10 配給の日

領主さまからの配給は月に一回。数名の役人たちが荷馬車と一緒に集落にやってくる日だ。配給品は数種類の野菜、干し肉、道具、衣類など。

配給される野菜はどれも不揃いのもので、商品にするのがはばかられるものばかりだ。形が小さかったり、いびつだったりしている。それで費用が抑えられているのか量はあると思う。

多分だけどそれは農家と商会のためになるんだと思う。だって形が不揃いのため売れない商品を領主さまが買い取ってくれているんだから。領主さまは頭がいいよね、費用を抑えられて、同時に農家と商会の売上に貢献できているんだから。

道具と衣類だって使い古しばかりだ。多分だけど住民から中古品として安く買い取って、それを配給品にしているみたい。粗悪品っていうものはなく、大抵傷が目立つくらいだ。そんなものでも貰えるんだもの、ありがたいよね。

領主さまのお陰でこの難民集落は存続できているようなもので、領主さまがいい人で本当に良かった。集落内では領主さまの悪口なんて聞いたことがない。

「配給が来たぞー」

「道を空けてやれ」

「もっと広がれー。荷馬車が置けないぞ」

いつもの広場に大勢の人が集まっていた。男の人が率先して人の整理を始め、あっというまに広場の三分の一にスペースができる。

すると、荷馬車の音が近づいてくるのが聞こえた。私は一番前にきてその光景を眺める。

細い道を進んでくる荷馬車が二台見えた。それぞれに御者と役人が乗っており、後ろの荷台には配給品が載せてあり大きな布で覆われている。

荷馬車が広場のスペースに止まると、御者台から役人が二名降りてきた。その役人は二人で何か話し合った後、私たちに向き直る。

「私たちはルーベック伯爵さまの命により配給を届けにきた役人だ。難民集落の者たちには苦しい生活を負わせてしまっているが、ルーベック伯爵さまは君たちを見捨てたりはしない。今月の配給品だ、心して受け取るように」

役人が大声でいつもの口上を述べると、その場にいた難民は深々と頭を下げて感謝の言葉をいい始めた。私も同じように頭を下げて感謝を口にする。

「ありがとうございます」

配給品には本当に助かっています、伯爵さま。心からの感謝をする時って自然と頭が下がるものなんだよね。

それぞれが感謝を示すと、それを見た役人は辺りを見渡して了解したように強く頷いた。

「伯爵さまには君たちの感謝を伝えておこう。さぁ、配給品を受け取ってくれ」

「みんな、手を貸せー」

「俺が荷馬車に乗って布をはがすぞ」

「誰かー倉庫を開けといてくれー」

「よしきた、任せろ」

役人の言葉が終わると一斉に難民たちが動き出す。いつも覇気がないような顔をしていたのに、配給品を前にすると人が変わった。配給のお陰で生きていけるようなものだからね、やる気が出るのも分かる。私も同じようなものだ。

荷馬車の上に乗る人と、荷馬車の下で待つ人に分かれる。私はもちろん下で待つグループだ。並んで待っていると前に並んだ人が荷馬車の上から野菜を受け取って倉庫に向かって歩いていく。次は私の番だ。

「落とすなよ」

「はい」

そう言ってゆっくりと野菜の受け渡しをする。預かった野菜はニンジンだ、落として割れないように気をつけないと。私は慎重に歩いて、周りに気をつけながら倉庫を目指す。

倉庫に辿り着くとそこにも人がいた。

「お願いします」

「あぁ」

短い言葉のやり取りをすると、野菜を丁寧に受け渡す。この瞬間が少し緊張するんだよね、落としたらやっぱり怒られたりするのかな。こうしちゃいられない、後ろが詰まる前に私は再び荷馬車に向かう。

難民全員ではないが、みんなで協力し合って荷降ろしをする。誰一人配給品を落とすことがない。ただの荷降ろしだというのにちょっと緊迫感があった。荷降ろしが終わった時には体は疲れていないけど、精神的に疲れてしまった不思議な感覚が残る。

配給品の荷降ろしが終わると、そこで解散ではない。二人の役人が立っている前に難民たちが集まる。ここにいる難民たちが役人たちに向き直ると、役人は口を開く。

「みな、ご苦労だった。さて、これから移住の話をする」

移住の斡旋の話が始まった。こうして気を使って移住を勧めてくれるのはありがたいことだよね。今回この集落を出て行く人はいるのかな。

「移住先はここより南東に位置するヨルム村だ。ヨルム村は様々な野菜を作っている農村で、今回は農家のなり手を募集している」

「募集の理由は若者の農村離れが進んでしまったこと、住民の減少のためだ。休耕地が多くあり村の税収も良くはないので、こちらとしては早急に対処することとなった」

「この中で移住を希望する者はいるか」

役人たちが話し終えると難民たちがガヤガヤと話しだした。まぁ、私はどうしようもないから見ていることしかできないんだけどね。

あれ、あそこの人たちすごく真剣に話し合っているみたい。じっとその人たちを見てみるとその中で一人、男性が手を挙げた。

「質問、いいですか?」

「なんだ」

「受け入れは数組でも大丈夫でしょうか」

「そんなに多くは受け入れられないが、可能だ」

そんな話を終えると、その難民たちは少し話した後に誰もが強く頷いた。

「では、ここにいる三組、十三人がヨルム村に行きます」

その言葉に他の難民たちがどよめいた。農村行きに三組も名乗り出たことがとっても珍しいからだ。

新しく農村に住み着き、前からいる住民に交じり開墾して、見様見真似で野菜を育てていくのはとても大変。でも、そんなリスクを承知で三組は手を挙げた。理由があるとすれば、難民の仲間がいれば困ったときに力になれるからか。なるほど、そういうやり方もあるんだね。

「他に移住希望の人はいないか? ……いないようだな。今回移住を希望する者たちは三日後に迎えにくるので、持ち物などを用意しておくように」

「では、今日は終わりだ。また来る日まで健やかに過ごせ」

役人たちが締めの挨拶をすると難民たちは頭を下げて感謝を示した。もちろん私も深々と頭を下げて感謝を示す。

こんなに大勢の人が来ているというのに、私の両親は姿を現さない。女衆の話を聞く限り、そろそろ本当に危ないみたいだ。近々、両親のことで何かあるかもしれない。私はできることをして自衛をしておこう。