
僕、エピク。
そんな田舎者の僕が、都会にやってきたらどうなるでしょう?
大騒ぎです。
見るもの聞くものすべてが新鮮でおのぼりさんになってしまいます。
A級昇格試験を受けるために王都へとやってきた僕たちですが、主目的は置いておくとしても都会はやっぱり
すっかり魅せられてしまった。
そうなると上京した田舎者がすることとしたら、一つだけ。
観光だ!!
王都の主だった名所を回り、今ここだけの思い出作りをしていくのだ!!
「出かけようスェル!!」
「お
もちろんスェルも観光に同行。
旅の道連れである彼女とも思い出を共有しないとな!
王都のことを思い出せば、スェルのことも一緒に思い出さざるを得ないように、記憶の
何しろ僕とスェルは、ラブラブだからな!!
何なら今回の王都行きは、新婚旅行に置き換えてもいいぐらいだ!!
仮にA級冒険者に昇格できなかったとしても、スェルと二人で王都を回って大切な思い出が作れたら収支はプラス!
……と言えまいか!
「いやダメですよ。一番の目的はA級冒険者になることですから、それがダメになっちゃダメですよ……!」
実際にはS級冒険者になったんだから問題は一つもないけどな。
果たすべき目的を果たしたからには、あとは遠慮なしに余興に
国の中心……王都は、とどのつまりが大都会。
他の土地にはない洗練された最先端の……それでいて歴史を重ねてきた名所旧跡。誰でも一度は名前を聞いたことがある人気スポットが数え切れないほどある。
そんな場所を、片っ端から訪問して制覇してやろう!
さて、ではどこから回るべきか……?
「そこはオレたちにお任せだぜ!!」
現れたのは、若き冒険者アレオくん。
そしてそのパートナーである女魔導士エリーさん。
「オレたちだって生まれて初めて来た王都! 一旗揚げるって大目標とは別に遊び回りたいという願望はあったぜ!」
「国民誰もが憧れる大都会だもの! 王都タワーに上ったって言えば、故郷の友だちが羨ましがるわ!!」
エリーさんも浮かれ気味。
普段はパートナーにして恋人のアレオくんを陰で支える内助の功的印象だが、そんな彼女でも浮かれてしまうのが王都マジックか。
「主だった王都の観光スポットはあらかじめピックアップ済みよ! 王都タワー、王都ドーム、王都動物園、王都美術館、王都公園、王都御苑、王都ミッドタウン、王都スカイツリー、王都レインボーブリッジ、王都たてもの博物館!!」
「どこから行く!? というか全部行こうぜ全部! せっかく王都に来たんだから話題の場所を総ざらいしないともったいないぜーッ!!」
僕たち以上にハイテンションなアレオくん&エリーさんのカップルであった。
これが田舎からやってきたおのぼりさんの、本来のモチベーションなのだろうか?
もしや僕らの方が興奮足りない?
もっと熱くなれよ! ってこと?
そうと気づけば負けてられない!
「スェルよ! 僕らも負けずに全制覇だ!!」
「そうですね! 私たちはもっと微細な、マニアックスポットも回ってよりディープな観光をしましょう!!」
マニアックなスポットって?
王都寄生虫博物館とか?
そんな風に始まる前から僕たちが迷走しかけていると……。
「フッ、王都初体験の田舎旅行者は、いつだって考えることは同じだな」
「あッ、ビリリュートさん!?」
王都のA級冒険者ビリリュートさん。
昨日今日上京したばかりの僕らと違って、王都を拠点に冒険者活動に励む彼はチャッキチャキの王都っ子。
そんなビリリュートさんは、王都の楽しみ方だって知り尽くしているはず。
含蓄のある人の言葉は、重みが違う。
「何よりまず、観光スポット全部回ろうという考えが無謀だぜ。おのぼりさんはまずそこから間違う」
何ッ!?
どういう意味です!?
「王都は広いんだぜ、お前らが思っている以上にな。多分お前らの出身地より二~三倍の面積があろうし、そこに収まってる観光スポットは無数。移動時間もそれなりにかかる」
「うう……ッ」
「限られた旅行日程の中で、そのすべてを回ろうと思ったら、どれだけ
ぐぬぬッ、言い返そうにも正論すぎて言えない。
「しかもお前らみたいに若いヤツは、ちょっとでも旅費を浮かそうと交通機関を使わずに徒歩移動するつもりだろう?」
「ぎくぎくぎくッ!?」
「それだとなおさら移動時間がかかる。まともな観光などとても無理だぞ」
まったくビリリュートさんの言う通り。
僕らも王都での滞在費は、出立の時にエフィリト都市議会の予算から心づけとして預かっている。それにプラス、僕の冒険者としての稼ぎを少々。
大事に使わなきゃということで、できるだけ節約して王都へ
最低ランクの乗合馬車で、休息もなしに強行して腰いわしたりしてな。
そんな僕らのケチケチマインドを、ビリリュートさんは見抜いていた!!
「当然だ。これでも冒険者ギルドの古株、ルーキーの面倒も何度となく見てきたからお前らヒヨッコの考えなんて手に取るようにわかるのさ!」
なんて
「とここまでの講釈で、回るべき観光地は絞るべきことがわかったはずだ。日程にもよるが、まあ三~四ヶ所ぐらいにしておくのが無難だろう」
「はい! その通りです!!」
「そんな中でオレからおすすめのスポットを紹介しよう! そこさえ押さえておけば王都観光は極めたも同然と言える、
おお、これまでで一番頼もしいビリリュートさんの一押し!
いやでも期待が高まるぜ!!
そこは……。
「冒険者ギルドだ!!」
……。
はい?
「全地区に分布する無数の支部ギルド! その頂点にして中心に位置するのがここ王都にある冒険者ギルドだ! その位置づけに
高らかに語るビリリュートさん。
なるほど王都まで来ると冒険者ギルドまで物見の種になってしまうのか。都会のスケールのデカさが
……しかし。
「さらには『ギルドに出入りする有名冒険者を一目見たい!』というのも観光客の大きな目的だな! A級やS級ともなれば憧れの的! そんな高位冒険者を目撃できるチャンスが大きいのも王都の強みだ! オレのようなA級冒険者とお近づきになれて話でもできれば大幸運だ! 田舎への大きな土産話になることは確実!」
手前みそとはこのことか。
挙句に自分自身の話にまでシフトしてきおった。
大きく膨らんだ尊敬の念が、一気に反転してしぼんでいく。
「ただ話をしただけではウソかもと勘繰られるかもな! そんな時に効果を発揮するのがサインだ! 物証があればリアリティが増すもの! お前たちにも一枚ずつ進呈してやろう、どうだ!?」
「けっこうです」
すっかりビリリュートさんへの信頼がマイナス直下になってしまった僕たちは、自分たちで行き先を決めることにした。
「目的地は絞れ……っていうのだけは的確なアドバイスだったな」
そこだけは素直に聞き入れて、まず何より最初にどこへ行きたいかを話し合う。スェル、アレオくん、エリーさんと。
そして決まったのが……。
◆
「皆が最優先で来たがった場所が、ここか」
カポーン。
王都名物、公衆大浴場。
人間生きて動いていれば少しずつ汚れていくもの。汗も出るし
そんな汚れを洗い落として清潔でいるために、街では公衆浴場が設置されている。
誰でも入ることができて、お湯を好きなだけ使い、ついでに体を温めることができる。
どんな街にでも公衆浴場はあるものだが、中でも王都にあるものは別格だ。
国内最大規模で、なんと千人の入浴客が同時利用できるらしい。
敷地内にはいくつもの湯舟が
泡風呂、薬風呂、流れる風呂……僕の故郷のエフィリト街には、こんな目新しい入浴施設はなかった。
当然話題になるということで、王都見物を楽しんだ旅行者は帰ったのち、この大公衆浴場を話題に乗せて
──『王都に行ったら大公衆浴場を体験しておけ』と。
体を洗わないといけないんだから嫌でも体験することになるんだろうけどな、とは思った。
「いやー実はオレ、風呂あんまり好きじゃないんだけどさー」
隣で湯船に入るアレオくんが台無しなことを言った。
「髪が
男だって清潔好きですよ、誤解を招く言い方やめてください。
僕だって、ギルドで虐げられていた時代は金もなく、公衆浴場にも行けずに濡れ雑巾で体を拭くのがせいぜいだった。
冬も冷水でやんなきゃだから寒いのなんのって……。
それに比べれば、こうして温かい湯船に
やはり王都はいいとこだった! 一度はおいで!
「しかしなんで公衆浴場って男女別なんだろうな? せっかく来たのにエリーと別行動なんて……、エピクだってスェルちゃんと離れ離れで寂しいよな? 一緒に風呂入りたかったよなあ?」
何を言っておるのだこやつは?
世間の常識として入浴が男女別なんて当たり前だろうよ。そこは王都だって変わりない。変わりがあってたまるか。
そりゃ大公衆浴場の入り口で別行動。一緒に来た意味あるの? とも思うが、それをここで言ったら変態確定で、つまりはどうしようもないじゃないか。
きっと今頃はスェルも、あの塀の向こうの女湯で、入浴を楽しんでいることだろう。
同行のエリーさんも一緒に、たとえばこんな風に……。
──『エリーさんっておっぱい大きいですねえ、どうしたらそんなに育つんです?』
──『それはアレオが毎晩しつこいから……じゃなく!』
──『え? しつこいのとおっぱい大きいのと何の関係が?』
──『それはスェルさんもそのうちわかってくるわよ、エピクさんがいるんだし』
──『エピクさんが?
──『あーそれよりいいお湯ねえ。肩凝りも溶けてなくなっちゃう』
──『やっぱりおっぱいが大きいと肩凝るものなんですか?』
……とかさ。
いかん想像すると頭のぼせてきた。
お湯の温かさとダブルパンチで意識が遠のいていく……。
「おわ? どうしたんだエピク、顔が真っ赤だぞ!? 危ない! 水だ、冷水をぉおッ!?」
◆
せっかくのお風呂で温まったのに冷や水を浴びせられてしまった。
待ち合わせの時間になったので温まり直すこともなく出た。何とも

「ふぃー、サッパリしたところで今日はどうする? 宿に帰る?」
「その前にもう一ヶ所回りましょう。近場にいいものがあるんですって」
エリーさんの案内で移動。
なんでも名所の一つとして『聖獣の石』なるものがあるらしい。
道端に立っている自然石だが、その形が偶然にも『天馬に見える』というので親しまれ、今では拝みに来る人もいるとか。
民間信仰の
実際に見てみると、その『聖獣の石』というのは人間の背丈程度のなかなか大きな石……もはや岩? その自然にできた形が天馬に似ているのか……?
「この盛り上がった部分が……顔?」
「これが翼の部分でしょうか?」
見立てられた部分を把握するにはなかなかのセンスが必要だった。
ただこの岩、王都の市民には人気があるようで、花やらお菓子が備えられている。
お年寄りが代わる代わる祈っては去っていた。
「王都でもこういった素朴な信仰があるんだな」
「心があったまりますねー」
しかし、そんなほのぼのした空気を引き裂く災いが乱入してくる。
「控えよ! 邪悪な信仰を神は許さん!」
大声を張り上げるのは、やけに身なりの綺麗な男だった。
しかも数人、徒党を組んでいる。
「我々は大聖教会から派遣された神官である! 大聖教会は、この奇岩を邪宗の産物と
そう言って神官とやらが引き出してきたのは、老人を
老人の像は、骨と皮だけと思えるぐらいに痩せ細り、地獄の亡者でもモデルにしているかのようだった。腕がいいだけにモデルの不気味さまで完璧に再現している。
「迷いし信徒たちよ! このような奇岩に祈ったところで何の意味もない! 祈りは大聖教会に
周囲にいる人々はオロオロと戸惑う。
誰もが古くからその場所にあった『聖獣石』に親しみを覚えているというのに、何が悲しくてあんなジジイ像を代わりにしないといけないのか?
「エピクさん……」
「わかっている」
義を見てせざるは勇なきなり。
僕は足音を殺して、亡者ジジイ像に忍び寄ってから……。
「あッ、あっちに金貨が落ちてる!」
「何ッ? どこどこどこだッ!?」
金にがめつい神官たち。
お陰でジジイ像から視線が離れた。
その瞬間を狙って……。
「『消滅』」
僕のスキルで、像は跡形なく消え去った。破片も残さずに。
「チッ、金貨などどこにもないじゃないか……あれッ、教皇様の像は?」
神官たちが視線を戻しても、何もなし。
『消滅』スキルで消し去ったものは、痕跡すら残せない。
だから壊したという証拠も残らないし、僕が何かしたという疑いも起こらないってことだ。
その特性のおかげでかつては魔物を倒した功績も認められなかったが、ちゃんとスキルを扱えるようになると強みに変えられるものだな。
「教皇様の像が!? この場所に収めよと命令を受けたのに!!」
「ええい帰るぞ! 適当に報告しておけば誰も気にせん!!」
神官たちは泡を食って立ち去っていった。
これで人々から慕われる『聖獣石』は危機を
再びこんなふざけたことが起こらないようにアンパョーネンさんにでも知らせておいた方がいいかな?
王都はやっぱり