産後の妻が体調を崩して一か月が経った。医者がいうには体調を戻すには長い期間休ませないといけないらしく、パン屋の受付に立つのは以ての外だという。顔色の悪い妻の顔を見ると、どうにかしなければという焦燥感に駆られた。
妻の義母にお願いをして子供の世話と妻の世話をお願いする。義母は快く受けてくれて本当に助かった。俺はパン屋の仕事があるから妻や子供の世話はできない、やりたくてもできなかった。でも、俺一人でパン屋をやるのは無理があった。
パンを作りながらなだれ込んでくるお客の相手をするのはとても大変だ。休む暇もなく動き回り、パンをとりわけ、会計をして、パンをこねて、パンを焼く。一週間も経った頃になると、忙しさに耐えきれず俺の体も悲鳴を上げ始めた。だから俺は冒険者ギルドに求人を出した。そんなに高い報酬にしなかったので低ランクの依頼になるらしい。いい人がくることを祈り、俺は仕事をしていた。
そんなある日、忙しくパンをこねていた時店の外から声が聞こえてきた。
「ごめんくださーい」
「……おう、ちょっと待っててくれ」
「はい」
こんな時間に子供の声がするのは珍しい。パンをこねる手を止めて、布巾で手を拭くと店の奥から店の中へと移動した。すると、玄関先にはみすぼらしい格好をした一人の女の子が立っていた。あの格好はどう見ても町の子供には見えなかった。浮浪児に見えたが、この町の孤児は全て孤児院にいるはずだ。だったら目の前にいる女の子は一体なんだろうか?
「何か用か?」
「冒険者ギルドからきました。こちらが紹介状です」
「どれ、見せてみろ」
なんだと、冒険者ギルドからだと? こんな子が冒険者だというのか? そうは見えんが、こんな嘘をついても仕方がないし俺は渡された紹介状に目を通した。そこに書かれてあるのは本当に冒険者ギルドからの紹介状だった。
名前はリル、十一歳か。何、難民の子供だと。そうか、だからこんなにみすぼらしい格好をしていたのか。体も細いのか栄養が足りていないようにも見えるが、本当に冒険者かと疑いたくなるな。文字の読み書きは大人のようにできる、と? こんな子供が、ましてや難民の子がそこまでできるのか……信じられんが冒険者ギルドがいうんだから確かなんだろう。
数字の計算は速く正確で、冒険者ギルド内で実施したテストを満点で合格しました、か。この子はそんなにすごい子なのか、全然そんなふうにみえないが。どれ、少しこっちでもテストをしてみるか。
「計算が得意なのか」
「はい」
「……百ルタのパンが八個、百六十ルタのパンが三個でいくらだ」
「えっと、千二百八十ルタです」
「……正解だ。なるほど」
驚いた、本当に計算が得意なようだ。事前に答えを用意する時の俺よりも断然速い、どうやらこの紹介状に偽りはないようだ。計算は大丈夫そうだし、あとは服装だな。その格好じゃ、店に立たせることは……ん、服は買い替えてくれるのか。それはありがたいな、流石にその格好で店に立たれたらお客が逃げてしまいそうだ。
計算も大丈夫、格好も大丈夫、口調も今のところ問題ないな。だったらこの子に決めてしまうか? 冒険者ギルドからお墨付きを貰った子だ悪い子ではないだろうし、能力だって問題ない。ただ子供というのが気になる点だが、今後大人が来るとは限らないしな。うん、この子に決めよう。
「俺の名はレトム、このパン屋の主だ」
「私はリルっていいます。この町の住人ではなくて、難民です」
「そうらしいな。だが、難民でも格好さえ気を付けてくれればいい。服はこれから買ってくれるんだよな」
「はい、買い替えます」
待てよ、難民だったらどこで服を買っていいのかも分からないんじゃないか? だったら、オススメのお店を教えてやろう。
「服だったらしっかりしていれば古着で十分だ。この通りより一本向こう側の通りに古着屋があったはずだから、そこで買うといい」
「ありがとうございます」
あそこだったら難民でも買える値段の服があったはずだ。俺もお世話になっているし、問題ないだろう。
「あの、もしかしなくても採用ですか」
「あぁ、そうだ。早めに働いてくれる人が欲しかったから、そういう意味だ」
ん、意図が伝わっていなかったか。人と話すのは難しいな、はっきりと言わないと分からなかったか。人を雇うんだ、俺も気を付けないといけない。いつも気づいてくれる妻がいない分、色々と気を使わなければな。
「期間は半年以内っていうことでしたが、具体的にいうといつくらいまでになるんでしょうか」
「俺の妻が産後の状態が良くなくてな、働けない状態になってしまったんだ。医者がいうには半年くらいは安静にしておいたほうがいい、と言っていた。だから、妻が働けるようになるまでだ」
「分かりました」
質問をしてくれるのはありがたいが、俺からも積極的に話さないといけないな。あと、話すことは……。
「いつから働けばいいでしょうか」
「明日は店の定休日だから、明後日から頼めるか」
「分かりました。こちらは朝日と一緒に起きて、配給を作って食べて、一時間くらいかけて町に来ます。開店まで間に合うでしょうか?」
「それくらいなら大丈夫だ。もし開店まで到着しなくても、朝一は俺一人でもなんとかなるから。とりあえず、明後日にどれくらいの時間に来られるか分かってからでいい」
質問が助かるな、正直言って何を言ったらいいのか分からない。こんなことじゃだめだ、この子が働いてくれる時までに話すことを考えておかないとな。
「具体的な仕事の内容はパンの陳列、お客への対応、大量買いの対応、会計、店と外の掃除くらいだ。もしかしたら、中の手伝いもしてもらうかもしれない」
「分かりました」
「詳しいやり方は当日やって見せるから覚えてほしい」
「はい、明後日よろしくお願いします」
とりあえずこんなところか。少し話してみたが中々良い子じゃないか。口調も丁寧だし態度も悪くない、この分なら店頭を任せられるかもしれないな。そうしたら俺は店の奥でパン作りに集中できるからありがたいんだが。こればかりは当日になってみないと分からないな。優先順位はこの子が店頭でしっかりと仕事ができることだ、そうしないといくらパンを作っても売らなきゃ意味がない。
その子はお辞儀をするとお店から出て行った。明後日か、よし今日を頑張って乗り切るか。
◇
今日からリルが来る。まだ薄暗い時間から店に下りるとパン作りを開始した。朝は食事パンが一番売れるから丸パンしか作っていない。材料をボールに入れて混ぜた後はひたすらこねる。こねたら千切って丸めて鉄板の上に並べた。それが終わると生地を少し休ませつつ、窯の準備をする。薪を燃やして窯の中に入れ、扉を閉めて窯が温まるのを待つ。
ここでまた次焼くためのパンを作り始める。その間に窯は温かくなり、外は日が昇っていく。パン作りの手を止めて窯の温度を確認する、できたみたいだ。早速鉄板を入れてパンを焼いていく。焼いている間は他のパンをこねて丸めてまた鉄板の上に並べる。それが終わると焼いているパンの様子を見る、あともう少しだ。窯の前で立ちながらパンが焼けるのを待つ。
しばらく待つと、再び扉を開けてパンの様子を確認する、今度はしっかりと焼けたようだ。鉄板を取り出して冷ますために棚に置いておく。今度は新しい鉄板を入れてまたパンを焼き始める。この次に焼くパンの準備は終わっているから、ここでようやく一休憩ができた。イスに座って深く呼吸をすると、腕を組んで目を瞑る、仮眠を取る。
そろそろか、体に染みついた感覚のお陰でパンが焼ける時間が分かっている。イスから立ち上がり窯を覗くとパンは焼き上がっていた。鉄板を取り出し棚に置くと、また新しい鉄板を入れる。よし、新しいパンを作るか。再びボールの中に材料をいれて混ぜ始めた。
「おはようございます、リルです」
店の中から声が聞こえてきた。一旦手を止めて布巾で手を拭くと、店の中へと行く。そこには白いブラウスと青いスカートを穿いたリルがいた。この格好だと普通の町の人に見えるな、問題ない。肌も綺麗に整えてくれているし、パンを扱うには合格の格好だ。
「おはよう。思ったよりも早くこれたな。今日からよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
早速リルに仕事の説明をした。昨日のうちに話すことをまとめたからスラスラと言葉が出て行く。リルは一つ一つの説明をしっかりと聞き復唱していた。その顔付きは真剣なもので、子供ではなく大人のようにも思えてしまうくらいだ。まぁ、子供なのに大人な訳が無いか。全てを説明し終えても混乱した様子はなく、聞いたことを思い出しているような顔をしていた。この分だと大丈夫そうだ。
一度店の奥へと戻ると冷めたパンをカゴの中に入れる、それを二つ分だ。両手でその籠の取手を持ち、店の中へと移動する。
「これがパン百個だ。そろそろもう五十個焼ける。その後、また百個焼いてそれで朝のパンは終了だ」
籠を中央の台に置くとリルは驚いた顔をして籠をみた。難民だからこんな量のパンを見たのが初めてだったんだろう、目は輝いて見えた。このパンがあっという間になくなるのを見ると、もっと驚いた顔をするのだろうか。いや、そんな暇はないな、朝は本当に戦争なんだからな。リルに店を頼むと俺は奥に戻った。窯を確認してみるが、まだ焼けていない。なら、パンをこねるか。
パンをこね始めると、早速一人目の客が来たようだ。接客はしっかりできるのか奥のほうから眺めていると、リルのやり取りは滞りなく進みパンを売ることができた。難民だからと何もできないんじゃないかと心配していたんだが、そんなことはなさそうだ。それどころかリルの落ち着きようは町の子供でも中々身につくものじゃない。リルが特別なのか?
パンを丸めていると、店の中に次々と子供たちが入ってくる。どうやら始まったみたいだな。もし対応できなくなったら出て行って手伝おうか。そう考えていたんだが、リルは怒涛のように押し寄せてくる子供たちを順調にさばいていった。慌てる様子はなく、一人ずつ対応したり、二人いっぺんに対応したりと朝の忙しさに順応していく。
俺も自分の仕事をしなくてはな。焼き上がったパンを取り出し、また新しいパンを焼き始める。パンを丸めて鉄板の上に並べて休ませておく、その間に冷めたパンを店の中へと持っていく。リルは忙しそうに子供たちをさばき、俺はカゴに新しいパンを入れてまた店の奥へと戻る。リルは忙しそうにしているが今のところ大丈夫のようだ。本当に難民か? と疑いたくなるような良い接客を見ていると、俺も負けじとパンを作り続ける。
◇
リルの働きは素晴らしかった。朝の子供たちが大勢やってくる時間帯を忙しなさそうにしながらも、特に問題なくさばききった。終わった後に声をかければ、ちょっと疲れたような顔をしているだけだ。混乱もなく失敗もなく終えられたのは、リルにそういう能力があったからだろう。難民だと侮っていた部分はあったが、どうやら俺が間違っていたようだな。少しの休憩を挟んだ後に昼のパンが焼き上がった。昼の仕事の話も真剣に聞き、俺の言葉が足りない所はしっかりと質問してくる。一日目から頼もしい従業員だな、俺のほうが助かっている。すっかり俺も気を許してしまい、店を任せてパン作りに集中できた。最近は集中できないことがあってパンの出来がいまいちだったからリルが来て助かっているな。
久しぶりにパン作りに集中できる時間、黙々と作業を続けていくと次々にパンが焼き上がっていく。焼き上がり熱が冷めると、今度はリルにパンを並べてもらう。その焼き上がりの匂いを嗅いで目を輝かせるところを見ると、子供らしい部分もあるんだなと年相応だと思った。今日の昼食に木の実パンをつけてやろう、喜ぶといいな。
それから昼のパンを全て焼き上げると、早めの昼休みだ。一日目から店を一人で任せるのは気が引けるが、あの様子を見る限りは大丈夫だと思う。それに昼の客は奥さん方がくる時間帯だ、悪い人はいないと思うがリルの子供の見た目に気を使ってくれるだろう。何かあったら俺が責任をとればいいしな、リルには頑張ってもらおう。リルに昼に入ることを告げて、俺は一足先に昼休憩に入った。
店の奥にある階段から上に上がる、二階と三階が住居スペースだ。その二階には台所とリビングがあり、そこには義母がいた。
「お疲れ様、お昼ご飯できているよ」
「ありがとうございます」
「私は上に行って娘と赤ちゃんを見てくるから、ゆっくり休んで」
「はい」
気を使わせて悪いが、疲れているから助かる。
「そうそう、難民の子はどうだったんだい? ちゃんと仕事はできていた?」
「驚くほど要領がいい子で一言言えば理解してくれます。それどころか説明不足なところを率先して聞いてくれるので、俺が助かってます」
「まぁ、そうなのかい。難民の子って聞いた時、仕事ができるか不安だったんだけど良い子で良かったね。でも、子供なんだから無理はさせたらだめだよ」
「そのつもりです」
義母はそう言って三階へ行った。俺はイスに座りテーブルの上に用意してくれた食事に手をつけ始める。働いた体に染み渡るスープの旨味が少しだけ疲れを癒してくれるようだ。茹でたてのソーセージを一口食べると、肉汁の旨味が口に広がって体から力が湧いてくる。そうやって黙々と食事を食べ進めて、あっという間に完食してしまった。食べ終わると台所で皿を洗い、離れた位置に置いてあるソファーに腰掛ける、ここが俺の定位置だ。
そうして目を閉じて疲れた体を休ませる。深く息を吸って、ゆっくり吐く。深く寝入らないように気を付けながら、体の力を抜いて体を休ませる。
しばらく休んだ。体の疲れは全部は癒えなかったが軽くなった気がした。目を開けてゆっくりと立ちあがると大きく背伸びをする。久しぶりにしっかりと休んだ感覚は気持ちが良く、午後の仕事も頑張れそうだ。さて、リルの昼食を持って行かないとな。俺は台所に立ち、発火コンロのスイッチを押した。発火コンロの上には先ほど俺が食べたソーセージのゆで汁がそのまま残されている。その中にソーセージを入れて温める。
コトコトとソーセージがゆで上がると、トングで掴んで皿に盛る。今度はスープだ、台所に置かれている鍋と取り換えて温め始めた。その間にお盆を用意してその上にソーセージののった皿とスープの入れ物も配置する。お玉でスープをかき混ぜていると、スープが温まってきた。発火コンロの火を止めて器にスープを盛る。後は下に置いてあるパンをのせれば完成だ。
お盆を持って階段を下りると、棚に置きっぱなしの木の実パンをお盆にのせた。そのお盆を小さなテーブルに置いておく、それからリルに声をかけた。
「待たせたな。あそこのテーブルに昼食を持ってきたから適当に休んでいてくれ」
「ありがとうございます」
「時間は一時間だな。あそこに時計があるから長い針が一周してきたら、休みは終わりだ。その間は俺が受付をやってる」
「分かりました」
受付を交代するとリルは店の奥へと移動した、俺はカウンターに立ってお客を待つ。そういえば、問題がなかったか聞くのを忘れてしまったな。でも、あの様子だと問題はないように見える。昼の仕事も順調にこなしていたんだろう、平常心のままでとても心強いな。チラッと後ろを向くとリルは美味しそうにパンを頬張っていた。他人が美味しそうにパンを食べるのを見るのはいいな、パン作りのかいがある。
◇
店の奥で俺がパンを作り、店の中でリルがパンを売る。作業の途中でリルを見ていたが、接客は問題なかった。それどころか妻よりも丁寧な口調で聞いていて気持ちがいい。お客も不満があるどころか好印象な様子で安心した。夕方の時間も忙しそうにしていたが、完璧な接客をしてお客に満足して帰ってもらっている。欲しかったパンが売ってなかったお客にはしっかりとした対応をしていて驚いた。あんな言い回し方があったんだな。
辺りが夕方になる頃になると客足が途絶える、こうなると客は来なくなるので閉店の準備だ。リルに閉店の仕方を教えると、テキパキと素早く終わらせていく。本当に今日が初めて働いた日か? と疑うほどにリルは良く働いてくれる。俺よりも早く閉店の準備を終えた。リルに呼ばれて店内を見てみるとゴミのない綺麗な店内に見えて気持ちが良かった。ここまで綺麗にしてくれて本当にありがたい。
今日一日の仕事の感想を聞くと、大きな失敗もなく仕事を終えられて良かったと言ってくれた。初日なのに慌てる様子もなく丁寧に接客していたのを見ていたからその通りなんだと思う。この様子だと仕事は問題なくできるだろう、このまま引き続き雇うことに決めた。
仕事が終わったので約束のパンを持ち帰らせる。専用の袋にパンを入れて渡すと、とても嬉しそうにしてくれた。リルがエプロンを外したので、それを受け取ると、リルはお辞儀をして小走りで店を出て行く。俺はその後ろ姿を見守り、店の扉を閉めて鍵をかけた。今日の仕事はこれで終了だ、店の奥へと戻り階段を上って二階に行く。義母も帰った頃だろう、一人で夕食を食べて……と思っていたが、二階には妻が下りて来ていた。
「レトム、お疲れ様」
「二階に下りてきて大丈夫なのか?」
「一緒に食事を取ろうと思って。あの子ならぐっすり寝ているから大丈夫よ」
「そうか、なら一緒に食事をしようか」
「用意するから席で座って待ってて」
俺が席につくと、体調の悪いはずの妻がゆっくりとした動作で義母が用意してくれた食事をよそう。静かに皿がテーブルに置かれると、妻はゆっくりと自分の席に座った。
「今日から働いた子、どうだったの?」
「問題ないどころか、会計も接客もいうことなしだった。初めての仕事日だったのに落ち着いて仕事ができていたのはすごいと思う」
「難民だからって何もできないっていうわけじゃなかったのね。良かったわ、これで安心して休めるわ」
「あぁ、難民を見誤っていた。子供なのに大人のような接客態度だったし、聞いていて不快はなかったな」
「それは頼もしいわね。子供でそれだけできるのなら、色々と任せられるわね。あなたもパン作りに集中できていいわね」
食事をしながらリルのことを話した。難民だからと町の人たちと比べていたところはあったが、全然問題ないどころか頼もしくて驚いたくらいだ。妻もそのことで不安に思っていたが、俺の話を聞きひとまず安心してくれた。リルの仕事への姿勢を見ていたが、本当に頼もしい限りだ。これで明日も安心してパン作りに集中できるだろう。リルに来てもらって本当に良かった。
◇
リルの働きぶりは評判だった。丁寧な接客と間違いのない会計計算、時間があればちょっとした雑談も交える人当たりの良さ。日に日にお客の態度が軟化しているようで、店の奥まで時々笑い声も聞こえてくるほどだ。その雰囲気の良さからパンの売り上げが少し上がったり、時間によっては売り切れも出るほどだった。
店のことを全面的に任せられるようになって、商品であるパンも少しずつ多く作れるようになった。作ったパンをリルが売ると次々と売れてくれる、商売的にも助かっている。リルが来てから店の売り上げが上がったのはいうまでもない。
順調に店が軌道に乗っていくと、妻の容態も日に日に良くなってきた。初めの頃は無理に作っていた笑顔も今では自然と笑えるようになっている。これも仕事を休めているおかげ、リルがきてくれたおかげだ。赤ちゃんもすくすくと育っていき、面倒事を引き受けてくれる義母にも感謝だ。
リルが来て、家の中も店の中も明るい雰囲気に包まれた。なんだかリルに救われたみたいだ、そう思わずにはいられなかった。