11 両親

難民十三人がヨルム村に移住をする。必要最低限の物を持って、領主さまが用意してくれた荷馬車に乗り込んで集落を旅立っていく。見送りには難民の仲間たちが集まってお互いに激励をし合う。もちろん、私もそれに交じった。

「体に気をつけて、行ってらっしゃい」

「あぁ。リルも元気でね」

移住する中にはいつも配給を作っていた女衆が交じっていて、ちょっと寂しい気持ちになった。

「出発するぞー」

御者の声が聞こえた。荷馬車に集まっていた難民たちが少し離れると、鞭の音がした後に荷馬車は動き出す。

「元気で過ごせよー」

「野菜が一杯取れたらこの集落に送ってもいいんだぞー」

「そりゃいい。野菜を作るの頑張れよー」

難民から色んな声が上がって、みんなが手を振ってお別れをした。いつか私もこんなふうに見送られながら、ここを旅立ってみたいな。

ボーっと荷馬車が去っていった細い道を見つめる。そこに他の難民たちが私の傍に近寄ってきた。

「じゃ、リルちゃん行こうか」

「はい、お願いします」

実は今日はそれだけじゃない。いつまで経っても手伝いにこない両親に集落会議前の最後通告をするのだ。

手伝わなくなって半年以上経って、見過ごせなくなってしまったらしい。事前に相談に来るほどで、みんなが深刻そうな顔をしたのを覚えている。はじめはいきなり集落会議にかけるつもりだったが、私の頑張りがあったので最後通告だけはしようということになったらしい。

これには正直に言って助かった。私の力ではあの両親を改心させることなんてできない、子供の力は本当に弱い。

元々、良い両親ではなかったが以前は害がなかっただけいいほうだ。でも、ある日を境に変わってしまった。その原因が分かれば苦労しないのだが、そのことについては全然分からない。

変わってしまった日から私への当たり方が厳しくなったのを覚えている。ということは、私が原因ってことなのかな。でも、何もしてないのに当たられる理由が全然分からないからお手上げだ。今回の最後通告で分かるといいな。

十人以上の難民と一緒に我が家に辿り着いた。この場の代表として男の人が出入口の布をめくって中に一歩足を踏み入れる。

「おい、お前たち外に出てもらおうか」

「な、なんだよ突然……」

「外って、どうしてそんなとこに」

「いいから、来い」

男性がそういうと渋々といった感じで両親は外に出てきた。すると、我が家を取り囲む難民たちを見てギョッと驚いて顔を引きつらせる。

「え、えっと……こんなに大勢で一体どうしたんですか」

「そうですよ。こんな我が家になんか用なんてないでしょう」

「お前たち二人に用があるんだ」

二人が出てくると難民たちの顔つきが厳しいものになった。異様な雰囲気を悟って両親の顔色が悪くなる。

「お前たち、半年以上も集落の手伝いをしていないようだな」

「病気も怪我もしていないんだったら、やってもらうはずだったんだけどねぇ。一体どういうことだい」

「二人の手伝いがなくなったくらいで集落が維持できないっていう話でもないが、それでも手伝いをしなくていいという話にはならないぞ」

難民が険しい顔で両親に詰め寄り厳しい言葉を投げかける。いや、厳しくはない。当たり前のことを言って聞かせようとした。

両親は気まずそうに視線を逸らして何も言わない。頭の中ではどんな言い訳を考えているか気になるが、こんな状況になっても謝ろうとはしない態度はダメだと思う。

「おい、なんとか言ったらどうなんだ」

「それは、その……」

「手伝わないっていうなら、ここから出て行ってもらうよ」

「困ります! 行く場所なんてないんだから」

「だったら、なんで必要最低限のことをしないんだ」

両親の煮え切らない態度を前に、難民たちの声が大きくなっていく。じりじりと詰め寄っていく難民と、腰が引け始める両親。だけど、その表情が醜く歪み体を震わすと大声をあげる。

「俺たちが手伝わなくなったのはお前たちとリルのせいなんだからな!」

……は?

「そ、そうよ。リルとあなたたちが原因なんだから、仕方ないじゃないのよ!」

ど、どういうこと? 

「お前たちがリルのために頑張ればっかり言ってたじゃねぇか! なんでそんなことばっかり言われながらやらなきゃいけないんだよ!」

「私たちだって頑張っているのに、これ以上頑張れるわけないじゃないのよ!」

「リルだってもう大きいんだ、自分のことは自分でできるんだ! ほっといたって悪さなんかしねぇんだからいいじゃねぇかよ!」

「なんで、なんで私たちばっかり悪口言われなきゃいけないのよ! 悪くない、なんにも悪くないわよ!」

両親は堪え切れないとばかりに思いの丈をぶちまけた。ぶちまけたが、話の内容が要領を得なく何を訴えているのか私には分からない。なので、周りの難民を見てみると皆が呆れたような顔をしていた。

「覇気のなかったお前たちの尻を叩くために元気づけようと声をかけただけじゃねぇか。子供のためだったら親はなんでもできるだろ」

「うるせぇ、うるせぇ! 俺たちにとっては余計なお世話だったんだよ!」

「あなたたち、ずっと自分たちばかりってリルちゃんは」

「口を開けばリル、リルってそればっかり! そうやって言われるのが、もう嫌なのよ!」

話を聞いてみれば、お互いに行き違いはあったものの、一方的なワガママを言っているのは両親だった。

なるほど、私に対して態度が悪化したのは周りからの言葉があったからだったんだ。きっと周りの人は両親を元気づけようとして話してくれたんだろうが、両親にはそんなふうに捉えることができなかった。ようは、両親が精神的に幼いのが原因、か。

まぁ、当たる前からもちょっと可笑しな感じだったもんね。子供をほったらかしにしてボーッとするだけだったし、率先して子供の相手をするような両親ではなかったことは確かだ。

あぁ、そうか。私はすでに見捨てられていたのかもしれない。精神年齢二十才以上だけど、この両親は情けなくて泣けてくる。スタンピードで町が滅ぼされた時にはもう終わっていたんだね。

両親と難民たちの言い争いが収まる。どちらも納得いっていないような顔をして、これ以上言い争えば手が出てきそうな雰囲気だった。

「とにかく、明日から手伝いをしないと集落会議にかけるからな。分かったな!」

「今のリルを見習えってんだ」

「うるせぇなぁ、さっさといなくなれ!」

その言葉を皮切りに難民たちがその場を後にしていく。誰もが私のことを心配そうに見下ろして歩いていくのが見えて、複雑な気持ちになる。

しばらくすると、その場には両親と私だけが残る。両親は私を見下ろして睨みつけてきた。

「いつでもここから出て行っていいぞ」

「あなたなんて、どこへでも行きなさい」

ダメだこの両親。早く出て行かないと。私の心に一つの決心が生まれた。