昼の配給が終わり、配給を作っていた女性たちが片づけ始めた。その女性たちの雰囲気はどこかピリピリしていて空気が重い。黙々と鍋を洗ったり、洗い終わった食器を片づけていると一人の女性が大きくため息を吐いた。
「はぁ。またあそこの家の奥さん、来なかったわね」
「来なくなってから大分経つんじゃないかしら。体調も悪くないのに困っちゃうわね」
「この間、会ったのよ。配給の手伝いに来いって言ってやったけど、無反応だったんだから」
「それ本当? いやーねー」
女性たちは最近配給の手伝いに来ない家族のことを噂していた。正確には数えていないが数か月も手伝いに来ていないことは知っている。
集落ではそこに住む人たちが協力し合って生活していた。共通の認識として配給を作るのが女性たち、水汲みや食料となる獣を狩るのが男性たちの仕事として割り振られている。それぞれが自分の仕事をしているからこそ配給を食べられるのだが、問題の家族は全くと言っていいほど集落の仕事をしていなかった。
集落の仕事はそんなに難しくないし、時間をかけるだけですぐに終わってしまうものばかりだ。そんな簡単なことを放棄して何もしないのは集落の者として見過ごせない。小さなもやもやは大きくなって、それは強い嫌悪になる。問題の家族は集落から嫌悪の対象として見られていた。
「だからねその家族の子供に言ってやったんだよ、あんたの母親はどうなっているんだいって」
「あー、そういえば言っていたわね」
「結構キツイことを言ってたね」
「でも、その後すぐにその子供が自分が手伝いをするって言って驚いたわ」
その子供というのはリルのことだ。配給の手伝いに来ている女性が嫌悪対象だった家族の子供に苦言を呈した。本来ならキツく言うはずなのは大人のほうなのだが、つい苛立ちが高まってしまい子供のリルに言ってしまったそうだ。本当ならそれで終わる話だったが、リルが両親の代わりに自分が手伝いをすると宣言してきた。
「真剣な目でそんな事言われたら、何て言って返したらいいのか分からなくなったわ。つい、話を逸らしちゃったわよ」
「まぁ、子供にそんな事言われたらねぇ。でも、その申し出は当然だったと私は思うわよ」
「あんたしっかりと仕事を与えていたじゃない」
「やってくれるっていうんだからね、やってもらわないと困るわよ」
本来ならリルの両親がやらないといけない仕事をリルがやることになってしまった。そのことについては女性たちは申し訳ない気持ちを持ちつつも、当然の行いだと思う気持ちもある。子供でも十歳になるんだからできるはずだ、そんな思いからリルの手伝いを承諾した。
「一番キツイ水汲みを任せるだなんて、あんたの鬱憤も相当溜まっていたからかい?」
「別に水桶にいっぱいは入れなくてもいいんじゃないか。半分くらいを二往復してくれればいいな、と思って送り出したよ」
「水桶にいっぱいは大人でもキツイんだから、わざわざそんなに入れてこないと思うけど。まさかっていうこともあり得るわよ」
「えー、やだー、そんな事言わないでよ。私が悪いみたいじゃない。じゃあ、リルがくるまでこの辺りで待ってみる?」
重い水入り水桶を持って川からこの場所まで往復するのは大人でも一苦労だ。それを子供のリルにやらせてみるほど鬱憤が溜まっていた、悪いのは親なのに。でも、水は水桶の半分まで入れてくるだろうと思っている。だって、大人だって苦労する水桶いっぱいの水を入れて運んでくる訳がないのだから。
その場にいる女性たちはそう思うようにしているのだが、もしかしたらということもある。試しに仕事をしっかりとしているか見張るためにも、この場に残ってみたらどうだろうかと考えた。その考えに他の女性は乗り、リルが来るまでその場で待ってみた。
待ってしばらくすると、川の方向からよろめきながら近づいてくる人影を見つける。
「ほら、見てみな。戻って来たよ」
女性が指を差してリルが戻ってきたことを知らせると、他の女性たちはリルの姿を見た。重い水桶を細い腕で持ち上げて歩いてくるが、ここからだとどれだけの水が入っているのか分からない。リルが近づくまで女性たちは待っていると、リルがその存在に気が付いた。
「あ、皆さん。どうしたんですか?」
ちょっと疲れた表情でリルが女性たちに声をかけてきた。
「ここで長話していたんだよ。どれくらい水をもってきたんだい?」
「結構零れちゃいましたが、これだけ持ってくることができました。半分以上は残っていると思います」
リルは水桶を女性たちの前に置くと、女性たちは水桶の中を見た。中には確かに半分以上の水が入っていて、リルが嘘をついていることはない。ということは、リルは初めから水桶にいっぱいの水を持ってこようとしていたのでは、という考えが女性たちの頭の中に過った。
「もしかして、初めから水桶にいっぱいの水を入れてきたのかい?」
「はい。一回で持っていく水が多かったら、他の皆さんが助かると思って持ってきました」
何も疑わない純粋な目が女性たちを見た。一方で女性たちは少し居た堪れなくなり、少しだけ視線を逸らす。こんなに重たい水桶を持たせてしまった罪悪感が今になって襲い掛かり、なんだか気持ちがスッキリしない。しばらく無言が続いていたが、一人の女性が思い切って話しかける。
「ねぇ、リルちゃん。水桶いっぱいに水を入れなくても大丈夫だったんだよ」
「そうだったんですか。てっきり私は水桶いっぱいだと思ってました」
「次からは水桶の半分でも大丈夫だと思うけど」
「いえ、零しちゃうかもしれませんができる限り多くの水を持ってこようと思います。時間はかかりますが、持ってこれないわけではないので大丈夫です!」
頑張ります、と両手で拳を作ってリルはアピールをした。その力強いアピールを前に女性たちは何も言えなくなってしまう。これ以上大変な仕事をやってもらうのはやめたほうがいいのではという気持ちと、今まで集落の仕事をしてこなかったから当然のことだ、という気持ちがせめぎ合う。
何も言わずにいると、リルは水桶の中にある水を水瓶に入れると「もう一往復行ってきます」と言ってその場を離れていった。また川に向かって歩いていくリルを女性たちは黙って見送った。しばらく無言でいるけれど、なんだか居た堪れなくなってしまいつい口を開いてしまう。
「これで良かったのかしら?」
「まぁ、今までの分をやってもらうっていうことだったらいいんじゃない?」
「でも、あんな小さな体で大丈夫だと思うかい? なんだか心配になってきたよ」
「何を今更言っているんだい。分かっていたからこそ水汲みの仕事を頼んだんじゃないのさ」
水汲みをするリルの姿を見ると女性たちの見方が様々に変わった。どれも同情的でリルを擁護するものばかりで、先ほどとは言っていることがかなり変わっている。それだけ懸命になって水汲みをするリルの姿を見て心が打たれた証拠だ。それに真っすぐに仕事を受ける姿勢を見せられると悪態もつけなくなってしまう。
それぞれが微妙な顔付きになっているものの、心の中にあった嫌悪の感情は薄らいでいた。
「まぁ、お手伝いは始まったばかりさ。今日が良くても明日以降がダメになる可能性もあるからね」
「継続が一番大変なことだからね、これからもリルちゃんがお手伝いをしているか時々見てみようか」
口ではこんなことを言っているが、女性たちの心の中は以前よりは尖っていなかった。しっかりと仕事をするか見張ってやろうとは言ってはいるが、実際に思っていることは違う。健気に頑張るリルを見守りたい、そんな大人心が少なからずあった。
◇
あれからしばらく経ち、リルはお手伝いの日数を順調に重ねていった。初めの頃は道具を借りることもできなかったが、今では借りれるようになり生活が少しずつ豊かになりはじめた。水汲みに慣れた頃、他にも手伝いがないかと思案した結果自分でもできる狩りを思いつく。それが食料になる穴ネズミの捕獲だ。
穴ネズミはその名の通り、木の根元などに穴を掘り暮らしている大きなネズミだ。このネズミは雑食性で何でも食べる性質を持っていて、その性質のせいで集落のみんなが困っていることがある。配給された大切な食料を狙ってくるのだ。
駆除しようと思っても数が多くて駆除しきれない。食べるにしても普段大人が狩っているような大型の獣に比べては肉が少なく、大人の労力に見合わなかった。だから、中々数が減らないのがこの集落を悩ませる原因の一つだ。その原因の一つを少しでも取り除くことができるのならば、少しでも食料を手にすることができるのであれば、それは良いお手伝いになるのではないか? リルはそう思った。
リルは早速道具を作り、穴ネズミの捕獲に乗り出した。やり方は簡単、穴ネズミがいる穴を見つけると餌のついた棒を中に差し込んで誘いかける。その棒に噛みついたところを引っ張り上げて、脳天に石オノを振り下ろすだけだ。このやり方なら子供のリルでも狩りができる。
早速実践してみると、やり方は大当たり。穴ネズミは餌に釣られて棒を噛み、引っ張り上げられたところを石オノで仕留められる。しかも一つの穴に複数の穴ネズミが生息していたので、探す手間が省けた。ほんの少しの穴を見つけるだけで、穴ネズミの捕獲数を稼ぐことができたのだ。食料を無事に入手し、配給を奪っていく穴ネズミを退治することができた。
リルは意気揚々と穴ネズミを持って女性たちのところへと向かった。
「あの、すいません」
「どうしたの、リルちゃん」
「穴ネズミを退治してきました。このお肉、次の配給の時に使ってください」
広場にいた女性たちに捕獲してきた穴ネズミをみせると、女性たちは一様に驚いた顔をした。
「この穴ネズミをリルちゃん一人で捕獲してきたの?」
「でも、穴ネズミって普段穴の奥にいるから捕まえにくいんじゃ」
「それは餌で釣っておびき寄せて、出てきたところを石オノで叩きました」
不思議に思った女性たちがリルに聞くと、リルはやったことを説明した。そのやり方を聞き、感心した女性たちは唸る。
「そういうやり方もあるのね。よく思いついたわね」
「子供でも穴ネズミを捕まえる事ができるのね」
「こんなに沢山の穴ネズミを捕獲するなんてすごいわ、よくやったわね」
女性がリルを褒めると、リルは嬉しそうに笑った。
「それじゃあ、穴ネズミの解体をお願いします」
「あぁ、後は任せておきな」
「明日の昼には出せるようにしておくわね」
リルは後の事を任せてその場を後にした。残された女性たちは地面に置かれた穴ネズミを持ち上げて行動を開始する。炊事場の近くにある食料庫の中からまな板と包丁を出すと、炊事場の近くで穴ネズミの血抜きをする。その待っている間、女性たちは会話を始めた。
「結構大きな穴ネズミよね。何を食べてこんなに大きくなったのかしら」
「やっぱり配給を奪っていったからじゃない。どれだけ見張っていても、目を離したらすぐ寄ってくるんだからキリがないわ」
「数だけは多いからね。今度からリルちゃんが狩ってくれるのかしら」
その言葉に女性たちは考えこみ、そしてまた話し始める。
「穴ネズミを狩ってくれるのは助かるから、ありがたいわね。男の人たちは大きな獲物を狩るので手一杯みたいだし」
「スープの具が多くなるのはいいわね。一日一食だから少しでも多く食べておきたいし」
リルが穴ネズミを狩ってくるのは良いことだと口を揃えた。積極的に狩っていないせいで数は減らなくて、食料庫を狙われて大変だ。少しでも数を減らすことができれば、食料を守れるし、配給の量が減らない。それに純粋に食べる量が増えることが一番に嬉しかった。それから話はリル自体に移っていく。
「リルちゃんがお手伝いを始めてから、そろそろひと月になるわね。しっかりとお手伝いを継続しているみたいで安心したわ」
「そうね、あの親の子だからすぐ諦めると思っていたんだけど、思ったよりも続いていて驚いたわ」
「でも、今回は驚いたわ。水汲みの仕事だけだと思っていたんだけど、狩りまでやってくれるだなんて」
「まぁ、今までやってこなかったらその穴埋めじゃないかしら」
リルが働かなくなった両親に代わってお手伝いを始めてひと月が経った。重労働の水汲みをしっかりとやり遂げているだけじゃなくて、配給の手伝いも始めている。初めは厳しかった難民の目もリルが働き続けると厳しさが減った。やることをやってさえいれば、リルの環境は悪くはならない。
初めの頃は半信半疑だったが、日数を重ねるごとにその気持ちが変わっていく。お手伝いを休まず行い、しっかりと水汲みをし続けたリルの懸命な姿勢は他の難民の目にしっかりと映っていた。そんなリルが新しいお手伝いをし始めて、リルに対する嫌悪はほとんどなくなっただろう。
「穴埋めだとしてもよ、やってくれることに意味があるわ。必要最低限の手伝いしかしない人だっているわけだし、それに比べるとリルちゃんは働いているほうよ」
「まぁ、私たちのような昼の配給を受ける人たちには、改善しようっていうやる気が欠けているからね。このままじゃいけないのは分かっているんだけどねぇ」
「最近のリルちゃんの働きぶりは良い傾向だと思うわ。もしかしたら、町に働きに出るかもしれないわね」
「そうなったらいいんだけどねぇ。あの親が」
「そうよねぇ」
リルへの嫌悪がなくなるどころか、印象は大分良くなっている。集落内で仕事をするということがそれだけ重要視されている証拠だ。厳しかった難民たちの目も和らいでいて、今はどちらかというと見守っているようなそんな目でリルを見ていた。あんなに懸命に手伝いをしている姿を見ていると、いつの間にか絆されてしまっていたようだ。
「リルちゃんも頑張っているみたいだし、明日のスープは大きな肉の塊でも入れてみようか」
「いいんじゃない。リルちゃんが働いて捕ってきたものなんだし。それぐらいはしてあげないとね」
「あんな細い体で良くやると思うわ。沢山食べさせて太らせないといけないわよ」
「分かる、そうよねぇ。もっと沢山食べさせてあげたいわね」
リルが頑張っている姿を見ると女性たちもやる気が出てくるようだ。それに頑張った人にはご褒美もないと可笑しな話だから、明日のスープには大きな肉の塊を入れてあげよう。そう話し合った女性たちは頷き合い、血抜きが終わった穴ネズミを捌き始めた。
◇
「魚じゃないかい! どうしたんだいこんなに」
昼の配給を作ろうと集まった女性たちのところに魚を持ったリルが現れた。大量の魚が入った籠を渡された女性たちはみんなが驚いていて、信じられないといった顔で魚を見下ろしていた。話を聞くとリルが自ら罠を作り捕獲したと言っていたが、大人でも簡単にできないことをやってのけたリルに素直に驚いた。
「今日の昼の配給で使ってください」
「こんなにいいのかい? 自分で焼いて食べることもできたと思うんだけどね」
「えーっと、自分で焼いて食べてみました。でも、こんなに捕れたんだからみんなにも食べてほしくて持ってきました」
「小腹を満たすために魚を捕って食べる人はいたけど、配給に魚を渡すのはリルが初めてだよ。本当にいいんだね、これだけあればしばらくはお腹が減らないというのに」
「みんなのために捕って来たので、ぜひ使ってください」
集落の近くに流れる川には魚がいる。一日一食しか配給が食べられない難民はいつも食べるものが少なく、それでお腹が減る人は自分で色々と採取して食べている。魚も集落に住む難民にとっては貴重な食料だが、数が捕れないため個別に食べるだけで終わっていた。本来なら自分のお腹を満たすための食料を提供されて女性たちは少し戸惑っていた。だが、しばらく考えるとその提案を受けることにする。
「リルがそこまでいうんなら、昼の配給に入れさせてもらうよ」
「はい、お願いします。あ、昼の配給作るの手伝いますね」
「なら、リルちゃんには芋を洗って茹でる仕事をお願いできるかしら」
「分かりました」
その一言で動き出した。女性たちは魚を受け取り早速配給の準備を始める。リルも指示を貰って動き出すと、箱に入った芋を水瓶の水を使って洗い始めた。その近くでは一人の女性が地面に置いたまな板の上で魚を捌き始める。その近くで野菜を切っていた女性が魚を覗き込む。
「中々の大きさじゃないか、これだったらみんなに一切れは行き渡りそうだね」
「まさか、魚を捕ってくるなんて思いもしなかったから驚いちゃったわ。どうやって捕まえたのかしらね、あとで聞いてみようかしら」
女性が魚を持ち上げて改めて魚の大きさを確認すると、腕の半分くらいの大きさがあり驚いていた。近くでそれを見ていた女性も驚いた顔をして包丁で材料を切りながら話を続けた。
「みんなが自分の小腹を満たすために捕まえる魚を配給に出してくるなんて驚いたわ。これだけあれば数日はお腹いっぱいになったはずなのにね、勿体ないことしたんじゃないかしら」
「水汲みに穴ネズミの捕獲、次は魚の捕獲だなんてね。どんどんお手伝いが大きくなっているような気がするわ」
「あんなに頑張っていたのに、まさかもっと頑張ってくるなんて思いもしなかったわよ」
もうリルを悪く言う人はいなくなっていた。魚を自分で全部食べる事もできただろうに、それをしなかったリルへの好感度は増していく。それにお手伝いの難しさも上がっているようで、それも好感度が上がる要因となっていた。そんなリルを見てきた女性たちはリルを温かく迎え入れ始めている。
本当ならそこまでお手伝いをしたのだから休んでいてもいいのに、今はみんなと一緒に配給作りをしている。リルは今、土のついた芋を丁寧に洗って大鍋に入れていて、魚を捕ってからずっと働いている。どうしてそこまでお手伝いばかりするのか疑問に思えるほどリルは立派にお手伝いを継続していた。どうしてそこまで頑張るのか女性たちは不思議だった。
「リルちゃん、どうしてそんなに沢山のお手伝いをするんだい?」
「水汲みだけでも十分なのに、穴ネズミと魚の捕獲までやらなくても大丈夫なんだよ」
「そうそう。穴ネズミだって魚だって自分だけで食べても良かったのに、どうしてだい?」
女性たちはリルに不思議に思っていたことを質問をした。芋を洗っていた手を一旦止めたリルは少し考えた後に口を開く。
「両親のこともありますけど、今までそんなにお手伝いをしていなかったので、その穴埋めができればなっていう考えがあります」
「本当にそれだけかい?」
「……今回のことで信用って大事だなって思ったんです。初めの頃は全く信用されなくて道具すら借りれなかったじゃないですか、それが結構ショックでした。だから、そんなことがないように信用されたいなって思ったんです」
お手伝いを開始した頃は難民たちの視線は厳しいものだった。仕事をしていても監視されているような視線に晒されてとても辛かった思い出がある。でも、それもお手伝いの日数が経つと厳しい視線が次第に穏やかになっていたのも感じた。そこでリルは信用が何よりも大事なんだ、そう強く思う。もう二度とそんな視線に晒されないためにも、リルはお手伝いをしっかりとして信用を勝ち取りたかった。
「今、こうしていられるのもそうやって信用をされたからだと思います。みなさんも、以前の私だったらこんなふうに話すのは嫌でしたよね?」
「そうだねぇ、以前のままだったら嫌だと思っていたね。だけど、今は違うよ。それはリルちゃんがしっかりと信用を築き上げたお陰なんだろうね」
「お手伝いを頑張って良かったと思います。それなりに大変でしたが、集落のみんなに認められて難民の一人として仲間として受け入れられたんだなって思って嬉しかったです」
お手伝いを始めて少しずつ周りの目が変わっていったことをリルは敏感に感じ取っていた。リルを見てくる視線が少しずつ緩くなり、それが温かいものに変わっていったのを知っている。それはしっかりとお手伝いをしたからであって、リルの努力が実を結んだ結果だ。
「両親があれですし、頼れる人は集落の人くらいしかいません。だから、集落の人のためになることをして、助け合う関係になれたら助かるなって考えてます」
「そこまで考えてお手伝いを率先していたんだね。誰かに脅されているんじゃないかとちょっと思っていたけど、そうじゃなかったんだね」
「しっかりと考えていたんだね。そういうことなら歓迎するよ、リルちゃんのお手伝いで大分助けられたし、その分リルちゃんを助けることができたらいいね」
リルが自分の気持ちを伝えると女性たちはリルの気持ちが分かり同情した。お手伝いの全ては善意ではなく、そういった目的があったと知れて逆に安心したようだ。そういうことなら、と頷く女性ばかりだった。
「それだったら困ったことがあったらなんでも言うんだよ」
「できる限り協力させてもらうよ」
「ありがとうございます。とても心強いです」
次々と女性たちが名乗り出しリルの力になると宣言した。その心強い言葉にリルは自然と笑顔になり、感謝を示すために頭を下げる。
「さぁ、配給を仕上げていこうか。早くしないと難民たちが集まっちまうよ」
「はい!」
女性の言葉にリルは元気よく返事をした。その声で女性たちの手元が慌ただしくなり、リルも忙しそうに鍋に水を入れ始める。
◇
お手伝いを始めた頃は難民たちの厳しい目で見られていたリルだったが、お手伝いを続けていくと厳しい視線はなくなり同情の視線に移り変わった。リルとの交流を深めるとその同情も変わり、今では見守るような視線に変わっていた。優しくなった雰囲気はリルが頑張る姿を見せる分だけで広がっていき、今ではほとんどの人がリルに優しくなっている。
その変化を身近で感じてきたリルは嬉しい気持ちになり、より一層お手伝いを頑張るようになった。水汲み、穴ネズミの捕獲、魚の捕獲と様々にお手伝いをするリルは集落で無くてはならない存在になる。仕事もそうだが、リルの働く姿勢に感銘を受けた難民が多く、以前難民が感じていた嫌悪感は全くなくなった。
今ではすれ違えば挨拶をして簡単に雑談し、リルが働いていれば応援の声をかけることもある。一緒に仕事をしてくれる人も居れば、困ったことがあったら手伝ってくれる人だっていた。ここまで難民を変えたのは、リルが懸命に手伝いをしていたお陰だ。
そんなリルは今日もお手伝いをする。
「リルちゃん、今日もお疲れ様」
「お手伝いをしているのかい。なら、私もそろそろやろうかね」
「リルちゃんの捕まえてきた獲物のお陰でスープの具が増えたよ、ありがとね」
リルが集落内を歩けば色んな人に話しかけられる。お陰で孤独を感じることはなくなったし、嫌な気分にもならないから気持ちが軽くなった。
「今日もお手伝い頑張ってね」
「はい、頑張ります!」
今日も集落内では元気のいいリルの声が響き渡った。