26 ありがとう

いつもの食堂で昼ごはんを食べ、夜ご飯用の百ルタのパンを買い、一度集落に戻る。両手に服が入った袋とパンを持ちながら、転ばないように帰っていく。

集落に着くといつもお世話になっている女衆の人と出会った。

「あら、リルちゃん。大荷物だね、どうしたんだい?」

「パン屋の売り子としてしばらく働けるようになったので、必要な服を買ってきました」

「あらー、それはおめでとう。新しい服で働きに出るようになれるなんて、流石だわ」

「ありがとうございます」

難民が服を買いお店で働きに出られるのは、難民脱却から一歩進んだ状態なのだろう。その女性は喜びながら拍手を送ってくれた。なんだか照れくさくて顔が見られなくなっちゃう。

「お店の仕事を受けると、町のことが良く分かるからね。いいかい、働きながらも次の働く場所がないかしっかりと探すんだよ」

「はい」

「もしかしたら、定職も見つかるかもしれない。頑張るんだよ」

「頑張ります」

気合の入った言葉を聞き、やる気がみなぎってきた。そっか、町の店で働くってそんなに良いことなんだ。次の仕事に繋がるような出会いがあればいいけど、こればっかりは私だけではどうしようもできないな。

その女性と話し終わると、今度は近くにある倉庫に向かった。倉庫の見張りの人に釘二本とトンカチを希望すると、すぐに出してくれた。最初の頃、鎌を借りるのも一苦労だったのが嘘のようだ。信用大事だね。

それから家に帰りこっそりと家の中を見ると、両親はいなくなっていた。作業をするなら今のうちだ。家の裏側に回り、荷物を置く。それから家の壁に間隔を空けて釘を二本打ち込み、その釘に洗濯干し紐を括りつける。

ピンと張った洗濯干し紐にハンガーをかけて、ハンガーに服を全部かける。うん、これで準備よし。普段はここに吊るしておいて、洗濯したらここに干せばいい。

あ、でも雨が降ったらどうしよう。そのための服を入れる入れ物を家の中に作っておいたほうがいいよね。よし、簡単に蔦で大きな籠を作ろう。

私はトンカチを返した帰り道、森に入って蔦を採取して、その蔦で大きな籠を編んだ。準備完了!

翌日、私はゴミ回収のクエストを受けるために冒険者ギルドにやってくる。いつものように受付でクエストを受けて札のところで待っていると、カルーの姿が見えた。

「リル、おはよう」

「おはようございます。カルー、一つ報告があるんです」

「ん、どうしたのよ」

「実はパン屋の売り子として明日から約半年間、働くことになりました」

「えっ、そうなの!? 良かったじゃない、おめでとう」

報告するとカルーは驚いた顔をしつつも祝福してくれた。

「そっか、しばらくはゴミ回収のクエスト受けられないのね。それはそれで寂しいわ」

「ごめんなさい」

「いいのよ、ただの愚痴よ。リルは胸張って新しい仕事を頑張りなさい。私だっていい仕事があればすぐにでも受けるから、気にしないで」

ゴミ回収もいい仕事なのだが、どっちかっていうと店で働けた方がいい。もしかしたら定職につけるかもしれないし、伝手があって他の仕事が見つかるかもしれないからだ。

でも、ちょっと寂しそうなカルーの顔を見たら胸が痛んだ。出会った頃からとても良くしてくれるから、私も寂しい。

「待たせたな、ゴミの回収に行くぞー」

「ほら、行くわよ。話はまた後でしっかり聞くからね」

「はい」

担当者が来て話は中断してしまった。今はしっかりこの仕事をやり切るのみだ。気持ちを切り替えて、ギルドを出て行った。

ゴミの回収が終わり、カルーと一緒にいつもの食堂でご飯を食べ終えた。

「なるほどねー、しっかりと文字とかを勉強して、それをアピールしたのね」

私は昨日の流れを話した。すると、カルーは頷きながら感心する。

「私も孤児院で文字とか教えてもらったけど、しっかりと勉強した記憶がないわ。今からでもしっかりと習って、ギルド員にアピールしてみせるわ」

「カルーならすぐに文字とかを覚えそうです」

「私だってやる時はやるわ。リルが教えてくれたやり方を真似して、私もお店関係の仕事を貰うわ」

「あと、ランクを上げた方が仕事があるそうなので、そっちも同時に目指した方がいいです」

「うん、そうよね。そろそろランクが上がるから、それまでに文字とかを完璧にしてみせるわ」

子供だからできる仕事が限られてくる。その枠を外れるためにはどんな能力があるのか、示さなくてはいけない。だから、私はできることをギルド員に示して、枠を外れたお陰で新しい仕事を得ることができた。

能力さえあれば子供でもできる仕事があると思ったのだが、それが当たった結果だ。今はランクが少なくて選べる仕事はなかったが、ここで頑張ればランクが上がるし選べる仕事も増える。

私でもできたのだから、カルーでもできるはずだ。これで少しは恩返しできたと思いたいな。カルーには色々と教えてもらって、沢山助けられたしね。いい仕事と出会えたらいいな。

「リルは偉いわね、一人で考えて実行して仕事を貰っちゃったんだもの。先に仕事を始めていた私が抜かされるなんて悔しいって思ったけど、それだけ努力してたってことなのよね」

「カルー……」

「だから、私もリルを見習って考えて色々と実行してみせるわ。ありがとね、リルのお陰で前に進めそうだわ」

満面の笑みでカルーは話してくれた。すごく嬉しい。

「ううん、私こそカルーに感謝をしたいです。難民の私を見下すことなく普通に接してくれて、どれだけ助かったか……私こそありがとうございます」

「ふふふ、別に気にしなくてもいいのに。私がお姉さんぶりたかったからなんだから。それに私よりも恵まれない境遇のリルに意地悪するなんて嫌だもの」

カルーとの出会いは本当に助かったし、救われた。集落から出てきたばかりで町の中のことを怖いと思っていた時、普通に接してもらえたこと。難民なのに見下げることなく仕事を教えてくれたこと。美味しくてお得な食事処を教えてくれただけじゃなくて、一緒に楽しくご飯を食べてくれたこと。

みんなカルーのお陰だ。

「ありがとう、カルー。大好きです」

「ふふ、私もリルのことが大好きよ」

そういうとどちらともなく二人で抱き合った。心が温まるぬくもりに胸の奥が一杯になる。ゆっくりと体を離すと、二人で笑い合った。

「でも、最後まで他人行儀な口調は崩せなかったわ」

「こ、これは……そのっ」

「ふふ、そういうのも含めてリルらしい」

この日はお腹も胸の中も一杯になって幸せな日だった。