翌日の昼。

 正確な時刻は十二時五十五分。

 俺たち五人と二匹は冒険者ギルドが試験で使用する演習場に来ていた。

 学校の校庭くらいの面積に木々や草が生やされており、一瞬村の外の普通のフィールドのように感じるくらいリアリティがある。

「ファブリス、こんなところに私たちを呼び出すなんて何を考えているのでしょうか?」

 アレリアが不満げにつぶやいた。

「さあな。あいつが何を考えているのかはさっぱりだ」

 何かしらの身の潔白を証明する証拠を示すということか? だとしたら、されないよう気を引き締め、一層慎重にならないとな。

 もしくは、奇襲攻撃を仕掛けてくる可能性も考えられる。

 あらゆる可能性を考え、全てに対応できるようにしておくに越したことはないか。

「念のため、戦闘を視野に入れて準備をしておこう」

 俺は各種ポーションをアイテムスロットから取り出し、全員に渡す。

「強化魔法もかけたほうがいい?」

「そうだな。頼む」

「オッケー」

 これで何が起こっても全力を出せないという状況にはならない。

「十三時になったわね」

 懐中時計を見ていたアイナが時刻を知らせた。

 ──と同時。

 バンッ!

 演習場の扉が勢いよく開いた。

「よう、待たせたな。マツサキ・ユーキ」

 扉を蹴って入ってきたのは、不気味に口角を上げたファブリス。

 王宮で見たときの雰囲気は好青年そのものだったが、今のファブリスからは以前と同じドス黒いものを感じる。

 王国にいたときの、独りよがりで、卑怯ひきょうで、プライドだけは高い勇者の姿。

「ファブリス……ようやく本性を現したようだな」

「ふん。我ながら気色悪いキャラづくりも頑張ったつもりなんだがな」

「似合わねえよ」

 どれだけ外面を取り繕おうと、にじみ出る本性は隠しきれない。

 どうやら、俺の直感は正しかったようだ。

「それで、見せたいものってなんだ?」

 今日、俺がここに呼ばれたのはファブリスから見せたいものがあると伝えられたから。ただのおびき出す口実づくりの可能性もあるが、一応聞いておくことにした。

「ああ、それは……こいつだ。出てきていいぞ」

 扉の方に声をかけるファブリス。

 奥に誰かいるのか?

 いや、そんなことよりもよく考えると、こいつが一人で行動しているのはおかしい。

 監視が必ずいるはず──

「ファブリス、役人はどうした? って……マジかよ……」

 俺が仕掛けた質問がどうでもよくなるくらいには、驚くべき人物が扉から出てきたのだった。

「驚いたか?」

 愉快そうに言うファブリス。

 思惑どおりの感想になるのはしゃくに障るが、確かに驚かされた。

「ああ……まさか、こいつが出てくるとはな。シーリ……!」

 ファブリスに続いて扉から演習場に入ってきたのは、シーゲル帝国で二週間前に行方をくらませたはずの回復の勇者──シーリ・ガルティエ。

「久しぶりね。ろくでなし賢者」

 憎悪の目を向けてくるシーリ。

 勇者たちを引きがし、各国に追放したことでかなり恨まれているようだ。

「マツサキ・ユーキ、監視の役人を気にしているようだが心配は無用だ。ちょっと気を失ってもらっただけだからな。勇者はやみに人を殺さんのだよ」

「……そういうことかよ」

 何が『心配は無用だ』だよ。

 俺たちをここに呼び出した理由がやっとわかった。俺たちを始末しようと考えているのだろう。

 ふくしゅうなのか、あるいは単純に俺たちを殺せば以前のような高い地位が戻ってくると考えているのか。

 動機は色々考えられるが、そんなところだろう。

 ギルドの演習場は高い塀に囲まれ、外から中の様子が見えない。

 戦闘があっても不自然さがないため、絶好の場所だということか。

「シーリ、一つ聞いていいか?」

「何?」

「どうやってこの国に来た?」

 二週間あれば、シーゲル帝国からリーシェル公国に移動することはできる。だが、それはあくまでも地理的な距離だけを考えた場合の話。

 現実的には誰にも見つからず、痕跡を残さずにこの島に上陸し、ファブリスと再会できる手段がなければならない。

 ファブリスに関しては今日まで品行方正を貫き常に役人の監視があった。

 普通に考えれば、無理だったはずだ。

 チラッとファブリスの顔をうかがうシーリ。

「いいんじゃないか? めいの土産に教えてやればいい」

「そうね♡」

 気色悪い声を出し、胸から紫色の水晶を取り出すシーリ。

「これよ」

 と言われても、これが何なのかわからない。

「転移結晶。禁忌魔法を使える魔道具ね」

「禁忌魔法!? そんなものどうやって……」

 俺が驚くと、心底楽しそうに笑うファブリスとシーリ。

 どう考えてもファブリスやシーリが単独で作れるものではない。となると、誰か協力者がいるはず。一体誰が……。

 いや、そんなことよりも禁忌魔法を使える魔道具なるものが存在し、それを持っているということは転移魔法以外にも禁忌魔法を使える可能性がある。

 それを踏まえた上で立ち回らないとな……。

「これ以上はお前が知る必要はない」

 そう言い、黄金の剣を俺に向けるファブリス。

 まったく……少し会わない間にめられたものだな。

「禁忌魔法の一つや二つ使えるようになったくらいで図に乗りすぎだぞ。ファブリス」

「そうですよ! 私に負けた程度の実力でユーキに勝つなんて本気で思っているなら考え直したほうがいいですよ!」

 ファブリスとアレリアは一度決闘をしたことがある。その際にはファブリス側が少し油断していたとはいえ、アレリアの圧勝。

 あれからたったの一ヶ月ではどう考えても埋められない差がある。

 まったく負ける気がしない。

 その証拠に、俺が『魔眼』で見ているファブリスとシーリのステータスはそれほど変化していなかった。


 名前 :ファブリス・ジョーキン Lv.16

 クラス:剣の勇者

 スキル:『勇者の底力』『勇者の秘技(剣)』

 HP :21501/21501

 MP :14476/14476


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 攻撃力:A

 防御力:B

 攻撃速度:B

 移動速度:B

 魔法攻撃力:C

 魔法抵抗力:B

 精神力:B

 生命力:A

 魔力:B


 [△△ 前へ] [TOP]


 『勇者の底力』というスキルは生命力が減ってしまったときに、より力を発揮するもの。

 『勇者の秘技』は勇者が持つ力を見かけのステータスとは関係なく常に上昇させる効果を持つ。

 どちらも勇者らしいスキルである。

 続けて、シーリのステータス。


 名前 :シーリ・ガルティエ Lv.11

 クラス:回復の勇者

 スキル:『勇者の底力』『勇者の秘技(回復)』

 HP :8955/8955

 MP :62449/62449


 [次へ ▽▽] [TOP]


 攻撃力:E

 防御力:E

 攻撃速度:E

 移動速度:E

 魔法攻撃力:E

 魔法抵抗力:E

 精神力:E

 生命力:C

 魔力:S


 [△△ 前へ] [TOP]


 見てわかるとおり、シーリは魔力量以外の全てが冒険者の平均以下。

 回復魔法以外では戦闘に役に立たない存在。

 魔道具を使って多少の禁忌魔法が使えるようになっているのだとしても、これだけのステータス差があれば俺たちに圧倒的な分がある。

 いきなりファブリスを押さえるプランでもどうにかなりそうだが……俺は雑魚相手でも絶対に油断はしない。

 より安全・確実に取り押さえるためにシーリを先に無力化するのがよさそうだ。

 と、これだけの力量差がありながら、アレリアに指摘されたようにファブリスの顔は自信に満ちた涼しいものだった。

「もう一ヶ月前の俺じゃねえんだよ。マツサキ・ユーキ、お前こそあまり舐めてると……火傷やけどするぜ」

「いや~! ファブリスかっこいい♡」

 格好つけたセリフを吐くファブリスと、絶賛するシーリ。

 きっつ……。

 そう感じていたのは俺だけではない。

 アレリア、アイナ、ミーシャ、アリスの四人はもちろんスイとアースの二匹もドン引きしていた。

 それにしても、この自信はどこからくるのやら……と思っていたその時。

 ファブリスとシーリはよろいのポケットから小瓶を取り出した。小瓶の中には、まがまがしいオーラを放つ黒色の液体。強い魔力を感じる。

 明らかに市場に流通している生命力ポーションや魔力ポーションのたぐいではない。

 よく見ると、小瓶には魔人の胸部にあった三角形の中に目が描かれた黒いロゴが描かれている。

 ヘルヘイムに関連した何かなのか……?

 だとしたら、何かはわからないがヤバいもののような気がしてくる。

「それ、なんだ?」

 尋ねるが、二人は薄ら笑いを浮かべるだけで、返事をすることはなかった。

 ファブリスとシーリが小瓶の中の液体を飲み干した直後。

 急に二人から感じられる魔力が増大したように感じられた。

 それだけではない。見た目にも変化があった。

 髪が白くなり、魔物のように鋭い牙が生え、眼球が赤く変化している。

 この特徴は、リオン村で遭遇した魔人と酷似していた。

「まさか……」

 いや、今になって驚くことではないか……。

 ヘルヘイムについて最初に教えてくれたカインが軽く推理していたことだ。

 魔人は人工的に作られたものだった──ということなのだろう。

 考えてみれば、確かにそれなら合点がいく。

 何百年も現れなかった魔人が今になって急に復活する……偶然より必然だったと言われたほうが納得できる。

 禁忌魔法の使用が可能な魔道具……これもヘルヘイムが用意したものならシーリが用意できたことも不自然ではない。

「そんなに驚くことないだろ? マツサキ・ユーキ、お前は魔人と戦ったことがあるんだからな」

「なんでお前がそれを……いや、そういうことか!」

 リオン村に突如現れた魔人と戦ったと思っていたのは俺たちだけで、本当は全て計画の中で戦わされていた……とすれば、俺がたまたま訪れた場所でな敵と戦うハメになり、苦戦させられたことも全てがつながる。

 そりゃそうだよな。

 いくら人工的に魔人を作れるのだとしても、俺が旅先でたまたまそんな場面に出くわすなんて天文学的な確率を超越している。

 俺がリーシェル公国に向かうにあたって事前にリーシェル公国は許諾を出しており、そこにはファブリスがいた。

 ファブリスは国王に取り入ったことで事前に俺が来ることを知っていたようだったし……となると逆算して俺たちがリオン村に立ち寄ることは十分想定できた。

 そこを狙われたのだろう。

 だが、一つだけわからないことがあった。

「リオン村に出た魔人を俺たちが倒したのは知ってるんだろ? それなのに同じことをして本気で勝てると思ってるのか?」

 俺はファブリスをにらんだ。

 ファブリスは余裕の笑みを浮かべた。

「魔人戦ではなかなか苦戦していたみたいじゃないか」

「それは……」

「マツサキ・ユーキ、お前には相性の悪い敵がいるらしいな。それに、俺はあんな雑魚とは違って勇者だ。ベースのステータスがまるで違う。知能を犠牲にすることなく魔人の力だけを味方につけた。リオン村ではなんとかなったかもしれないが──同じ手で切り抜けられると思うなよ?」

 どうやら、俺が『かくらん』と『硬化』に苦しめられたこともファブリスに伝わっていたようだ。

 『硬化』はともかく、『撹乱』に関しては本当に厄介だった。

 あの場面を切り抜けられたのはアリスの特異体質とスイが視界を中継してくれたおかげだと言っていい。

 そんなやり方で勝てたのはステータス差による余裕が大きかった。

 魔人化したファブリスでも通用するのかどうか……ステータスを確認する。


 名前 :ファブリス・ジョーキン Lv.16

 クラス:剣の勇者・魔人

 スキル:『勇者の底力』『勇者の秘技(剣)』『撹乱』『硬化』

 HP :126777/126777

 MP :91090/91090


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 攻撃力:S

 防御力:A

 攻撃速度:S

 移動速度:S

 魔法攻撃力:A

 魔法抵抗力:A

 精神力:S

 生命力:SS

 魔力:S


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 かなりステータスが高いことに加えて、『撹乱』と『硬化』を備えているとは思わなかった。

 単純にリオン村で戦った魔物の上位互換ということになるが、ステータスの違いからアリスとスイの手を借りてどうこうできるレベルの話ではない。

 ジワっと汗が噴き出してくる。

「どうだ? 驚いたか? マツサキ・ユーキ。ああ……いいぜ、その顔。俺が受けた屈辱……ここで返してやる!」

 言いながら、黄金の剣で斬りかかってくるファブリス。

「くっ」

 俺は攻撃をけ、いったん距離を取る。

 魔人化したことによりファブリスのステータスは大幅に強化されたが、それでも俺のステータスの方が高いことに変わりはない。

 攻撃を避けるくらいは造作もないことだった。

 問題は、魔人戦で苦労させられた『撹乱』と『硬化』をどのように攻略するか──この一点に尽きる。

 一見難易度が高いようにも思うが、そうでもない。

 『硬化』については剣と魔法の同時攻撃で対策可能。

 厄介な『撹乱』も相手をファブリスに限ればそれほどの苦労はない。『撹乱』は俺が認識する敵の座標と実際の敵の座標がズレているため攻撃が当たらない。だが、俺の認識がズレるのは攻撃直前のわずかな瞬間だけ。

 ザンッ!

 剣を振ったのと同時に火球がファブリスの腕に着弾。

 剣本体による攻撃はかすめたものの攻撃が無効化。

 しかし、火球はしっかりとダメージを与えることができた。

「ぐはっ……な、なんだと!? 馬鹿な!」

 狙いがよほど小さな敵なら厳しいが、大人の人間程度の大きさがあればかすりもしないことはない。

 それに、ファブリスとの戦いはアレリアが決闘するところを間近で見たことがある。

 言語化できないほどの小さな癖、思考回路、戦闘パターン……もろもろの情報の積み重ねがあれば多少の座標のズレがあろうとも対応できる。

「ふっ……まさか俺の動きについてこられるとはな……だが、やはり狙いにはズレがあるようだな! られる前に殺ってやるよ……!」

 と言いつつも、結構なふかを負ったファブリスの腕からは血がポタポタと垂れている。

 この世界はゲームのようにを負っても生命力が尽きるまで同じように動けるわけではない。

 ダメージを受ければ動きが悪くなるし、ダメージを回復しなければだんだんと生命力が削られていく。

 シーリに戦闘能力がないことを考えれば、消耗戦に持ち込み、ファブリスの生命力を地道に削っていけば勝てる。

 俺にはすでに勝利への道筋が見えていた。

 だったのだが──

「シーリ」

 ファブリスが後ろに立つシーリの名前を呼ぶと──

 シーリが回復魔法を発動し、白い光がファブリスの腕を包む。

 一秒にも満たない時間の後、深い傷を負っていた腕は元どおりになっていた。

 ステータスを確認すると、生命力がしっかりと上限値まで回復している。

「魔人化すると回復魔法も強化されるのかよ……」

 簡単に倒せると思っていたが、そう上手うまい話はないらしい。

「遊びは終わりだ。魔人化するだけで十分だと思っていたが……これじゃらちがあかねえ。奥の手を見せてやる」

 奥の手?

 ファブリスはポケットから黒い石を取り出した。

「これを、こうやるんだよ」

 パキン!

 黒い石を握りつぶすと、黒いオーラがファブリスの身体を覆った。

「ユーキ君、魔石の魔力を取り込んでるよ。多分、あれは人間を魔法兵器化する禁忌魔法……」

 まったく、禁忌魔法のバーゲンセールだな。

 転移魔法に魔人化に魔石利用……か。

 だが、どれだけズルして背伸びしたとしても、俺が負けることはない。

「奥の手を隠してるのが自分だけだと思ったか?」

 そう、俺も最初から手の内を見せることはしていない。

 まずは様子見。

 これで勝てるようなら奥の手を見せるつもりはなかったが……仕方がない。

 俺だってリオン村で危ない戦いをしておきながら何も対策してこなかったわけじゃない。

 もしまた魔人と同じ『撹乱』スキルを持つ敵と戦うことになったら──そんなシミュレーションを欠かさなかった。

 そしてたどり着いた一つの結論がこれだ。

 ファブリスが強化された脚力により猛スピードで突進。俺に向かって剣を振ってきた。

「死ね!」

 当たれば大ダメージに繋がる強力な一撃だったが、俺はあえて一歩も動かなかった。

 スカッ!

 俺の隣の何もない空間を切り裂くファブリス。

 当然だが、俺の身体に当たることはなかった。

「な、なに!?

 攻撃が外れたことに混乱するファブリス。

「どうした? 素振りの練習か?」

「う、うるせえ! たまたま外れただけだ! 今度こそ……!」

 顔を真っ赤にして言い返してからのリトライ。

 スカッ!

 三回目。四回目。五回目。その後も……。

 スカッ! スカッ! スカッ! スカッ…………

「な、なぜ当たらない……!? いや、避けられているならまだわかる。なぜ止まっているのに当たらないんだ!? 俺の腕が鈍ったのか……!? いや、まさかそんなはずは……」

 ファブリスはありえないとばかりに動揺していた。

「ふっ」

 あまりに滑稽すぎて吹き出しそうになってしまう。

 まあ、無理もない。

 俺も初めてこのスキルを持つ敵を目の前にしたときはそうだったからな。

「『撹乱』を使えるのが自分だけだとどうして決めつけてるんだ?」

「は!? 今関係ねえだろうが……! いや……ちょっと待てよ?」

 ここまで言えば伝わっただろうか。

「まさか……マツサキ・ユーキ、お前も使えるのか……!?

 そう、俺は魔人が使う『撹乱』をコピーして使ったのだ。

 俺にはアリスのようにスキル自体を自分に対して無効化することはできなかった。

 だが、『大地の力』を手に入れたときのように、魔法の構造を解析し、自力で習得することはできた。

 俺にも再現可能な魔法なのであれば、『スキル』として持っていなかったとしても『魔法』としての使用は可能。

 俺の場合は魔法として使えるようになったとき、なぜかスキルとして習得することもできるようなのだが……。

 ともかく、『撹乱』は魔人専用のスキルではなく、人間の俺にも使えるようだったので、これを使って攻撃を避けたというわけだ。

 そして、このスキルの真髄は攻撃を避けられるだけではない。

 自分に座標のズレがない『撹乱』を使うことにより、ファブリスの『撹乱』を上書きすることができるのだ。

 俺は火球と剣で同時に攻撃する。

 今度は火球が先に着弾し、直後に剣による攻撃が成功。

 二本の剣が鎧を貫通し、ファブリスの腹をっ切った。

「ぐあああああああああっ!?

 悲痛な叫びを上げるファブリス。

 昨日たまたま『大地の力』を習得できたことをきっかけに思いついて一晩で仕上げたのだが、どうやら実戦でも十分に通用したようだ。

「く、くそ……こんなはずは……」

 致命傷にはなっていなかったため、シーリの回復魔法により傷がえたファブリス。

 だが、その顔に初めのような元気はなかった。

 このまま戦っても勝ち目がないことを悟ったのだろう。

「どうした? まだやるのか?」

「……くっ」

「ここで諦めたほうが利口だと思うぞ? 今なら殺しはしない。もちろんこれまでよりも厳しい監視をつけるし、二度とわずかな自由もないがな」

 自分で言っていてまるで悪役のセリフかのように思ってしまうが、これは当たり前のことである。

「まあ、返事がないなら無理やり拘束するしか……」

 俺は、ファブリスに魔剣を向けた。

「シーリ、こうなったら死んだほうがマシだよなぁ?」

 脱力し、シーリを見つめるファブリス。

 黙ってうなずくシーリ。

 なんだ? 心中でもするつもりか?

「聞け、マツサキ・ユーキ」

「ん?」

「俺たちは死ぬが、お前も死ぬ。これで俺の勝ちだ」

 何言ってるんだこいつ?

 ファブリスの言うとおりになったとして、百歩譲って負けではないとしても勝ちにはならないだろう。

 窮地に追いやられたことで苦し紛れの時間稼ぎでもしているのか?

 はあ……。

 俺はため息をつくしかなかった。

「くだらないことを言ってないで──」

 と言おうとしたとき。

 ファブリスとシーリが両者それぞれポケットから禍々しい赤い石と青い石を取り出した。

 どちらもゴルフボールくらいの大きさ。

 元は魔石のようだが、加工されたもののようだ。

 何をするかと思えば──

「はぐぐぐぐぐっ」

「むぐぐぐぐぐっ」

 ファブリスが赤い石を、シーリが青い石を無理やり口の中に押し込んだ。

「お、おい……何やってるんだ?」

 そんなものを飲み込もうとでもすれば窒息死してしまう。

 俺はファブリスたちの奇行を止めるべく、剣を持って駆けた。

 詳しい事情を聞く前に死なれるのは都合が悪いのだ。ヘルヘイムとの関係や彼らの内部事情など聞いておきたいことは山ほどある。

 二人そろって……最悪片方でもいいので生け捕りにしておきたい。

 だが、俺の制止は間に合わず二人は石を飲み込んでしまった。バサッと二人とも力なく倒れ、動かなくなってしまう。

 直後、急激に二人の生命力と魔力の量が減少。

 生命力1、魔力0でピタリと止まった。

 ギリギリ死んではいないが、ひんの状態だ。

 しかし、何かがおかしい。

 酸欠によるダメージならこれほど急激な減少にはならないだろうし、生命力の減少が1で止まるのも違和感がある。

「ユ、ユーキ、空が変です!」

「空?」

 アレリアに言われ、反射的に頭上を見る。

 一帯に暗雲が立ち込め、巨大な紫色の幾何学模様が浮かび上がっていた。

 あれは魔法陣か……?

 などと思っていると、魔法陣の中から何かがニュッと出てきた。

「ちょ、ちょっとあれって魔族じゃ……?

 アイナの顔が青ざめていた。

 出てきたのは、白髪に特徴的なツノ、暗い紫色の身体、背中に翼を持つ人間離れした生物──魔族だった。

 しかも、それが三十体。

 一体だけでも強敵である魔族が三十体……。

 できれば戦いたくないが、戦わざるをえないだろうな……。

 俺の推測が混じるが、ファブリスとシーリは自身の生命力と魔力を消費し、魔族を召喚する魔法を使ったのだろう。

 異世界から俺を呼び寄せた魔法が禁忌魔法だったから、これもそうなんだろうが……てか今日で何回目だよ。

 あいつらのせいで禁忌魔法が普通になってないか?

 ……と、そんなことより魔族それぞれのステータスを確認する。

 ふむ……。

 どうやら、三十体のうち二十九体は似通ったステータスをしており、一体だけ並外れた能力を持つようだ。

 『魔眼』によると、似た二十九体のうち適当な一体のステータスがこれだ。


 名前 :リプリス Lv.10

 クラス:魔族

 スキル:なし

 HP :75890/75890

 MP :48777/58777


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 攻撃力:A

 防御力:A

 攻撃速度:A

 移動速度:A

 魔法攻撃力:A

 魔法抵抗力:A

 精神力:B

 生命力:A

 魔力:A


 [△△ 前へ] [TOP]


 以前王都で戦ったジュリックという魔族より一回り強いくらい。

 これならそれほど苦労することなく倒せるが、問題は残りの一体の方だ。


 名前 :クラトス Lv.50

 クラス:魔族

 スキル:『自己回復』

 HP :240890/240890

 MP :180761/180761


 [次へ ▽▽] [TOP]


 攻撃力:SS

 防御力:SSS

 攻撃速度:S

 移動速度:S

 魔法攻撃力:SS

 魔法抵抗力:SSS

 精神力:SS

 生命力:SSS

 魔力:SS


 [△△ 前へ] [TOP]


 とんでもないステータスだ。

 全てのステータスがS以上。移動速度以外の全てで俺と同じか上回っている。つまり、格上の敵。

 こりゃ……どうしたものかな。

「ユ、ユーキ……どうする?」

 普段はボケーっとしているアリスがおびえた声で尋ねてきた。

「どうするもこうするも……逃げられる敵じゃないってことだけは確かだ」

 ここで焦っても仕方がない。

 格上の敵は一体だけ。残りは全て格下。

 ステータス差は確かに存在するが、生き残るにはそれを覆すしかない。

「目の前に人間……こりゃあ変な場所に呼ばれたものだな」

 この中で最も厄介な魔族──クラトスが呟いた。

「どうします? クラトス様」

「魔王様の司令ってことでしょうか?」

「クラトス様、ご指示を」

 子分の魔族たちの様子を見るに、彼らにとってもこの状況には混乱せざるをえないようだった。

 これならひとまず今は戦わずに済むか? と淡い期待を抱いたが──

「とりあえず、人間……殺そう。イキが良いのが五人……今すぐ」

 俺の期待どおりになることはなかった。

 生きるか死ぬか──こうなったら何がなんでも魔族を仕留めるしかない。

 格上の敵を一体相手にするだけでもかなり苦しい戦いになる。

 ……となると、残り二十九体は他の誰かに任せたい。

 チラッとアレリアたちを見ながら考える。

 今の四人では弱い魔族を最大でも四体相手にするのが限度だろう。

 その前提で頭をフル回転し、作戦を組み立てていく。

「アレリア、アイナ、ミーシャ、アリス。四人で手前の魔族を四体倒してくれ。今のお前たちならできるはずだ」

 俺が指示を出すと、四人は驚いていた。

「わ、私たちだけでできるのでしょうか……」

「魔族が相手……一体だけならなんとかできるかもって気もするけど……」

「すごく強い敵なんだよね……」

「一体だけでも村を滅ぼしたって聞いたことあるよ……?」

 不安を感じるのは仕方ないが、俺にも勝算あってのことなのだ。

「絶対にできる。落ち着いてみんなで協力すれば倒せる実力はもうついてる。俺が言うんだから間違いない」

「ユーキがそう言うなら……」

「そうね」

「ユーキ君は無理なこと言わないもんね」

「できる気がしてきた」

 この調子ならこっちは大丈夫だろう。

 一方で残り二十五体の処理だが──

「スイ、アース。お前たちで十五体分の魔族と戦ってくれ」

「十五……わ、わかったー」

「ギリギリな気がするんだナ……」

 実際、アースが懸念するとおりこれでもかなりギリギリの戦いになるだろう。

 一対一なら負けることはありえないが、連携する複数の敵と戦えば神竜といえど攻撃を避け切ることはできないし、動きも制限される。

「でも、残り十体の魔族はどうするのですか……?」

 アレリアの疑問はもっともだ。

 残りの魔族とも同時に戦わなければ横から攻撃が飛んできてしまう。かといって、俺たち五人と二匹ではキャパオーバー。

「それも考えてある」

「どうするのですか?」

「これだ」

 俺は、アイテムスロットを操作し、秘密兵器を取り出した。

 秘密兵器とは──ケルカスである。

 エルフの里で戦った魔族。

 生かしたまま収納し、俺のステータスの糧になってくれていた。

 俺にとっては難なく倒せた敵だが、味方となればかなり強い戦力になる。

 こいつを取り出すと俺のステータスから一時的に『魔のエネルギーLv.1』が消えてしまうが、それよりもこいつを使うほうが総合的に強いと判断した。

「久しぶりだな。ケルカス」

「……な、何の用だ。人間」

 魔道具で力を縛っているので、無駄に暴れることはなかった。

 とはいえ、突然アイテムスロットから出されたことで動揺しているようだ。

 だが、悠長に説明している時間はない。

「お前には今からあの魔族と戦ってもらう」

 そう言うと、俺の視線の先を見るケルカス。

「……は? 正気か? 魔族の俺に、お前のために同胞と戦えと?」

「正気も正気だ。そう言っている」

 今は猫の手どころか魔族の手でもなんでも借りたい。

 手段を選んでいる暇はなかった。

「拘束を解けば裏切るかもしれないぞ?」

「お前が裏切らないことは知ってる。やるか、やらないか。早く答えろ」

 こいつは多少頭が回る。

 裏切るつもりなら、わざわざこんな確認を取ることはないだろう。

 それに、自分が生き残るためにはどちらにつけばいいのかくらいはわかるはずだ。

「変な気を起こすんじゃないぞ? お前には十体の魔族と戦ってもらうつもりだが……いざとなればあの程度は俺一人でどうにかできる数だ。あくまでも俺が楽をするためにお前を取り出した。もし裏切れば……わかるな?」

 内心ヒヤヒヤしながらも、ケルカスを睨む俺。

「わ、わかった……。やる。やればいいんだろ!」

「賢明な判断だな」

 この言葉を引き出せれば十分だ。

 俺は、ケルカスを拘束していた魔道具を解いた。

「よし、じゃあやるか──」

 俺たちの準備がちょうど整ったところで、魔族が攻撃を仕掛けてきた。

 まずは巨大化したスイとアースが魔族の軍団にブレスを吐いた。

 攻撃を避けようとした魔族たちは四体、十五体、十体のブロックにれいに分かれた。

 ブロックごとに相談済みの担当に分かれて対応することになる。

 アレリアたち四人はまずアレリアとミーシャが先陣を切って突っ込む。

 そして、アイナとアリスが援護射撃。

 アリスが召喚した騎士たちが魔族の攻撃を受け、そのすきにアレリアたちが有効な攻撃を加える……といった形で俺の思惑どおり状況は優勢。

 スイとアースも順調に一体ずつ処理できており、ケルカスも動揺する敵魔族の隙を突いて次々と倒している。

 そんな中、俺の敵である魔族クラトスは静かに俺の目の前に降りてきた。

「お前……人間のくせに強いな」

「それほどでもないが?」

「見ればわかる」

 なんでもない会話だが、冷や汗ものだった。

 ステータスの高さはもちろんのこと、威圧感がすさまじい。

 これまで異世界で出会ったどの敵よりも強いと直感でわかる。

「お前のような人間は優先して処分するべき」

 無機質な声で呟き、クラトスは右手を俺に突き出した。

 次の瞬間。

 ドゴオオオオオンンンッッ!?

 闇属性の魔力弾が飛んできた。俺はとっに身体を転がし、間一髪のところで避けることに成功した。

 地面にはクラトスの魔法が掠めた部分がえぐれており、攻撃力の高さが窺える。

「ふんっ」

 間髪いれずに接近してくるクラトス。

 一撃くらえばノックアウトの高速パンチを次々と繰り出され、俺は避けるだけで精一杯だった。

 魔法、肉弾戦ともに隙がない。

 これまでは俺がこの立場で敵を追い詰めていただけに逆の立場になるとこれほどまでに苦しいのか……と思わせられる。

 幸いだったのは移動速度だけは俺の方がまさっていること。

 攻撃を避けることはできている。

 クラトスの攻撃を避けながら確実に少しずつ生命力を削っていく……これでいこう。

「……だいたいパターンは読めた。今度はこっちの番だ」

 何度も攻撃を受け流せば、なんとなくリズムがつかめてくる。

 確かにこいつは強いが、まったく隙がないわけじゃない。

 攻撃と攻撃の切れ目にはほんの少しの息継ぎがある。その息継ぎのタイミングで大きく距離を取ることでリズムを乱し──

 フレア!

 距離を詰めようとしてくることは読めていたので、クラトスを目がけて近距離から聖属性のフレアを放つ。

 だが、こんな簡単なカウンターに引っかかるほどちょろい敵ではないこともわかっている。

 俺の予測どおり静止するクラトス。

 魔法は当たらなかったが、足止めには成功した。

 突進しようとしてきたところを止められたクラトスは一瞬思考がストップし、次の俺の攻撃への対応がほんのわずかに遅れる。

 俺はそのかんげきを縫うように迷わず接近。

 聖剣と魔剣の二刀流でいっせん──

 ザンッ!?

 クラトスの肩にかなり重い一撃を与えることに成功した。

 だが──

「なっ……」

 俺が与えたはずのダメージは、一瞬にして回復してしまった。

 そういえば……『自己回復』とかいうスキルがあったな。これは受けたダメージを自動的に回復する効果を持つらしい。

 どの程度の効果があるのかはわからなかったが、ここまで強いのか……。

 これほどの回復速度となると、少しずつ生命力を削っていくのでは厳しい。

 多くても二撃……できれば一撃で削り切らないと倒せない。

「この俺が不覚を取るとは……ますます油断できない」

 クラトスはそう言うと、また俺に魔法とこぶしの両方で次々に攻撃を繰り出す。

 俺は攻撃を時にかわし、時に受け流しながらプランを再考した。

「……」

 いくつもパターンを考えたが、たどり着いた結論は一つだけ。

 習得したばかりの『大地の力』……一撃でこの大容量の生命力を刈り取るには、これを使って極限まで攻撃力を高めるしかない。

 問題は、いかにして時間を稼いで発動させ、確実に攻撃を当てるかだ。

 『大地の力』は確かに一撃が強力だが、スキル化してもなお発動時間がやや長めにかかってしまう。

 ステータスがきっこうした敵を相手に発動するのは簡単ではない。

 どのようにスキルを発動する時間を作るか……その答えが出れば、俺の勝利は確定する。

 改めて周りの状況を確認し、数秒後に来る未来を予測する。

 ──よし、これでいこう。

 俺は大きく身体をひねって魔法を回避。

 反転攻勢と見せかけてクラトスの拳をギリギリのところで避ける。

「何を考えている……?」

 俺は、少しずつ目標の位置にクラトスを誘導していた。

 悟られないよう自然に、少しずつ。

 そのあって俺の作戦はバレていないようだ。

 上手くいけば、あと数秒でこの戦いは終わる。

「クラトス、上を見ろ」

「なぜ俺の名前を……」

 クラトスは俺が『魔眼』によりステータスを確認することができ、ステータス表には名前の記載があることを知らない。

 これによりほんの少し反応が遅れた。

 それから、俺の言葉に反応する形で空を見上げるクラトス。

 このタイミングで一瞬視界から俺が消えるため、『大地の力』を発動する準備ができる。

 これが俺の作戦だった。

 急速に一帯の魔力を集め、俺自身の魔力と結合させる。

……っ!

 クラトスがビクッと身体を揺らすが、俺のスキルに気がついたわけではない。

 上空からはスイが撃ち落とした仲間の魔族が落ちてきていた。

 俺はアレリアたち四人、スイとアース、ケルカスの戦闘からいつどのタイミングで決着がつき、どこに落ちてくるか正確に把握していた。

 このままだとクラトスの頭上に落ちてくるという局面。

 回避のため、落ち着いた様子で右に移動しようとするクラトス。

 だが──

 カツン!

 と音が鳴り、移動に失敗してしまう。

「ぬっ!?

 見えない壁に阻まれ、身体の自由が効かないことにクラトスは動揺した様子。

 これは、俺の『結界魔法』によるものである。

 クラトスの意識をらすには、未知のギミックを使って足止めをするのが最善だと判断し、これに賭けたのだ。

 もちろん静止したクラトスの前後左右に結界を張っていたため、どの方向に動いても同じ結果になったはずだ。

 上手く俺の思惑に引っかかったクラトスは落下する魔族との衝突を回避するため、咄嗟に腕を上げ、はじき飛ばそうとする格好になる。

 ──ここまで二秒ほど。

 この時を待っていた。

 準備が整った俺は、クラトスに向かって駆け出していた。

「チッ!」

 俺の接近に気づいたクラトスは舌打ちし、翼を広げる。

 上に飛翔ひしょうしようとする動きを見せた。

「そういう動きになることはわかってんだよ!」

 壁に阻まれた状態で空を飛べる魔族なら、空に逃げるという選択を取るだろうというのは容易に想像できた。

 ケルカスがまさにそうだったからな。

 俺はクラトスが飛び立つとほぼ同時に地面を思い切り蹴ることでクラトスと同じ高度までジャンプした。

 魔剣ベルセルクと聖剣エクスカリバーに持てる力の全ての力を込める。

 ザアアアアアアアアンンンンンッッッッ!?

 正面からクラトスの胸にクリティカルヒット。

 猛烈な勢いで生命力が減少していき、一瞬にして瀕死状態に。

 しかし、一撃で全ての生命力を刈り取ることはかなわなかった。

 とはいえ──

「これだけ削れれば十分だ」

 大ダメージを与えたものの全ての生命力を削りきれないパターンも想定内。

 俺はクラトスを下敷きにする形で地面に落下。

 同時に、アイテムスロットから拘束具を取り出した。取り出した拘束具は、改良版の結束バンド型。

 この拘束具は身体の魔力の流れを阻害する仕組みで力を抑えるので、クラトスのスキルによる『自己回復』も抑えられるはずだ。

 手際良くパチパチと動かないクラトスを拘束し、瀕死の状態のままアイテムスロットに収納したのだった。


 名前 :まつさきゆう Lv.6

 クラス:賢者

 スキル:『システム操作Lv.1』『神の加護Lv.1』『気候操作Lv.3』『大陸共通語Lv.3』

  『結界魔法Lv.3』『錬金術Lv.2』『アイテム合成Lv.1』『創造魔法Lv.1』

  『アイテム性質変換Lv.1』『魔眼Lv.1』『魔のエネルギーLv.1』

  『竜のシナジーLv.1』『大地の力Lv.1』『撹乱Lv.1』

 HP :120810/125890

 MP :124580/256780

 SP :128


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 攻撃力:SS

 防御力:S

 攻撃速度:S

 移動速度:SS

 魔法攻撃力:SS

 魔法抵抗力:SS

 精神力:S

 生命力:SS

 魔力:SSS


 [△△ 前へ] [TOP] [次へ ▽▽]


 ステータスを確認すると、ケルカスがアイテムスロットにいないのに『魔のエネルギーLv.1』がスキル表に存在する。

 つまり、魔族であればアイテムスロットに入れることでケルカスではなくても有効になるようだ。

 それなら今度こそその辺の雑魚魔族もたくさん集めて俺の糧に──

 と思ったのだが、もう手遅れだった……。

「ユーキ、やりました!」

「大変だったけど、なんとかなったわ」

「ユーキ君の言うとおりになったよ」

「ユーキも魔族倒してほんとすごい!」

 我先にと俺に抱きついてくるアレリア、アイナ、ミーシャ、アリス。

 アレリアたち四人は俺が任せた四体の魔族の討伐をしっかりとやり遂げてくれたようだった。

 空を見ると、スイとアース、ケルカスも降りてきている。

 こちらも全て解決したようだ。

 残念ながら、残った魔族を俺のステータスの糧にすることはできなかった。もちろん倒してくれて一安心なのだが。

「スイとアースもご苦労だったな」

「えっへん」

「当然なんだナ~」

 戦う前はギリギリの戦い……なんて言っていた割には余裕そうだ。

「ケルカスもしっかり働いてくれたようだな。後で褒美をやるよ」

 ちなみに褒美の内容は特に考えていないので、何か考えておかないとな。魔族とはいえ、俺のために命を張ってくれたのだ。それなりの処遇を与えるべきだろう。

「人間のために同胞を襲うことになるとは……これほどの屈辱は受けたことがない。覚えていろよ」

「まあ、そう言うなって」

 俺はアイテムスロットから拘束具を取り出し、パチパチとケルカスを拘束。

「じゃ、また後でな」

 元どおりにアイテムスロットに収納したのだった。

 ケルカスを収納したと同時に、『魔のエネルギーLv.2』が発動した。

 クラトスが加わったことでレベルが上がったようだ。

 この感じだと魔族一体ごとにレベルが1ずつ上がっていくのか?

 数が少なすぎてまだわからないが、なるべく魔族と戦ったら殺さずに捕まえておくのがよさそうだ。

 とはいえ、今回はたまたま上手くいったものの、実力が拮抗していたり格上の敵だと殺すより生け捕りにするほうが難しい。

 上手くいったときのボーナスくらいに考えておいた方がいいかもしれない。

「それはそうと……こいつら、どうするかな」

 この魔族たちを召喚した張本人であるファブリスとシーリに目をやった。

 二人並んで倒れているが、一応まだ息はある。

 魔族を召喚する魔法は自身の生命力と魔力のほぼ全てを使うもののようだが、死ぬわけではなかったらしい。

 まあ、俺たちが負ければこいつらも魔族に殺されていただろうから、魔族が勝つ前提に立てば死んでいたことになるか。

 正直、感情的にはこのまま見殺しにしておきたいが……問い詰めたいことが山ほどある。

 俺はファブリスとシーリの二人に拘束具を取り付け、光り輝く生命力ポーションLv.5を飲ませた。

 死なないよう回復させた上で眠ったままの二人をアイテムスロットに収納しておく。

 さて……この後どうするかな。


          


 その後、が落ちた頃。

 俺はいったんリーシェル公国の国王グラノールに事のてんまつを伝えるため、行政区内の王宮に一人で来ていた。

 一人といってもスイとアースは一緒だが。

 なお、アレリアたち四人は疲れているだろうということで宿でゆっくりしてもらっている。

「……ということがあった」

 ヘルヘイム絡みでファブリスとシーリが反旗を翻し、魔族を召喚されたことで危機的状況に陥っていたこと。どうにか解決したこと。──これらを詳細に説明した。

「むむ……まさかあのファブリスがそんなことを……」

 グラノール王は目を見開き、ありえないとばかりにぼうぜんとしていた。

 かなり衝撃を受けている様子だ。

 こりゃ本当にファブリスの演技に気づいていなかったっぽいな。

「それで、どうする? ファブリスの身柄」

 ファブリスとシーリは生きたまま俺のアイテムスロットに眠らせている。

 俺たちオズワルド王国サイドは罪人としてリーシェル公国に追放し、公国側も他国との武力衝突の抑止力に使える戦力として受け取った。

 だが、よくわからない宗教団体と関わりを持つすきを与え、あまつさえ王宮内部にも出入りさせていたとなれば管理能力に疑いを持たざるをえない。

 ファブリスがもしリーシェル公国を乗っ取る事態にでもなっていればかなり面倒だったことは想像にかたくない。

「管理できないようならこのまま俺たちが引き取るが?」

「むう……しかしだな。こちらにも事情がだな……」

 モゴモゴと口を動かすじいさん。

 勇者は一人抱えているだけで大きな戦力になる。

 勇者ファブリスを失うことで国の防衛力が下がることの不安があるのだろう。

 リーシェル公国は、公国と名のつくとおり国土が小さい。

 有力な冒険者の数も他国に比べれば限られるし、その懸念は国王として当然のものだ。

「うちの国──オズワルド王国と同盟を結ぶなら守ってやる。その代わりに冒険者を自由に行き来できるようにさせてもらうがな」

 これはヴィラーズ帝国の皇帝ユリウスさんとも少し話していたことだった。

 両国間で同盟を結ぶことで関係が緊密になれば防衛面のメリットも大きい。

 リーシェル公国と同盟を結べばオズワルド王国側の負担が一見大きいようにも思えるが、俺が作った通信結晶を使えば地理的に遠く離れた国から正確な情報をいち早く獲得できることにもつながる。

 情報の伝達速度が遅いこの世界では、大きなメリットだった。

「む? それが本当ならファブリスなんぞいくらでも持っていってくれればいいが……国王の裁可が必要なのじゃろ?」

「国王レグルスから全権限を一任されている。俺の言葉はレグルスの言葉だと思ってくれればいい」

 俺はアイテムスロットから封書を取り出した。

 実は、重要な判断を俺が一人で決められるようレグルスに書かせていた。

 普段から持ち歩くようにしていたのだ。

「……本当のようじゃの」

 真面目な顔つきで俺を見つめるグラノール。

「よろしく頼む」

「ああ」

 その後、公文書として条約の締結を済ませ、俺は王宮を出てきた。

 ファブリスの管理をしなければならなくなったのは非常に面倒だが、あの国王に任せたままにするよりはいくらかマシだからな。……仕方ない。