サイドストーリー 女神軍との戦い sideエドワルド


「イフリート! ウンディーネにいいところを見せるなら今が絶好の機会だぞ!」

「もちろんだとも!」

 エドワルドの発破に元気よく頷いて、イフリートがファイアブレスで周りの鎧たちを一掃していく。壊しても再生する鎧の軍団とて、イフリートの灼熱でどろどろに溶かされれば再生は不可能だ。

 エドワルドも、フェンリルの「絶対防御」があるので、守りを捨てて突っ込むことができる。

 二振りの剣で敵を切り裂きながら、エドワルドははるか先まで続いていそうな鎧の軍団を睨んだ。

 あの先に氷の城がある。女神イクシュナーゼが、そこにいるのだ。

 まさか、この世界を創った女神を敵に回すことになるとは思わなかった。

(そもそも、以前の俺なら女神に逆らおうとは思わなかっただろうしな)

 女神は至高の存在だ。逆らったところで無駄なのだと、滅びも運命だとして受け入れていたかもしれない。魔力持ちの王族は、世界のための犠牲だ。世界のために魔力を供給することが義務だと教えられて育った。そのために女神が自分たちに魔力を与えたのだと。

 だからこそ、滅びが女神の意志なのなら、それは当然のことなのだと思っただろう。

 でもシャーリーが、諦めなくていい未来を提示してくれたのだ。

 うまくいくかどうかはわからない。だが、エドワルドは失敗することなど考えていなかった。

 なぜならエドワルドはシャーリーを信じているからだ。

 エドワルドにとって、もはや女神はイクシュナーゼではなくシャーリーなのだから。

「ちっ、次々に湧いて出てきやがる!」

「ぬう、鬱陶しいなっ」

 イフリートがイライラしたようにファイアボールをあちこちにまき散らす。

 周囲で爆発音が轟いて、白い水蒸気がエドワルドの視界を奪った。

「イフリート! これじゃあ前が見えないじゃないかっ」

「すまん、やりすぎた!」

「やりすぎたじゃ……お?」

 いくら「絶対防御」があっても視界が奪われれば不安になる。

 エドワルドが何とかして水蒸気に囲まれた場所から離れられないかと考えた時だった。

 視界を奪っていた水蒸気が一瞬で凍り付き、吹き飛ばされて、視界がクリアになった。

(ウンディーネか!)

 エドワルドがそう認識した直後、イリスの甲高い声が「ウォータートルネード!」と響き渡る。

 竜巻のような水の塊が、エドワルドとイフリートの前方から氷の城へ向かって、敵を巻き上げていった。

(まったく、ラッセルのじじい顔負けだな、お前は)

 ウンディーネがいるからこそできる技だが、後方から的確に味方の支援を行うイリスは、もしかしたら軍師に向いているのかもしれない。

「イフリート、突っ込むぞ! イリス、道を作れ!」

 目的はイクシュナーゼの足止めだが、後方で鎧の敵を生み出し続ける女神を何とかしなければこちらが疲弊していくだけだ。ならばイチかバチか、女神を叩く。

「お兄様正気!?

「ああ、援護しろ!!

「ええ!? ああっもう! ウンディーネ、お兄様の左右の敵をウォーターバリアで阻んで、その中央にウォータートルネード!!

「わかったわ!」

「お兄様! ウンディーネだけで奥まで道を通すのは難しいからイフリートとうまく連携して!」

「イフリート、ウンディーネの攻撃後、灼熱の炎獄弾を女神の方角に向かってぶちかませ!!

「いいのか!? まかせろ!!

 イフリートが嬉々として上空に飛び、奥義の構えに入った。

 ウンディーネとイフリートの連携技は、エドワルドもしっかりと覚えている。

 ウンディーネのウォータートルネードとイフリートの灼熱の炎獄弾を合わせることで、すさまじい威力の水蒸気爆発が起こるのだ。

 味方がいる側でそれを起こすと、いくらフェンリルの「絶対防御」があっても吹き飛ばされる可能性があるが、女神の目の前で起こすのならば問題ない。

「灼熱のぉ──」

 イフリートの声を聞きながら、エドワルドは剣を構える。

 イリスのことだ、水蒸気爆発が起こってあたりが白く塗りつぶされても、きっとすぐに対応してくれるはずである。だからエドワルドは、何も考えずに突っ込めばいい。

 ドオォォォン!!

 まっすぐに駆け抜けるエドワルドの遥か前方で轟音が上がった。吹き飛ばされた鎧兵が粉々になって空中を舞う。邪魔な鎧の集団が消えて視界がクリアになると、氷の城の前で、銀色の髪をなびかせながら静かにたたずむイクシュナーゼが見えた。

(爆風もものともせずか……。化け物かっ)

 思わず、口から乾いた笑いがこみ上げる。

 あの化け物じみた女神に今から突っ込もうとしている自分は正気の沙汰ではないかもしれない。

 攻撃を終えたイフリートが、エドワルドの横を並走して飛ぶ。

「心配するな。俺が援護する!」

「ああ!」

 イクシュナーゼの銀色の瞳がエドワルドを捕らえた。

 鎧兵を生み出すのをやめて、エドワルドの前方に手を突き出す。──その、一瞬後だった。

「おいおいおい……!」

 突如として、エドワルドとイクシュナーゼの間に、巨大なトカゲのようなものが出現した。

 キラキラと輝くうろこに覆われた、とんでもなく大きなトカゲだ。ゲームで見たドラゴンに少し似ている。

(鎧兵だけじゃないのかよ!)

 エドワルドの身長の十倍はあろうかという巨軀。

 頑丈そうなうろこに覆われていて、大きな口にはびっしりととがった歯が並んでいる。

 イフリートがファイアボールをぶつけるも、頑丈なうろこには傷一つつかなかった。

「あのうろこは厄介そうだ。腹を狙おう」

 魔法攻撃を捨て、イフリートが拳を握る。

 イフリートの真骨頂は魔法攻撃ではなく、その強靱な肉体から繰り出す物理攻撃だ。数が多ければ魔法攻撃の方が有利なので魔法を使っていたが、相手が一体だから物理攻撃に切り替えたのだろう。

 イフリートの握った拳に、炎がまとう。

 エドワルドも剣を構えた。

「行くぞ!」

「おう!」

 そして、地を蹴る──