのか?」
「いいえ。ラズロと女の周りを調査しましたが、何もありませんでした」
ロベルトが首を横に振る。
「ただ……女の身分を証明する書類は、全て
「やっぱりただの娼婦ではなかったんだな」
「鼠の
夜の
「結局黒幕に関する情報は『お金持ち』ってことだけか」
「はい。しかし……お金持ちなのは確かですが、貴族ではない気がします」
ロベルトが慎重な口調で言った。
「貴族ならもっと安全で簡単に人体実験を行う方法があるはずです。例えば一族の領地の
「お金はあっても、表に立って行動するほどの権力は無い……ということか」
「はい。
この『南の都市』は言わば『自由都市』だ。貴族によって統治されているわけではなく、王室から
だが黒幕はその自由の
「もしかしたらこの都市の市民かもしれません」
「それが本当なら、
俺は想像してみた。
「だからこそ、この都市をもう少し細かく調査したいのですが……」
ロベルトが
「私とビットリオさんの組織だけでは、どうしても目の届かない場所がいくつかあります」
「他の組織が管理している場所か?」
「はい」
ロベルトとビットリオはそれなりに大きな組織のボスだが、この都市全体を
「それで私とビットリオさんは、この件を『総会』に報告しました」
「総会?」
「はい」
ロベルトが頷く。
「この都市には無数の組織が存在しますが、その中でも特に
「なるほど」
「私とビットリオさん、そして他の三人が協力すれば……この都市を隅から隅まで調査することも可能です」
俺は頷いた。確かに今の時点では一番有効な方法だろう。
「実は、今夜その総会が開かれることになっています」
「そうか」
「レッドさんも
「俺?」
俺は
「俺の組織はたった七人だけなんだが」
「いいえ」
ロベルトが俺の顔を凝視する。
「今回の件、レッドさんの力が無ければ解決できません。私もビットリオさんもそう思っています。だからこそ六人目のボスとして……総会に参加して頂きたいです」
「……分かった」
あの暗殺者を俺の目の前まで
---
それは
深夜なのに、街の中に大勢の人が並んでいる。しかもみんな険悪な顔をしている
俺は彼らの視線を浴びながら、ロベルトと一緒に夜道を歩いた。
「あそこです」
ロベルトが手を伸ばし、大きな酒場を指さした。その酒場も屈強な男たちに囲まれている。
「あそこが今日の『総会』の場所です。さあ、行きましょう」
「ああ」
酒場の内部には一台の大きな円形テーブルがあるだけだ。そして四人の男がそのテーブルに座ってお酒を飲んでいる。ロベルトが空いている席に座り、俺もその
「お集まり頂き、ありがとうございます」
ロベルトが口を開くと、四人の男が飲酒を中止する。
「今回の総会を始める前に、
ロベルトが俺の方を振り向く。
「今日から総会に参加することとなった、六人目のボス……レッドさんです」
全員の視線が俺に集まる。彼らは俺の肌の色を見ても別に何の反応も見せない。入り口側に座っている若い男だけが、少し
「レッドさん、総会の一員をご紹介させて頂きます。まずビットリオさんは、もうご
ビットリオと俺の視線が交差した。先に来ていた四人の男の中で、
「ビットリオさんの隣のお方が、船乗りと港の労働者を束ねている『クレイ船長』です」
クレイ船長はいかにも海の男らしい、体格のいい中年の男だ。
「クレイ船長の隣のお方が、この都市の
ルアンは頭の良さそうな
「そして最後に、
ゼロムは
「今日からレッドさんも総会の一員ですから、どうか皆さんと友好的な協力関係を築いてください」
「ああ」
俺はもう一度総会の一員を眺めた。ロベルト、ビットリオ、クレイ船長、ルアン、ゼロム……この五人がこの都市の裏を
ロベルトとビットリオは俺に好意的な眼差しを送ってきた。しかし他の三人は……多少の差はあれど、決して俺に好意的ではない。
「ロベルトさん」
最初に口を開いたのは、白髪のルアンだ。
「ロベルトさんに少し質問したいことがあるのですが」
「何の質問でしょうか」
「この会議に参加できるのは、それなりの影響力を持っている組織のボスだけです」
ルアンは事務的な口調で話を続ける。
「もちろんレッドさんの格闘場でのご
ルアンの冷たい視線が俺に向けられる。
「資格ならあるさ」
そう答えたのはビットリオだ。
「この化け物の組織はな、戦いに慣れている連中の集まりだ」
「いくら強くても、たった七人だけでは……」
「あんたの組織の
ビットリオが笑顔で言った。
「ビットリオさんの話通りです」
ロベルトが口を
「確かにレッドさんの組織は七人だけですが、その
「たとえそれが本当だとしても……」
「それに」
ロベルトがルアンを
「今回の件……薬物を流通させていた連中を
「……ロベルトさんがそこまで
ルアンが視線を逸らす。
「皆さんが
別の不満が出る前に、ロベルトが話を進める。
「皆さんもご存知の通り……私たち裏社会の人間は、もう二十年以上昔から薬物禁止の
みんな息を殺して、ロベルトに注目する。
「しかし数年前から薬物による事件が発生し始め……今年は十数人の貧民が薬物の実験に利用され、死にました」
俺はデリックのことを思い出した。あいつはまだ生きているんだろうか。
「もう疑いの余地はありません。死んだラズロと手を組んでいた『黒幕』は、私たちの目を
ロベルトがみんなの顔を見回す。
「今こそ
ロベルトの話が終わると、しばらく
「ロベルトさん」
沈黙を破って口を開いたのは、若手のゼロムだ。
「この都市に対するロベルトさんの愛情にとても
「言い間違い、ですか?」
「はい。私たちが直接
ゼロムは笑顔でそう言った。
「おい、ゼロム。薬物禁止の掟を知らないのか?」
ビットリオが
「もちろん知ってますよ。でもその掟は紛争を避けるためのものでしょう? 貧民が死んだところで、私たちの間に紛争が起こったりはしないはずです」
「私もゼロムの意見に同意します」
白髪のルアンが口を挟んだ。
「そもそもの話、ラズロが死んでから何も起きていません。つまり黒幕はもうこの都市から手を引いた可能性が高いです。我々が動く必要があるんでしょうか?」
ロベルトとビットリオは協力を主張し、ゼロムとルアンは反対した。それでみんなの視線が自然にクレイ船長に集まる。彼は
「うむ」
クレイ船長はゼロムの方を見つめながら頷いた。彼もゼロムに同意しているのだ。
それからしばらく論争が続いた。ロベルトとビットリオは例の薬物が悪名高い『天使の
そして論争を眺めていた俺は……席から立ち上がった。
「……あんたら」
俺が口を開くと、みんな論争を中止して視線を送ってくる。
「本気で言っているのか?」
俺はゼロムとルアン、クレイ船長を睨みつけた。
「あんたらは全員この都市の裏を牛耳っている人間だ。この都市はあんたらの縄張りと言っても過言ではないはずだ」
酒場の中に俺の声が
「得体の知れないやつが自分の縄張りに入ってきて、好き勝手にしているのにそれを見過ごすつもりか? それでも組織のボスと言えるのか?」
ゼロムとルアン、そしてクレイ船長は何も言わなかった。
「……化け物の言う通りだ」
ビットリオが言った。
「これはもう損得の問題ではない。黒幕のやつは私たちを
「しかし……」
ルアンが口を開く。
「その黒幕は、もうこの都市から手を引いた可能性もありますが」
「そんなわけがあるか」
俺が反論した。
「そもそもやつがこの都市で活動していたのは、ここが数少ない自由都市だからだ。毎日数えきれないほどの人々と商品が出入りしているからこそ、やつも自由に動くことが出来た。それなのにこの都市から簡単に手を引くわけがないじゃないか。いや、手を引くどころか……次はもっと
ルアンは口を
「これは面白いですね。まさか新参からそこまで言われるとは」
ゼロムと俺の視線がぶつかる。
「ま、仕方ありませんね。正直に言いましょう。私は怖いんです」
ゼロムは
「どんな方法を使ったのかは知りませんが、その黒幕ってやつは……伝説の暗殺集団である夜の狩人を雇いました。つまりやつに対抗すれば、私の頭も一晩で消えてしまうかもしれないんです」
みんなゼロムを見つめたが、ゼロムは顔色一つ変えずに話を続ける。
「私はもっと生きたいんです。この件を解決するために命までかけるつもりはありません」
「ゼロムの言う通りだ」
ルアンがまたゼロムに同意する。
「私たちは黒幕についてほぼ何も知らない。それに対してやつはいつでも暗殺者を派遣できる。こちらから動くにはあまりにも危険度が高い」
「その危険、全部俺が背負ってやる」
俺は声を上げた。
「あんたらが動く必要も無い。ただ俺の行動を
全員の顔を見回して、俺は説明を続けた。
「この件の実質的な指揮者は俺だと公表しろ。黒幕に対する調査や
全員息を殺して俺を見つめる。
「この
「……面白い」
ずっと黙っていたクレイ船長が口を開いた。
「面白いやつだな、レッド。気に入った」
クレイ船長は席から立ち、俺に近づく。
「欺瞞工作は
「ありがとう」
俺はクレイ船長と
「他の2人は? さっき話した通り、協力したくなければ俺の行動を黙認するだけでいい」
「ま、分かりました」
ルアンが答えた。
「協力はちょっと危険がありますが、情報交換くらいなら出来そうです」
「ありがとう」
俺は残り一人、つまりゼロムの方を見つめた。彼は俺を好奇の目で見ている。
「あんたはどうだ? 協力したくなければ……」
「いえいえ」
ゼロムが首を横に
「ちょっと
「別に大した理由は無い。黒幕を探し出して、その顔に
「なるほど」
ゼロムは笑った。
「分かりました。私も情報交換くらいなら出来ます」
「ありがとう」
これでこの都市を
---
総会が終わり、俺とロベルトは
周りにはまだ屈強な男たちが並んでいる。ボスたちの安全のためだ。
「……レッドさんのおかげです」
ふとロベルトが口を開いた。
「レッドさんのおかげで、全員の協力を得ることが出来ました」
「これで少しでも
大きな都市を徹底的に調査するのは、決して簡単な作業ではない。でも今は出来るだけのことをやるしかない。
「しかしレッドさんが指揮を
「最初からそのつもりだったのさ」
俺は笑った。
「直接戦ってみたから分かる。あの暗殺者は……俺が相手にしなければならない」
「……本当に感服
ロベルトが俺を見上げる。
「私はレッドさんの器を高く評価しているつもりでした。でもそれすら過小評価だったのかもしれません」
「さあな」
俺はニヤリとした。
「それよりロベルトさん、総会の一員なんだけど」
「はい」
「あの中の一人が『黒幕』である可能性は無いのかな?」
俺の質問に、ロベルトは少し間を置いてから答える。
「その可能性は……否定できません」
「やっぱりか」
俺は
「ま、あんたとビットリオは除外してもいいだろう」
「はい」
ロベルトが笑顔で頷いた。
ロベルトとビットリオを除けば……残りはクレイ船長、ルアン、ゼロムの三人だ。この三人なら暗殺者を雇えるほどの財力もあるだろう。
「三人をこっそり調べることは出来るだろうか?」
「難しいと思います」
ロベルトが首を横に振った。
「彼らは組織を率いているし、ある程度の情報力も持っています。気付かれずに調査することはほぼ不可能でしょう」
「そうだな」
やっぱり今は少しずつ手掛かりを探していくしかないか。
---
そして翌日の朝、俺は組織員たちと一緒に
「もう説明した通り、暗殺者が俺を狙ってくる可能性が高い」
俺は組織員たちを眺めながら話した。
「もし
組織員たちは口を
「よし、出るぞ」
「その、ボス」
リックが俺を呼んだ。
「どうした、リック?」
「例の食堂のことですが」
「食堂?」
「トムが紹介してくれた食堂です」
「……ああ、あれか」
俺が率いている『レッド組』は、まだちゃんとした収入源を確保できていない。だからいつも運営資金に
「で、どうだった?」
「トムの話通り、結構安定した食堂でした。買取りすれば組織の運営に役立つはずです」
「それはよかったな。じゃ、今夜食堂の店主に会ってみよう」
「はい」
俺は組織員たちを率いて本拠地を出た。今日は本拠地の周り、すなわち港の周辺を調査するつもりだ。
「……ん?」
ところが……本拠地を出た
「お前は……デリック?」
それはデリックだ。薬物『天使の涙』の実験に利用され、俺と戦ったあのデリックだ。
「どうしてここにいるんだ?」
デリックは薬物中毒により、もう長く生きられない。だから俺は
「レッドさん、
デリックの顔はひどくやつれていて、今にも倒れそうだ。
「僕は、役に立ちたいんです」
デリックは
「僕は
いつの間にか彼は泣いている。
「知っています。僕は馬鹿です。生まれてこの方、人の役に立ったことなどありません。いつも
「デリック……」
「でもせめて、死ぬときだけは……役に立ちたいんです!」
デリックは涙を流しながら
「その心、しっかり受け取った」
「レッドさん……」
「今日からお前は俺の組織の一員だ。一緒に……この都市を守り
「……ありがとうございます!」
そうやってレッド組は八人になった。
---
俺は組織員たちと一緒に船着場に行った。そこには数十人の屈強な男が並んでいた。俺が近づくと、その中の一人が俺に話しかけてくる。
「レッドさんでいらっしゃいますか?」
「ああ」
「クレイ船長の命令により、今日からレッドさんに協力することになりました」
彼らはクレイ船長の部下たちだ。約束通り、俺を手伝ってくれるのだ。
俺は彼らと俺の組織員たちに調査を命令した。怪しい連中、捨てられた建物、
もちろんその中に手掛かりがある可能性は低い。だが『その中に手掛かりは無い』ということだけでも確認するべきだ。
「デリック、お前は俺についてこい」
「はい」
デリックは今にも
「……大丈夫か?」
「はい」
デリックの声には
やがて俺たちは港の
「ここは……」
デリックが目を見開く。ここはデリックが俺に教えてくれた、薬物の売人の
「先日、俺と組織員たちがここを襲撃して、中にいたやつらを全員
「そうですか……」
「だがまだ手掛かりが残っているかもしれない。探してみよう」
「はい」
俺とデリックは
「お前はここで実験を受けたんだろう?」
「はい、あそこの地下室で……」
デリックは手を
「薬物を飲まされたり、持久力と筋力を
「それで最後は
「はい」
なるほど。
「実験を担当したのは誰だった?」
「売人とその手下たちでした」
「そいつらは全員捕まえたけど……その背後にいる『黒幕』については何か知らないのか?」
デリックはしばらく
「そう言えば……」
「何か思い出したのか?」
「はい、たった一度だけ……見知らぬ二人が実験に立ち会ったことがありました」
見知らぬ二人?
「一人は中年の男でした。体格がよくて、ちょっと
「もう一人は?」
「もう一人は……フードを
体格のいい中年の男と、顔を隠していた男か。
「今考えてみると、その二人は売人に指示をしているような感じでした。もしかしたら実験の黒幕だったのかもしれません」
「その二人について、他に覚えていることは無いのか?」
「はい。一度だけ、しかも遠くから見ただけでして……」
俺は頷いた。
「ありがとう、いろいろ助けになる情報だった」
俺がそう言うと、デリックの顔が少し明るくなる。
二人の男……俺はこの情報についてもっと調べるために、売人の隠れ家を出た。
---
俺はまず
「レッドさん」
格闘場の事務室に入ると、ロベルトが俺を
「ロベルトさん、ちょっと
「何でしょうか」
俺は単刀直入に話を進めた。
「死んだラズロのことなんだが」
「はい」
「彼は口髭を生やしていたのか?」
「はい、彼は長い口髭を生やしていました」
「じゃ、可能性はあるな」
俺はデリックから聞いた情報をロベルトに話した。
「長い口髭が印象的な、体格のいい中年の男……確かにラズロさんの
ロベルトと俺の視線が交差した。
「つまり、もう一人が……?」
「ああ。顔を隠したまま実験に立ち会ったこと、そしてラズロと対等な関係に見えたことからして……そいつが『黒幕』である可能性が高い」
「そうですね」
ロベルトが頷いた。
「デリックは『普通の体格の男だった』と証言した」
「普通の体格の男……」
「ロベルトさん、『総会』の一員の中に……普通の体格の男がたった一人だけいるような気がするんだが」
俺がそう言うと、ロベルトが目を見開く。
「まさか……」
この都市の裏を牛耳っている総会の中で……ロベルトは長身、ビットリオは太った体型、クレイ船長は
「もちろんゼロムが黒幕だと確定したわけではない。だがやつは総会で黒幕に敵対することを反対した。怪しいといえば怪しい」
「そうですね」
「ゼロムのことを
「分かりました」
その時、ロベルトの部下が事務室に入ってきた。
「ボス、急な知らせです!」
「何事だ?」
「ビットリオさんが……警備隊隊長殺害の容疑で
俺とロベルトは驚いて、
「ロベルトさん、これは……」
「はい、
ロベルトが深刻な顔で言った。
「ラズロさんが殺害された事件と、ビットリオさんの関係性についてはまだ知られていないはず。それなのに逮捕されたということは、どこかで情報が
「まずビットリオから話を聞いてみよう」
「はい、面会に行きましょう」
俺とロベルトは
警備隊本部は高い
俺たちは正門に近づいた。すると門番が無表情で口を開く。
「どういうご用件ですか?」
「容疑者の面会に来ました」
ロベルトは
「……身体検査をします」
門番は俺たちが武器を持っていないか検査した後、正門を開けてくれた。
正門を
警備隊本部の内部に入ると、士官に見える男が「
「容疑者の面会に来ました。規則上、問題ないはずです」
ロベルトは士官にも数枚の銀貨をそっと渡した。士官は
「余計な
「分かっています。注意します」
結局俺たちは兵士たちの
「おい、こっちだ」
階段のすぐ隣の牢獄から呼び声がした。振り向くと、太った体型の中年男性が見える。
「ずいぶん早くきてくれたな、ロベルト。そして化け物」
「意外と気楽みたいだな」
「私を誰だと思ってるんだ? 牢獄などもう慣れている」
「流石裏組織のボスだ」
俺は笑った。
「で、どうやって逮捕されたんだ?」
「女が
「女?」
「ああ、特別調査官とかいう若い女だった。結構いい女だったなー」
特別調査官?
「その女は私たちがラズロ
ビットリオは顔を
「ビットリオさん、拉致に関する情報が漏れたということは……」
「密告だ。他に何がある?」
ビットリオが立ち上がる。
「拉致について詳しく知っているのは、私の部下たちと総会の一員だけだ。もちろん部下たちが私を裏切ったはずはない。そんなことすればどうなるのか、みんなよく知ってるからな」
「じゃ、総会の誰かが密告したと?」
「もちろんだ。たぶんルアンかゼロムだ。私たちを
俺とロベルトの視線が交差した。やっぱりゼロムが怪しい。
「とにかくお前たちも注意しろ。あの女……
「あんたこそ気を付けろよ」
「だから私を誰だと思ってるんだ? 適当にお金をばら
ビットリオが不敵に笑う。この調子だとしばらく問題なさそうだ。
俺とロベルトはビットリオと別れ、警備隊本部を出て正門へ向かった。これから密告者の正体を追跡するべきだ。ところがその時……誰かが兵士たちを率いて、正門を潜ってきた。
「レッドさん」
「ああ」
俺とロベルトは
「そこの二人」
女がこちらに向かって声を上げる。
「ちょっとこっちに来い」
確かに美人ではあるが、なかなか高圧的だ。俺たちは
「フードを外せ」
女が俺に向かってそう言った。俺は無言でフードを外した。
「……なるほど。本当に赤いんだな」
女が
「お前たちがロベルトとレッドなんだろう?」
「はい」
ロベルトが女の質問に答えた。
「仲間の面会に来たのか?」
「はい、ビットリオさんと面会して帰るところでした」
「……少し話がある。ついてこい」
結局俺たちは女の後ろを歩いて、今出たばかりの警備隊本部に
女が窓側の大きな机に
「私は」
女が俺たちを
「王室直属の
立派な貴族様か。ま、高圧的な態度からしてそうだろうな。
「お前たちについてはいろいろ聞いた。特に赤い方は……一人で百人を倒したとか」
ドロシーが俺に冷たい
「その
「
俺の答えにドロシーは「ふっ」と笑う。
「まあ、いい」
ドロシーは机から腰を上げて、俺に一歩近づく。
「私は警備隊隊長ラズロを殺した犯人を探している」
「言っておくけど、ビットリオと俺たちは殺していないぞ」
「それは分かっている」
何?
「犯人は……『夜の
「知っていたのか。じゃ、どうしてビットリオを逮捕したんだ?」
俺はドロシーを睨みつけた。赤い
「お前たち三人がラズロの
「誰からの密告だ?」
「それを教えるとでも思うのか?」
ドロシーの声が冷たくなる。
「現場の状態からみて……誰かがラズロの護衛を倒し、彼を拉致しようとしたのは確かだ。そしてその誰かは相当な強者だ。護衛を全員
ドロシーが俺の顔を
「レッド、お前ならそれが出来ると思うけど」
「ドロシー
ロベルトが
「ラズロさんと私たちの間に少し
「そんな言い訳は通用しない」
ドロシーの声が
「正直に言ったらどうだ?」
「ああ、正直に言ってやる」
俺はドロシーに一歩近づいた。もう俺とドロシーは互いの息を感じるほど近い。
「ラズロの拉致を計画して、護衛を倒したのはこの俺だ」
「レッドさん」
ロベルトが
「……どうしてラズロの拉致を計画した?」
「あいつがこの都市に薬物を広めていたからだ」
俺は全部説明した。ラズロが薬物を広めていたこと、だから拉致を計画したこと、しかしもう殺されていたこと……もちろん全部俺が独断でやったことにした。
「ロベルトとビットリオは、俺の独断に巻き込まれただけだ。計画を立てたのも、実際に動いたのも全部俺だ」
「ふーん」
ドロシーが
「つまり、お前たちは裏組織のくせにこの都市を守ろうとした……そう主張するのか?」
「ああ、そうだ」
俺もドロシーに冷たい視線を送った。
「そもそもお前ら
俺がそう答えると、ドロシーの左右の兵士たちが
「言ってくれるね」
だがドロシーはむしろ笑顔を見せる。
「ま、ここでお前たちを逮捕することも出来るけど……」
ドロシーは足を運んで、再び机に腰掛ける。
「今日のところは帰っていい。ただし……この都市から
ドロシーの眼差しは
---
その後、俺とロベルトは格闘場に戻って今の
「密告者か」
やっぱり当面の問題はそれだ。一体誰が俺たちの拉致計画について密告したんだろう? やっぱりゼロムだろうか?
「でも少し雑ですね」
「雑?」
「はい。密告って、裏社会ではそこまで有効な方法ではありません」
ロベルトが
「たとえ密告で逮捕されても、組織のボスが
「ふむ」
「たまにドロシー卿のような使命感の強い人もいますが、その上の人間に賄賂を
なるほど。
「それに密告したことが追跡されて正体を知られたら、密告者はもう裏社会では生きていけません。つまり密告って効果は低いのに危険度だけ高い方法です」
「じゃ、もしゼロムが本当に『黒幕』だとしても……密告したはずはないと?」
「はい、ゼロムらしくないし……黒幕らしくもないです」
「確かに」
自分の正体を隠すために味方まで殺した黒幕が、そんな雑な方法を使うわけがないか。
「しかもこの密告によって、薬物や人体実験の件が警備隊の耳にも入るようになりました。黒幕としては損ばかりであまり得はありません」
「そうだな。じゃ、一体
ロベルトはしばらく考えてから口を開く。
「そうですね。
「どうしてだ?」
「あの人は
俺は
「その臆病な性格のおかげで、
「なるほど」
裏組織のボスのくせに臆病者か。
「じゃ、ルアンが密告者かどうか……確認してみよう」
「確認、ですか?」
「ルアンの
俺はニヤリと笑った。
「手紙の内容は『お前のやったことは全部分かっている。レッドより』でいいだろう」
「なるほど」
ロベルトもニヤリと笑う。
「確かに効きそうですね。すぐ手配します」
「ああ」
俺は頷いてから、話題を変えた。
「しかし……何故ドロシーは俺たちを逮捕しなかったんだろう? もちろんすぐ
「あのお方は、たぶんレッドさんに興味を持っています」
俺に興味?
「レッドさんの力を
「なるほど、そういう興味か」
「もうすぐ向こうから
「そうかもな」
あの女が何を
---
俺はロベルトと別れて大通りを歩いた。組織員たちと合流しなければならない。しかし一人で歩いてから間もなく、俺は自分が
「へっ」
俺もいろんな意味で注目されているな……と思いながら、
「やることが
いつの間にか後ろからも三人の男が現れ、俺は完全に包囲された。
お前らの所属はどこだ? と聞くまでも無い。パッと見ただけでも、よく訓練されている連中だと分かる。この都市でここまで訓練されている連中は……『レッド組』を除けば、正規軍だけだ。
六人の屈強な男は少しずつ
「ぬおおおお!」
俺も正面のやつらに向かって突撃した。三人の男が俺を
「ぐおおおお!」
倒れた男の身体を持ち上げて、後方から
「うぐっ……!」
結局六人は
「そこまでだ」
いきなり女の声が聞こえてきた。振り向いたらそれは……もちろんドロシーだ。彼女は多数の兵士を率いて、俺に冷たい視線を送っていた。
俺が無言で見つめると、ドロシーは俺に近寄る。
「……訓練された六人の兵士を
彼女は倒れている男たちを見下ろす。
「騎士の中でも、こんなことが出来るのは少数だ。しかも武力だけではなく、
俺はドロシーを睨みつけた。
「俺の力を試してどうするつもりだ?」
「利用価値がある者は、利用せねばな」
ドロシーの
「どうだ、私の下で働いてみないか?」
「断る」
俺は
「対等な関係を築きたいのなら、協力してやる。しかしあんたの下で働くつもりは無い」
「対等な関係? 私と?」
ドロシーが
「私が一言命令を出せば、お前はここから生きて帰れない」
多数の兵士たちが並び立って、ドロシーの命令だけを待っている。場合によっては……