一章 嫉妬と独占欲



「はい。これ借りてた本。送ってくれてありがとう」

「ん、じゃまた明日ね」

 まゆは、最近付き合いはじめた彼氏の和也の寂しそうな顔を見て、まだ少し一緒にいたいと願ってしまう。

「あの──少しだけお茶してく?」

両親は夜中まで帰らない。ちょっとためらってから聞いてみた。

 ──でも和也くん、真面目だし。お茶だけならいいよね。

「女の子の部屋、甘いにおいがする」


 部屋に上がった和也は緊張した面持ちで言った。

「そんなことないよ。ほら、アロマを毎晩焚いてるから」

「アロマってさ……催淫作用あるって言うじゃん」

「えっ? さいいん?」

 どういう意味か一瞬わからなかったが、しばらくして、エッチな意味だと気づく。

 普段なら和也は下ネタも言わないタイプだ。

「ふざけないで」

 冷たい麦茶の入ったコップを渡すと手と手が触れ合った。どきりとする。

 まだ二人は、軽いキスを何度かしただけだ。

 進んでいる同級生は、もう経験済みだが、和也はそんなにがつがつしたタイプではないし、二人で図書館で勉強したり、一緒に買い物したりするだけで幸せだった。

 だから、そういうことはまだ先だと思っていた。

「ふざけてなんかないって」

 ふいに手を掴まれて、驚いて見ると、目が真剣だった。

 怖くなって、目を逸らす。

「あのさ。まゆ、今日お母さんいないんだよな?」

「え? そうだけど」

「男を家に上げたら怒られるんじゃね?」

「だってお茶するだけだし」

「はぁ……いつまでも俺がおとなしくしてると思うのかよ」

「か、和也くん?」

 そのまま、ベッドのほうへ押し倒し、和也はまゆにキスをした。

 いつもと違うのは、舌まで入ってきて口の中を掻き回されたことだ。

「うっ……ふぁあ」

「まゆー、えっちな声出して、かわいい」

 そのまま、覆い被さるように上に乗られて、抵抗できなくなる。

 ──どうしよう。

「んーっ!」

 あまりに夢中で口を吸われて息が苦しくなる。

 どんどんと和也の胸を叩いて、やめてほしいとアピールする。

「ははっ。ごめん。かわいくて」

「こんなことするつもりで家に来たの?」

「いやー……そんなことないけど、二人っきりで、我慢なんて無理だよ。誰だってそう」

「そ、そうなの?」

 まゆには、親の再婚でできた年の離れた血の繋がらない義兄がいるだけだから、同じ年頃の男の子のことはよくわからない。

 ただ義兄には、幼い頃から男には気を付けろと言われていた。

 ──女の子のくっつきたい、甘えたいみたいな愛情からくるものと、少し違うのかも……。

 いつもよりぎらついた目をした和也は、再び抱きつくと、まゆの首筋に唇を当て、どんどん吐息が荒くなっていく。

 様子がいつもとちがくて、少し怖くなる。

「なぁ、少しだけだから──ちょっと触ってもいい?」

 飼い主に従順な犬みたいなひたむきなまなざしに、胸がきゅんとする。

「す、少しだけなら」

 そういうと、制服の上から胸を揉まれ、思わず吐息が漏れてしまう。

「気持ちいい?」

「わ、わかんない」

 正直よくわからなかったが、和也はどんどん興奮した様子で、制服をたくしあげてきた。

「ちょ、調子に乗らないでよー」

 わざと明るく言うが、和也の欲望スイッチは完全に入ったようで、夢中で下着越しに胸を揉みしだいている。

「まゆさー、わりと胸おっきかったんだな」

 最近急に大きくなってきた胸がコンプレックスで、通学電車で痴漢に合わないように小さく見えるきつめのブラをつけていた。

「ね、そろそろ終わりにして」

「無理。ブラ外す」

「ちょっと! 待って」

 止めた時には、もう遅くて、剥き出しの胸を見られてしまった。

 和也は、感動したように、じっと見入っている。

「乳首かわいい」

「あっ。やぁっ」

 指で摘ままれて、声が漏れた。

 指先でこしょこしょと乳首をいじられて、妙な気持ちになってしまう。

「やぁ、あん……」

「やっべ。興奮してきた。たまんね」

 両手で胸を掴んでは、乳首を痛いほどいじくりまわされた。

 最初よりぷっくりして硬くなった乳首に、和也がむしゃぶりついた。

「やめ、いやぁ」

 餓えた獣のように、貪る姿には、普段の理性的で優しい彼の面影はない。

 身をよじって抵抗しても、女の力では勝てず、部屋に二人の吐息と、吸引音が響く。

 夢中になって吸われると、体に力が入らず、されるがままになってしまった。

「気持ちいいの? まゆ」

「ちょ、もうほんとにやめよう」

「もっと吸うから、もっと気持ちよくなって」

 初めての経験にどうしていいかわからない。胸の先がじんじん痺れて、もうわけがわからない。

 だから、家の中に、誰かが入ってきたことなんて気づかなかった。

「なにをしてる」

 扉を開く音と同時に、低くて冷たい声がした。

 見ると、普段は会社の近くで独り暮らしをしている義兄の涼がいた。

「わっ! すみません!」

 和也は飛び上がり、荷物を持って「失礼しました」と風のように去っていった。

 涼の身長は188センチあるし、昔は空手などもやっていて、筋肉質で顔つきもいかついから、怖がるのも無理はない。

 まゆは一人残され、乳首まで晒された格好で呆然としていた。和也の唾液で濡れて赤く腫れているのに気づいて、急いで着衣を整える。

「涼くん……」

 どうして急に帰ってきたのだろう。土日にたまに帰ることはあっても、平日の夕方に来ることはこれまでなかった。

 その険しい表情を見て、叱られることを覚悟した。