アストライア王国よりはるか西の地に、荒れ果てた大地が広がっていた。

 その先にある山頂には、まがまがしい気配を放つ城が存在する。

 暗い雲に近いこの場所には強力な魔物でさえ近づかず、辺り一帯をへいげいするようにそびえ立つその城は、かつての魔王城であり、三十年以上も前にあるじを失った空虚な場所のはず──だった。

「眠れないのかい?」

 城の最奥に存在する寝室のベッドの中、二人の男女が寄り添うように横になっている。

 甘い声色で問いかける男に対して、少女は首を横に振る。

 子どものような仕草がおかしかったのか、男は愉快そうに笑っていた。

 笑われたことにむっと表情を変えた少女は、少し怒ったように男をにらむ。

「どうして笑うのですか?」

「いや、なんでもないよ」

 見た目でいえば男はすでに四十を超えているだろう。対して少女はまだ二十代ほどに見える。

 男は太陽を想像させるほど美しい金色の髪に対し、女性は深い黒。

 肌の色も異なり、そもそも生まれた種族すら違っていた。

 それでも二人は、二人はまるでそれが自然だというように寄り添い合う。

 親子のような、恋人のような、そんな近い距離でいるというのに、二人の距離はどこか遠い。

 きっとそれは互いに、己の思惑が交わることはないと知っているから。

 それでも二人はそろって暗闇でただ笑う。

「もうすぐだと思うと……やっぱり思うことはあります」

「あっという間だったね」

貴方あなたにとってはそうかもしれませんが、私にとっては悠久の時のように長い時間でした」

 月や星々の光すらない暗闇の中、二人は依存し合うように肌を合わせながら、これまでのことをおもい合う。

 三十年。言葉にすれば短いそれも、実際に生きてみればすさまじい重みがある時間だ。

 それだけの間、二人はただ己の目的のためだけに生き続けてきた。

 一つの想いを永遠に持ち続けることは不可能だ。どれほど深い感情に飲み込まれようと、いつかは陽炎かげろうのように霧散してしまう。

 それでも、二人は今この瞬間までずっと同じ想いを抱き続けてきた。

「さあ、それじゃあ始めようか」

「ええ……誰も知らない魔王と勇者の物語の、その続きを──」

 かつて勇者と呼ばれた青年は、世界のために。

 かつて魔王と呼ばれた男の子どもは、すべてを奪った存在を断罪するために。

 このはるか西の土地から、二人は宿願を果たすために動き出す。