それは遥か昔──

 この世界は、どこまで行っても砂と岩のみの何もない世界だった。

 水もなく。

 虫も動物も植物すら存在せず。

 風が吹けば砂が舞うだけの砂漠がはてもなく続いている世界だった。

 そんな何もない世界に、ある時一人の女神が舞い降りる。

 女神の名は、イクシュナーゼ。

 銀色の髪と瞳を持った、美しい女神だった。


 イクシュナーゼは創世の杖をれた大地に突き立てた。

 杖の先からは光が溢れ、光は雲になり、雨が降った。

 雨は三日三晩降り続く。

 そして四日目の朝、砂と岩しかない大地に草が芽吹いた。

 木々が育ち、花が咲いた。

 花が咲くと虫が生まれ、鳥が、動物が生まれた。

 朝が来ると鳥が歌い出す美しく生まれ変わった世界に、最後に産まれたのは人だった。

 人の誕生を見届けたイクシュナーゼは、満足して世界を去った。


 それから百年後──

 再び世界を訪れたイクシュナーゼが見たものは、再び砂と岩だけの何もない砂漠に戻った世界だった。

 イクシュナーゼは再び創世の杖を大地に突き立てた。

 世界に雨が降り、緑が芽吹き、命が誕生した。

 女神は世界を去ったが、百年後訪れてみると、また世界は涸れていた。


 イクシュナーゼはいぶかしみ、今度は世界を去らなかった。

 世界を去らなかった女神は、世界が壊れる原因を知る。

 この世界は、枯渇していたのだ。

 女神の魔力で世界を満たしても、その魔力が尽きるとともに世界は滅びを迎える。


 イクシュナーゼは考えた。

 世界の維持には魔力が必要だ。

 しかしながらいつまでもイクシュナーゼが世界にとどまり続け、魔力を供給し続けることはできない。

 そこで女神は、人々の中にほんの一握りだけ、自身の魔力を分け与えた。

 世界のあちこちに緑の塔を創造し、魔力を分け与えた人間に、そこから大地に魔力を供給するよう命じた。

 人々は魔力を持った人間を王として、世界に国を作ることにした。

 王は自ら緑の塔へ向かい、世界に魔力を供給する。

 緑の塔から大地に魔力が流れ落ち、世界はようやく滅びを免れた。


 イクシュナーゼは今度こそ満足して、二度と世界に戻って来ることはなかったのだった──



『ユーグレグース創世記』