サイドストーリー 女神軍との戦い sideアデル


「ヘンドリック、行くよ! フェンリルの防御があるんだ、こちらはそう簡単に怪我はしない!」

「アデル!」

 剣を握り締めて、アデルは目の前の敵軍に向かって突っ込んでいった。

 フェンリルの『絶対防御』があると伝えても、実際にシャーリーの生み出した精霊を見てから数時間しか経っていないヘンドリックが信じられるはずもなく、防御を考えずに突っ込んでいくアデルを慌てて追いかけてくる。

「無茶はするなと……!」

「大丈夫!」

 目を爛々と輝かせて、アデルは目の前の黒い鎧を切って捨てた。

 アデルやヘンドリックの剣にも精霊たちの付加魔法がかけられているため、固そうに見える鎧も簡単に真っ二つだ。

 厳しい訓練を重ね、実戦も経験してきた将軍ヘンドリックは、アデルの剣の異常さに気が付いたのだろう。ようやく少し、精霊の力を信じる気になったらしい。

「わかった。背中は俺が守るから、心おきなく剣を振るってかまわない。ただし、俺が止めたら必ず止まるように」

「うん!」

 アデルは力強く返事をして、そのまま続けて二体の鎧を切って捨てる。

(剣が軽い! 本当にすごいな、これは!)

 敵の数が圧倒的に多いが、これならいくらでも戦えそうだ。

 もちろん、体力が無限に存在するわけではないので、長期戦になれば疲弊するのはこちらだろうが、それでもこれだけの大軍にも立ち向かえるというだけで自分の中の士気が上がっていくのを感じる。

 ずっと剣術を学んできた。

 けれども、王女というだけで実戦からは遠ざけられた。

 昔、己の力を過信してヘンドリックに怪我をさせてしまったこともある。

(でもようやく、役に立てる……!)

 リアムやエドワルドがうらやましかった。

 魔力供給を除けば、国のために嫁ぎ子を産むことが王女の役割だと乳母から言われたこともある。

 自分だって、有事の時は戦えるのにと、戦いたいのにと何度も言ったけれど、誰もそれを許してはくれなかった。

 おそらく、アデルが剣を握って戦うのは今日が最後だろう。

 シャーリーの作戦が失敗するとは思っていない。

 だが、成功しても、アデルは今日が終わればただの王女に戻るのだ。

 剣術を学び続けることはできても、決してそれを振るう機会は訪れない。

 国が平和であるなら、それもいいだろう。

 だが、何かが起こったときに戦える人間として数に数えられないのは、やっぱり思うところはある。

(だからこそ、今日は……今日だけは、全力で守るために戦うよ)

 絶対に、この場で女神を足止めして、シャーリーのもとへは向かわせない。

 大切な妹を助けてくれたシャーリー。

 緑の塔に一緒に入ってくれたシャーリー。

 結婚のために塔から出ることを躊躇した際、笑顔で見送ってくれたシャーリー。

 アデルの身代わりとして、塔に入り続けてくれたシャーリー。

 シャーリーには、何度助けられたかわからない。

 そんなシャーリーを──、世界を救おうと頑張ってくれているシャーリーを、今度はアデルが助ける番だ。

(これが終わったら、わたしもシャーリーと友達になりたいな。王女と侍女の関係ではなくて、ただの友達に)

 エドワルドがシャーリーと友達になったと聞いたとき、うらやましくて仕方がなかった。

 王女と侍女という立場上、アデルとシャーリーの間には主従関係が発生していて、どれだけ親しくても友人と呼べるほどの親密さはない。

 でも、すべてが終わったら、シャーリーはアルベールに嫁ぐから。

 主従関係が解消された後なら言えるだろう。

 友人になってほしいと。

 アデルはゆっくりと口端を吊り上げる。

 そして、大きく剣を振りかぶった。

「はあああああああああ!!

 気合を入れて、一閃。

(絶対に、女神の計画を阻止しよう、シャーリー!)