「生き返る……」

「大げさだな」

 ゼレンシウスがあきれ顔だが、シャーリーはそのくらい疲れていたのである。貴族令嬢を舐めないでほしい。この体は、前世以上に体力がないのだ。

「シャーリー、冷やしてあげるわ」

 ウンディーネがくすくす笑いながら、シャーリーの額に手を置いた。水の精霊王であるウンディーネの手は冷たくて気持ちがいい。

「ありがとう、ウンディーネ」

 お茶とウンディーネのおかげで疲れが少し取れてきたシャーリーは、お弁当を食べつつ上を見上げる。

 階段はまだまだ上へと伸びていて、うんざりするほどだが、ここまで来たら頑張るしかない。

(わたしが自分で行くって言ったんだから、嫌がってたらダメよね)

 お弁当を食べて体力を回復したシャーリーは、よし、と気合を入れて立ち上がった。

 そして、同じく十五分かけて残りの階段を上り切ったシャーリーが、部屋の隅に座り込んで休んでいる間に、リアムとゼレンシウスが巨大な砂時計のような装置を眺めては何やらぶつぶつ話し込んでいる。

(魔力をあれに集めているって言ったけど、なんか充電みたいね)

 あの変な砂時計のようなものにいったん魔力をプールして、そこから地下へと届けるらしい。

(あんな巨大なものじゃなくて、それこそスマホ用のモバイル電源みたいな小さなものでもいいんじゃない? その方が楽そうなんだけど。というか、コンセントみたいにできないのかな。いちいち上に上がってあの砂時計から魔力を吸収するの面倒だし)

 そんなことを思いながら眺めていると、砂時計もどきを眺めていたゼレンシウスが振り返った。

「シャーリー、これと同じものを作り出せるか?」

「いや、無理だと思いますけど」

 いきなり無茶を言うものである。

 もしかしなくとも、シャーリーの力が必要だと言ったゼレンシウスは、シャーリーに同じものを作らせようと思っていたのだろうか。

 試しに指をぱちんと鳴らしてみたが、出てきたのはただの小さな砂時計だった。シャーリーの想像力が足りないのだろう。あれと同じものは出てこない。

(そもそもどうなっているのかわかんないから、想像しようがないんだよね)

 あの砂らしいものが魔力だということはわかったが、それだけだ。

「いっそ、あの砂が下に落ちるようにしたらどうですか? 玄関ホールあたりに落ちるようにするとか……」

 天井から砂がバラバラ落ちてきたら邪魔でしょうがないし、掃除が大変そうではあるが、あれは魔力らしいので、たぶん大丈夫な気もする。

 上に上がりながら砂が消えて行っているのだから、魔力が使われれば消えていくはずだ。つまり、リアムやゼレンシウスが吸収したら消える──と思う。

「できるのか?」

「うーん……、たぶん?」

 砂時計を破壊して砂が落ちるようにすればいいだけなのだろうから、できなくないと思う。

「とりあえず、その装置をひっくり返してみませんか? そうしたら魔力の砂が上に上がるのではなくて落ちてくるようになりませんかね?」

 上に上っているものをひっくり返せば落ちて来るはずだと言えば、ゼレンシウスが腕を組んで唸る。

「そう簡単に行くとも思えないが……」

「うまくいかなければその時考えればいいじゃないですか。ウンディーネ、あの砂時計っぽい装置の上の蔦の根っこを切って、砂時計をひっくり返せる?」

「できると思うわ」

 ウンディーネが快諾して、ふわりと宙を飛んで天井付近まで行くと、砂時計の根をウォーターカッターで切り取った。そしてそれをくるりとひっくり返す。

「ほら、落ちて来ましたよ!」

 シャーリーの予想通り、魔力の砂は上に上がるのではなく落ちてくるようになった。

「それで、これをどうするんだ?」

 リアムが興味津々に訊ねてきたので、ウンディーネに頼んで部屋の外へ運んでもらう。

 そして、吹き抜けまで運んでもらうと。指パッチンで太いロープを呼び出し、ウンディーネに天井に砂時計もどきをつるしてもらった。

「これだと魔力の砂は落ちてこないぞ」

「だから穴を開ければいいじゃないですか。ウンディーネ、そこに穴をあけてくれない?」

「いいわよ」

 ウンディーネが水を刃に変えて、砂時計の底に直系十センチくらいの穴をあけてくれた。あいた穴から、金色の砂の粒が水のように吹き抜け部分から流れ落ちて、玄関ホールにたまっていく。

「……なんて乱暴な」

 ゼレンシウスが吹き抜けから下を眺めて茫然としたが、リアムは逆に面白そうに目を輝かせていた。

「なるほどな。単純だがうまい手だ」

「これでもう上に上る必要はなくなりましたね」

「それが狙いか?」

 くすくすとリアムが笑う。当然だ。何度も何度も上に上る羽目になるのは勘弁である。ほしいのはあの魔力の砂粒なのだから、下に落としてしまえばそれでいいのだ。

「でも、この速度だとあっという間に砂がなくなりそうですね」

「なくなってもまた少しずつ溜まっていくはずだ。速度は落ちるだろうが、塔の中に魔力持ちが入っている限り、なくなることはない」

 ゼレンシウスによると、この装置は、塔の中にある魔力を吸い上げて結晶化するらしい。そのため、中の結晶がなくなっても、また生まれてくるという。

(よくわかんないけど、まあいいや。とりあえずこれで当初の目的は達成されたわよね?)

 魔力の循環と言われてもシャーリーにはさっぱりだし、できることもないだろう。あとはゼレンシウスに任せておけばいい。

 これで、世界の滅びが一日でも伸びてくれることを祈るだけだ。

(根本的な解決にはならないけど、できること一つ目って感じかな?)

 このような地道な作業を続けながら、何か解決策の糸口が見つかればいい。

 世界の滅びは今日明日ではなく、まだ何十年もあるはずだ。それだけの時間があれば、きっと何か名案が思い浮かぶかもしれないと、シャーリーは前向きに考えることにした。

 ──この時シャーリーは、まさか、事態が急速に悪化するとは、想像だにしていなかったから。