今日もゴミの回収を終えていつもの飲食店までやってきた。忙しい時間帯が終わってから席につくので、お店にいるお客さんは少ない。定位置とも言える席に座ると、歩き回った足が少し癒された感じがした。

「おう、今日も来たな。いつものでいいか?」

「えぇ、いつものください」

「私もいつものください」

お店の主人が現れて注文を取ってくれる。カルーと私はいつも通りの注文をすると、主人は肉を焼くために厨房へと戻っていった。ふー、お腹がペコペコだ、早くお肉が焼けないかな。お肉の焼ける匂いを嗅ぎながら待っていると、カルーが話しかけてくる。

「明日の仕事はどうしようかしらねぇ」

「いい仕事があればいいですね。なんだったら、ゴミ回収が毎日あってもいいくらいです」

「そうよねぇ、決まった仕事があれば決めるのも楽なんだけどね、そうはいかないわよ。二人でできる仕事があれば嬉しいわね」

「二人でできる仕事も中々ないですからねー。細かい仕事ばかりで、大きな仕事が来たら二人で働く機会もありそうですね」

食事が来るまで二人で雑談をする、この時間がいいリフレッシュになって好きな時間。集落の人とは話さない話題ばかりで楽しくおしゃべりができて、時間があっという間に経ってしまう。

「はいよ、お待ち!」

「ありがとうございます」

「ありがとう」

主人が姿を現すと目の前に料理が置かれた、やったー食べられる! 美味しそうな焼けた肉の匂いと優しいスープの匂いが立ち込めて、その匂いに連れられて二人のお腹が鳴った。その音で顔を見合わせると二人で恥ずかしそうに笑い、早速食べ始める。空腹で食べる食事はとっても美味しくて、お話しもせずに黙々と食べ進めた。

そうやって食べ進めるとあっという間に昼食を食べ終えてしまう。

「ふー、ごちそうさまでした」

「お腹いっぱいね」

「これでお腹鳴らなくなりましたね」

「さっきのは不可抗力よ」

カルーはまだお腹が鳴ったことを恥ずかしがっているみたい。まぁ、同時に鳴ったら私だって恥ずかしくなるし、こういうのは早く忘れたほうがいいよー。

「おう、お粗末様。一昨日は違うもの食べたから、注文するメニューが変わったのかって思ったぞ」

「一昨日はそんな気分だったのよ。たまには違うものも食べたくなるわ。ね、リルもそう思ったからメニュー変えたんでしょ?」

「そうですね、いつものはいつものでいいんですが、たまには違うものも食べたくなっちゃいます」

「そっかー、そうだよなぁ。違うものも食べたくなるよなー」

そう言った主人は困った顔をして頭を抱えた。何かに悩んでいるなんて珍しい、どうしたんだろうか?

「何か困ったことでもあったんですか?」

「私たちがまた同じメニューを注文したことに関係あるのかしら?」

「いやいや、そういう話じゃないんだよな。まぁ、こんなことをお前たちに言っても無駄なのは分かっているんだが。最近新しいお客が増えないから、そのことで悩んでいるんだよ」

いつもお客さんがいない時間帯にしか来ないから分からないけど、新しいお客さんが来ないことに悩んでいるみたいだ。そうだよね、新規顧客がいなきゃお客は増えないし収入も上がらないから死活問題だ。食事の価格も高めに設定していないから常連だけじゃ無理な部分もあるよね。

「新しい客を呼び込むために新しい料理を作ろうとしているんだが、これが難しくてな。いいものができないんだよ」

「料理だったら他の店で出している物を出すのじゃ駄目なの?」

「いやー、それで新しい客が現れたら苦労しねぇよ。新しい客を呼び込むためには、見たことがない食べたことがない料理を提供するのがいいと思うんだがなぁ」

「新しい料理かー、なんだか難しそうな話ね。どうやって作るのかしら?」

うーん、確かに。新しいお客さんを呼び込むためには新しい料理を提供するのが一番いいと思うけど、そう簡単には思いつかないよね。ご主人、真剣に考えているみたいだしなんとか協力できないかな?

「ねぇねぇ、リル」

「はい、なんですか?」

「ご主人の力になってあげたいと思うんだけど、どうかな?」

「いいですね、私も同じ事考えてました」

「ふふっ、そうなの。なら決まりね」

お互いに同じ事考えていたんだね、カルーは優しいな。どれだけのことができるか分からないけど、いつも良くしてくれているご主人の力になれたらいいと思う。今も真剣に考えているご主人にカルーが話しかける。

「ねぇねぇ、その料理を考えるってこと私たちが力になってもいいわよ」

「何、カルーたちがか? いや、それは難しいんじゃないか?」

「難しいかもしれませんが、もしかしたらっていうこともありますよ」

「そうだけどなぁ」

提案するがご主人は悩んだように腕を組んだ。ずーっと腕組みをして唸っていると、突然その腕組みを解いた。

「よし、何かいいヒントになるかもしれないから、お前たちお願いできるか?」

「任せてよ、お客さんが集まるような料理を作って見せるわ! ね、リル」

「はい。頑張って新しい料理を作るので、見ててください」

カルーと二人で気合いの入った言葉を投げかけると、ご主人は嬉しそうに笑ってくれた。

「そこまで言うんなら、期待させてもらうぜ。早速料理を考えていくか? 厨房に入ってくれ」

「この後何もないしいいわよ。リル、すごい料理一緒に考えましょう」

「はい、お客さんがビックリするような料理を考えましょう」

ご主人の誘いに乗って私たちはお店の厨房に入らせてもらうことになった。カルーと一緒に良い料理を考えよう!

厨房の中に入らせてもらうと、色んな材料が並べられた棚の前に連れてこられた。

「ここにあるのが店で使っている材料だ。この中から好きな材料を使って料理を考えてくれ。なんなら、料理を作ってもらってもいいから、そういう時は俺に相談してくれ。俺はちょっと休憩してくるわ」

「分かったわ、後は任せて頂戴」

そういったご主人は店の奥へと進んでいった。さて、残された私たちは材料を目の前にして考えることにしよう。

「まずはどんな材料があるか確認しましょう。考えるのはそれからよ」

「そうですね。まず何かあるか分からないと、何を作っていいか分かりませんものね」

「料理は時々お手伝いしているから自信はあるわ。考えるのはちょっと苦手だけど、リルとだったら思いつくような気がするわ」

カルーには不思議な自信があるな、私も見習った方がいいのかな。マイナス思考になるよりはプラス思考のほうが考えつきそうだし、私もカルーを見習って前向きに考えていかないとね。さて、材料を確認していこう。

棚に並べられた材料を確認していくと、見慣れた野菜が多く並べられていた。いつも食べているスープに入っている具材が一番多いような気がする。次にスープには入っていない葉物系の野菜もあるけど、これはサラダを作るのに用意しているのかな? それに匂いの強い野菜もある、ニンニクとかしょうがとかもこの世界にあるんだな。

野菜以外には生肉、燻製くんせい肉、卵、パンとかもあった。これも新しい料理を作るのに必要な材料として入れてもいいってことだよね。まあ、そうじゃないと野菜だけじゃ厳しいし、お肉も入れて考えさせてもらおう。

こうやってみたら材料がいっぱいある、けど日常的に使うものから新しいものを作るのは大変そうだ。何か変わったものがあれば、それをメインにして考えることができるとは思うんだけど、そういうものはない。ご主人が新しい料理を作るのに苦労するわけだ、いつも使っている材料で新しい料理を作るのは大変そうだもんな。

カルーは何を考えているんだろう。ちらっと隣を見てみると、真剣な顔をして野菜を見つめていた。野菜をメインにした料理でも考えているのかな、どんなこと考えているんだろう。

「ねぇ、カルーは思いつきました?」

「そうねぇ、こんなのはどうかしら。いつも食べている串に焼いて食べられる野菜を刺して提供するっていうのは?」

「んー、それだとただ焼いた野菜っていうことになるので、目新しさはないですね」

「そっかー、目新しさがなきゃ新しい料理じゃないわね。新しい料理、新しい料理……」

野菜の串は新しい形かもしれないけど、野菜焼きなのには変わりないからな。ただ野菜を焼いただけの串が新しい料理とは言えない。ということは、新しい料理に必要なのは新しい調理法っていうことかもしれない。新しい調理法ねぇ、焼く、茹でる、蒸す、揚げる。色々あるけど、どれかを使わないと料理ができないわけだから、どれを使って新しい料理をするかだよね。考えているとカルーに肩を叩かれる。

「こういうのなんてどう?」

「何か思いついたんですか?」

「肉を野菜で包んで焼くのは新しくない? 一緒に食べると野菜と甘みと肉の旨味が一緒に味わえるの!」

「新しい食感ですか、それはそれでいいと思いますが……」

「ちょっとご主人に話してくるわ!」

嬉しそうな顔をしたカルーが店の奥へと消えていった。うーん、一緒に焼くだけじゃインパクトがないような気がしたんだけど。でも、折角思いついたんだから活かしてあげたいな。その串に何かを付けくわえるとしたらなんだろう。新しい料理のように見えるように見た目を変えたり……そうだ! パン粉を使うのはどうだろう。パン粉をつけて揚げ焼きすれば、カリッとしてサクッとした新しい食感も加わるしいいんじゃない?

ん、新しい食感? 新しい食感の料理……そうだ、お肉を低温調理法で作るとすごく柔らかく仕上がるんだった。これも新しい料理として提供すればウケるんじゃないかな。だってあんな食感中々ないし食べたことある人はきっと稀なはず。よし、パン粉の揚げ焼きとお肉の低温調理を新しい料理として作ってみよう。

そこまで考えていた時、店の奥から肩を落としたカルーが戻ってきた。

「はぁー、さっきの料理だめだったわ。良い発想はしているんだけど、ありきたりな調理だって言われちゃった。くー、悔しい! いけると思ったのに!」

「それだったら、私がその料理で新しい調理法を考えたものがあります。それと合わせて作ってみませんか?」

「え、リルが考えてくれたの?」

落ち込んでいたカルーだけど、私の提案で持ち直してくれたみたい。そこで私は先ほどカルーが言った肉野菜串にパン粉を塗して焼く調理法を説明した。話を聞いていたカルーは不思議そうな顔をして悩んでいる。

「それってどんな食感になるのかしら、想像ができないわ」

「パン粉は焼いたら固くなるのでカリッとしますよ。どうです、面白いでしょう?」

「野菜の甘みと肉の旨味をパン粉で閉じ込めるねぇ……うん、やってみましょう! リルがそういうのなら、きっと美味しいものができるはずよ! ご主人には私が話してくるわ!」

「お肉の低温調理のこともお願いします」

「任せておいて!」

カルーはもう一度店の奥へと消えていった。この二つなら上手くいくと思うんだけどどうかな、ドキドキしてきた。しばらく待っていると、店の奥からカルーが駆け足で戻ってくる。

「どうしてた?」

「いい案だって言ってくれたわ! 早速試作品を作りましょう」

「はい!」

良かった、話は通ったみたい。二人で手をタッチして喜び合うと、改めて棚に向かい合う。

「私は肉に合いそうな野菜を見繕うわ。先に肉の低温調理法っていうやつを作っておいて」

「分かりました」

私はまず先にかまどに近づいた。用意されていた種火を竈に移すと薪が燃え始める。低温調理だから薪を少なめに入れておいて、今度は竈の上に鍋を置く。それから鍋の中に水瓶から水を注ぎ入れた。あとは肉の臭み消し用の野菜を入れておかないとね、棚に戻って臭み消しに使う野菜を手に取って、次に台所へ行く。まな板の上に野菜を置くと適当な大きさに切ったり、皮を剝いたりしてからそれらを鍋の中へと入れる。これで鍋の準備が完了した。

また棚の前に戻り、今度は適当な肉を見繕う。厚すぎない程度の肉を選ぶと、それを台所へと持ってくる。味付けはどうしよう、うん、味付けはソースを作ってそれを肉にかけることにしよう。今度は鍋のお湯の温度を計る、水の中に指を入れられるくらいの温度かな? ……うん、このくらいの熱さが丁度いいね。温度を測ると肉を鍋の中に入れた。後はじっくりと茹でていくだけでいいね、途中で温度が上がりすぎないように確認もしなきゃ。

低温調理の仕込みが終わると、カルーのところへ戻る。

「どうですか、選び終えましたか?」

「えぇ、バッチリよ! 早速こっちの料理も作っちゃいましょう」

「はい」

カルーは棚から野菜と肉を選ぶとそれらを台所へと持っていきまな板の近くに並べた。なるほど、これを使って作るんだね、全体的にバランス良くなりそうだ。

「じゃあ、私が野菜を切るから、リルは串に刺していってね」

「任せてください」

台所と向き合うとカルーは包丁を持って慎重に野菜と肉を切り始めた。

「えーっと、厚さが合うように切って。形を揃えて」

「いい感じに切れてますね」

「そう? なら、この調子でどんどん切っていくわ」

慎重に切っているお陰か野菜と肉は同じような大きさに切られていく。私は片手に串を持って切られたそれらを刺していく、丁度真ん中に刺さるようにこちらも慎重に、バランス良く。野菜、肉、野菜、肉っと次々と刺していき完成すると、またすぐに違う串を作っていった。

「ふぅ、全部切れたわ。リルはどう?」

「残りのものを刺せば終わりです」

「うん、中々の見栄えじゃない。これはきっとウケるに違いないわ」

最後の材料も刺し終わり、皿には刺したての串が並ぶ。見た目はいい感じにできたから、今度はこれに衣をつけておかないとね。カルーと一緒に棚に行くと、カルーに数個のパンと卵を渡し、私は小麦粉の入った袋を持ち運ぶ。

「じゃあ、カルーはパンを擦り具を使って細かくしてください」

「分かったわ。擦った物をボールに入れておくわね」

「はい、そうです。私は小麦粉と卵を処理しちゃいます」

パンをカルーにお願いした後、皿とボールを棚から取り出した。皿には小麦粉、ボールには卵を割って入れる。それからボールに入れた卵をフォークでといていくと、水瓶から水をボールに少し入れて水で伸ばしていく。これでこっちの下準備が終わった。

「こっちは終わりました。カルーはどうですか?」

「もうちょっとよ……よし! パンを全部擦り終えたわ」

「では、これから衣をつけていきましょう」

「衣ってどうやってつけるのかしら?」

「じゃあ、私がやり方を見せますね」

台所の前に立つと、まずは皿を左から串、小麦粉、卵、パン粉の順番に並べた。それから串を手に持つと小麦粉をまぶしながらつけて、次に卵液に満遍なくつけ、最後にパン粉の山にくぐらせるとパン粉の上から手で押し付ける。そのパン粉の山から串を取って余分なパン粉をはたき落とすと完成だ。

「こんな風にパン粉をつけてください。私が小麦粉と卵液をつけていくので、カルーはパン粉をつけてくださいね」

「やり方は分かったわ、任せなさい」

二人で並んで立つと作業を開始する。私が小麦粉をつけ、卵液をつけると串をパン粉の上に乗せる。それをカルーがパン粉を塗して手で押し付けるようにすると、串を持ち上げて余分なパン粉を落としてから皿によけておく。その繰り返しを黙々とやっていくと、パン粉がつけられた串が量産されていった。

そんな風に二人で作業をしていくと全ての串にパン粉を付け終える。

「これで完成ね。これからどうするのかしら?」

「これからフライパンに油を沢山引いて焼いていきます。本当なら沢山の油を使いたいんですけど、それに合う道具がないのでフライパンでやっていきます」

「油かー、跳ねると熱いのよね。ちょっと怖いけど、頑張って作っていきましょう。油を取ってくるわね」

カルーがその場から離れると私は竈に移動した。先に低温調理の温度を確認してみる、この熱さなら大丈夫そうだ、このまま放置でよさそう。次にもう一つの竈に薪を入れて火を点ける、今度は高温がいいから多めに薪を入れておく。次に壁にかかっているフライパンを取ると、竈の上のコンロ部分に設置する。

「リル、油取って来たわよ」

「ありがとうございます、貸してください」

カルーから油が入った瓶を受け取ると、蓋を開けてフライパンの中に入れておく。できれば串の半分くらいが油につくような量を入れてっと、これで準備が完了した。あとは油の温度が上がるのを待つ。

「こんなに沢山の油、怖いわね。リルは怖くないの?」

「油が跳ねたら怖いですが、今回の調理はそんなに跳ねないと思うので大丈夫だと思います」

「ほ、本当? 肌にピタッとくっつくと、熱くて痛くて……それを考えるだけでも嫌だわ」

カルーは熱した油に嫌な思い出があるみたい、ここは私が頑張るところだね。

「カルー、私に任せてください。しっかりと焼いて見せます」

「リルがすごく頼もしく見えるわ。本当なら私がやらなきゃいけないのに、リルに頼って情けないわ」

「大丈夫ですよ、その分カルーには他の事で頼りにしてますから」

カルーが怖がっているなら、私がやらないとね。そろそろ油の温度を計ってみよう、パン粉を一つ摘まんで油の中に入れる。すると、落とした衣の周りで細かい泡が出始めた、ここが焼き時だ。串を手に取るとフライパンの上に並べて置く。全部は入らなかったな、残りの半分は後で焼くことにしよう。

パチパチと音を出して揚げ焼きされる串。焼き加減、揚げ加減を見極めつつしていると、いい感じの匂いが立ち込めてきた。フォークで裏を見ているとこんがりときつね色になっていた、ここがひっくり返しどころだ。トングを使って器用に裏返すと、片面を揚げ焼きしていく。じゅわー、と揚げていくとパン粉の焼けるいい匂いが漂ってきた。

もう一度、焼き面を確認するときつね色に焼き揚がっている。トングを使ってフライパンから上げて皿に置く。

「完成したわね。色が一色になっちゃったのは残念ね」

「そうですね、見た目がそんなに良くないのが難点です」

「でも、匂いは嗅いだことのない香ばしい匂いがして美味しそうだわ。あ、出来上がったってご主人に伝えてくるわね」

そういったカルーは店の奥へと消えていく。ほどなくして、ご主人を連れたカルーが戻ってきた。

「新しい料理ができたって聞いてきたけど、美味しそうな香ばしい匂いがするな」

「リルと二人で作ったのよ。名前はえーっと」

「肉と野菜のパン粉焼きです」

「ふーん、初めて聞く名だな。どれどれ」

ご主人が焼き揚がった串を掴んで真剣な顔付きで確認を始めた。目で確認して、鼻で匂いを嗅ぎ、指先で突いたりする。しばらくそうやって見合っていたけど、今度は口を大きく上げて串にかぶりついた。すると、サクッといういい音が出てご主人の目が大きく見開いた。夢中で咀嚼そしゃくをすると、ごくんとそれを飲み込んだ。

「こりゃあ、いい! 周りのカリカリとしてサクサクとしたものが良い感触だし、中に入った野菜と肉がジューシーに仕上がっている。これはいける、いけるぞ! ほら、お前たちも食べてみろ!」

ご主人から串を渡されると、私たちは顔を見合わせた後にかぶりついてみる。始めはサクッとした食感がして、次に野菜を噛む感触がした。じゅわっと溢れ出す野菜の汁が思いのほかに甘くてびっくり。

「なにこれ、すごく美味しいわ! 感触もだけど、野菜と肉の旨味が閉じ込められていて美味しい!」

「これだけでも美味しいが、ソースとかに絡めて食べるともっと美味しくなりそうだ。これに合うソースを作ってみようか」

どうやらパン粉の揚げ焼きは好評のようで良かった。そうそう、そろそろ低温調理のほうも出来上がりそうだ。鍋の中を確認してみると、いい感じに火が通っているみたい。トングを使ってお湯から引き上げ、お湯が切れたところでまな板の上に乗せる。それから包丁で薄切りにしていくけど切っている時の感触で分かる、いい感じ仕上がっているね。

「こちらの低温調理のほうも試食してみてください」

「どれどれ。ん、これは生じゃないのか?」

「ちゃんと火が通ってますよ」

「火が通っているのに、すごく柔らかいぞ。どれ、一口」

ご主人が低温調理で作られた肉を摘まんで口の中に放り込む。それから一噛みすると、驚いたように目を見開いた。

「なんだ、これは! 食べたことがないくらいに柔らかいぞ! それに肉質がすごくしっとりしている!」

「私もっ……ん! なにこれ、こんな感触食べたことないわ! この柔らかさはなんなの!?

二人共驚いているね、そうでしょそうでしょ。この調理法は加熱によって肉に含まれる水分が外に出て行かないから、驚くほど柔らかく仕上がるんだよね。この料理も受け入れられたみたいで良かったな。

「こっちの料理もソースを作った方が良さそうだ。この料理の作り方を教えてくれないか?」

「もちろんです」

満足がいく料理を作れてよかった、私とカルーは料理の作り方を教えると、ご主人は真剣に話を聞き作り方を覚えた。

「なるほど、分かった。お金は取らないから良ければ明日食べに来てくれ」

「明日が楽しみだわ。ねぇ、仕事が終わったらこの食堂で待ち合わせしましょう」

「そうしましょうか」

ご主人の意欲が伝わってくるようだ、これは明日が楽しみになったな。私たちは残った料理を食べさせてもらうと、その日はそれで解散となった。

次の日、カルーとは別の仕事を請け負った私は駆け足でお店に向かっていった。お仕事に時間がかかってしまって、昼食の時間はとっくに過ぎてしまったのだ。カルーは待っててくれているかな、急がなきゃ。

通りを進んでいくとお店が見えてきた、だけどいつもとは様子が違うような気がする。なんだか人がいっぱい集まっているような、ううん集まっているんだ。近くに寄って見てみると、やっぱりお店には人がいっぱい来ていた。こんなにいっぱいの人、一体どうしたんだろう?

「あ、リル! ようやく来たわね」

「カルー、これは一体?」

「昨日作った料理を売り出したみたいなんだけど、それが大当たりしたのよ!」

「ということは、この人たち全員新しい料理が目当て何ですか?」

「そうよ!」

一日でこんなに人を集めるなんてすごい料理作っちゃったんだな。席についているお客さんの手元を見てみると昨日作った料理ばかりで、そこには見慣れないソースもかかっていて美味しそうに見える。カルーに引っ張られるまま店の中にいくと、二人分の席が空いていたのでそこに座った。すると、ご主人がこちらに気づいてすぐに近づいてくる。

「ようやくきたか、昨日の料理のお陰で大繁盛だ!」

「すごいですね、こんなにお客さんが来るなんて思ってもみませんでした」

「人が集まらない可能性もあるから試食をしたんだ、そしたら大当たりだ! お前たちには本当に感謝している。こんな素晴らしいレシピを教えてくれたお前たちにお金を払うことにした」

えぇ、お金を貰えるの!? カルーと顔を見合わせると、カルーも驚いている。だけど、すぐに笑顔になった。

「この仕事が落ち着いてから支払うから、料理食っていけ。今から作ってやるから、ちょっと待ってろよ」

そういった主人は厨房に戻って忙しそうに料理を作り始めた。

「やったわ、リル! 新しい料理を考えただけでお金が貰えるなんてすごくない?」

「はい、思ってもみなかったので嬉しいです」

「これもリルのお陰だわ。ありがとう!」

「カルーの協力があったからですよ、ありがとうございます」

二人で協力しあって作った料理がこんなことになって本当に嬉しい。それに、前世で食べた料理を食べられるし、良いことづくめだね。ふふ、早く料理が届かないかな、食べるの楽しみだ。