ヒヨコも神殿がほしいです

「ぴぴ」

「おはようヒヨコ」

「おはよう」

起きると、既に起きていた父様と魔王に挨拶される。

「よく寝てたな。もうすぐ昼だぞ」

「なぬ」

父様のお腹の下から這いずり出して時計を確認する。

きれいな装飾の掛け時計を確認すると、もうすぐ正午に差し掛かろうとしていたところだった。

時間が分かると同時に、ヒヨコのお腹がぐぅ~と鳴った。

「ヒヨコ、おなかすいた」

寝てたから朝ご飯を食べ損ねてるし。

「それはいけない! 早くごはんにしよう!」

「そうだな」

父様と魔王が慌ただしく動き始める。

魔王が私を摘んで父様の背中に乗せる。すると、父様はバサバサと翼をはためかせて飛び立った。

ニワトリは飛べないはずだけど、それ以前に父様は神様なのでそんなことは関係ない。

「魔王先いってるよ~」

「分かった」

いつの間にか父様と魔王の連携がとれててヒヨコびっくり。

父様はスーッと飛び、あっという間に食堂に辿り着いた。食堂からは既にいい香りが漂ってきている。もうごはんができてるみたい。

待たせちゃったかな……。

父様は食堂に着くや否や人型になり、私をぴよっと机に置いた。

「はいヒヨコ、ごはん食べようね。ちゃんとお水も飲むんだよ」

「は~い」

父様に介助されてごはんを食べる。すると、後から魔王がやって来た。後ろにずらずらとおじいちゃん達を携えて。

「え? もう来たの? じじい達我慢ができなさすぎない?」

父様がうげっというような顔になる。

誰だろう。父様の知り合い?

ぴよっと首を傾げる。

「とうさま、あのひとたちだれ?」

「暇をもてあましてるじじい達だよ~」

そういって父様が私の口にハッシュドポテトをつっこんでくる。おいしい。

もっもっとハッシュドポテトを食べているとおじいちゃん達が近付いてきた。なんか、普通の魔族からは感じない圧を感じる。ゼビスさんが目の前にいる時みたいな感じ。

一番先頭にいたおじいちゃんがうやうやしく跪く。

「ヒヨコ様、我らにご挨拶をさせてください」

「ぴ?」

予想外に丁寧な対応をされたから動揺して父様を見上げる。すると、父様は微笑んで言った。

「彼らはヒヨコに挨拶をしたいらしい。よければいいよって言ってあげな?」

魔王を見ると、父様の言葉に同意するようにコクリと頷かれた。

そして私はおじいちゃん達に向き直る。

「いいよ」

「ありがとうございます。我らはもう残り少ない原種の種族、その長です。まあ、ただ長生きしているだけの爺ですな」

「ヒヨコです」

やけに鋭い牙を持っているおじいちゃんが指を差し出してきた。

握手かな?

そう思って私も右翼を差し出す。そしてちょこんと指先と羽を触れ合わせた。

「ホッホッホ、かわいいのう」

「おいズルいぞ。儂とも握手をしてくれ」

「我もじゃ」

ヒヨコの前におじいちゃん達の列ができる。

なんか、人気者になった気分。

食べかけのごはんのことなどすっかり忘れ、嬉しくなってみんなと握手しようとした。

「「こらヒヨコ、握手はごはんを食べ終わってからにしなさい」」

魔王と父様の声が被る。

「……は~い」

二人の顔が怖かったので、ヒヨコは大人しくごはんに戻りました。

料理長が作ってくれたごはんはとてもおいしかったです。


食事を終えた後、来てくれたおじいちゃん達みんなと握手をした。

「デュセルバート様にお子様ができたことはとても喜ばしいことですからな、我ら一同で贈り物を持って参りました」

そう言ったおじいちゃんの背後に何かの山が現れる。

「ぴ?」

目を凝らすと、なんだかカラフルでかわいらしい箱の山。

おじいちゃんがにこやかに言う。

「ヒヨコ様にはおいしいお菓子やかわいらしい洋服、おもちゃなどをもって参りました」

おじいちゃんからもう一度箱の山に視線を戻す。背の高い魔王を超えるほどの箱の山。

これ、全部ヒヨコの……?

──それは、子どもにとって夢のような光景で……。

「ピィィィィィィィィィ!!!!!」

喜びのあまり、ヒヨコはコテンと後ろにひっくり返った。

「ひ、ヒヨコ、落ち着け」

ひっくり返った私を手のひらに乗せ、トントンと背中を撫でて落ち着かせる魔王。

「……子どもには刺激の強い光景だったな……」

苦笑した魔王が呟く。

「ホッホッホ、かわいらしいですなぁ」

私が魔王になだめられていると、おじいちゃんの一人が父様に話し掛けた。

「デュセルバート様への贈り物は神殿の方に捧げておきました」

「ああ、ありがとうね」

父様がおじいちゃん達にお礼を言う。格段に偉い立場でもお礼を忘れないのはいいことだよね。

「ところで、なんでしんでん?」

贈り物なら直接渡せばいいのに。

「ああ、ヒヨコはまだ知らなかったね。神殿に捧げられた供物は直接我らの力になるんだよ」

「そうなの?」

魔王を見ると、コクリと頷かれた。ほんとのことみたい。

「もらったものは後で回収してありがたく使わせてもらうね」

「はい。こちらこそありがたき幸せです」

おじいちゃん達がうやうやしく頭を下げる。

「そうだ、丁度いい機会だし一旦神殿に帰ろうかな。魔王とヒヨコも来る?」

「いく!」

「我も行こう」

父様の神殿に行くのは三度目だ。なんか、神聖な空気が漂ってるいい場所だったことは覚えてる。ヒヨコ、あの雰囲気好き。

初めて行った時、なんだか懐かしい気配を感じた気がしたけど、あれは父様の気配だったんだね。

魔王が私の頭を撫でた。

「懐かしいな」

「そうだねぇ。あれからいろいろあったから……なんだかずいぶんまえのことみたい」

実際はそんなに前のことでもないのに。

「ヒヨコががんばったからな」

「ぴ!」

魔王がしみじみと私を褒めてくれる。魔王に褒められるのは何回でも嬉しい。

嬉しかったから魔王の肩に飛び乗り、ぴぴぴっと頬ずりしておいた。


そして私達は父様の神殿にやってきた。

相変わらず神聖で澄んだ空気が漂っている。心なしか息が吸いやすいし、なんか浄化されてる気がする。

駆け回りたいけど自重。

「──お、思ったよりも供物が多いね」

父様への貢物はあまりにも量が多く、もはや祭壇に乗りきっていなかった。祭壇だって決して小さいわけじゃないのに。

「おじいちゃんたちだけじゃなくて、みんなきてくれたんだね」

「そうだね。ありがたいことだよ」

父様はそう言って愛おしそうに供物の山を見詰めた。神様にとって信者の存在ってどういうのなんだろう。ヒヨコ、まだ神様じゃないし信者さんもいないからわかんない。

でも──

「とうさま、いいな。うらやましい」

「え?」

「ヒヨコもしんでんほしい」

キラキラと大人二人を見上げる。

「ヒヨコにはまだ早いんじゃないか?」

「うんうん、父様も神殿を持つのはもうちょっと大きくなってからの方がいいと思うな」

「むぅ」

魔王と父様の二人に止められ、拗ねた私は頬を膨らませる。

「ヒヨコ、しんでんほしい」

「だぁ~め。それはもうちょっと神様として成長してからね」

ヒヨコにあまあまの父様が珍しく頑な。びっくりして目がまんまるになった。

「まお~」

私はもう一人の保護者、魔王に泣きつく。

「う~ん、こればかりはデュセルバート様が駄目だと言うなら駄目だな」

いくらかわいいヒヨコのお願いでもそれはな、と魔王。

「ぴぃ~」

おねだりの通らなかった私はぺしゃんと潰れる。

でも、手に入らないとなるとますますほしくなるのがヒヨコの心理。

──あ、そうだ、おねだりするから断られるんだよ。自分で用意しちゃえばいいんだ。


魔王城に帰った後、私は二人に自分の神殿を見せた。

「ぴ! これ、ヒヨコのしんでん」

「これ……」

ヒヨコの用意した神殿に心当たりたっぷりの魔王が目を見開く。そう、私が神殿に選んだのは前に魔王からもらったひよこサイズの家だ。

その玄関には、ミミズが這ったような字で「ヒヨコのしんでん」と書かれた紙が貼ってある。というか私が貼ったんだけど。

お手本を見ながらがんばって書きました。えっへん。

「これヒヨコのしんでんにする!」

私は両翼を腰に当てて宣言する。

すると、魔王と父様が同時に口元を手で押さえた。

「か、かわいい。うちの子かわいすぎ! 魔王もそう思わない?」

「思う」

「ねえとうさま、これしんでんにしてもいい?」

首を傾げて父様に聞く。

「神殿ってそういうものじゃないんだけど……まあ、これくらいならいいか。ヒヨコがちゃんとした神様になったらもっと大きな神殿作ろうね」

「うん!」

かくして、ヒヨコは神殿(暫定)を手に入れました。

神殿を手に入れた私はうっきうきだ。

誰かに自慢したくなった私は、神殿ができたことを早速シュヴァルツに報告した。

「シュヴァルツ、ヒヨコのしんでんができたよ」

「おお、それはよかったですね。どこにあるんですか?」

「ここ」

「?」

首を傾げるシュヴァルツにヒヨコハウス──もとい、ヒヨコ神殿を見せた。

「これはヒヨコ様のお家じゃありませんでした?」

「ヒヨコのしんでんにしたの」

暫定だけど。

「そうなんですか。では、魔王様は嬉しかったでしょうね」

「そう?」

「そうですよ。自分がプレゼントした家が神殿に選ばれたんですから」

よしよしとシュヴァルツが頭を撫でてくれる。

シュヴァルツの私への態度は、敬いつつもひよことしてかわいがる形に落ち着いた。距離を取られちゃうかなって思ったけど、私が元聖女だってバレる前よりむしろ仲はいい。

「それじゃあ、ヒヨコ様へ贈り物をしたい時はこの神殿に捧げればいいんですか?」

「うん! シュヴァルツなにかくれるの? なに?」

「お祝いに何か用意するつもりではいましたよ。それが何かはまだ秘密です」

片目を閉じてシュヴァルツが微笑む。

「え~」

気になる。

「ヒヨコ、はやくなにかささげられてみたい」

「あ、じゃあこれ捧げてみてもいいですか? ちょうどヒヨコ様のおやつに買ってきたものですし」

そう言ってシュヴァルツが取り出したのはひよこを模したおやつの詰め合わせだ。ヒヨコが父様の子どもだって発表されてから雑貨屋やお菓子屋さんでひよこをモチーフにした商品が流行っているらしい。

一躍時のひよこだね。もちろん悪い気はしない。

ニワトリとひよこがセットになったぬいぐるみとか魔王の肩にひよこが乗ったメモ帳とかも発売されているらしい。そのうちゲットしにいこう。いつの間にかポーションの売り上げが貯まってたし。

思考が逸れたけど、初のお供え物をしてもらおう。

「シュヴァルツささげてみて!」

「はい」

ヒヨコ神殿に祭壇はついてないので、玄関部分にシュヴァルツがお菓子の入った袋を置く。そして手を組み、目を閉じた。