サイドストーリー 女神軍との戦い sideイリス


(シャーリーともっとゆっくり話がしたかったのに……ま、こんな状況じゃあ仕方がないわよね)

 シルフのテレポートで極寒の大地に飛ばされたイリスは、氷と雪に覆われた真っ白な大地を見やりながら小さく息を吐いた。

 空は晴れているのに、雪が降っている。

 これだけ見れば実に幻想的で美しいが、ゆっくり景色に浸っている暇はないだろう。

「イリス、大丈夫?」

 ウンディーネが心配そうにイリスに問いかける。

 シャーリーがしつこいくらいにイリスのことをウンディーネに頼んだせいだろう。

(前世と違って、今の体は健康体なのよ)

 食事が摂れなくなってやつれていたころのイリスが頭から離れないのかもしれないが、シャーリーは心配しすぎなのだ。それはそれで嬉しいのだけれど、これまで魔力がないからと言ってのけ者にされていたイリスにとって、ようやく巡ってきた役に立てそうな機会なのである。せっかくのチャンスをふいにするつもりはない。

「女神の城というのはあれだろうか」

 吹雪いてはいないが、はらはらと舞い落ちる雪と、それから日差しを反射して輝く氷と雪がまぶしいのか、アルベールが目の上に手をかざしながら遠くを指さした。

 そちらを見れば、まるでガラス細工のようにきれいな城が雪に埋もれるようにして立っていた。

 きれいだが、見るからに寒そうで、どう考えても生身の人間が住めるような城ではない。

 だからこそ、あれが女神の古城だろうと言うのが信じられる。あんなものに住もうなんて思うのは神か、幽霊か、はたまた魔物くらいだ。

「そうだとしても、みすみす女神の待ち構えている城に乗り込むのは無謀だな」

 エドワルドがもっともらしく言う。

(こういうのは作戦を立てて乗り込まないとね。まずは気づかれずに侵入するための、侵入口を探すのがベストのはず……)

 前世にゲームで得た知識から最善の行動を割り出そうとしたイリスだったが、失念していた。ここには、決して組み合わせてはいけない猪突猛進型の面倒臭いコンビがいたのだ。

「わざわざ乗り込まなくてもおびき出せばいいではないか」

「イフリート、策でもあるのか?」

「ふんっ、任せろ!」

 あ、まずい、と思ったが遅かった。ちらりとウンディーネを見たイフリートが、無駄にマッスルポーズをしながら、止める間もなく上空まで飛んでいく。

「何をする気なんだ?」

「さあ。……アデル、念のため俺のそばから離れないでくださいね」

 アデルが不思議そうに空を見上げて、ヘンドリックがアデルを背後に守るようにしながらどんどん上空に飛んでいくイフリートを見やる。

「……嫌な予感がするんだが」

 リアムがぽそりとこぼした言葉に、イリスは大いに同意した。

(同感よ、お兄様)

 だが、あんなに高く昇ってしまったイフリートに指示を出そうとすると大声を張り上げる必要があって、そんなことをすればすぐに女神に気づかれるのはわかり切っていた。ものすごく不安だが、イフリートの行動を止めるのは諦めて見守るしかない。

「フェンリル、『絶対防御』を全員に張れる?」

「任せろ」

 アルベールもイフリートが何かをやらかすのを察して、フェンリルにそう指示を出していた。

 そして、フェンリルが『絶対防御』を全員に張るのとほぼ同時のことだった。

「ふははははははは!! 見るがいい、我が最強奥義!! 灼熱のぉ──」

「あの、愚か者が……」

 ウンディーネがひくっと頰を引きつらせた。

 できることなら、イリスも完全に調子に乗っているイフリートの頭をひっぱたいてやりたいところだがもう遅い。

「炎獄弾!!

 彼が掲げた両手には、真っ赤に燃える巨大な球体が生み出されていた。

 皆があきれる中、エドワルド一人がキラキラと目を輝かせてイフリートを見上げていた。

「なるほど、あれで城ごと吹っ飛ばすことができたら楽だな!」

「……エドワルド、水を差すようで悪いが、私はそう上手くいくとは思えない」

 リアムの言葉にエドワルド以外の全員が同意を示す中、生み出した巨大な炎の塊をイフリートが城に向かって「ふん!!」と投げつけた。

 隕石でも降ってきたのかという勢いで飛んで行った炎の塊は、爆音を上げて城に激突した。

 幸いにして、フェンリルとウンディーネが防御結界で周囲を囲ってくれたため、こちらにはそれほどの被害はない。

 イフリートだけは、爆風が飛んでくる想定をしていなかったようで、見事に後方に吹っ飛ばされたが、元気いっぱいに戻ってくる。

「どうだ? 見たか、ウンディーネ!」

 どや顔でそんなことを言うイフリートを、ウンディーネは見向きもしなかった。

(こんな風だから嫌われるのよ。はあ……)

 大方、ウンディーネにかっこいいところを見せようと張り切ったのだろうが逆効果だ。

「それにしても、あれだけの衝撃なら、さすがに壊れたかしら?」

 白い水蒸気のような煙が城の周りに充満しているためわからないが、全壊は無理でも半壊くらいはしているのではなかろうか。

(ついでに中の女神に多少のダメージでもあればラッキーなんだけど……って)

 徐々に煙が晴れていき、イリスは息を吞んだ。

「うそでしょ、無傷!?

 城の周りの雪は全て溶けている。その下にあった分厚い氷も解け、それどころか解けた水すら気化して、ごつごつとした岩肌が見えているのに、その上に建っている城には小さな欠けすら見つからなかった。

「うおっ、俺の渾身の一撃が!!

 ショックを受けたイフリートが頭を抱えてのたうっているが、イリスはきれいさっぱり暑苦しい筋肉馬鹿を無視して、きゅっと表情を引き締めた。

「お姉様、お兄様、何か来るわ!!

 イリスの声に、アデルとヘンドリック、リアムが剣を抜く。

 リアムの剣は深紅の色をしていた。現実でこんな色の剣は見たことがないから、大方シャーリーが生み出したものだろう。

 エドワルドの手には青銀色の剣と、それからイフリートの生み出した炎の剣がある。

 アルベールも剣を抜き、すっとそれを正眼に構えた。

 城の正門から、ゆっくりと一人の女性が姿を現す。