
その戦いはいずれ、伝説として語り継がれることだろう。
勇者クレスの放つ光の
そんな神話上の一撃は、天より遣わされた雷の王によって打ち砕かれた。
だが二人は止まらない。お互いの魔力のぶつかり合いによって世界そのものが
「ハァァァァァ!」
「オォォォォォ!」
気迫のこもった
一撃一撃に込められた力は人間の常軌を逸したもの。しかしそれでも二人はまだまだ先があるのだと、咆哮とともにその力を増していった。
ぶつかるたびに負けないと叫び、破壊の力はさらなる高みへと昇華され、まるで喰らい合うことで互いの力を無限に高め合っているようにも見えた。
もはや、彼らを『人』と呼ぶ者はいないだろう。
「……あれが、光の勇者?」
「……雷龍の……王?」
遠くで戦場の兵士たちが上げる声が風に乗って聞こえてくる。
空中を、大地を、戦場のありとあらゆる場所を使った超々高速移動による戦闘は、たった二人の戦いとは思えないほど壮絶だ。
すでにこの地上は原形を
「ぐぅ!」
「ちぃ!?」
雷の大精霊であるヴリトラの力をすべて受け入れた今のシズルは、圧倒的なパワーとスピードをもって敵を圧倒できるはずだ。
それこそ最強と呼ばれる龍種でさえ一撃で粉砕できるほどに強い。
だというのに、クレスはそのパワーにも、そしてスピードにもついてきて、ほとんど互角の戦いとなっていた。
「ちぃ!」
接近戦では
その瞬間、暗くなり始めていた空に暗雲が立ち込め始め、激しい雷が音を立てた。
「喰らえ! 『
シズルが腕を振り下ろした瞬間、青い龍を模した稲妻がクレスに向かって走った。
圧倒的な魔力で生み出された雷は音を置き去りにし、大気を歪ませながらクレスに迫り飲み込もうとする。
全力でその場を離脱したクレスは、光の翼を羽ばたかせてはるか空へと駆け上がり──。
「これは、直撃したらまずいね!」
それを追うように青い龍もまた、天に向かって突き進む。
白い
その光景を、シズルは地上から見上げる。
「どこまでも追いかける稲妻から、逃げられると思わないでください!」
「逃げきれないなら……」
クレスの光剣が白く輝いた。
それを一度
「斬るだけだ!」
──剣線が
地上にいたシズルは、自分の魔術が斬り裂かれたのがすぐにわかったが、それを気にしている暇はない。
「あれは、ヤバい!」
超巨大な光の斬撃が空から落ちてくる。
全力でその場から離脱すると同時に大地を斬り裂いたそれは、巨大な剣跡を地上に残す。
「……なんて、
「今の君に出鱈目なんて言われたくないかな!」
斬撃を追うように地上へ降りてきたクレスが、白銀の翼をはためかせながら斬りかかってきた。
「くっ!?」
恐ろしく重い一撃。
それを受け止めたシズルには、彼の額に一粒の汗が流れているのが見える。
余裕そうに笑みを浮かべていても、一撃を喰らえば即落ちるような攻防が続いているのだ。
いかに歴戦の勇士であったとしても、この状況で本当に余裕などあるはずがなかった。
「なら、このまま押し切ってみせる!」
シズルの覆う雷の魔力に反応し、空から鳴り響く雷が力強く地上に──より正確にはシズルに向かって落ちてきた。
同時に、シズルの魔力が
「っ──まだ出力が上がるのか!?」
先ほどまで互角だった二人の力とスピード。それが今や完全にシズルが圧倒し始める。
「これが雷の大精霊、ヴリトラの力だァァァァ!」
その叫びとともに連続して落ち続ける雷の嵐。まるで世界の
「すごい、これなら……」
「オオオォォォォォ!」
「だけど、まだ簡単に負けてはあげられないな!」
降り注ぐ雷の嵐を斬り裂きながら、クレスは歓喜の声を上げるのであった。
そうして戦いは終局へと向かう。
その姿をどんどんと雷龍へと近づけていくシズルと、まるで天使に選ばれた死戦士のように戦うクレス。
地上から離れた空で戦う二人の命の輝きは、まるで神話に出てくる英雄
もしこの光景を画家が見ていたら、それを描ききったあとは死んでもいいと、そう思うことだろう。
それほどまでに幻想的で、神秘的で、そして恐ろしいほどの暴力性で、見る者を魅了する。
「……あれが最も新しき大精霊──雷の力」
その光景を地上から見上げていたルージュの言葉には、ほんの少し
彼女の足元には、先ほどまで死闘を演じていた魔王ヘルが倒れている。
もはや力はすべて使い切り、
命を懸けると誓った
そこにいるのはもはや魔王ではなく、復讐を果たせなかった一人の少女だった。
「殺しなさい」
「黙りなさい。今のアンタに命の選択権なんて存在しないわ」
「くっ」
「とりあえず、この中で大人しくしときなさい」
闇の影に
「……結局、人生をすべて費やしてきた復讐は全くの無駄だったということですね」
「当たり前でしょ? そもそも大精霊に復讐しようなんて考えること自体、意味がないのよ」
「意味が、ない……?」
一瞬なにを言われたのかわからず、ヘルが
しかしすぐに怒りの形相へ変えると、ルージュを睨みつけた。
「我が父を
それは全魔族の言葉を代弁するがごとき烈火の咆哮。
魔王と呼ばれるような恐ろしい存在ではない、一人の少女が放つ悲痛の声。
「そのすべてが無意味だと、そう言うのですか!?」
「そうよ」
だがそれを、ルージュはただ一言で切る。
この世界において大精霊ほど自分勝手な存在はいないとルージュは知っていた。
自分を含めて気まぐれで、友好的で、
根本的に、人とは違うのだ。大精霊というのは、見た目が人と同じだけ。
だというのに、その見た目から人も、魔族も、他の種族たちもみんな同じように扱おうとする。
それがどれほど間違っているのか、知っているのはきっと自分たちだけなのだろうし、きっと理解されることもない。
「私たちはね、『存在そのもの』が自然災害みたいなものなのよ」
「……それは」
「だから、これ以上私たちに関わるのはやめておきなさい」
「──っ!」
それは、ルージュが語る精一杯の温情。
過去の自分なら、敵対する者は必ず殺していた。しかし今はなんとなく、そんな気になれない。
「私は、わた、したちは……」
これ以上の拘束は無駄な魔力だろうと、闇の
もはや彼女が自分と敵対することはないと、確信していたから。
「やれやれ、この甘い対応はマリアのせいか、ルキナのせいか、それとも……」
今の自分を過去の己が見たらどう思うか、などと意味のないことを考えながら再び視線を上げる。
そこには相変わらず大精霊である自分から見ても化け物じみた魔力がぶつかり合っていた。
「大精霊は存在そのものが自然災害みたいなもの……か」
先ほどヘルに言った自分の言葉は間違っていない。だがしかし、それではその大精霊以上の力をもって暴れるあの二人はいったい、なんと呼べばいいのだろうか。
「……私としたことが、くだらないことを考えたわ」
ルージュは腕を組み、大切に守ってきた少女の、最愛の人物を見上げる。
かつて十年前、自分の暴走を止めた一人の少年は大きく成長した。
青年となった今、その成長は留まることを知らず、この戦いの中でさえさらに飛躍していく。
「ここで負けてルキナを泣かせるようだったら、八つ裂きにしてやるわ」
なんだかんだで、あの男とももう十年の付き合いだ。だからこそわかることがある。
──シズル・フォルブレイズという男は、絶対にルキナ・ローレライを悲しませることはしない。
「だから、勝ちなさい」
決着の時は、近かった。

最大出力でクレスを攻撃し続けるシズルは、その速度をどんどんと増していく。
すでに彼らの動きを目で追える存在はおらず、二人は流星のように空を駆けていた。
人ならぬ力を発揮するクレスだが、それでも際限なく成長していくシズルを前にじりじりと押され始め──。
「ハァ!」
「くっ──!?」
シズルの放った
それを光の剣で受け止めた瞬間、雷槍は空中に霧散する。
ここで反撃を、とクレスが前に出ようとしたとき、すでにシズルの手の中には巨大な
「なっ!?」
そしてそれに気づいたときにはもう遅い。
「喰ら……えぇぇぇ!」
「こ、れはっ──!?」
落雷のような
その衝撃はあまりにも凄まじく、耐えきれなかったクレスはそのまま地面に撃ち落とされた。
「まだだ!」
シズルは空の上からそれを見下ろしながら、
その仕草に
地上ではそんなシズルに対抗するべく、クレスが極光の剣を構えていた。
先ほど大地を割ったその一撃は、今までのシズルであれば間違いなく脅威だっただろう。
だがしかし、攻撃ごとに強くなっていく今は──。
「この力は、決して俺だけのものじゃない」
普段ならこの瞬間に鼓舞してくれる相棒。
なんの言葉もなく、ただ一つの力となって自分を支えてくれている。
「ヴリトラ……」
その声に反応するように、大気中の魔力をすべてかき集めた
それはまさに、万物を覆う空すら支配する雷の王。
「ハァァァァ! 『
地上のクレスが剣を振るう。
迫りくる巨大な光の
その一撃は、もし
当然、直撃すれば人間であるシズルは魂ごと消滅してしまうだろう。
だが、そんな超常の一撃を前にしてもシズルが
なぜなら──。
「『俺たち』の力こそが最強だから! そうだよね、ヴリトラァァァァァ!」
叫びながら圧倒的な雷の力を秘めた
それはまるで、神の怒り。
ヴリトラ──世界を破壊する魔を打ち砕くために神の力を宿して生まれてきた、最も新しき大精霊であり、神の代弁者。
そしてその力を正しく扱うために、神に選ばれた青年。
これは神のいなくなった世界でなお、世界を守るために生まれてきた、人が紡ぐ人のための神話。
「ハァァァァァ!」
「───!?」
世界を
『────』
一瞬──兵士たちの声、風の音、大地の悲鳴、世界の音がすべて止まる。
そして遅れてきた衝撃が大地を浮かせ、さらに遅れて轟音。
世界は雷光に包まれ、その戦場にいたありとあらゆる者にこの世の終わりを連想させた。
そんな中で天空から地面を見下ろす、雷の龍を身に纏った青年はゆっくりと地上に降りる。
「……」
「……すごい一撃だった」
地面には、うっすらと光を纏う勇者クレスが
シズルの神のごとき一撃を受けてなお、意識を保てる人間など彼くらいなものだろう。
うっすらと
「俺の勝ちですね」
「うん……ヘルも負けたみたいだし、僕たちの完敗だね」
まるで
いったい目的はなんだったのか? 父を斬った理由は? この戦争をすることでなにが手に入ったのか?
「まあ色々と大変だったけど、これで安心したかな」
「安心?」
「うん」
穏やかな彼の瞳の奥には少し戸惑った様子の自分が映っていた。
クレスは王都で行われた卒業パーティーのときからずっと、シズルだけを見ていた。
その視線はなにかを試すような、そんな──。
「もしここで君が僕に負けるようだったら、どうしようかと思ったけど……」
「なにを言って──」
「君になら、未来を託せる」
クレスの言葉に戸惑っていると、突然大地が揺れ始めた。
「──っ!? こ、これは……!?」
巨大な地震の発生に思わず地面に膝をつくシズルは、クレスがなにかをしたのかと思い睨みつける。
しかし彼は仰向けのまま、ゆっくりと首を横に振った。
「英雄グレンの息子、シズル・フォルブレイズ」
「……なんですか?」
クレスの真剣な声に、シズルはまっすぐ彼を見る。
その表情はあまりにも穏やかで──。
「後は、任せたよ。世界を──」
──守ってくれ。
その微笑みとともにクレスの身体が大きく跳ねる。
ほぼ同時に彼の中から巨大な光が生まれるがすぐに消え、今度は
その闇の塊は、まるで世界の終わりを映しているかのような恐ろしい力を秘めており、シズルは見た瞬間に身体が硬直してしまう。
そうしているうちに闇の球体から帯のようなものが生み出され、クレスに襲いかかった。
「な、なんだこれ!?」
「クレス!? この、離しなさい!?」
「ちょ、まさかもう!?」
少し離れたところで、ルージュによって押さえられていた魔王ヘルが焦った様子で声を上げる。
見ればクレスと同じような黒い球体が彼女の中から生み出されていて、同じ黒い帯のようなものがヘルに襲いかかっていた。
「くっ! 邪魔を、するな!」
ルージュも慌ててその帯に攻撃するが、あまりにも数が多く徐々にヘルの身体を覆っていく。
「ぁ……クレ……ス……」
必死になって手を伸ばすヘルの手は、クレスのもとには届かない。ギュルギュルと嫌な音を立てながらヘルを絡め取った黒い帯は、そのまま再び球体へと戻った。
それはクレスを襲っていた方も同じで、彼を一気に飲み込んだ黒い帯は同じく球体となってその場で静止する。
「なんて……おぞましい」
球体は醜悪な魔力を周囲一帯にまき散らしながら、次のターゲットはシズルだと言わんばかりに黒い帯を伸ばしてくる。
「ぐっ──!?」
大地を削りながら迫ってくるそれを、シズルは
だが黒い球体から生み出される帯の数はどんどんと増えていき、無差別に暴れ始める。
このままではキリがないと、一気に空に飛んで上空から消滅させようと思うが……。
「くそ、魔力が!」
先ほどまで行っていたクレスとの死闘。そこで全力を尽くしたシズルは今、ほとんど魔力が残っていなかった。
それにあの球体に意思があるとは思えないが、存在そのものが凶悪だ。
実際、帯の攻撃は強力な魔物でさえ一撃で粉砕しかねない威力を秘めており、
「……近くにいる敵に反応してるのか」
距離を取ってからしばらくして、闇の球体は動きを止めた。
帯もすべて引っ込み、ただ悠然とその場に
どうやらその場から動く気はないらしく、シズルは
だが、高速で放たれた帯がその雷を
まるで自動で防衛をするロボットのような動きだ、とシズルは思う。
「どうしたものかな」
クレスとヘルを取り込んだあれがヤバいものだということははっきりわかる。
動きこそしないが、だからといって危険がないかというと絶対に違うのだ。
「……周囲の魔力を取り込んでいる?」
あの球体の周囲だけ、まるで真空状態のように魔力が枯渇していることに気がついた。
それに伴って球体は少しばかり大きくなった気がする。
もし本当に周囲の魔力を取り込んでいるとすれば、相当ヤバいと思った。
あの黒い球体がいったいどれほどのキャパシティを持っているのかはわからないが、このまま放置していればいずれ手に負えなくなるだろう。
それが想像できたシズルは、なんとかできないかと球体を睨みながら地上に降りる。
そうして魔力をかき集めようとするが、すぐに霧散してしまった。
「駄目だね」
クレスとの戦いはそれほど壮絶で、かつてないほど力を使い尽くしてようやく倒せたのだ。
少なくとも、かなりの時間を休まなければ元の力は取り戻せないだろう。
不意に、足元の影から一人の少女が出てくる。
「まったく、面倒なのが出てきてるわね」
「ルージュ。君はあれがなにか知ってるの?」
「……
苦虫を
その方向には、城塞都市マテリアがある。
「とりあえず帰るわよ」
「え? でも……」
「どうせこいつはしばらくはなにもできないわ。こっちからもね。だから今のうちに一度戻って、万全の状態に戻しなさい」
それだけ言うと、ルージュは影に消えた。おそらくルキナのもとへと帰ったのだろう。
シズルはというと、この不吉な卵を置いたままでいいのかと不安に思うが、今はどうしようもないと思い直し背を向ける。
そうして

マテリアに戻ると、城門の前に一人の女性が見える。
彼女はシズルの姿に気づくと、一目散に駆け出してそのまま抱きついてきた。
「シズル様! ご無事でよかったです」
「ルキナ……うん、なんとか勝ったよ」
温かい、と思う。
一歩間違えれば負けてしまうような戦いのあとだったせいか、妙にこの人肌の温かさが心地いい。
戦場に出た男は子孫を残そうとする本能が強くなるというが、今のシズルもそんないつもとは違う状況だった。
いつもよりも強く、彼女を抱きしめる。
「あ、あの……シズル様?」
普段はどちらかというと割れ物を扱うように優しく受け入れるだけにしていた。
この
いつもより自分が妙に積極的だからか、ルキナが戸惑いの声を上げる。
だが、正直今はなにも考えずにこうしていたかった。
もっと言うと、今すぐ彼女と部屋で二人きりになりたいと思う。
そんな、普段はあまり考えないことを考えていると──。
「おうおう、見せつけてくれんじゃねえか」
「おい馬鹿、こういうときは静かに見守るものだろ」
笑いながら近づいてくるホムラと、それをたしなめるローザリンデ。
せっかくいい雰囲気を邪魔されたことについて思うことがないとは言わないが、黙って見守られるのはもっと嫌だった。
ホムラが出てこなかったら遠目で眺めているつもりだったのかと思うと、ついローザリンデを半眼で見つめてしまう。
「な、なんだシズル、その目は?」
「いえ、別に……」
ちょっと動揺するローザリンデから視線を外し、ホムラの方に身体を向ける。
「兄上もご無事でなによりです」
「まあ、イリスのおかげだな」
クレスとの死闘で
聞けばイリスが『
今この場にいないのは、力を使いすぎたかららしい。
彼女を守っていたゲオルグと共に今は眠っているが、安静にしていればすぐに回復するとのことだ。
「おっと……」
とりあえず家族や仲間たちが無事だったことを喜んでいると、不意にホムラが体勢を崩す。
危ない、と手を伸ばしたシズルよりも早く、細く白い腕が彼を支えた。
「馬鹿、お前もだいぶ深い傷だったんだからあまり動くな」
「へ、これくらいは大丈──っぅ!」
強がりだったのは誰の目から見ても明らか。
実際、彼の服はすでにボロボロで、腹部に至っては完全に穴が開いている。傷が
それに体力までは戻っていないのか、立っているだけでも
「ほら、
「ちっ……仕方ねぇか」
隣に立つローザリンデがその身体を支えると、普段は強がって弱い姿を見せないホムラも自然とその肩を借りようとする。
「へぇ……」
こんな素直な兄を見るのは初めてで、だが二人にとっては自然な様子。
どうやら数年合わないうちに、なかなか関係は進展していたらしい。
これは今後が楽しみだと心の中で笑いながら、将来義姉になるであろうこの戦友が無事だったことを改めて嬉しく思う。
「ローザリンデもお疲れ様」
「ああ……とはいえ、どうやらまだ終わってはいないらしいな」
「うん」
魔力の渦巻くフォルセティア大森林で育ってきたローザリンデは、魔力の歪みにも敏感だった。
遠く離れたところで放たれる
それに気づいた彼女は、道の先にあるであろうシズルとクレスの死闘により荒れ果てた戦場の方向を、鋭い視線で睨みつける。
「ルージュが言うには、とりあえず今は危険がないらしいから」
「そうか……ならシズル、お前もあれほどの戦いをしたのだ。ゆっくり休め」
「そう、だね……そうさせて、もらおうか、な」
はっきり言って、もう限界だった。
「あ、シズル様!」
急速に失われていく意識の中で、シズルはまるで赤ん坊が母に甘えるがごとく、ルキナにその身を委ねる。
その