第4章 転生領主の華麗なる領内視察
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初春の日、陽にして、
午後、領主館を出て、俺は妻と共に剥き出しの田舎道を歩いていた。
「ふぅん、
楽しげな様子は良いが、その発言は、やはり彼女は
「この道は馬車でしか通ったことはありませんもの。それがまさか、デズモンドさまと共に歩くことになろうとは――、思ってもおりませんでしたわ。ふふ」
我が愛しの妻シャーロットは、絡めた指にキュッと力を籠めてきた。ジィン、と甘い痺れが腕の方にまで伝わって、幸せそうに微笑む彼女には、思わず俺の口元もくすぐったくほころんでしまう。俺だって、前世の記憶を取り戻すまでは、夢見てはいても、夢にも思わなかった。もしもこれがやはり夢だということであれば、吐血して死ねる。
それでも、この甘さでは、やっぱり吐糖して死ぬかも知れなかったが――、
我が最愛の妻は、二十九歳とは思えない、言うならば、二十歳そこそこの若々しく初々しい、そして少女じみた顔で、幸せそうに微笑んでいたのである。
――
しかし、剥き出しの田舎道。
元々が由緒正しきテラス伯爵家次女、生粋の貴族令嬢であるシャーロットの夫が治める地の道路が、こんな有様ではどう思われるか心配だったが、楽しそうな様子には杞憂だと思えた。清楚なブラウスにスカートはまさしく避暑地を訪れた深窓の令嬢だ。ただしここにあるのは、別荘ではなく本邸だけど。
この世界には魔法があるので一概には言えないが、中世ヨーロッパほどの文明の発達具合である。だからもちろんアスファルトの舗装などは望めないが、領主の屋敷のある、言わば中心地の道が剥き出しの田舎道なのだ……。
この町の発展具合は、実際町と言っても良いのかすら疑問なレベルの田舎なのである。中心地がこんな状態なのだから、他の村々は推して知るべしだ。
それでも、手ずから音頭を取って、端正に
ここがかつては細々とした畑と申し訳程度の畜産しか出来なかった不毛の土地だった、と言われても、信じる者はいないだろう。自分でやったことながら、俺だって信じられないもの。
そして、まさかシャーロットと共に歩けるまでになるとは――。
ここでぶっちゃけて種明かしをすれば、俺が領主に封じられるに至る功績、農地改革とか、新たな防衛機構の開発とか、そうしたものは、別段前世の知識を使った知識チート、ってワケではなく、単に、貴族の魔力を活かしての力技なのであった。
だって、俺が転生者であったことを思い出したのはついこの前のことだったし、それまでに残っていたのは前世の知識の断片のようなもの。しかも俺ってば、そもそも農業とか畜産とか詳しくないし。だから俺のやった施策といえば、
たとえば土を耕すのに魔法を使う。
たとえば畑に撒く肥料に魔力を籠める。
魔力の補充が必要でも、魔力によって動く防衛装置を使う――といった愚直なものだ。
それらはめざましい成果を上げたが、今までそういう手法に気がついてこられなかったというよりは、農地や農業といった平民の営みに尊い貴族の魔法を使うとは何事か、そして、魔法とは戦闘用に使うもの、ヒト同士、或いは魔獣と戦うために使うものという、凝り固まった選民思想、魔法尊重主義によって、長年の
だから俺は前世の知識を使ったというワケでもなく――それでも前世知識の断片があったからこそ気が付けたものもあったが――、単に領地経営に魔法を導入しただけなのだ。
もちろん、尊い魔法に対してなんたる不遜な、とかイチャモンをつけてくる上級貴族がいたが、そんなやつらは、『灰色の猟犬』であるランドルフのお爺ちゃんが、千切っては投げ、千切っては投げ――は流石に立場上出来なかったが、裏で色々と動いてくれていたらしかった。彼、軟弱は咎めるし常識人ではある
そして俺についた二つ名は『ダムウィードの異端児』。
そりゃあ友達もいなくなろうというものなのだ。まあ、下級貴族の一部や、俺みたいな次男以下の子息は賛成してなくもなかったけど、それだってほぼ交流はないのである。
――いいもん! 今はシャーロットがいるから!
ってなワケで(どんなワケだ?)、俺がどうやってアルドラ領を変革したかって言うと、魔法を使っての――ぶっちゃけ俺は魔法苦手だけど、一方向性の力技ならば、問題はないのである(その間、領民たちには避難していてもらった)――、
水、ジャヴァー!(土地に水気を含ませる)
土、ズゴゴゴゴ……。(浸透させ、混ぜ合わせる)
風、ビュォワァアアアーッ!(適度に水分を飛ばし、土を乾かし、風の入り込む深度を変えることによってその水脈を地中深くに押し込んだり)
で、不毛の大地が潤うまで耕してやったというワケなのではあったが、そこに
――ウン、笑いごとじゃあねぇな。
だが八年経っても何も起こってはいないのだから、大丈夫だと信じよう。そうしてまずは土地の地盤を整え、土地を耕し、自分好みの作物やら何やらを取り寄せさせては植え、そして家畜の数も増やさせて、自分の思い通りの領地を作る。リアルで領地経営シミュレーションゲームをしている気分だった。
そうしてこの領地を、俺は復活させたのだった。
復活ってか、そもそも生き生きしていたことは聞いた限りなかったのだけれども。まあ、そのおかげで、そして魔法の行使を目にした領民たちは、俺に感謝と畏怖を捧げ、まるで守り神のような扱いにされているのであった。つっても俺が思うに彼らの態度は――まあいいや。
んで、だから、俺がここに封じられたのも、シャーロットと結婚したのも八年前だったが、実際に彼女を呼んだのはそれらが落ち着き屋敷を建てた、一年後になるのではあった。
嗚呼、あのときのシャーロットの眼は今でも思い出すことが出来る。やっとカタチが出来たばかりの田舎町、こんなところが貴族の住む土地なのですの? と軽蔑しきったその
あの時の様子で罵られるプレイに興味がなくもないが、きっと心が耐えられないだろう。ってことで、ここをシャーロットと共に歩けるとは、嬉しさもひとしおなのであった。
「ここは気持ちの良い土地であったのですわね」
愛しの我が妻がエメラルドの瞳をキラキラとさせ、大きく深呼吸をすれば、白く清楚なブラウスが豊満な胸部に、更にこれでもかと持ち上げられて上下した。
――もちろん俺は眼を奪われてしまう。
スカートをひるがえす足取りは優雅であり、まるで
日の下に