「いたい……」
夢なのか、はたまた現実か。
何がどうしてこうなったのか?
「落ちちゅけ、わたち」
…………。
心持ち回りにくくなったように感じる口調と高い声に
焦っているとき程気持ちを落ち着けろ。深呼吸して足りない酸素を頭に回せ。冷静さを取り
ちらり、鏡へ瞳を向ける。
目の前には
カクカクと両手を
……『私』で間違いなさそうだ。
動いている。こちらが動く
(私は誰だ?)
考えても考えても、三十三年間馴れ親しんだ筈の名前は出てこない。代わりに。
「まぐのりあ・ぎるもあ」
私は、マグノリア・ギルモア。
くり返し、自らに問う度に
そして次々に浮かぶ、この世界の生活の
頭でもぶつけて、夢でも見ているのだろうかと首を
それとも、頭がおかしくなってしまった……とか。
(ありえる。だって、通常の
名前も顔も思い出せないが、日本の街並み、職場で
休みに買い物をするスーパー。通勤する満員電車の日常。
たまに帰る実家の匂い。
近所の大きな犬。
断片的に頭の中にある、もう一人の自分の記憶。
お母さんが育ててる
住宅地の電信柱にとまる
小学校の頃の、運動会の空に行きかう赤とんぼ。
たまに降る雪に足を取られ、都会の道で転ぶニュース……
多分五歳にもならないだろうこの子に、そんな
動画で流れてた景色? テレビで観た風景?
「お
さらさらとした衣擦れの音と共に、五十代だろう、やや丸みを帯びた体形の女性が続き部屋の
大きく
「目を覚まされたのですね。おはようございます、お嬢様」
誰、と言う前に勝手に口が動く。小さな小さな、愛らしい声で。
「……おはよう、ロサ」
この人はロサ。ロサ・ラグレー。
マグノリアの
まるで当たり前のように、そこにある記憶。
何故、
何故、駅近の小さなワンルームじゃなく、
トラ転。
大人なのにラノベが好きな、アイツから借りた本の
アイツ……中学からの友人の、アイツの名前はなんだった?
――異世界転生。
転移?
馬鹿馬鹿しい設定が、頭に浮かんでは消え、浮かんでは消え。
サーーッと、背筋に冷たい何かが走る。
(いや。トラックにぶつかっていないし。川にも落ちてないし。飛行機にも乗っていなかったから、
階段から転げ落ちた記憶もない。酒に
(……
色々読まされた設定のひとつ……ある日、病気かなんかで発熱した後に目覚め、前世と『ある物語』を思い出すそれ。
だけどそれ、前世的なところで、病気で急死とか事故で急死、もしくは意識不明の重体とか、何かフラグ的なやつがあるのがセオリーじゃないの!? そう
(いきなり
悪役転生後、ゲーム知識で逆転
勇者や
否定したいのに、じわじわと脳に
アラサー女子が部屋で寝ていたら、目覚めていきなり異世界に転生していた件。
(そんなん、アリなんか!?)
「ははははは……」
小さい
「……お嬢様?」
ロサはゆっくり近づくと、不思議そうにマグノリアをみつめた。