広めの宿の一室を取り、いつの間にか眠ってしまった。

 目が覚めると、朝の五時。まだ薄暗くはあるが、朝日が昇っている。

「……」

 隣には、当然のようにアレリア、アイナ、ミーシャ、アリス。隣というより、俺に抱きつく形になっている。

 いつものことなのでさすがに慣れるべきだが、いつまでっても慣れることはなかった。

 俺は皆を起こさないようにベッドを離れ、水を飲んだ。

 ……それにしても、変な時間に起きたな。昨日は遊び疲れて早めに寝てしまった。その分早く起きてしまったらしい。

 普段は七時頃に起きて朝の修行をしているので、今日は早めに始めていつもより量をこなすのもいいが……いや、リズムを崩すのはよくないか。

 こういうのは習慣づけるのが大切なのだ。

 毎日少しずつでもコツコツとやって効果を発揮するもの。

 一日や二日頑張ってもあまり意味はないし、今日頑張ったからという言い訳で明日サボるようなことがあってはならない。

 とはいえ、目がえてしまって二度寝しようにもできないし……どうやって時間をつぶそうかと考えていたときだった。

 プルプルプルプル……。

 ポケットの中で着信を示す通信結晶の振動があった。

 着信の相手はレグルスしかありえない。でも、なんでこんな時間に……?

 疑問に思いながらも部屋の外の人気のない場所に移動し、通話を始めた。

「俺だ。レグルスか?」

『おお、ユーキ。つながってよかった……』

「どうしたんだ? こんな時間に」

『朝早くにすまないな。どうしても耳に入れておきたいことがあったんだ』

 朝の五時に連絡をしなければならないほどのこと……となると、かなり重大なことなのだろう。

『シーリが行方をくらませたようだ』

「シーリって、勇者のだよな? どういうことだ!?

 回復の勇者──シーリ・ガルティエ。

 俺にとっても様々ないざこざがあった相手。勇者ということもありシーリは回復魔法に関しては高い能力があった。

『俺もまだ詳しい情報までは……。シーゲル帝国にいる王国の人間が二週間前にシーゲル帝国内で騒ぎになったということを伝えてくれたんだ』

 情報をキャッチしてからオズワルド王国に届くまでが二週間。

 報告を受けてすぐに俺に連絡を飛ばした形だろう。

「なるほどな……。でも、どうやって……」

 シーリは確かに回復魔法の能力は高いが、戦闘能力は並の冒険者にも劣る。

『わからん。だが、普通に考えれば協力者がいることは確かだ』

 レグルスも俺と同じ推測をしているようだ。

 だが、この言い方だとその協力者の目星すらもついていないことは伝わってくる。

「どの方面に逃げた……とかもわかってないんだよな」

『残念ながらな。だが、色々と推測はできる。出国するなら、シーゲル王国の北側はかなり寒く、山岳地帯が多い。避けるだろう』

 レグルスは続ける。

『南はユーキがいるリーシェル公国があるが、海を隔てている。船でチンタラ逃げることは考えにくい。消去法で西か東だが……東にはオズワルド王国がある。逃げるならそっちを選ぶとは思いにくい。となると、西じゃないか?』

「なるほど、もっともな推測だが……」

『何か気になることがあるのか?』

「いや……なんでもない。気にしないでくれ」

『ん、そうか。何か気になることがあったら言ってくれ。できる限り調べる』

「ああ、頼む」

 通話を終えた俺は、通信結晶をポケットに戻した。

 常識的に考えれば、レグルスの推測で間違いないだろう。

 だが、協力者まで用意して逃げているのだとすれば、簡単に予測できるルートで出国するのか?

 俺がシーリの立場なら、裏をかいて長くシーゲル帝国内で潜伏してすきを見て抜け出すか、予測されにくいルートで出国する。

 とはいえ、何か根拠があるわけではない。レグルスの常識的な予測にケチをつけるほどのことではなかったので話さなかった。

「一番ありえないルートは……ここか」

 俺たちが今滞在しているリーシェル公国。大陸から、わざわざ逃げ場のない海を隔てた島国に逃げるというのは想像しにくい。

 だが、シーリがリーシェル公国を目指す理由はある。

 王国で勇者として活動していた時代、シーリとファブリスは恋人関係だった。シーリがどの程度ファブリスに好意があったのか、本当のところはわからないが……ここに来る動機はあるともいえる。

「いや、まさかな……」

 最終的にここを目指すのだとしても、時間を置かずに直接来るのは頭が悪すぎる。さすがにないだろう。

 だとすれば今の俺にできることは……特にないな。

 シーリが越境するなりすれば、必ずどこかのタイミングで痕跡が出てくるはずだ。

 焦らず報告を待つとしよう。


          


 朝九時。

 俺たち五人と二匹は商業区の中にある中央冒険者ギルドに来ていた。

 冒険者ギルドの中は、王都と同じ形式。

 一番奥に職員が座っているカウンターがあり、左には掲示板。

 右にはこぢんまりした酒場。

 実家のような安心感──とでも言えばいいのだろうか。

 もちろん小さな違いはあるが、勝手がわかるのはありがたかった。

「まさか旅先で冒険者をするとは思いませんでした」

「ずっと遊んでるわけにもいかないしな。違うエリアの魔物と戦うのもいい経験になるはずだ」

 たまに忘れかけるが、俺たちの本業は冒険者。きちんと仕事もして身体がなまらないようにしておかないといけない。

 それに──リオン村での魔人戦は初めて苦戦を経験した。俺にとっては大きく課題が残った形になる。

 これからも相性の悪い敵や純粋に強い敵がいつ現れるかわからない。

 魔法やスキルはあるが、異世界はゲームではない。この世界で死ねば本当に死んでしまう。現実は漫画やアニメのように都合よく助かるということはないのだ。日々の地道な鍛錬で対策しておく必要がある。

「でも、王国の冒険者が依頼を受けられるの?」

 掲示板で依頼を物色している途中、アイナが尋ねてきた。

「それは問題ない。事前にグラノール王から許可を得ているからな」

「抜け目ないわね」

「まあな」

 感心するアイナをよそに、数多あまたある依頼の中から一つを選んだ。

「これにしよう」

 俺が選んだのは、『ゴールデンクラブ』の討伐依頼。

 Cランク冒険者以上の冒険者に推奨されている依頼である。

 ちなみに、俺たちはリーシェル公国の正規の冒険者ではないので、オズワルド王国の冒険者ランクによる制限はない。

 それなのに格下であろうCランクの依頼を受けたのは、ミーシャとアリスの育成を狙ってのこと。

 依頼の手続きを終え、建物の外へ。

「ん、なんだあれ」

 冒険者ギルドの建物の外では、黒装束に身を包んだ十人ほどの集団が騒いでいた。

 明らかに関わっちゃいけない系の人たちな気がする。

 彼らは拡声器を手に持って騒いでいる。

《神は死んだ! 魔族が現れ、魔人がばっし、世界はしゅうえんに向かっている。今こそ、我々は魔王様の復活を望むべきではないか!》

 冗談で言っているような感じではなく、全員が真面目なご様子だった。

「うわあ……。こういうのは目を合わせずにさっさと通り過ぎるのがいいよね。関わらなきゃ害はないよ」

 ミーシャがボソッと言った。

「そうだな」

 俺たちは目立たないよう騒いでいる集団を横切る。

 だが──

《そこの君たちもそうは思わないかね? もう世界は終わりだ。魔王様……魔王様の転生によって、我々卑しい人間を救済していただくのだ。それが一番だ! 反論は認めん!》

 俺たちに同意を求めてくるなよ……。

 朝からキーキーと騒がれるだけで迷惑この上ないが、せめて勝手に騒いでいてくれ。そんなことを思いながら無言でスルーした。

「おっと、ユーキたちじゃねえか。どうしたんだ? そんな顔して」

 うるさい集団を通り過ぎたところで、昨日一緒に遊んだアルフレッドたち五人と遭遇した。

「これから依頼に出ようと思ってギルドを出たんだが、変な集団に絡まれてな。……いつもこうなのか?」

 アルフレッドは毎日のようにここを通っているからだろう、あまりあの集団を気にした様子ではなかった。

「そりゃ災難だったな」

 苦笑するアルフレッド。

「二ヶ月くらい前から騒がしくしている。あいつらにも決まった演説巡回ルートがあるらしく、朝はギルドの前が騒がしいな」

 となると、少し時間をズラせばいないということか。とはいえ、あいつらのために俺たちが時間を変えるというのもしゃくに障る。

「あいつら、何者なんだ?」

「ヘルヘイムっていう新興宗教の人間らしい」

「ヘルヘイム……」

 一昨日リオン村でカインから聞いたアレか。

 リーシェル公国で今勢力を拡大している、怪しげな集団……。

 そういえば、これに関しても調べておこうと思っていたところだ。

「やつらは終末論っていう……要するに近いうちに世界が終わるっていう言いがかりをけんでんしてるようだ。実際、最近はゴタゴタしているからな……そこにリアリティを感じて入信するやつが増えてるらしい」

「なるほど」

 まあ、『不幸せになりたくないなら私たちの考えを信じなさい。さすれば救われる』──っていうのはあらゆる宗教のじょうとうではあるが。

「といっても、勘違いするなよ? 国民の多くはうんざりしてるんだ。朝から大音量で騒がれて気分が良いわけがない。それに、何か変なことをたくらんでるってうわさもあるしな」

 流行はやっている……といっても一部の人間の中での話か。

 表立って活動していることもあって、実態よりも流行っているように見えてしまうのかもしれない。

 それよりも気になったのは──

「どんなことを企んでるんだ?」

 禁忌魔法を秘密裏に開発し、使用しているのではないかとカインは推測していた。

 現地人の目から見てどういう情報があるのか気になるところだ。

「んんー、よくわかんねんだけどな。信者がたまに消えるんだよ。こつぜんとな」

「消える?」

「ああ。入信してからしばらくして、信者が誰にも何も言わず姿を消すんだ。噂では人体実験でもやってるんじゃねえかって話だぜ」

 これは初めての情報だ。

 人体実験……信者を使った禁忌魔法の実験がすぐに思い浮かぶが、情報がまだ少なすぎていまいちピンとこないな。

「それは……気になるな。俺の方でも滞在中に調べておくよ。色々と不気味すぎるしな」

「そりゃ心づええ。何かわかったらこっそり俺にだけ教えてくれよな」

「立場上教えられる情報だけな」

「ちぇ」

 そんなこんなで不満顔のアルフレッドと別れた後。

 俺たちは『ゴールデンクラブ』の討伐のため居住区域の外へ出た。


          


「海……なのに誰もいないんだね」

 ミーシャがつぶやいた。

 俺たちがやってきたのは、れいな砂浜がある沿岸エリア。

 昨日俺たちが遊んでいた場所は平和そのものだったが、ここには多数の魔物が生息している。

 そのせいで俺たちの他に人の姿はない。

 ……というよりも、魔物が出ないエリアだけを海水浴用に人間が利用しているといったほうが正しいか。

 放置しておくと魔物は凶暴化して人里まで来てしまったり、行商人や旅人を襲う可能性がある。

 そのため魔物の数を減らす目的で依頼が出されているというわけだ。

「うわ……変な魔物……」

 アリスが奇妙なものを見る目で魔物を見ていた。

「帝国や王国では見ない魔物だな」

 リーシェル公国は島国ということで魔物も独自の進化を遂げているようだ。

 大陸では見ない魔物が歩いていた。

 俺たちが今回ターゲットにしている『ゴールデンクラブ』は名前のとおり、金色のカニ。

 大陸でもカニの見た目をした『クラブ』という魔物はいるのだが、それに比べるとかなり大きい。

 色はともかく、サイズが少し変わるだけで急に奇妙に見えるのだから不思議なものだ。

 と、それはともかく。

 一つ言い忘れていたことに気がついた。

「そういや、今日はミーシャとアリスが魔物を倒すってことになってるからよろしく」

「え……?」

 キョトンとするアリス。

「ちょ、どういうことなの? ユーキ君!?

 焦るミーシャ。

 二人の反応は予想できていたので、用意していた説明を始める。

「俺があえてCランクの依頼を選んだのは、今の二人で力を合わせればギリギリなんとかなるのがこのラインだったからなんだ」

 王国や帝国では冒険者ランクによる縛りのせいでまだあまり高位の依頼が受けられないが、リーシェル公国では自由なランクを選べた。

 それにもかかわらず、あえて低ランクの依頼を選んだのは、ミーシャとアリスの二人を強化するため。

 『ゴールデンクラブ』は、硬い甲羅のせいで防御力が高いが、その代わり動きがノロいらしい。

 練習用には最適な魔物のはずだ。

「リオン村の魔人戦で感じたことだけど、あれよりも強い敵と戦うことになったとき、俺やアレリア、アイナが二人を守りながら戦えないかもしれない。だから、最低限魔物と戦える力を身につけてほしいんだ」

 アリスに関しては逃げるだけなら召喚獣を利用してどうにかなるので、最悪は逃げ回ってもらえばいいのだが、ミーシャはそういうわけにもいかない。

 もちろんミーシャの強化魔法は有用。

 だが……逆にいえば、強化魔法以外の点では不安が大きい。

「もちろん、危なくなったらアレリアとアイナに間に入ってもらう」

 ちなみにアレリアとアイナの二人にも打ち合わせはしていない。

 二人とも『え?』という顔をしていたが、まあなんとかやってくれるだろう。

「ユーキ君が言うなら頑張るよ。だけど……今日一日だけで戦えるようになんてなるのかな……?」

「それに関しては問題ない。二人のステータスは足りている。ステータスをきちんと引き出した戦いができれば今のところは十分だ」

 ステータスに関しては、たくさんの魔物を倒してレベルを上げる必要があるため、すぐにどうにかなるものではない。

 俺が気にしているのは、ステータス分の戦いができるかどうか。

 いかに攻撃力、攻撃速度が高くても、きちんと魔物の動きを見て攻撃を当てなければ意味がない。

 逆に、テクニックを極めれば急所を攻撃するなどしてステータス以上のパフォーマンスを引き出すこともできる。

「そんなもんなのかな?」

「まあ、やってみればわかるよ。俺は人を見る目だけはあるからな」

 俺はアイテムスロットからおののような形の鈍器を取り出した。

 アイナの時もそうだったが、こんなこともあろうかと俺は常に色々な武器を用意しているのだ。

「武器はこれを使うといい」

「これを使うの……?」

「逆に他に使えそうな武器があるか?」

 俺は、アイテムスロットから剣、弓、短剣、レイピアなど多数の武器を取り出してミーシャに見せてみる。

 どの武器も習得に時間がかかってしまう。

 その点、鈍器は練習なしでもそこそこ使えるので勧めたというわけだ。

「ああー……そうだね、他のは使えないや。でも、よく見たら鈍器も結構わいい見た目してるし……いいかも。うん、これにする」

 鈍器が可愛いってどういう感覚なんだ……?

 まあ、納得してくれたのなら何よりだ。

 ミーシャは強化魔法を自分に付与し、準備を終えた。

「じゃ、いくね!」

 そう言いながら、ミーシャは鈍器を両手に持ってゴールデンクラブに襲いかかった。

 カンッ──!

 硬い甲羅に鈍器がぶつかり、甲高い音が海岸に鳴り響く。

「硬っ! なにこれ!?

 ミーシャは後方にジャンプし、いったん魔物と距離を取った。

「もう一回──」

 カンッカンッカンッカンッ!?

 何度も鈍器を甲羅にぶつけるミーシャ。

 最初はまったくダメージになっていなかったが、次第に甲羅がもろくなり、ピキッと亀裂が入った。

「意外とちょろ……」

 と言いながらさらなる打撃を加えようとしたその時。

「え?」

 ドンッ!

 ゴーデンクラブの攻撃により吹き飛ばされてしまうミーシャ。

「痛っ……うーん、甘くないね……」

 ミーシャはすぐに立ち上がり、再度鈍器を握りしめる。

 そして怒り状態のゴールデンクラブに立ち向かう。だが──

 ザンッ!

 アレリアが剣をいっせん

 ゴールデンクラブは真っ二つになり、一瞬にして絶命した。

「ちょっと、休憩しましょう!」

「何してるのアレリア!? 今いいところだったのに!」

 ゲームを急に取り上げられた子供のように怒るミーシャ。

 だが、今のアレリアの介入はナイスタイミングだった。

「あのまま戦っていたらミーシャ、大していました。そうですよね? ユーキ」

「ああ、そのとおりだ」

 俺が即答すると、アレリアは満足げな表情になった。

「生命力が減少して怒り状態になった魔物は攻撃力、攻撃速度が上がります。ミーシャが一方的に攻撃できていたのに、急に吹き飛ばされたのはそういうことなんです。あのまま戦っても勝ち目はありませんでした」

「そういうことだったんだ……」

「重要なのは怖がらずにしっかりと魔物の動きを見ることと、力任せに攻撃しないことなんです」

 アレリアは、剣に魔力を込めた。

 魔力を帯びた剣はほんの少し青くきらめく。

「腕の力だけじゃなくて、魔力を頼りましょう。ちょっとコツをつかめばあのくらいの敵は簡単に倒せるはずです! じゃあ、こっちに来てください」

「う、うん」

 ミーシャに魔力を使った武器の使い方を手取り足取り教えるアレリア。

 この感じなら、こっちはアレリアに任せておけば大丈夫だろう。

「アリスもやってみよう。武器は……」

「いい。大丈夫」

 アリスはゴールデンクラブの方に向き、七枚の紙を消費。

 前方から七つの幾何学模様──魔法陣が同時に出現した。

 王国でハルカから受けた依頼で三人の冒険者をオークの群れから助けたときと同じものだ。

 魔法陣からは白い光があふれ出し、騎士の一隊を形作っていく。騎士たちは二人が剣、一人がやり、一人が斧、一人が弓、二人がつえを持っている。

「目標、あのカニ」

 アリスが召喚した騎士たちに指示を出すと、一斉に攻撃を始めた。

 ドガガガガガガンンンッッ!?

 剣、槍、斧による近接攻撃に加え、背後から弓と魔法による援護射撃。

 ジリジリとゴールデンクラブの生命力を削る。

 最後は前衛の騎士が吹き飛ばされはしたものの、魔物を倒すことに成功した。

「よし。これでいい?」

「ああ、オッケーだ」

 アリスの召喚魔法……思っていたよりも強いな。

 自身の能力と同等のステータスを持つ個体を生み出せるようだが、複数体を同時に扱えるのはさすがにチートすぎる……。

 個々は並の戦力だとしても、死を恐れない多数が集まればそこそこ通用するというのはちょっとした発見だった。

 と、それはともかく。

「まあ、これでも正直いいっちゃいいんだが……強いて言うなら、騎士同士の連携が悪い」

「連携?」

「とりあえず全員で特攻させて強引に押し切るって感じだろ? こう、なんていうか……上手うまくお互いを助け合って相乗効果を生むような戦い方ができれば格段に強くなるはずだ」

「う~ん。どこを直せばいいの?」

 アリスが困った顔で尋ねてきた。

 だが、実はこれに関する答えを俺は持ち合わせていない。

 俺自身が先頭に立って特攻することしかしてこなかったからだ。連携が悪いことまではわかるが、それをどう改善すればいいのかはわからない。

 とはいえ、あくまで俺がわからないというだけ。

 答えを知っているパーティメンバーを俺は知っている。

「それは……アイナに聞くといい」

「私!?

 急に話を振られたことでビクッとするアイナ。

「ああ。普段ずっと後ろから俺とアレリアの戦いを見てただろ? そんなアイナならわかることもあるんじゃないかと思ってな」

「急に言われてもアドバイスできることなんて……ちょっとしかないわよ」

 アイナはけんそんしているが、ちょっとわかれば十分だ。

 そのちょっとの差が大きな結果に繋がるんだからな。

「じゃあ、そのちょっとを教えてやってくれ」

 アイナにとっても、普段何気なく感じていたことを言葉にするいいきっかけになるはずだ。

 人に物事を教えるのは、自分にとっても成長に繋がる。アリスに関してはアイナに任せておけば安心できそうだ。

 さて、暇になってしまった俺だが──何もしないわけではない。

 これまでなんとなく受け入れてきたアレの謎を突き止めておきたい。

「スイ、アース。聞きたいことがある」

「なーに?」

「うーん?」

 俺の肩で眠そうにしていた二体の竜がふわっと飛び、俺と向かい合う形に。

 俺は、アイテムスロットから魔剣ベルセルクと聖剣エクスカリバーを取り出した。

「これって、前代の賢者が使ってた武器なんだよな?」

「そうだよ~」

 スイが何を当然のことをとでも言いたげに返事した。

「この武器は一体なんなんだ? 修復率っていうのはどうすれば上がるんだ?」

 ずっと気になっていたことを言葉にした。

 魔剣ベルセルクは、たまたま王都の武器屋にびて眠っていたもの。

 聖剣エクスカリバーは、古代遺跡の中にひっそりと刺さっていたもの。

 放置されていたままでは使い物にならなかった剣を俺が手に入れたことで修復され、実用的に使えている。

 さっき話を聞いた商業区の装備店のじいさんが言うには、この二本の剣はかなり品質が良いとのことだ。

 『修復率』が上がるほどに強くなっているのはわかる。まだ修復率35%でこれなら、100%になるとどうなるのか……100%にするにはどうすればいいのか、どうしても気になる。

「う~ん?」

 スイは言葉に詰まり、アースを見た。

「オレも知らねーんだナ~」

 アースもピンときていないご様子。

「どんなさいなことでもいい。気づいたことはないか? この剣がどういうものなのかなんてわからなくてもいい。修復率を上げるにはどうすればいい?」

 何か共通点があればそれをヒントにできればいいのだが、どういうときに修復率が上がってたっけ……。記憶を掘り起こし、整理していく。

・魔剣/聖剣を手に入れたとき。

・魔剣と聖剣を同時に支配したとき。

・魔人を倒したとき。

・アルフレッドとの遊びで負けたとき。

 この四つのタイミングだった。

 振り返ってみても共通点らしい共通点は見えない。

「あー、あれじゃねえんかナー?」

 アースが何かに気づいたようだった。

「なんか、ユーキが賢者っぽくなったタイミングな気がするんだナ」

「ユーキ様な」

 コツンとアースの頭をたたくスイ。

「いてて……」

 呼び方はどうでもいいのだが、スイ的には気になるようだ。

 と、それはともかく。

「賢者っぽくなったタイミングってどういうことだ?」

「んー、どれも前の賢者様に近づいたときがポイントになってる気がするんだナ。その剣は賢者様の魔力が染みついてるから、関係あるかもしれないんだナ。知らんけどナ~」

 前代の賢者に近づいたとき──か。

 魔剣を手に入れたり支配したり、魔人を倒したりというのは想像しやすい。だが、遊びに負けたときというのはどういう状況だったのかわからないな。

 まあ、ひとまず色々と試してみるのが早いか。

 前代賢者の人生は知らないし、どうもスイとアースはよく覚えていないようなので見た目から攻めていくとしよう。

「なるほどな。じゃ、なるべく賢者っぽくなってみよう。覚えてる限りの特徴を教えてくれ」

 俺はスイとアースから外見の特徴を聞き出し、アイテムスロットから必要なアイテムを取り出す。

 いくらでも入るので今すぐ必要ないものもたくさん用意しているのだ。

 その辺の雑貨店よりしなぞろえは豊富なはず。

「こんな感じか?」

 前代の賢者は帽子と眼鏡を身につけていたらしいので、そのとおりにしてみる。

 指には指輪をつけていたらしいのでそのとおりに。

「なんとなく似てる気がする~!」

「よくわかんねーけど多分似てるんだナ~」

 スイとアースの評価は上々。だが、二本の剣には何の変化もなかった。

「ダメか。こういう単純なことじゃないんだろうな」

 薄々気づいてはいたが、賢者を賢者たらしめるものは見た目ではないのだろう。帽子とか眼鏡とか指輪を身につけている人なんて珍しくないしな。

「他に何か、賢者にしかできないとか、そういうことはなかったか?」

「う~ん」

「何かあったかナ~」

 まあ、そう簡単に重要なヒントが見つかるはずが──

「あーっ、あれとか?」

「やっぱあれだよナ~」

 あったようだ。

「賢者様は大地の魔力を使えるんだナ~」

「大地の魔力?」

 アースはうなずき、近くに生えていた『聖花』を指差した。

「いろんなところから湧き出る魔力を自分の力にするんだナ。例えばこいつも魔力を吸って成長してるんだナ~」

 なるほど、言いたいことはわかる。

 異世界では地面から魔力が湧き出ている。地上に噴出した魔力は大気に溶け込む。その魔力を吸収して魔物が強くなったり、『聖花』のような特殊な植物が成長する。いわば、人間以外にとっては栄養なのだ。

 だが──

「人間は自然の魔力の影響を受けにくいって話じゃなかったか?」

 パワーストーンに関して知ってから、俺はその辺のことを少し調べていた。

 魔力の塊である魔石を加工したパワーストーンは確かに疲れを取ったり成長を促したりと人体に有用な効果を発揮する。

 だが、逆にいえばその程度の作用しかないのだ。

「う~ん、そうだナ~」

 もし強烈な魔力を発散する魔石が魔物の近くにあれば間違いなく短期間で大きく成長する。

 身体の中に魔力を吸収するというアプローチでは、感受性が低い人間にとって効果が薄いのは確実だ。

 何か、普通では考えられない方法で大地の魔力を利用するすべがあるってことなのか……?

「賢者様は魔法を使って大地の魔力を支配してたような? 気がする~」

 スイがさらなるヒントを出してくれた。

 大地の魔力を支配する魔法か。

 身体に吸収するのではなく、あくまでも魔法を仲介する方向なら確かに上手くやればできるかもしれない。

「あ、そういうことか!」

 まだ仮説ではあるが、前代の賢者が大地の魔力を使いこなしたロジックが解明できた気がする。

 魔力粒子には互いが反発する性質があるのだが、なぜか同じ属性の魔力は互いに結びつくという法則がある。

 これを利用して俺の魔力と大地の魔力を結びつければ──理論上は俺の魔力を増大させることができる。

「……」

 俺は、目を閉じて集中する。

 火・水・地・風・聖・闇の六属性を同時に扱う繊細な作業。

 一つ一つの魔法を地上、あるいは地中から噴出する魔力と結合させるイメージでオリジナルの魔法を構築していく。

 それぞれの属性の魔力を独立して発散し、自然界の魔力と結合させる。

 構築した魔法を使用してみた──のだが。

「……ダメか」

 あまりにも俺の魔力と大地の魔力との結合が弱すぎる。

 同じ属性の魔力は確かに結びつく性質があるものの、結びつく強さはそれほど強くない。

 考えてみれば当然で、そんなに簡単なことならすでに技術として確立していただろう。

 いい線はいっていたと思ったのだが……いや、まだ諦めるには早い。

 スイとアースが見守る中、リベンジに取りかかった。

 この魔法の最大の課題は結合の強さ。

 大地の魔力より強い属性魔力で無理やり結びつけることができれば、問題は解決する。

 俺は、アイテムスロットの中に眠る六冊の魔法書を使用した。

 六冊の魔法書はそれぞれ各属性の効力を高める力を持つ。普通は一冊ずつしか使えないが、アイテムスロットという謎の魔法を使える賢者の俺なら、六冊全てを同時に扱うことができる。

 六属性全ての効果を底上げし、もう一度チャレンジしよう。

 緻密に魔法を組み立て、発動する──

「これでどうだ!」

 その瞬間、大きな手応えを感じた。

 自分の力ではない大きな力と結びついた感覚。

 アイテムスロットから魔剣ベルセルクを取り出し、剣に魔力を帯びさせる。

 いつもより濃厚な青色のオーラがメラメラと燃えている。

 これまでとは明らかに違っていた。

「ご主人様すごい! これ、これ~!」

「す、すごいけど……ほ、本当にやるとは思わなかったんだナ~!」

 どうやら、これが前代賢者が使っていた大地の魔力を利用する魔法らしい。

 聖剣エクスカリバーも取り出し、こちらにも魔力を帯びさせる。

「ちょっと、試し切りしてみるか」

 俺は二十メートルほど離れているゴールデンクラブに狙いを定めた。

 魔剣ベルセルクを横に、聖剣エクスカリバーを縦に軽く振ってみる。

 すると──

 ザアアアアアアアア────ンンッッ!?

 空気が振動するほどのごうおんが発生。

 ざんげきが飛んでいく。

 飛んでいった斬撃は狙いの魔物に直撃し、ゴールデンクラブの硬い甲羅を貫通。十字に切断した。

 格下の魔物相手とはいえ、軽く振った程度でこの威力……十分だろう。

 ただ、一つ問題がある。

 それは──緻密な魔法構築が必要なせいで発動に時間がかかってしまう点だ。

 これを戦いながら使うのは今のところ非現実的。

 何か有効な対策があればいいのだが──と思っていたところ。

《新スキル『大地の力』を習得しました》

 なんと、俺が自力で開発した魔法がスキルとして習得できてしまった。

 『大地の力Lv.1』を試してみる。

 さっき俺が苦労して構築した魔法が自動的に構築され、同じように自然界の魔力を俺の魔力と結合させることができた。

 近くにいたゴールデンクラブに狙いを定め、軽く剣を振る。

 ザアアアアアアアア────ンンッッ!?

 先ほど自力で放ったときと同等の衝撃が発生。

 斬撃だけで魔物を倒すことができた。

 緻密な魔法構築をしていたときは実戦で使うには非現実的だと思ったが、これなら使い道がありそうだ。

 ただ、近くを漂う大地の魔力が薄くなってしまっている。

 時間経過で復活するものではあるが、結局使える魔力が有限なことは変わらない。あまり乱発するのではなく、とっておきの切り札として使うのがよさそうだ。

 それにしても……自力で組み上げた魔法をスキルとして使えるとはな。

 これまで魔法とスキルは別物だと思っていたが、実は同じなのか……?

 だとすれば、今まで使っていたスキルは自力でやろうとしても使えるのかもしれない。

 まあ、今のところ自力より便利なスキルをあえて使わない場面が浮かばないのだが。

 色々なことに考えを巡らせていたその時だった──

《『魔剣ベルセルク』の自動修復に成功しました! 修復率40%》

《『聖剣エクスカリバー』の自動修復に成功しました! 修復率40%》

 二本の剣が光を放ち、同時にいつもの機械音声が聞こえてきた。

 狙いどおりだ。

 やはり、この剣はスイとアースが言うとおり『賢者』という存在に近づけば近づくほどに真の能力を解放するのだろう。

 もう40%も解放できていると考えるべきか、まだ40%しか解放できていないと考えるか……難しいところだが、ひとまず条件がわかったのは大きい。

「な、なんですか……さっきの!?

「ん?」

「ドーンってすごい音がしてました!」

「ああ、騒がしくして悪いな」

 俺の一振りで大きな衝撃が発生してしまったので、アレリアたち四人が驚いて俺の周りに集まってきたようだった。

「さっきの何だったの!?

「魔法を使ったって感じではなかったけど……」

「今までもユーキ強かったけど、さっきのはなんか違う気がした」

 と、アイナ、ミーシャ、アリス。

 一から説明するのはちょっと大変だが、一緒に冒険をする仲間として自分の力量を正確に伝えておくのは重要。

 大地の魔力についての知識と、さっきの一振りが大地の魔力を使ったということについて伝えておくとしよう。

「実はな……」

 四人にもわかるよう簡潔にみ砕いて説明した。

「えええええええええ!? ユ、ユーキはやっぱりすごいです……!?

「そ、そんなことができるの……!?

「もうほんと、いつも思ってるけど何でもありだね……」

「ユーキ、人間の限界超えてる……」

 さすがにここまでできてしまったのは俺自身も驚いている。

 それにしても……まだ60%も伸び代があると考えると我が身ながら末恐ろしいな……。

「そんなことより、ミーシャとアリスの調子はどうだ?」

 今日ここに来た目的はミーシャとアリスの強化。

 大地の力が使えるようになったのは大きな前進だが、あくまでもオマケみたいなものである。

「もうバッチリです。ミーシャはもともとセンスがあるのです。ふふん」

 なぜか自分のことのように自慢するアレリア。

 まあ、姉妹仲が良いのはいいことなので構わないのだが。

「アリスの方はどうだ?」

「すごいわよ。ちょっと立ち回りを教えたらすぐ改善したわ。召喚魔法……一人で何でもできるって感じでうらやましくなるくらいよ」

 アリスは自分一人で擬似的なパーティを構築してしまう。

 俺たちとの連携という面ではどうすれば上手く活かせるか考えなければならないが、単独でも通用するのは大きいな。

「じゃ、あとはちゃんと毎日トレーニングして地道に強くなっていくだけだな。特にアリス」

「えっ……何するの?」

「筋トレは当然として、マラソンとかだな」

 アリスは召喚魔法に関しては優れた能力を持つが、アリス自身へ攻撃が飛んできたときが致命的な弱点になってしまう。

 ある程度攻撃をけられる身体能力は必須だ。

「アリス、軍師タイプだからしんどいことしなくても大丈夫……」

 この反応から察するに、あまり運動は好きではないようだ。

 とはいえ、冒険者は危険が伴う職業。妥協するわけにはいかない。

「召喚魔法で呼び出す召喚獣ってのは、召喚者──つまりアリスの能力に依存する。となると、アリス自身にも強くなってもらわなきゃな」

「うぅ……」

「そんな顔すんなって。俺と一緒にちょっと朝の運動するだけだからさ。毎日続けられる程度のキツさに抑えるから心配しないでくれ」

 そうフォローすると、なぜかキラキラした瞳で俺を見るアリス。

「ユーキと……毎日……二人で?」

「え? いや……ミーシャも一緒にと思っていたが」

「あっ……。へー、そうなんだ」

 なぜかがっくりと肩を落とすアリス。

 ミーシャが一緒だとまだ気まずいとかがあるのか?

「じゃ、そろそろギルドに戻ろうか」

 当初の目的は達成し、剣の修復率の謎も少しはスッキリしたということで満足がいく冒険になった。

 明日はまたファブリスに会いに行くとしよう。

 絶対に何かを隠している──と俺の中では確信があった。

 何を企んでいるのかわからないが、秘密を暴くまでは王国に戻る気にはなれなかった。


          


「す、すごいですね……こんなに早く戻られるなんて……!」

 移動にやや時間がかかったので依頼を受けてから戻るまで二時間ほどかかったのだが、冒険者ギルドの受付嬢はかなり驚いていた。

「普通はもっとかかるものなの?」

 アイナが尋ねると、受付嬢はぶんぶんと勢いよく頷いた。

「朝出発して夜戻られるのが普通です!」

「そ、そんなに……!?

「ゴールデンクラブはすごく甲羅が硬いので本体にダメージを与えるまで時間がかかるんです。二時間ってほとんど移動時間だけじゃないですか!」

 なるほど……Cランク向けの依頼であることを考えるとそうなるか。

 こんなに早く終わって報酬も金貨十枚……日本円換算で約十万円ほどの美味おいしい依頼なのになぜ残っていたのか不思議だったが、そういうことだったらしい。

「やっぱりユーキさんたちってすごいんですね……。ずっとこの国で依頼をこなしていただきたいくらいです」

 ハハ……と笑うしかない。

 頼りにされるのは素直にありがたいが、そういうわけにはいかない。

「こちら、今回の報酬です。本当にありがとうございました! また来てくださいね!」

 俺は金貨十枚を受け取り、アイテムスロットに収納。

 この報酬は後で宿に戻ってから分配するとしよう。

「ん?」

 冒険者ギルドを出た先で、リーシェル公国の役人と目が合った。

 目が合ったというより、俺が出てきてすぐに顔を上げてきたので、出てくるのを待っていたのだろう。

「ユーキ様、勇者ファブリスから言付けが」

「ファブリスから?」

 向こうから連絡をしてくるのは意外だった。

「はい。『見せたいものがあるから明日の十三時に冒険者ギルドの裏にある演習場に来てほしい』とのことです」

「……急だな。見せたいものっていうのは?」

「それが……我々にも伝えられていないんです。ユーキ様ならこの説明でわかるとファブリスから聞いているのですが」

 俺にもさっぱりわからなかった。

 暗号ってわけでもないので、ファブリスもこれで伝わるとは思っていないはずだ。

 何か、今の時点では隠しておきたい意図があるのか?

 わざわざ演習場に呼んで見せたいものっていったいなんだ……?

 怪しい……とはいえ、無視するわけにもいかないな。

「なるほど。教えてくれてありがとう。ファブリスには約束の時間に行くと伝えておいてくれ」

「承知しました! それでは失礼します」

 頭を下げ、役人は去っていった。