サイドストーリー 女神軍との戦い sideリアム
──ふははははははは!! 見るがいい、我が最強奥義!! 灼熱のぉ──
イフリートが何かをやらかしそうだと判断したリアムは、即座に腰に帯びていた剣に手をかけた。
この剣は、イクシュナーゼと邂逅した際に、シャーリーが指パッチン魔法で呼び出した二振りの剣のうちの、深紅の剣だ。
鞘はなかったが、シャーリーに頼んで呼び出してもらった。ちなみにもう一振りの青銀色の剣はエドワルドが持っている。エドワルドはシャーリーに青銀色の剣と、イフリートの力を具現化した炎の剣の二振りを使いたいと言って二刀流を覚えた。
もともと身体能力の高いエドワルドだが、あっという間に違和感なく二本の剣を操れるようになった弟を見たときは驚いたものだ。
(アルベール陛下は……問題なさそうだな)
イフリートが叫ぶ前に『絶対防御』を展開させたアルベールは冷静だ。
アルベールにはフェンリルがついているし、あれで剣の腕も確かだということはリアムも知っている。
アデルが少々不安だが、ヘンドリックが命に代えても守るだろう。
(問題はイリスだな……)
ついてくると言ったとき、リアムは当然反対した。リアムだけではない。アデルもエドワルドもだ。
けれどイリスはついていくと言って聞かず、反対されてもシルフのテレポートで勝手に合流するとまで言った。最終的にイリスにウンディーネが付けられることを条件に、リアムたちは折れたのだ。
まだ幼く、アデルと違って剣術を学んでいるわけでもない末の妹が、はっきり言って役に立つとは思えない。
ここへは戦争をしに来たのではなく、シャーリーが目的を達成するまでイクシュナーゼを足止めするために来たのだが、だからと言って、女神と戦いになるのは避けられないだろう。
(イリスを守りながら女神と対峙する方法を──)
イフリートの放った『炎獄弾』が女神の城を直撃する。
白い水蒸気のような煙が充満し、どのくらいの被害を与えたのかはさっぱり見えなかったが、あれだけの威力だ。多少なりとも破壊されただろう。
中にいるはずの女神にもダメージがあればいいが、それは期待できそうにない。
つまり、攻撃を受けて女神がいつ城から出てきてもおかしくなかった。
そう思い、イリスを守る方法を考えながら剣の柄をぎゅっと握りしめたリアムは、煙が霧散し、その奥に姿を現した城を見て絶句した。
あれだけのイフリートの攻撃を受けたというのに、どこも損傷していなそうだったからだ。
(なんなんだ、あれは……)
城の周囲の雪や氷だけがきれいに蒸発している。
女神の力を見せつけられた気がしてリアムがたらりと冷や汗をかいたときだった。
「お姉様、お兄様、何か来るわ!!」
イリスの声に剣を抜いて目を凝らせば、城の中から、銀色の髪をなびかせながら、イクシュナーゼが現れたのが見えた。
その体が、ふわりと宙に浮く。
女神が軽く手を振った直後、城の周囲に、万を超える黒い鎧の軍隊が生まれた。
(悪夢だな……)
奇しくもイリスと同じ感想を抱いて、剣を構える。
さて、どうやってイリスを守ろうか。
「行くぞ、イフリート!!」
リアムが考えを巡らせている間に、エドワルドがイフリートとともに敵軍に突っ込んだ。
これだけの人数差だ。作戦なんて考えても無駄なのはわかっているが、あの大軍を恐れずに突っ込んでいける弟の度胸には驚かされるばかりである。
そう思っていると、イリスが表情を引き締めてウンディーネを振り仰いだ。
「ウンディーネ、行くわよ! 相手がただの鎧なら、躊躇する必要なんてないもの!!」
リアムが止める間もなく、イリスがウンディーネに指示をして、敵軍を分断すべく無数の水の壁を展開させる。
リアムは息を吞んだ。
(……ああそうか。イリスはイリスなりに、考えてここにいるのだな)
甘やかされて育った末姫の、ただの我儘ではなかったのだ。
「お兄様、お姉様、後援は任せて!!」
頼もしく宣言する幼い妹に、リアムは迷いを捨てた。
イリスは大丈夫だ。ならば──
「アデルはヘンドリックとともに行動しろ! 私は中央突破する!!」
「私も行こう。フェンリル!!」
アルベールが剣を片手に軽やかにフェンリルの背中に飛び乗った。
「物理攻撃は『絶対防御』ではじかれる! 多少の無茶は問題ない! リアム殿下、中央まで飛ぶぞ!」
「ウンディーネ、ウォーターカッターでリアムお兄様たちの前方を切り裂いて!!」
アルベールの手を取ってリアムがフェンリルの背に飛び乗れば、イリスがウンディーネに指示を出して、邪魔な敵を切り裂いていく。
フェンリルの跳躍で、一気に敵のど真ん中に着地したリアムは、アルベールと背中合わせで剣を握った。
相手の攻撃がこちらに通用しないなら、怪我を考えずに突っ込める。
「フェンリル、私たちのことは気にせず、思う存分暴れてくれてかまわないよ!」
「そういうことなら任せろ!」
フェンリルがふわふわの尻尾を振って返事をすると、嬉々として敵軍に突っ込んだ。
アルベールも、目の前の敵を容赦なく蹴散らしていく。
(やはり、一度でも実戦経験があると違うものだな)
こちらも、負けていられない──
ここで耐えていれば、きっとシャーリーが何とかしてくれるから。
(シャーリー、私にとって……いや、みんなにとっての女神は、イクシュナーゼではなく君だと思うよ)
リアムは剣を振りかぶり、地を蹴った。