瞳を閉じているせいか、不意に意識が戻ったというのに視界が開けることはなかった。

 暗い闇が広がっている中でバチバチと輝く雷光。

 普通なら怖く思うだろう。しかしシズルにとって慣れ親しんだそれは、家族と共にあるような安心感さえ感じられた。

 ──シズルよ。

 雷から発せられるその声を、シズルはこの世界に転生してから何度も聞いてきた。

 ずっとそばに在った、兄弟よりも近しい存在。

 しかしその強大な力を自分に託すため、消えてしまった相棒。

 ──よくぞ我が力を使いこなしあの男を倒したな。さすがは我の契約者だ。

「……ヴリ、トラ?」

 ゆっくりと、シズルが目を開く。

「あれ? ここって……」

 ヴリトラと初めて出会った城の最奥にある、玉座に座っている自分。

 ルキナの腕の中で気を失ったところまでは覚えているが、この城にやってきた記憶は一切ない。

 ましてやヴリトラが座っていた玉座に座るなど、考えたこともなかったはずだ。

『目が覚めたかシズル』

「あ……」

 それは──もう二度と会えないと思っていた相棒の声。

 だがしかし、周囲を見渡してもあの黄金色に輝く雷龍は見当たらない。

 長く続くあかじゅうたんの敷かれた階段の下には、バチバチと音を立てる雷の精霊たちが集まっているだけ。

 彼らはまるで、王の前にひれ伏すような気配を持ちながら、ただそこに存在していた。

「これは?」

『雷の精霊たちは、あの戦いぶりからシズルを王と認めたのだ』

「王?」

 手足には力が入らず、玉座から立ち上がることはできない。

 おそらくこれは夢だ。だが、ただの夢ではないこともなんとなく理解できた。

 ただそれでも、もう会えないと思っていたヴリトラとこうして話せることがうれしい。

『今までお主が使っていたのは、我からの借り物の力だった。だが大精霊である我を打ち砕き、その力を我がものとしたことで、すべての雷精霊たちがシズルこそがあるじであると認識したのだよ』

 そうしてシズルの目の前で雷がぜると、そこから空間がゆがみ小さな黄金色の龍が生み出される。

 今までずっと見慣れていた、子龍の姿。

「ヴリトラ……」

「よくやったな、シズル」

「うん……めちゃくちゃしんどかったけど……あの人、強すぎだ」

 ──でも、勝ったけどね。

 そう笑いかけると、ヴリトラもまた同じように笑う。

「くくく、この我を下したのだ。それくらいはしてもらわねば困る」

 出会ってから十年。ほぼ片時も離れたことのない相棒は、シズルの報告を聞いて嬉しそうに声を弾ませた。

 ただ、ヴリトラの気配は普段とは違ってどこかうつろで、そこにいるのにいないようにも思える。

 それはここが夢だからか、それとも──。

「……俺はヴリトラを倒して力を奪った形になるけど、もう会えないの?」

「ふむ……」

 シズルの問いにヴリトラは少しだけ考え込む。

 腕を組んで少し天井を見上げる仕草はどう見ても人間臭く、小さな子龍はどこかコミカルな感じがした。

「今の我は、シズルの中で眠っている状態だ」

「うん」

「だが、お主が望めば出ていくことが可能だろう」

 その言葉を聞いて、シズルはホッと一つ息を吐いた。

 ヴリトラと戦い始めたときは、細かい説明もなくいきなり力を見せろと言われ、そして勝ったと思ったら力を託すだけ託して彼は消えてしまったのだ。

 あのときの衝撃は忘れられない。

 ヴリトラの力が流れ込んでこなかったら、今でも雷の城で彼を探していただろう。

「よかった……」

「いくら強くなったとはいえ、シズルにはまだまだ我が必要だからな」

「そうだよ。まだ一緒にいてもらわないと、困る」

 今回一人で戦ってわかった。たしかに自分は強くなったし、ヴリトラの力をすべて支配すればもっと強くなれる。

 だがそれは『ただ強いだけ』。

 今回は勇者クレスと自分がほぼ互角だったから勝てただけで、もしこれが格上の敵だったら一人では絶対に負けていた。

 だがヴリトラがいたら、たとえ自分よりも強い敵と戦ったとしてもきっと最後には勝てる。

 今回初めて一人で戦ったシズルは、そんな確信を持っていた。

「……お主は」

「うん?」

「いや、いい。そこまで必要とされるのであれば、大精霊みょうに尽きるというものだからな!」

 嬉しそうに尻尾を振るヴリトラを見て、いったいなにを言いかけたのだろうかと疑問に思うがそれは一度横に置いておく。

「それで、わざわざこの場所に呼び出したのは理由があるんだよね?」

 そう言った瞬間、ヴリトラの気配が変わる。

 これまでの少し緩んだ空気から一変、真剣なまなしでまっすぐシズルをいてきた。

「先に言っておく。今から話す内容は、我らがこの世界に生まれた意味そのものだ」

「……それは」

 初めて出会ったとき、ヴリトラは言っていた。

 シズルが雷神様によってこの世界に転生させてもらったことには理由があると。そしてその理由は、まだ語るときではないと。

「本当は、最後まで話すつもりはなかった。たとえこの世界に転生させた理由があったとしても、雷神様はシズルに自由に生きてほしいと願っていたようだからな」

「うん……」

「だがこうして『あれ』が生まれてしまった以上、いつまでも黙っているわけにはいかん」

 ヴリトラがそう言った瞬間、目の前の光景が変わる。

 そこはこれまであったごうしゃな城の中ではなく──。

「……荒野?」

「かつてまだ、神がこの世界を支配していた時代だ」

 シズルの視線の先には人工的な建物などはなく、ただ広い荒野で巨大な魔獣たちが暴れて世界を破壊しようとしている光景。

 すさまじい軍勢だ。

 これは過去の光景だというが、もし今この軍勢がフォルブレイズ領に襲いかかれば、シズルでさえ守りきれないだろう。

 そんな中で、大魔獣に対抗するように戦う戦士たちがいた。

「強い……」

 魔獣たちは強大だ。だが押しているのは戦士たちの方。

 一人一人が雷龍化した自分に近い力を持っており、暴れる魔獣たちを駆逐していった。

 それは人のようで、明らかに人を超越した存在。

 シズルはその中で、ひと際強い力を持つ者に気づく。

「あれはもしかして……雷神様?」

「そうだ」

 白い髪を刈り上げた和服の老人。その顔はいわおのように険しく、手に持った巨大なつちを振り回して魔獣たちをぎ倒していく。

 この世界に転生するきっかけとなったその姿は、十八年前に見たものと変わらぬままだ。

 雷神様を先頭に、他の戦士たちも次々と魔獣たちを斬り進む。

 つまり、あそこで戦っているのは──。

「雷神様と同じような神様たち?」

「そうだ」

 雷神様の他にも同じ存在であろう神たちが、大魔獣たちと戦っては滅ぼしていく。

 その中には、どこかルージュやディアドラに似ている存在たちもいた。

 ただ、そこから感じられる力はシズルの知っている彼女たちすら圧倒するほど強かった。

「これはかつて、まだ神たちが地上に生き、そして魔獣たちから地上を守ってきた時代だ」

「……すごい」

 フェンリル級の魔物が大地にひしめく。だが神々はそんな魔獣たちを一蹴しながら、余裕すら感じられる戦いぶりを見せる。

 もしあの中の一人でも今の時代に生きていれば、人はみな彼や彼女にひれ伏すことだろう。

「この時代、神と呼ばれる存在たちは多くいた」

「雷神様も、その一人なんだ」

「ああ……無数にいる神たちの中でも特に強い力を持つ神は六大神と呼ばれるが、雷神様はその六大神よりもさらに上の存在。最強の力を持った最上神だった」

 雷神様が手に持った巨大な槌を振るう。

 一瞬で発生した雷は、何千という魔獣たちを一撃で吹き飛ばす。

 他の神たちも強いが、彼だけは別格の力を見せつけていた。

「雷神様と六大神がいる限り、地上は安泰だ。他の神たちも、当時はそう思っていた……あの魔獣が生まれるまでは」

「あの魔獣?」

 そうして再び景色が変わる。

 どこか神秘的な雰囲気のある白亜の神殿。

 ゲームなどであれば、神々の宮殿とでも呼ばれそうなところだった。

 本来ならそこは、緑豊かな草原が広がり、黄金色の太陽を反射して、生命の水がキラキラと輝いている美しい場所だったはずだ。

 だがしかし、今は壁は破壊され、地面は裂け、白く美しかったはずの柱はあちこちで倒れている。

 まるで大災害の跡のようになった宮殿には、多くの神々が地に伏し倒れていた。

「これは……」

「たった一体。あの魔獣が現れて神々の宮殿ヴァルハラに攻めてきた」

 ほんの少し時間が流れて景色が変わる。

「なんだ、あの化け物は……?」

 もはや原形をとどめていない神々の宮殿の前には、見たこともないほど巨大な蛇がいた。

 その蛇が動くだけで大地は割れ、神々は一人、二人と滅ぼされていく。

 残っているのは六大神と呼ばれる神のみ。

 そんな六大神の攻撃すらこの蛇には通用せず、最初は抵抗できていた神々も次第に防戦一方の戦いになっていった。

かいじゃヨルムンガルド……世界を滅ぼすためだけに生まれた存在だ」

 その蛇は他の神々の攻撃すら意に介さず、ただ破壊の限りを尽くしていた。

 今その場にはいないシズルですらわかる、圧倒的な力を持った化け物。

 シズルはこれが過去の光景だということを理解しながら、それでも圧倒的な存在感に思わず恐れてしまう。

 あれに対抗することは、神ですら不可能だと思っていると──。

「あれは……」

 突然、世界蛇ヨルムンガルドが苦しみだした。その理由は、空からの巨大な雷による攻撃。

 初めて痛みを感じた子どものように暴れまわる大蛇は、攻撃をしてきた敵をにらむ。

 そこに立っていたのは、白い髪を逆立てて怒りの形相でヨルムンガルドを睨む一人の老神。

「雷神様だ……」

「世界蛇ヨルムンガルドと戦えるのは、最強の神である雷神様だけだった」

 そして、雷神様と世界蛇の戦いが始まる。

 世界最強の神と、世界すら滅ぼす蛇の戦いは三日三晩続いた。

 圧倒的な再生力を持つ大蛇に対して、雷神様が世界すら焼き尽くしかねない雷で応戦し続けた結果、地上の生命力はどんどん失われていく。

 強すぎる力というのは、たとえ世界を守るための戦いであっても世界を壊しかねないものだった。

「あ……」

 結果的には雷神様の一撃が世界蛇ヨルムンガルドの身体を打ち砕くが、半分になった蛇はその場から逃げ出してしまう。

「雷神様はヨルムンガルドの撃退に成功するが、しかしとどめを刺すことができなかった。そうして再びやつは力を蓄えて、ふくしゅうしにやってくる」

 復活を遂げた世界蛇と再び相対する雷神様。

 その戦いは一回目以上の被害を地上にもたらした。

 一度目の戦いで雷神様の力を知ったヨルムンガルドは、自分だけでは勝てないと悟っていた。

 だからこそ強力な己のけんぞくを生み出し、他の神々たちを襲うようになる。

 魔獣とは思えないこうかつさに、雷神様は驚きを隠せないでいた。

 だが驚いたのはシズルも一緒だ。なぜなら世界蛇ヨルムンガルドが生み出した魔獣たちに、見覚えがあったから。

「あれは黒龍ディグゼリア? それにフェンリル……でも、俺が戦ったときよりもずっと大きいし、強い力を持ってる?」

「今の時代で災厄と呼ばれる魔獣たちは元々、世界蛇ヨルムンガルドの眷属だったのだ。長い時を経てだいぶ力を失っていたがな」

「……あれで力を失ってただって?」

 自分が見てきた大魔獣たちは、その存在一つで国すら滅ぼしかねない力を秘めていた。

 それは間違いなく人類にとって災厄であり、圧倒的な脅威。

 だが今、目の前で神々を相手に暴れている大魔獣たちは、自分の知っている魔獣たちとは存在そのものの『格』が違う。

 あれが一体でも今の時代に現れたら、人の手に負えるものではないだろう。

「……」

「神々は応戦した。雷神様もまた、世界蛇ヨルムンガルドだけはここで打ち砕くと心に決めて戦った。しかし──」

 世界蛇ヨルムンガルドだけでも苦戦をしていた神々にとって、災厄の魔獣たちは脅威だった。

 六大神と災厄の魔獣たちが戦っている間に雷神様はヨルムンガルドと再び戦うが、一度負けた蛇はやはり狡猾だった。

 雷神様が本気で力を使えないように、他の神々を盾にしながら戦っていたのだ。

 その結果、一人、また一人と神が落とされていく。

 残った六大神と主神である雷神様は怒り、嘆き、必ずここでこの魔獣たちを討つと意を決して総攻撃を仕掛けた。

 神々のほとんどが失われたその戦争は、結果的に神々の勝利で終わる。

 だが──。

「世界蛇ヨルムンガルドを滅ぼすことはできなかった」

「……」

 雷の一撃で弱らせることはできたが、その力の反動で雷神様もまた力の大部分を失ってしまう。

 ほとんどの魔獣を滅ぼしたとはいえ、一部は残り逃げ出した。

 ヨルムンガルドも再び逃げ出そうとして、しかし六大神たちによって封印されることとなる。

「っ──」

 シズルの視界が一瞬だけ暗くなり、次に光が差すと最初にいた雷の城の玉座に座っていた。

「これが……黄昏の終末ラグナロクの結末だ」

「あれは……本当にあった戦いなの?」

「そうだ。そして神々は力を失い、この世界から消えていく。その後、六大神は己の力を振り絞って大精霊を生み出し、暴れる魔獣から世界を守らせるようになった」

 世界を構成する六柱のエレメント。

 大精霊たちはそれから代替わりを重ねながらも大魔獣たちと戦い続けた。

 ルージュやディアドラもまた、過去の大精霊たちから力を受け継いで今に至る。

「……なんというか、話が壮大すぎて頭がこんがらがりそうだ」

 ヴリトラもこの過去の光景を見せただけ、というわけではないだろう。

 元々、今回の話の発端はシズルたちの『生まれた意味』について。

「ここまで見せればもうわかっただろう?」

「うん……つまり俺たちは、あの世界蛇ヨルムンガルドの復活を阻止しないといけないんだよね?」

「そうだ」

 二度にわたる神々との戦いを生き抜いたヨルムンガルドは、はるか西の地にて封印され続けていた。

 だがいつか復活を遂げたときのため、再起のタイミングを計り続けていたのである。

「やつは待っていたのだ、神々の力が弱まるときを」

 かつに復活すれば、大精霊たちに感づかれて力を取り戻す前に滅ぼされてしまう。

 そうしてずっと長い時を耐えた。耐えて、耐えて、耐え続けて、そして──。

「雷神様はヨルムンガルドが復活する兆しを感じ取った。しかしもう自分は地上に降りることはできない。だからこそ、己の力をすべて受け継げる者を探した」

「それが……俺だった?」

「そうだ。神たちが去った後、この世界には六大精霊だけが残った。それゆえに、この世界で生まれた人間では雷の力を受け継げなかったのだ。だからこそ雷神様は、他の世界の人間に目をつけたのだ」

 シズルはその言葉を聞いて、思わず天井を仰ぐ。

 自分がこの力を持って生まれたのは、なにか意味があることはなんとなく気づいていた。

 同じ大精霊でもルージュやイリスの力に比べて、ヴリトラの力はどこか神をほう彿ふつとさせるものがあると思っていたから。

「まさか、本当に神様の力そのものだとは思ってなかったけど……」

「……それでシズル。どうする?」

「どうする?」

「雷神様があえて最初からこの説明をしなかったのは、シズルにはこの世界で自由に生きていてほしいと思ったからだ」

「……」

「世界蛇ヨルムンガルドは世界すららい尽くす史上最悪の大魔獣。ここでシズルが逃げたとしても──」

「あのさヴリトラ、心にもないことを言うのはよくないんじゃないかな」

 相棒の言葉を遮り、シズルは首を横に振る。

「だってあれを放置したら、フォルブレイズ領も、アストライア王国も、全部滅ぼされちゃうんでしょ?」

「やつとて長く封印されていて、その力の大部分は失われている状態だ。いずれ大精霊たちが集まってくれば再封印も可能だろう」

「そうなる前に、どれだけの犠牲が出る?」

 シズルはじかにヨルムンガルドの力を感じた。

 あれの脅威がどれほどのものか、今この地上にいる誰よりもわかっている。

 たとえ封印され続けて弱っていようと、世界を破壊するには十分すぎるだけの力を秘めているのは明白で──絶対に倒さねばならない敵だと思った。

「正直、俺がこの世界に転生させてもらった意味とか、今更考えようとは思わないんだよね」

 最初はただ、異世界に転生するというあまりにも夢みたいな出来事に夢見心地なだけだった。

 ただの一般サラリーマンじゃない、物語に出てくるようなヒーローになれると、そのために頑張ろうと思うだけだった。

「最初は一人で強くなろうと思っていた」

 生まれたときから魔術が使えたシズルは、人目を避けてずっと修行に明け暮れていた。

 そこに明確な目標はなく、あるとすればそれは、異世界に転生したことで『主人公』になりたいというおもいと、母を傷つけてしまっことへのしょくざいの念。

 この二つの想いにシズルは悩み、苦しんだ。

 それが変わったのはいつだっただろうか。

「決まってる。ルキナと出会ってからだ」

 最初は自分が守らないといけないと思っていた少女は、自分よりもずっと強い人間だったのだ。

 いつの間にか自分の心の内をさらけ出すようになり、そして支えとなっていた。

 ルキナだけではない。イリーナも、マールも、グレンやホムラといった家族たちもみんな、こんな異質な自分を受け入れて守ってくれていたのだと気づいたのも、そのころだ。

 そんな家族たちに誇れる自分でありたい。

 だからこそ救える人は救おうと思ったし、強くなるために妥協をしてきたつもりはない。

 そしてその生き方は、前世でサラリーマンだったときよりもずっと充実しているものだった。

「この剣と魔法があふれる異世界に転生してから十八年……」

 優しい家族たちに見守られてここまで成長した。

 大切な友や、第二の故郷と呼べる場所を手に入れた。

 なにより、一生守りたいと思う女性と出会えた。

「俺はこの世界が好きだ。だから、この場所を守りたいと思う」

「そうか……」

 シズルの言葉には、とても強い意志が込められている。

 その気持ちがしっかりと伝わったからか、ヴリトラは嬉しそうだ。

「この世界に来てまだ二十年もってない。なんなら前世の方がまだ長い時間を生きてきた。だけどさ、俺にとってもうこの世界こそが故郷なんだ」

「ああ……」

「だから、守るよ。これは生まれてきた使命だとかじゃない。シズル・フォルブレイズが家族や故郷を守りたいと思ったから、だから戦うんだ!」

「よく言った! ならば、我も今再び誓おう! 我はヴリトラ! 世界の主神であり最強の神である雷神トールより生み出された、世界最強の雷龍精霊である! 我が魂を分けし兄弟であるシズル・フォルブレイズと共に、あの悪食の魔獣を滅ぼしてやろうではないか!」

 ヴリトラが放つ誓いの言葉とともに、辺り一帯で激しい雷が生み出される。

 普通ならそれを恐ろしいと感じることだろう。

 だがしかし、今のシズルにとっては、まるで生んでくれた母の腕で抱きしめられているかのように心地いい。

「俺も誓うよヴリトラ。雷神様にこの世界に転生させてもらった俺に役割があるっていうなら、それをきちんと終わらせて、そして──」

 これからは、俺は俺の人生を歩むから。

「やるぞシズル……いったい誰が最強なのか、今一度教えてやろうではないか!」

「うん!」

 そうしてヴリトラが激しく光り輝き、ゆっくりとシズルの中へと入っていくと、凄まじい力が溢れてくる。

 それは勇者クレスと戦ったときよりも、ずっと強く、そして温かいものだった。