夏の間、シェラと結構な時間を一緒に過ごしたけど……結局何も起きなかった。それでいい。俺はロベルトの
俺は頭の中で未来のことを描いてみた。
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南の都市の大通りを歩いていると、自然に港とその向こうの海が視野に入ってくる。そして自然に笑顔が思い浮かぶ。海を初めて見た少女の明るい笑顔が。
あの笑顔はたぶん一生忘れられないだろう。そう思っていると、いつの間にか俺も笑顔になる。
十五分くらい後、俺は大通りの西側の大きな建物に
「レッドさん」
俺がフードを外すと、男たちが急いで席から立ち上がる。
「うちのボスから話は聞きました。真ん中の部屋で医者が待っています」
「分かった」
俺は男たちの横を通って、
「あんたは……」
初老の男性が本から視線を外して、俺を見つめる。
「なるほど、あんたが噂の『赤い化け物』だな」
「ああ」
俺が
「私は医者の『グレッグ』だ」
「俺はレッドだ」
俺とグレッグは
「この都市の医者たちは、あんたのことをよく知っているさ」
グレッグがニヤリと口元を
「あんたのおかげで
「どういたしまして」
「感謝していない! おかげでこちらは過労死しそうだったんだ!」
俺は苦笑した。医者にしてはちょっと変わった人だ。
「そんなことより、デリックはどこだ?」
「案内するよ。ついてこい」
俺はグレッグと
ここはロベルトが経営している
「……デリックは本当に長生きできないのか?」
「ああ、そうだ」
グレッグが頷く。
「出来るだけの
「じゃ、後どれくらい生きられるんだ?」
「それは私にも断言できない。明日死ぬかもしれないし、半年後に死ぬかもしれない」
長くても半年ということか……。
俺たちは診療所の東側まで行き、そこの部屋に入った。
「あ……」
男が上半身を起こす。俺の十一戦目の相手、デリックだ。
「じゃ、会話を楽しんでくれ」
グレッグが部屋を出た。それで俺はデリックと二人きりになった。
俺は寝台の近くの
「俺がここに来た理由が分かるか?」
「……はい」
デリックが静かな声で答えた。試合場では強敵だったのに、こう見ると普通の青年だ。
「
「ああ」
俺が頷くと、デリックは俺の顔を
「それを知ってどうする気ですか?」
「もちろん
「
デリックが眉をひそめる。
「まさか正義の味方のつもりですか?」
「いや、そんなわけがあるか」
思わず苦笑いしてしまった。
「気に入らないから叩き潰すだけだ。それ以上の理由は無い」
デリックは口を
「……不思議だ。
「嘘ではないからな」
「ただ気に入らないからって、危険な人々と戦うつもりですか?」
俺とデリックの視線が交差した。
「俺は生まれてこの方、気に入らないものがいっぱいだ。いつかは全部叩き潰してやるつもりさ。薬物の売人なんて、その一つに過ぎない」
「……噂以上の化け物ですね、
デリックが微かに笑う。
「分かりました、売人の情報を教えます」
デリックは俺にある建物の位置を教えてくれた。
「そこに行けば、売人とその手下たちに会えるはずです」
「もう一つ教えてくれ。お前は何故薬物中毒になったんだ?」
その質問に、デリックは少し間を置いてから答える。
「最初はお金のためでした。新しい薬物の実験に参加すれば、大きなお金を
「実験か」
やつらは薬物の流通だけではなく、開発もしているわけか。
「それで気が付いたら中毒に、ということか?」
「はい、やつらの言いなりになるしかありませんでした」
デリックはもう死を覚悟した顔だ。
「格闘場で戦ったのも、薬物の効能を
「なるほど」
俺は頷いてから、もう一つ質問をした。
「デリック、お前はこれからどうするつもりだ?」
「どうするも何も……」
デリックが
「もう僕には何もありません。
「じゃ、これを受け取れ」
俺は手持ちのお金を全部デリックに
「この都市の出身じゃないだろう? 馬車に乗って、故郷に戻れ」
「貴方は……」
「
「……ありがとうございます」
デリックが
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その日の午後、俺はいつも通りシェラに
「暑い」
シェラが手で
「じゃ、今日はここまでにしよう」
「え?」
シェラが目を丸くする。
「でも、まだ三十分も経っていないよ?」
「この暑さの中で無理して動いても、あまり
「それは……そうかも」
「ああ、だから今日はここまでだ。ご苦労さん」
俺が身体の向きを変えて
「レッド!」
「ん?」
「そのまま帰るつもりなの?」
シェラが俺に近づく。
「うちには大きな浴室があるし、洗っていってね!」
「俺はお前と一緒に身体を洗うつもりは無いんだが」
「だ、誰があんたと一緒に……!」
「ムキになるな。
俺は暑さにも寒さにも強い方だし、そんなに汗もかいていない。でも今日くらいはいいだろう。
「分かった。浴室に案内してくれ」
「うん!」
俺はシェラの後を追って、屋敷の本館に入った。
もうシェラに格闘技を教え始めてから結構な時間が経ったが、本館に入ったのは初めてだ。ロベルトが食事に
広くて綺麗な廊下を歩いて屋敷の北側に向かうと、大きな両開きの扉がある。シェラが両手でその扉を開く。
「ここが浴室!」
「広いな」
大理石調
「お前はどうする気だ? 一緒に洗わないのか?」
「そういう冗談は要らない!」
シェラが睨んでくる。
「私は自分の部屋に浴室がついているから」
「なるほど。じゃ、俺はここで洗う」
「うん。あ、
「俺に合う大きさの服があるのか? じゃ、頼む」
シェラがその場を去ると、俺は服を
壁についてる蛇口から温かい水が出ている。まず身体を洗って首まで水に
それから三十分くらい経ったんだろうか。入浴を終えて浴室の入り口に向かうと、結構高級な服が用意されていた。俺はそれを着た。
「シェラはまだか」
俺は廊下の椅子に座ってシェラを待った。せめて
「レッド!」
数分後、シェラが現れた。彼女はいつもの短いズボンではなく、女の子らしいスカートを
「お前もスカートを穿くことがあるのか?」
「何言ってるの?
シェラが怒った顔で睨んでくるが、可愛いだけだ。
いや、俺は何を考えているんだ。今日の俺はちょっと……いつもより
「とにかくありがとう。服は明後日返す。じゃ、俺はこれで」
「ちょっと!」
シェラが俺を呼び止める。
「せっかくだからお話ししようよ!」
「話?」
俺は
「用件でもあるのか?」