2章 初めての休日


 9日間の連続勤務を終えた私は、昨日の帰りに初めての給料を手渡しでもらい、今日は初めての休日だ。しかし私はスラム街ではなく、今日も街中に来ている。

 その理由は……ダスティンさんの工房に行くためだ。

 街中に入ったらいつもと同じ大通りを歩き、途中で脇道に入ってお店とは別方向に向かう。こうして地図なしで街中を歩いてると、ちょっとはここにもんだかなって気がするよね。

「ダスティンさん、レーナです」

「ちょっと待っていろ」

 ドアをノックして声をかけると、今日はすぐ近くからダスティンさんの声が聞こえた。

 まだリビングにいるのかな。もしかしたら早く来すぎたかも……休日に街中に行くことも、魔道具作りに参加させてもらえることも、どっちも楽しみすぎて早く来てしまったのだ。

「早いな……って、そういう格好をしてると、確かにスラムにいそうな子供だな」

 ダスティンさんは私の服装に視線を向けると、珍しいものを見るような表情になった。

 そういえば、いつもは制服で来てたからこの服で来たのは初めてだね。

「制服の方がいいでしょうか?」

「いや、別に構わん。魔道具作りは服が汚れたり破損したりするからな」

 確かにね……この前の惨状を思い出すと、制服を着てこようとは思えない。

「ロペス商会で働いているなら、私服を買えるだろう? 制服ほどとは言わなくても、綺麗な服を買わないのか?」

「買いたいと思ってるんですが、それを着てスラムに戻ると危険なんです。それにスラムだとすぐに汚れますし」

 街中の安い服だって、スラムではうらやましがられる対象なのだ。好奇の目で見られて、奪おうと狙われる未来しか見えない。それに綺麗な服を着てたら、汚れるのが気になって椅子にも座れないし、ベッドにも入れなくなる。スラムに戻ってからボロい服に着替えたとしても、綺麗な服を保管する場所がないし……。

 うん、やっぱり街中に引っ越すまではこのボロいワンピースかな。一応スラムの中ではかなり上等な部類だから、街中でもかなり貧しい子なのね……ぐらいで済んでると信じたい。

「確かに場にそぐわない服装は避けるべきだな」

 ダスティンさんは私の話を聞いて、同情するわけでも手を差し伸べるわけでもなく、なんてことはないようにそう言った。人によっては優しくないと感じるかもしれないその言葉が心地よくて、自然とほおが緩んでしまう。

「そうなんです。なので休みの日はしばらくこの格好で来ますね。街中に引っ越したら、もう少し綺麗に変身します」

「分かった。まあ服装などなんでもいい」

 そう言ったダスティンさんは朝食を食べたあとだったのか、食器などを手早く片付けて工房に続くドアを開けた。

「さっそくこっちに来てくれるか? この前レーナが話したアイデアを元に、色々と試してみてるんだ」

「もちろんです!」

 ついに魔道具作りだ! とテンションが上がって、小走りで工房の方に向かい……その中の様子に絶句した。

「これ、どうしたん、ですか?」

 工房の中は雑然としてるけど、荒れてはいなかった。ただペンキのバケツをそこかしこでぶちまけたかのような跡があって……目がチカチカするほどカラフルになっていたのだ。

「ああ、研究過程でちょっとな。あとで落とすから問題はない」

「落ちるんですか……?」

「特殊な液体を使えばな」

「はぁ」

 私はかなり衝撃を受けたけど、ダスティンさんが全く気にしていないようなので、とりあえず突っ込むのはやめることにした。色を落とせるのならいいのだろう。

「そんなことよりも、これを見てくれ」

「この前のよりもコンパクトな箱ですね」

 台の上に載っていたのは、私でもなんとか抱えられるかなぐらいの、縦長の箱だった。この前ボロボロになっていたやつよりも、一回り以上は小さく変化している。

「レーナに服の洗浄に特化した魔道具にすればいいと言われただろう? そこでまずはサイズを小さくしてみた。服ならそこまでの大きさは必要ないからな。さらに以前のような汚れを吹き飛ばす機能ではなく、汚れを浮かせて水で流す方向を目指して魔法を組み込んである」

 ダスティンさんは楽しそうな輝く瞳でそこまで説明すると、近くの机の上に置いてあった1枚の紙を手にして私に見せてくれた。

「ここに書いてあるんだが、まず使った魔石は全種類だ。魔道具は魔石の種類を増やすほどに失敗する確率が上がるので普通は多くて2種類だが、服を綺麗にするのは存外工程が多い。よって4種類を使わないと無理だと判断し、全種類を使った魔道具に挑戦することにした」

 魔道具ってそんな制約があったんだ。ダスティンさんの楽しそうな、けれど挑戦的な瞳のきらめきを見る限り、全種類は相当に難易度が高そうな気がする。

「私はまず石鹼の原料となる植物を作り出す魔法を茶色の魔石に組み込み、さらにその植物は適度に熱されると効果を発するので、赤色の魔石に植物を熱する温暖魔法を組み込んだ。そして青色の魔石には服を水に浸すための水魔法を、さらには白色の魔石に水を排出後に服を乾かすための風魔法を組み込んだ」

 おおっ、なんかよく分からないけど凄い、のかな?

 たぶんダスティンさん、私が魔法具の作り方をほとんど知らないって事実を忘れてるよね。

「それで、成功したのでしょうか?」

 今度は箱や中身の素材に関する話に移行しそうになったので、少し口をはさんで結論を聞いてみた。こんな自信満々に話してるんだから成功してるよね。そう思って聞いたんだけど……ダスティンさんは首を横に振った。

「いや、その魔法を組み込んで完成したのがこれだ」

 ダスティンさんはそう言って箱の中に1枚の白いTシャツを投げ込むと、箱の側面にあるボタンを押した。しばらく箱からジャブジャブガタガタと色んな音が聞こえてきて、その音が止まったところで、ダスティンさんがTシャツを取り出すと──

 Tシャツは、カラフルな色に染まっていた。

「え、なんで?」

 私は思わず素で突っ込んでしまう。いやいや、綺麗に洗浄する魔道具を開発してたのに、なんで染色の魔道具になってるの?

「洗浄の魔道具を作ろうとしたら、なぜか染色の魔道具になったんだ。ちなみに茶色の魔石に組み込む魔法を変更することで、染色の色が変更できる」

 ダスティンさん、ちゃっかり色の変更まで研究してるよ。

 それにしても魔道具開発って、こんなに突飛なことが起こって上手くいかないものなんだ。なんでこんなことが起こるんだろう。私はまず魔道具の基本を教えてもらおうと思い、魔道具から視線をダスティンさんに移して口を開いた。

「あの、ダスティンさん。私は魔道具についてほとんど知識がないんですけど、色々と教えていただけませんか?」

 その言葉を聞いたダスティンさんは、面食らったような顔をしたあとに、瞳を瞬かせた。

「そういえば、レーナはスラムから街中に来たばかりだったな。この前アイデアをもらったからか、魔道具について詳しいつもりでいた。すまない、基本的なことを説明しよう」

 それからダスティンさんが説明してくれたところによると、魔石は2つ以上を組み合わせると効果が作用し合って、思わぬ結果をもたらすのだそうだ。そういえば、ジャックさんが前にそんなこと言ってたよね……。

 その影響で魔石の数が増えるほどに失敗の確率が上がり、さらにその魔石に魔法を組み込むともっと難しくなるらしい。ちなみに魔法を組み込むというのは、魔石に呪文を特殊なインクなどで書き入れるのだそうだ。

「魔石に魔法を書き込まないで作れる魔道具もあるんですか?」

「ああ、とても簡単なものならな。例えば給水器なんかは青色の魔石を使って、魔法は書き込まなくとも作ることができる。ただ少し用途が複雑になると魔法は書き込んだ方がいいんだ。だから基本的には書き込むな」

「そうなんですね。とりあえず、基本は理解できた気がします。つまりこの染色の魔道具は、洗浄の魔道具を作ろうとしていたダスティンさんからすると失敗作だけど、実は凄い研究成果だってことですよね」

 その問いかけに、ダスティンさんは少し不本意な表情で頷いた。だから色の変更方法について研究してたり、工房がここまでカラフルになるほど失敗を積み重ねたんだね……。

「狙った効果ではないのが悔しいが、偶然の産物にしてもこの魔道具は貴重だろう。しかしレーナ、私は洗浄の魔道具の方も成功させたいと思っている。何かアイデアはないか?」

 ダスティンさんにそう問いかけられ、私はしばらく考え込んだ。そしてダスティンさんには微妙な顔をされそうだなと思いつつ、1つの提案をする。

「──まず、魔石を4つ使うのは止めるべきだと思います。作られた石鹼を入れることにすれば、茶色の魔石と赤色の魔石を外せるはずです」

 その提案を聞いたダスティンさんは、衝撃を受けたように固まった。

 もしかして魔道具って、それ1つあれば完結するようなものが多いのかな。洗濯機のように洗剤を入れたりっていうのは、意外と思いつかないのかもしれない。

「確かに、魔道具だけで全てを完結させる必要はないのだな。盲点だった。ただそれだと……全種類の魔石を使った洗浄の魔道具への挑戦は、ここで終わりとなってしまうな」

「……そこはいったんあきらめるべきかと。一応偶然ですが、染色の魔道具という成功例はできたことですし」

 そう伝えると、ダスティンさんはまだ未練がありそうな様子ながらも頷いた。

「そうだな……そうしよう。とりあえず青と白の魔石を使った洗浄の魔道具を研究し、成功したら改良として、全種類の魔石を使った魔道具を研究する」

 自分の中でそう結論づけたダスティンさんは、染色の魔道具を端に寄せ、真ん中の作業机に2つの魔石を置いた。魔石の大きさは私の拳より少し小さいぐらいで、透明感がある。

「魔石って、このぐらいの大きさが普通ですか?」

「いや、これは小さい方だな。試作品は小さな魔石で作り、売るものは大きな魔石で作るんだ。基本的に大きな魔石の方が長持ちするからな」

「そうなんですね。魔石って定期的に交換が必要とか、そういうものですか?」

「いや、そんなことはないな。基本的に魔道具は魔石を通して空気中の魔力を使うから、半永久的に使用可能だ。ただそうは言っても劣化すれば壊れるし、その時は替える必要がある」

 じゃあ電池っていうよりも、イメージは空気中から電気を取り込めるコンセントプラグ的な感じかな。

「魔道具って凄いですね。魔力の消費効率はいいのでしょうか?」

「ああ、その部分は精霊魔法とは比べものにならない。圧倒的に少ない魔力で現象を起こせるのが魔道具だ」

「それは欲しいですね……」

 魔道具って凄いと感動して思わず本音を呟くと、ダスティンさんは難しい表情を浮かべた。

「私も魔道具は、もっと普及させるべきだと思っているんだ。ただやはり原材料が限られているので難しい。レーナはゲートについて知っているか?」

「少しだけなら知ってます。魔界とつながる門などと言われてて、突然草原や森に出現して魔物を吐き出すんですよね?」

「そうだ。そのゲートはそこまでひんぱんに発生するものではなく、この国の中だとひと月に1度程度なんだ。多くても2度か3度だな。だから魔道具の素材となる魔物素材を手に入れられる機会は少ない」

 ゲートってそんなに頻度が少なかったんだ。魔物が排出されるんだから少ない方がいいのかもしれないけど、素材のことを考えたらもっと頻繁に現れて欲しいし、難しいところだね。

「それだと魔道具はどうしても高くなりますね」

「そうなんだ。だから私はできる限り魔物素材を使わずに魔道具を作る研究もしている」

「おおっ、それ楽しそうです」

 薄々感じてたけど、ダスティンさんって意外と凄い人なのかな。私が知らないだけで魔道具かいわいでは有名とか。

「今度そっちの研究成果も見てみてくれ。レーナなら何かいいアイデアが思い浮かぶかもしれない。ただ今は洗浄の魔道具だ。まずは2つの魔石に刻む呪文だが……」

 ダスティンさんはそう呟くと、まっさらな紙にペンで何かを書き込み始めた。覗き込んでみると長い呪文のようで、私には何が書いてあるのかほとんど分からない。

「精霊魔法の呪文って、奥が深いですよね。この辺とかは何が書かれているんですか?」

「固有名詞だな。とは言っても人間が決めたものではなく、精霊たちにも通じる固有名詞だと古来から言い伝えられているものだ」

「そんなものがあるんですね……」

 ということは、それを学ばないと精霊魔法の上達は難しいのか。やっぱりちゃんと身につけたいなら、前にジャックさんが言ってたリクタール魔法研究院? に行くしかないのかな。

「レーナ、水はどのように動けば一番汚れを落とすのか、アイデアはあるか? 私としては渦のように回るのがいいかと思っているんだが」

「そうですね。私もそれがいいと思います。ただあまり水流が強いと服の傷みが早くなりますし、適度で抑えるべきかと」

 ダスティンさんは、あの金属の箱を壊すような魔法を組み込む人だからね。工房内がぐちゃぐちゃになっていた時のことを思い出し、威力を抑えるように念を押した。

「では少し変更して……これでいいだろう。次は風魔法だ」

 それからはダスティンさんが精霊魔法の呪文を構築していき、私は邪魔にならない程度に質問しながら、ちょっとしたアドバイスをして時間が過ぎていった。

 そして数十分で呪文は完成し、ダスティンさんはやっと紙から顔を上げた。

「これでまた試作をしてみよう。レーナ、助かった」

「いえ、私は特になんの役にも立っていないので……」

 逆に分からないことが多くて質問ばかりしていて、邪魔じゃなかったかと心配なぐらいだ。

「そんなことはない。レーナの何気ない一言がとても役に立った。やはりお前は独特の感性があるな。それはな才能だと思う」

「……ありがとう、ございます」

 邪魔だった気がすると落ち込んでいたところを急にめられて、思わず照れて顔が赤くなってしまった。私はそれを誤魔化すように両手で頰を隠し、時計を見上げる。

「そ、そろそろお昼時ですが、いつも昼食は何を食べてるんですか?」

「本当だな、もうそんな時間か。いつもは私が作ることもあれば、食べに行くこともある」

「え、料理できるんですか!?

 私の中で構築されたダスティンさんのイメージと違って、思わず声をあげてしまった。でもよく考えたら、配達で肉とか野菜とか頼んでるもんね……。

「簡単なものならな。ただ今日はあまり食材が残っていないし、近くのカフェにでも行くか。レーナも行くだろう?」

「ぜひ!」

 カフェという魅力的な言葉に、つい前のめりに反応してしまった。今日はお給料を少し持ってきてるし、お昼ご飯を奮発してもいいよね。

 自分の中でそう決めたら楽しくなって、軽い足取りで工房の出口に向かう。

「早く行きましょう!」

「ああ、戸締まりをして行くから、先に外に出ていろ」

「分かりました!」

 外に出て待つこと数分、ダスティンさんが服を着替えて玄関から出てきた。工房の中で着ている汚れることを前提とした簡素な服ではなくて、パリッとしたパンツにシャツだ。

「……私も着替えた方がいいでしょうか?」

 ダスティンさんの服装とのあまりの差に思わずそう呟くと、ダスティンさんも私のワンピースを改めて見てから頷いた。

「そうだな。1つ服を買って工房に置いておくか? その服だと店によっては入店を断られる」

 やっぱりそうなんだ。でもどうしよう……新しくて綺麗な服を着たいけど、街中で買う服なんて高いよね。私の全財産で買えるかどうか。

「安い服を売っているお店を、紹介していただけますか?」

 安い服でも街中のものならいいよねと思ってそう聞くと、ダスティンさんは首を横に振った。

「いや、服なら私が買おう。アイデア料の一部をその代金とすればいい」

 そう告げると、大通りに向けてスタスタと歩いていってしまう。いや、ちょっと待ってください! アイデア料って服を買えるほどもらえるの!?

「ダ、ダスティンさん、服って高いんじゃ……」

「いや、貴族や富裕層が着るような服は高いが、この辺で売っている小綺麗な服はそこまで高くない。私のこの服も上下で銀貨2枚ほどだ」

 銀貨2枚って……。

「十分高いです!」

「そうか?」

 ダスティンさん、絶対にお金持ちだ。そもそも1人であんなに立派な工房を、大通りのすぐ近くに構えられることからしてお金あるよね。

「私にとっては高くないので問題はない。それにレーナに渡すアイデア料は、金貨1枚を予定している。さらに洗浄の魔道具が売れるようになれば、それによって入ってくる利益も一部を渡そうと思っている。だからレーナにとっても、銀貨2枚は高い金額ではなくなるはずだ」

 え、ちょっと待って! あんな思いつきを話しただけで、金貨1枚ももらえるの!?

「……魔道具師って、そんなにもうかるのですか?」

 思わずそんなことを聞いてしまった。だって気軽に金貨1枚なんて言えちゃうってことは、その何十倍も、もしかしたら何百倍も稼いでる可能性は大いにある。

「そうだな、腕が良ければ稼げる職業だ。さらに学ばなければけない職業のため、収入は高くなるだろう」

 そうなんだ……魔道具、色んな意味で夢があるね。

「ダスティンさんは、どうして魔道具師になったのですか? 学ぶ機会があったんですよね」

「ああ、学びの機会には幸運にも恵まれた。その上でなぜ魔道具師を選んだかは……やはり魔道具が好きだからなのだろう」

 そう言ったダスティンさんは、優しい笑みを浮かべていた。かなりレアなダスティンさんの微笑みだ。

「ダスティンさんが魔道具を好きなのは、十分に実感してます」

「……そんなに態度に出していたか?」

「はい。凄く分かりやすいです」

 普段があんまり笑わないからこそ、魔道具に瞳を煌めかせてる時が印象に残るんだよね。

 けんしわを寄せたダスティンさんを何気なく見上げ、そういえばと疑問に思っていたことを思い出した。

「あの、一つ聞きたいことがあって……ダスティンさんって、おいくつですか?」

「私か? 私は20歳だ」

 おおっ、やっぱり結構若いんだ。最初に20代後半って思ったのは、内緒にしておこう。

「年齢がどうかしたのか?」

「いえ、少し気になって。ダスティンさんって表情によって受ける印象が変わるので」

「そうか……?」

 自分の頰に軽く触れてから軽く首を傾げたダスティンさんは、分かりやすく表情が変わっているのが嫌なのか、また眉間に皺を寄せた。そんなダスティンさんの表情をやっぱり分かりやすいと思いながら見ていると、1つのお店の前で立ち止まる。

「ここがおすすめの服屋だが、どうする? アイデア料から私が購入するのでいいか?」

「……ダスティンさんがいいのでしたら、お願いしたいです」

「分かった。では入ろう」

 ダスティンさんは満足そうに少しだけ口角を上げて頷くと、お店のドアに手をかけた。ドアを開けるとカランッと心地いい鐘の音が響き、優しげな雰囲気の女性が出迎えてくれる。

「いらっしゃいませ。ダスティン様、いつもご贔屓ひいきにしてくださってありがとうございます」

「ここの服は質がいいからな。今日はこの子の服を買いに来たのだが」

 ダスティンさんは、店員の女性に顔を覚えてもらっているらしい。外門近くとはいえ、大通り沿いの高級店で顔を覚えてもらってるなんて、やっぱりお金持ちだね。

「かしこまりました。ではこちらへお越しください」

 店員の女性に案内されたのは、奥の子供服売り場だった。女性は「失礼します」と軽く私の採寸をすると、サイズが合う服をいくつか見繕みつくろってくれる。

「こちらがおすすめでございます」

 そう言ってハンガー掛けに並べられたのは、10種類以上のおしゃれで可愛い服だった。見てるだけでテンション上がる……!

 ダスティンさんは服を一通り眺めると、顎に手を当てて私に視線を向けた。

「ふむ、意外と数があるな。レーナ、好きなものを選ぶといい」

「私が選んでいいのですか?」

「着る本人が選ぶのは当たり前だろう?」

「……確かにそうですね。ありがとうございます」

 可愛い洋服を選ぶという、レーナになってからは一度も経験していない事態に心が浮き立つ。自然と顔は笑顔になり、足取りは軽くなった。

 ワンピースもいいけど、やっぱり組み合わせの幅広さを考えたら分かれてる方がいいかな。このブラウスなんてすっごく可愛いし、このスカートもレースが使われていて素敵だ。瀬名風花だったら似合わなかっただろうけど、レーナになら問題なく似合うと思う。

 気に入ったブラウスとスカートを合わせてみると……まるで一緒に着るためにあつらえられたのかと思うほど、ピッタリと合っていた。

「いいんじゃないか?」

「ですよね! この2つにします」

 前のめりでそう告げると、ダスティンさんはこれの試着をと店員さんに伝えてくれた。さらに下着類も買ってくれるようで、店員さんに肌着や靴下などを見繕って欲しいと頼んでいる。

 ダスティンさん……本当にいい人だ。ありがとうございます。

 それから試着室で選んだ服に着替えると、私は完全に別人になった。やっぱりこういう可愛くて綺麗な格好をすると、レーナの容姿が何倍もきわつ。

 姿見すがたみを持ってきてくれた店員さんも、驚きを隠せなかったようで瞳を見開いていた。

「とても、とてもお似合いです」

「ありがとうございます」

「最後にこちらの靴をおきください」

 可愛い革靴を履いたら完璧だ。もうそこにいるのは、非の打ち所がない美少女だった。試着室から店内に戻ると、私の姿を見たダスティンさんは少しだけ眉を上げる。

「……似合っているな」

「ふふふっ、似合ってますよね! ありがとうございます!」

 綺麗な服にテンションが上がっていたところにダスティンさんに褒められ、嬉しくて満面の笑みになってしまった。やっぱり着てる服で気分まで変わるね。

「今着ているものは全て買おう。それからそうだな……これから寒くなった時のために、そこのカーディガンも購入する。それで会計を」

「かしこまりました」

 そうして服屋で買い物を終えた私たちは、私が元々着ていた衣服一式を袋に入れてもらって受け取り、店員の女性に優しい笑みで見送られながらお店をあとにした。

「ダスティンさん、本当にありがとうございました。とても嬉しいです」

「別に構わない。そもそも私が金を出しているのではなく、レーナが受け取るはずの金から支払っているのだからな」

「それでもありがたいです」

 そもそもあんなにアイデア料をもらえることが、本当にありがたいことなのだ。私がアドバイスできたのなんて少しだけなのに。

「さて、次はカフェに向かうのでいいか? そのために服を買ったのだからな」