24 新しい職場

「リル様は現在Fランクの冒険者です。読み書きと計算が必要なクエストはE以上のランクに多いので、今ご紹介できるのはこちらのクエストのみとなっております」

「用紙を読んでもいいですか?」

「もちろんです。読んだ結果、受けていただいても断っていただいても大丈夫ですよ」

渡された用紙を読みこんでいく。パン屋の売り子で、三日働いて一日休みのお仕事だ。仕事内容はパンの販売、計算が得意な人募集と書いてある。働く時間は朝から夕方までで、しかも昼ごはん付き! 残ったパンを無料で持ち帰ってもいいらしい。

日当は七千ルタ、ゴミの回収よりも千ルタ多いよ。拘束時間が長くなるけれども昼ごはん付きだし、パンを持ち帰れるかもしれないし、付加価値が魅力的。期間が半年以内っていうのが気になるところだね。

Fランクで受けられるのがこれしかないっていうから、今はこれを受けるのがベストだよね。

「このクエスト、受けたいと思います」

「ありがとうございます。それでは紹介状を書きますので少々お待ちください」

受付のお姉さんはにっこりと笑ってくれると、その場で紙に何かを書き始めた。書き終わるのを待っていると、話しかけられる。

「それとリル様の服装なのですが、販売には適さない服装だと思います。なので、このクエストを受けるにあたり服を新調していただけますでしょうか」

「あ、そうですよね。服はいずれ新調する予定でしたので、お仕事前に買っておきます」

「では、そのことも紹介状に書いておきますね」

そっか、働くためには新しい服が必要だよね。他の難民たちの服は小綺麗なものだったからなぁ、そうか私もそこまで来たんだなぁ。ふふ、服を買いに行くのが楽しみだな。

「紹介状が書き終わりました。こちらをお持ちになって、このメモに書かれているパン屋をお訪ねください」

「ありがとうございました」

紹介状とメモを受け取りお辞儀をしてその場を離れる。えっとメモによると……ここから十分くらいでいけそうな場所にあるパン屋だ。

新しい職場か、楽しみでもあり不安でもあるなぁ。

メモの通りに歩いてパン屋の前に辿り着いた。開けっ放しの扉からは香ばしいパンの匂いが漂ってきて、お腹が減っていないのにお腹が鳴りそうだ。上を見るとパン屋の看板があり、ここが目的の場所だと分かる。

中に入るのに緊張してドキドキしてきた。ここで深呼吸をして心を落ち着かせて、いざパン屋の中へ。

「ごめんくださーい」

「……おう、ちょっと待っててくれ」

「はい」

中に入ると、すぐに奥から声が聞こえてきた。なので今のうちに店内を見てみると、何種類かのパンが棚の上に並んでいた。香ばしい匂いの中に木の実とか蜜とかの匂いも混じっていて、たまらない。

店内の大きさは十五畳以上ありそうで、そこそこ広い印象だ。そして部屋の隅に小さなカウンターと、カウンターの奥にはもう一つ部屋がある。きっとそこでパンを作ったり焼いたりしているのだろう、粉ものの匂いがそちらからしてきた。

ボーっと立っていると、奥の方から大柄な男性が現れた。白いエプロンをして焦げ茶色の短い髪の毛をしている。

「何か用か?」

「冒険者ギルドからきました。こちらが紹介状です」

「どれ、見せてみろ」

無愛想な感じで言われてちょっと緊張した。おそるおそる紹介状を手渡すと、男性は厳つい表情をしながら紙を読み進める。と、ピクリと眉毛が動き、スッと視線がこちらに注がれた。

「計算が得意なのか」

「はい」

「……百ルタのパンが八個、百六十ルタのパンが三個でいくらだ」

「えっと、千二百八十ルタです」

「……正解だ。なるほど」

急に問題を出されてビックリしたけど、正解できて良かった。正解すると男性の表情が少しだけ緩くなったような気がする。もしかしてボロの服装だったから警戒されたのかな。服装、大事だね。

「俺の名はレトム、このパン屋の主だ」

「私はリルっていいます。この町の住人ではなくて、難民です」

「そうらしいな。だが、難民でも格好さえ気を付けてくれればいい。服はこれから買ってくれるんだよな」

「はい、買い替えます」

服装がダメだったんだね。つぎはぎがある、穴の開いた服じゃ嫌厭されるのも頷ける。しかも食べ物のお店ではこんな服はダメだよね、いい服を買おう。

「服だったらしっかりしていれば古着で十分だ。この通りより一本向こう側の通りに古着屋があったはずだから、そこで買うといい」

「ありがとうございます」

古着でいいんだ、というか古着が売っているんだ! 良かった、お金をそんなに出さなくても良さそうだし。今現金で三万ルタくらい持っているからこれで十分そう。貯金は二十八万ルタもあるし、うん大丈夫。

……うん? どうして服の話をしているんだろう。

「あの、もしかしなくても採用ですか」

「あぁ、そうだ。早めに働いてくれる人が欲しかったから、そういう意味だ」

そ、そうだったのか。ついつい話に流されちゃうところだった。ふぅ、無事働けるようで何よりだよ。

「期間は半年以内っていうことでしたが、具体的にいうといつくらいまでになるんでしょうか」

「俺の妻が産後の状態が良くなくてな、働けない状態になってしまったんだ。医者がいうには半年くらいは安静にしておいたほうがいい、と言っていた。だから、妻が働けるようになるまでだ」

「分かりました」

なるほど、奥さんが働けなくなっちゃったんだね。産後は一番大事な時だから、旦那さんであるレトムさんも無理させたくなかったんだろうな。無愛想だけど奥さん思いのいい人なんだなぁ。

「いつから働けばいいでしょうか」

「明日は店の定休日だから、明後日から頼めるか」

「分かりました。こちらは朝日と一緒に起きて、配給を作って食べて、一時間くらいかけて町に来ます。開店まで間に合うでしょうか?」

「それくらいなら大丈夫だ。もし開店まで到着しなくても、朝一は俺一人でもなんとかするから。とりあえず、明後日にどれくらいの時間に来られるか分かってからでいい」

町に住んでいないのがネックなんだよね、ここで難民としての弊害があるなんて。しっかりした時計が欲しいけど、今はまだ買えないよなぁ。もっと中の仕事が受けられるようになってから考えてみよう。

「具体的な仕事の内容はパンの陳列、お客への対応、大量買いの対応、会計、店と外の掃除くらいだ。もしかしたら、中の手伝いもしてもらうかもしれない」

「分かりました」

「詳しいやり方は当日やって見せるから覚えてほしい」

「はい、明後日よろしくお願いします」

やり取りは以上で終了した。短いやり取りだったけど、残りの詳しいことは当日だよね。期間はそんなに長くないけど、ここを頑張れば纏まったお金が手に入るはず、頑張らないとね。

まず必要な服を買いに行こう!