12 目標は市民権

あれから両親は集落の手伝いに渋々行くようになった。集落を追放されることは避けたかったみたいだ。でも、手伝いから帰ってくるととても不機嫌そうな顔をしていた。きっと、何か言われたのだろう。

私への当たりがきつくなるかと思いきや、そうではなくて完全無視の態度に変わった。先日に言っていた事が本心だったのだろう、私をいないかのように扱ってここから逃げるのを待っているみたいだ。

これはこれで良い。怪我をするよりも無視のほうが楽でいいしね、ただ気分は良いものじゃないけど。うちの両親は子供みたいで、見ているこっちが情けなくなるね。

危害が加えられる前に時機を見てここから違う場所へ移った方がいいかもしれない。先日十三人の難民がここを出たばかりだから、空き家は残っているんだと思う。そこに住まわせてもらえないかなぁ。

私は早速、女衆に相談してみた。

「両親から離れて違うところに住みたいだって? そうさねぇ、可能といえば可能だけど……今の状況では周りからの賛同を得られないだろうね」

「今は特に実害がないんだろ。それじゃ、無理だと思うよ」

「でも、何かあったら相談するんだよ。そん時は他の空き家を使わせてもらえるように掛け合ってあげるからね」

「分かりました。その時はよろしくお願いします」

ダメだったか、残念だ。でも、心強い言葉を貰えて一安心した。今度身に危険が迫った時は遠慮なく相談させてもらうことにしよう……信用って本当に大事なんだね。手伝いする前に比べれば雲泥の差だ。

いずれ両親の下から離れるのは決定事項だけど、具体的に離れたら何をするのか考えておかないといけない。私は両親から離れて何をすればいいのだろう。

まずは難民からの脱却だ。配給だけでこの先ずっと生きていけない、というかそれだけで生きていきたくない。これは難民の誰もが思っている事。

私はここではないどこか、そうだ町に住んでみたい。難民では町に住む資格がなくて家を借りれないし買うこともできない。難民を脱却しなければ町に住むなんて夢のまた夢で終わってしまう。

町に住むための市民権はどうしたら手に入るのだろうか。私でも思いつくことなんだから、他の難民たちだって思いつくよね。きっとその市民権を手に入れるために、朝の配給を受け取った人は町に行って働いているんじゃないだろうか。

だったら、私も朝の配給を受け取りながら町の中に働きに出て行けばいいんじゃないかな。確か子供も町に行っているはずだから、働き口があるんだと思う。そうやってお金を貯めながら市民権を得るために働いているかもしれない。

……私が聞いても答えてくれるかな。もう大丈夫だよね、以前みたいにダメだって言われないよね。うぅ、聞こうと思ったら不安になってきちゃった。

えぇい、度胸を出せ。ダメだったらもっと信用を得るために頑張ればいいんだから。そうだ、一回ダメだったからって諦めることなんてできないよね。

私は勇気を出して話しかけてみることにした。他の難民たちから話を聞いて、今日町に行っていない朝の配給を受け取っている人がいないかを尋ねる。すると、一人の女性に辿り着くことができた。

「すみません」

「あら、どうしたの」

家を訪ねると不思議そうな顔をして姿を現してくれた。嫌悪感は全くなく普通の対応をしてくれている、これはいけそうだ。

「私、難民をやめて町に住みたいと考えています。でも、何をしたらいいのか分からなくて、色々と教えてくれませんか?」

「そうなの。いいわよ、私で良ければ教えてあげるわ。さぁ、家の中に入って」

やった、話してくれるって! 嬉しくて笑顔になると、その女性も笑顔で応えてくれた。そうして家の中に入ってみると、床にはゴザが敷かれていて、その上には小さいながらもイスやテーブルさえあった。すごい、同じ難民なのに家の様子が全然違う。

イスに座るように促されると、私はおそるおそる座ってみる。硬い木のイスだけど感動した。その女性もイスに座るとすぐに話してくれる。

「まず、町に住むには市民権が必要だわ。市民権を得るためには二種類のやり方があるの。まずお金で市民権を買うこと、これは領主さまからお金で市民権を買うことになるわ。あとは冒険者でBランクになること、Bランクになると誰でも町に住むことができるようになるわ。これは町に高ランクの冒険者が居ついてもらうための手段だって聞いているの」

なるほど、市民権はお金で買うか冒険者でBランクになるか、二つの手段があるんだ。

「ちなみにここから一番近い町に住むためには四十万ルタのお金が必要よ。また、町によって必要となるお金も変わってくるわ。ただの移住であれば必要なお金がもっと安く済むって聞いたことがあるわね」

四十万ルタか、高いのか安いのか全然分からない。普通の移住にもお金がかかるらしいけど、難民よりかかるお金が安いのはなぜだろう。どんな理由であれ難民となった時点で恵まれないのは決まりごとのようにも思える。

「難民の中にはすでに市民権を買っている人もいるわ」

「えっ、どうして町に住まないんですか?」

「それは町に住むためのお金が足りないからよ。家賃を払わないといけないし、家具とか道具も買わないといけない、食料だって必要だわ。だから正規の仕事が見つかるまで難民で我慢して日雇いの仕事をしている人たちはいるわ」

もう市民権を手にした人がいるんだ、すごい。でも市民権だけでは町に住めないみたい。そうだよね、市民権の他に必要なものが沢山あるんだから。市民権を手にしてそれで終わりっていうことにはならないんだ。

「お金を稼ぐ手段なんだけど、難民は冒険者登録をして仕事を請け負っているのよ」

「女性も子供もみんな冒険者登録しているんですか」

「えぇ、ギルドから日雇いの仕事を請け負ったりしているの。大人向けや子供向け、男性向けに女性向けと色んな仕事があるわ」

そっかみんな冒険者登録をして色んな仕事を請け負ってお金を稼いでいるんだ。しかも、幅広い仕事があるらしいから私は子供向けの仕事をしたらいいんだね。話を聞くと自分が何をしたらいいのか分かってきた。

「だったら、私はギルドに行って冒険者登録をすることが必要なんですね」

「そうなの。だけどね、その前にやることがあるのよ」

「冒険者登録の前に、ですか」

すぐに冒険者登録ができないなんて、一体どんなことが必要なんだろう。不思議そうに女性を見つめていると、その女性ははっと気づいたように手を叩いた。

「そうだわ、明日途中まで町に行ってみない。そこで説明してあげるわ」

その申し出に私は飛びついた。まさか現地に行って説明してくれるなんて、優しい人で本当に良かったよ。脱難民に一歩踏み出したことになるのかな?