ポーションを作れるひよこなんて、ヒヨコの他にはいないよね

「ねぇねぇシュヴァルツ、ちょっと寄り道してもいい?」

「はい、別にいいですよ」

いつものお散歩の帰り道、せっかく外に出てるんだからと、ついでに用事を済ませちゃうことにした。

「どこに行くんですか?」

「まあまあ」

行き先はぼやかしつつお目付け役を連行する。だって、言ったら絶対止められちゃうもん。


私に連れ回されたシュヴァルツが、ぐったりと魔王の部屋のソファーにもたれ掛かっている。若干グロッキーになってそうだ。

「──このヒヨコ、信じられない……」

シュヴァルツがぼやくと、魔王がこちらを見てきた。

「ヒヨコ、何をしたのかは知らないが、とりあえずシュヴァルツに謝っておけ」

「はーい。シュヴァルツごめんなさい」

「許しましょう。行き先を聞かなかった私も悪かったですから」

「そなた達……一体どこに行ったんだ……」

魔王のぼやきには無言で返す。私が内緒にしてって言ったから、シュヴァルツも言わないでいてくれてる。

優しいね。

お散歩のついでに思いついた物の素材を狩りにいったんだけど、それを先に言って失敗したら恥ずかしいから言わない。ちゃんと上手に出来上がったら〝さぷらいず〟で渡すのだ。

私ってば、なんて粋なひよこなんだろう。


素材は集まったので、あとはブツを作るだけだ。

作るのは初めてだけどきっとできるでしょ。私はやればできるひよこだ。

本格的な物作りは初めてで、作ってる途中に爆発しないとも限らないから一応外で作業する。爆発しても大丈夫そうな所を探しながら魔王城のお庭を彷徨さまよっていたら、結局騎士団の訓練場に辿り着いた。

訓練場の一角を陣取り、シュヴァルツから材料を受け取る。周りは何やらザワザワしてるけど無視だ。

私が今から作ろうとしているのは口に入れるものなので、できたものをいきなり渡すわけにはいかない。一回はしっかりと自分で試さないとね。

とりあえず一個作ってみよう。材料はかなり採ってきたから余裕があるし。

ガチャン、ガコン、ドッカーンと音を立てながら、試作品一号はなんとか完成した。

「……まさかそれ、ポーションですか?」

「うん!」

その辺にあった適当な瓶の中には水色の液体が入っている。とりあえず色は問題なさそうだ。あとは味と効果だけど──

ぱしゃん

「「あ」」

やっちゃった。瓶のふたを開けるのにひよこの手は不向きで、誤ってポーションの入った瓶を倒してしまったのだ。蓋が開いた後に倒れちゃったから、せっかく作った瓶の中身が地面にぶちまけられた。

しょうがない、もう一回作り直そう。

ほとんど中身の出てしまった瓶を起こそうとした時、異音が耳に飛び込んできた。

ジュワァァァァ

「?」

変な音だな、と思って音の発生源を探していると、こぼれたポーションが芝生を溶かしていた。

「ひぇぇぇぇぇぇ! なんか溶けてるじゃないですか!!

「なんでだろ。でもあんがい案外のむ飲むぶんにはだいじょうぶかもよ? ヒヨコちょっとのんでみる」

「ダメですよ!」

瓶にちょっとだけ残っていたポーションを飲もうとしたら、シュヴァルツに取り上げられた。

「ヒヨコにポーション作りはまだ早かったんじゃないですか? 赤ちゃんは何でも口に入れたがるんですから」

「ヒヨコあかちゃんじゃないよ」

「赤ちゃんはみんなそう言うんです」

いや赤ちゃんは普通こんな流暢りゅうちょうに喋らないよ。

記念すべき試作品第一号はシュヴァルツの手で葬られた。

ひどい。


その後、いくらシュヴァルツに止められても私はポーション作りを諦めなかった。

作っては爆発し、作っては物を溶かし、作っては煙を上げたけど、私は諦めなかった。

しかし、そうやって試行錯誤しているうちに、ついに一つも完成品を作れないまま夕方になってしまった。

「……ヒヨコ、そろそろ戻りましょう。もうすぐ日が暮れちゃいますよ」

「ぴぃ……」

爆発に巻き込まれ、煙を浴びまくった私の毛皮はボロボロだった。黄色かった毛は灰色にくすんでしまっている。そして心もボロボロだ。だって赤ちゃんだもん。打たれ弱いの。

せっかくいいこと思いついたと思ったのに……。

じんわりと目頭が熱くなる。

「ぴぃっ、ぴぃっ」

「ああヒヨコ、泣かないでください。仕方ないですよ、ポーション作りは難しいんですから。一握りの職人しか作れないんですよ」

シュヴァルツにすくい上げられて頭をなでなでされる。周りの騎士さん達も私が泣いちゃったことでにわかにざわつきが大きくなり始めた。

「──何事だ。なぜヒヨコが泣いている」

「まおー」

いつの間にか現れた魔王に受け渡される私。とてもスムーズな受け渡しだ。

「工作が上手くいかなかったので泣いちゃったんです」

「工作……?」

シュヴァルツの説明に魔王が首を傾げる。そして未だに煙を出し続けるポーションに目を向けた。

「ああ、ポーションを作っていたのか」

「ん」

ぴぃぴぃと泣きべそをかきながら頷く。

魔王は私を乗せていない方の手でもくもくと煙を出し続けるポーションを手に取った。

眼前に瓶を持ってきて観察する魔王。

「……なんだ、よくできているではないか。余分な効果はついているが」

「ぴ?」

次の瞬間、魔王がグイッとポーションを飲み干した。一気飲みだ。

「「「!?」」」

ポーションを最後の一滴まで飲み干した瞬間、魔王の体が発光する。

「──お、なんか若返ったな」

発光が収まると、そこには少し顔が若くなった魔王。

「「「え、ええ~~~!!!」」」

ポーションの効果に、その場にいた、魔王以外の全員の声が揃った。

「……若返りのポーションだったのか……? そんなの聞いたことないが……」

驚愕からいち早く我に返った団長さんが呟く。

若返り? ヒヨコは回復ポーションを作ってたはずだけどな。

「いや、これは回復ポーションだぞ」

少し若返り、お肌がツヤツヤしてる魔王があっさりと言う。

「ただ、治癒力を高めるタイプじゃなくて細胞を若返らせるタイプだな。その効果が強すぎて軽く数十年は若返ったようだ」

それに疲労もとれて頭もスッキリしている、と魔王が続けた。

つまりポーション作りは成功したってことかな? ヒヨコうれしっ。

魔王が私を自分の眼前に持ってくる。

「ヒヨコすごいぞ。ヒヨコはポーション作りの天才だな」

「ぴぴぴぴぴぴ!」

手放しで褒められちゃった。

喜びの鳴き声が口を突いて出る。

「……すごいです! こんなに効果のあるポーション初めて見ました! ヒヨコにこんな才能があるなんて!!

シュヴァルツも大はしゃぎだ。ヒヨコも内心大はしゃぎ。

どうやら、ポーションは最初から成功してたらしい。余計な効果が付いちゃってただけで。半分冗談で「のむぶんにはだいじょうぶかもよ?」って言ったけど本当にそうだったらしい。いや、でもさすがに地面が溶けるポーションを飲むのは危険だよね。多分飲んで怪我しちゃっても跡形もなく治るんだろうけど、そんなの誰も飲みたくないよね。

「ヒヨコ、これは売ったら大儲けできるぞ。世の中には、外見を若く保つのに命を懸けている者が大勢いるからな」

「ぴ~!」

おお、ヒヨコってば大金持ちになれちゃう予感。

「おかねもちになったら、まおーにおうちかってあげるね」

「ははは、期待しているぞ。そうしたら魔王の引退後にはそこに住ませてもらおう」

もちろんヒヨコも付いてくよ。──ハッ! ちがうちがう、ポーションはお金稼ぎのためじゃなくて魔王達の疲れを癒すために作ったんだった。

いけないいけない、本来の目的を見失うところだったよ。

「ヒヨコ、ぽーしょんうらない」

「? なぜだ?」

「ヒヨコ、まおーたちのためにつくったの。だから、ただでぷれぜんと」

ぴぴっと鳴くと、魔王が片手で目元を覆った。

「ヒヨコがいい子過ぎて胸が痛い。我は汚れていたのだな……」

「いえ、陛下は普通の思考だと思いますよ。ヒヨコ、それじゃあ仲のいい人にはタダであげてそれ以外の人には有料で売ったらどうですか?」

「! そーする!」

なんて名案。シュヴァルツは天才かもしれない。

「それじゃあ、騎士団からも依頼を出していいか? こんな強力なポーション願ったり叶ったりだ」

さっそく団長さんから注文が入った。団長さんなら無料であげるよ? と言ったけど、ちゃんと騎士団で使うものだからそうはいかないらしい。だから、仲良し価格でちょっとだけ割引することで話がついた。

騎士団以外にも、このポーションの話が広がったら富豪のおばさま方からの注文が殺到するだろうとのことだった。ヒヨコ、大富豪になっちゃったらどうしよう。

空気に触れると爆発したりとか、溶けちゃったりする回復ポーションはさすがに本来の目的では使えないけどそれはそれで使えるから少し安くはなっちゃうけど買い取ってくれるって。

よかったよかった。

あれから何回か試してみた結果、色によってポーションについてる余計な効果が判別できることが分かった。これならヒヨコががんばって余計な効果を付けないように練習する必要もないね、と言ったら魔王に苦笑いで「それはがんばってくれ」って言われちゃった。

あ、できたポーションをゼビスさんとかオルビスさんに配り歩いたらとっても喜ばれたよ。みんないざという時に使うって。魔王曰く「どんな怪我でも瞬時に治せる」らしい。

確かに、なんでもない時に使っちゃうのはもったいないね。

せっかくだし、回復ポーションを自分でも飲んでみようとしたら、みんなに止められた。飲むと若返るんだから、ヒヨコが飲んだら卵に戻っちゃう! って。

ヒヨコ、卵から生まれたんじゃないんだけど……。

そう呟いてみたけど、誰も聞く耳を持ってくれなかった。だけど、ポーションを一定以上薄めて飲むと若返りまではしないということが分かったので、ヒヨコも無事にポーションを使うことが出来た。

そしてこのポーション、怪我だけでなく魔力や体力も回復できる優れものだったらしい。さすがヒヨコ。

その効果は、私がこっそりと進めていた計画にはうってつけのものだった。

よし、最初の発注分のポーションを仕上げたら計画を進めるぞ!

──と意気込んだのも束の間。

「……ぴ?」

依頼されたポーションの数を見て、私はぴよ? っと首を傾げた。いち、じゅー、ひゃく、せん……。

「おおくない?」

「万が一のための貯蔵分も入ってるからな。ヒヨコのポーションは薄めても十分効果があるし、今後はこれよりもたくさん作ってもらうことはないと思う」

今までのポーションの価値が下がらないように、市場には数を絞りに絞って出すそう。だからポーション作りはゆっくりヒヨコペースで構わないとのことだった。

そんなこと言われたらちゃちゃっとポーション作ってビックリさせたくなっちゃうよね。

「もう出来たのか!」とビックリする魔王の顔が目に浮かぶ。材料は騎士団が集めてきてくれたみたいだし、ヒヨコってば早速がんばっちゃうよ!

ぴぴ! っと気合を入れ、私はポーション作りに取り掛かった。


「お~わ~ら~な~い~」

仰向けで地面に寝っ転がる。数が多すぎて全然ポーション作りが終わらない。

つかれた。あきた。

「ゆっくりでいいって言われたんだから、ゆっくりやればいいじゃないですか」

「ちっちっち、ヒヨコはみんなをびっくりさせたいんだよ」

シュヴァルツは分かってないな~。

私がそう言うと、シュヴァルツは呆れたような顔をしつつも手元の本に視線を戻した。

「まあヒヨコがポーション作りに夢中になっていてくれると監視が楽でいいんですけど」

「ついにかんし監視っていったね」

せっかく今までぼやかしてたのに。

「……」

無視されたんですけど。都合の悪いことがあったら黙秘する汚い大人だ。

「ヒヨコ、ちょっときゅうけいする。シュヴァルツおやつちょーだい」

「それがいいですね」

休憩すると宣言し、シュヴァルツの膝の上に飛び乗る。存分に監視させてあげましょう。

シュヴァルツの膝の上に乗ったままおやつを食べ、食べカスを膝の上にボロボロこぼしたら怒られた。

ぴぃ。


結局、最初に発注された数の回復ポーションを作るのには丸二日かかってしまった。でも十分早い方だろう。

できた分を差し出すと、魔王が目を丸くした。

「……もうできたのか?」

「ぴ!」

ふふん、驚いてる。ヒヨコがんばったからね。

「すごいでしょ~」

「ああ、すごいな。ヒヨコは天才でがんばり屋さんだ」

よちよちと頭を撫でられる。あ~、そこそこ。

指に頭を擦りつけるといっぱい撫でてくれた。今日は出血大サービスだね。

魔王にいっぱい褒められてヒヨコうれし!

この量が一気になくなるとは思えないし、とりあえずポーション作りは一段落だ。

よし、これで計画に集中できるね!

むんむんっとやる気満々の私を、シュヴァルツが元気ですねぇ、とお年寄りみたいなことを言いながら眺めていた。