「パパが普通に試験に合格すると、お金を稼げて、ご飯が美味しくなります。ママも、喜んでくれます。小鬼みたいに殺したら、駄目ですよ」

「「「「「クワアッ!」」」」」

餌と蒼依で釣ったところ、伝わったらしかった。

安堵した一樹は、作戦を説明する。

「玄武と黄竜が、安倍に水と土で、軽く攻撃してください。小鬼を引っ繰り返す程度の軽い感じです。青龍、朱雀、白虎は、大鷹と追いかけっこをしましょう。みんな、フィールドからは、絶対に出ないように」

八咫烏達が理解して、フィールドの反対側に居る晴也と大鷹に目を向けた。

晴也も最初の位置に着いており、準備完了のランプが青に灯る。

「位置に着いて、よーい、ドン!」

試合開始のブザーが鳴ったのと同時に、一樹は八咫烏達をけしかけた。

瞬時に飛び立った玄武と黄竜は、数秒のうちに反対側へ辿り着くと、水と土を混ぜて放った。

それらは消防車が行う放水の如き勢いで、晴也に泥水を浴びせ掛けた。

「うぉおぉぉ…………ぶべらぁっ!?

全身に泥水を浴びせられた晴也は、身体を勢いよく押し出されて、フィールドの外へゴロゴロと転がっていった。

そして泥まみれに成りながら、転がった先でバタリと倒れて意識を失う。

試合会場の外側に控えていた救護班が、慌てて走り始めた。

他方、晴也の式神である大鷹は、青龍、朱雀、白虎の三羽に嬉々として追われて、一目散にフィールドの外へと逃げて行った。

三羽は逃げた大鷹を遠目に眺めながら、一樹に不満そうな鳴き声を向けた。

「「「カァー、カァー、カァー」」」

『戻って来ましょう。美味しいご飯が待っていますよ』

式神に逃げられた晴也は、式神の制御が甘かったらしい。

あるいは賢い鷹が、襲い掛かってくる猛禽類の危険性を察知したのか。

一樹自身は、懐から鳥用の高価な餌を取り出しつつ、自身の気を介して呼び掛け、八咫烏達を手元に引き戻していった。

程なく、試合終了を告げるランプが赤く灯されて、一樹は三次試験に合格した。

◇◇◇◇◇◇

「先程は随分と、手加減されたのですね」

エキシビションマッチの待機所に入った一樹に向かって、対戦相手の一人、双子の姉である五鬼童沙羅が声を掛けてきた。

沙羅は、一樹と同い年の中学三年生。

小柄でスリムなのは、空を飛ぶ大天狗の子孫だからだろうか。クラスが身長順に整列したら、前から五番以内に入るだろう。柔和な表情に、垂れ目で、声も優しく、一樹は穏和な印象を受けた。

沙羅の髪は左右に分けて、垂らして結んだ『おさげ』だ。

双子の妹である紫苑は、ミディアムストレートで、両者は髪型で見分けが付く。ほかには、妹の紫苑が額に眉を寄せて、気難しそうな表情を浮かべており、沙羅よりもキツい印象だった。

そんな沙羅と紫苑の双子は、簡易な山伏様の衣装を身に纏い、神木から削り出した霊験あらたかな金剛杖を手にしていた。

一樹は、話し掛けてきた沙羅に答えた。

「あれは流石に、力量差が有り過ぎた。五鬼童家は、手強いと認識している」

手加減したのを知っているのであれば、見学していたのだろう。一樹と沙羅の会場は別であり、先に一九試合が行われるのであれば、同じ時間に終わるはずもない。

隠す内容でもないと判断した一樹は、試合結果については否定しなかった。そして五鬼童に対しては、手強いと認識していると無難に述べる。

そんな一樹の回答に対して、沙羅は言動の不一致を質した。

「その割には、二対一の勝負を引き受けられましたよね」

「……引き受ければ、C級に推薦してもらえると聞いた。推薦していただく以上、C級に充分な力量は見せるつもりだ」

そのように答えておけば、一樹が活躍した際、推薦した五鬼童の期待に応えようと頑張ったのだという形になる。そして実力者を推薦した五鬼童は立派ということになり、五鬼童の顔も立つ。

慎重に答えた一樹に対して沙羅は、さり気なく尋ねた。

「賀茂一樹さんは、B級くらいの力量はお持ちですよね」

沙羅が問うのは、戦闘前に一樹の力量を推し量ろうとしているからなのか。

意図を把握しかねた一樹は、若干考えてから答えた。

「開業する予定だから答える。俺の力量は、確実にB級以上はある。そして五鬼童一族は、受験の時点でC級の力量だと聞いた。君達がB級に届いていないのであれば、今回は相手が悪かったのだと思ってくれ」

両者の会話は、生配信されている。短期的には金を稼がなくてはならず、長期的には穢れを祓うために大きな仕事をしたい一樹は、依頼人にアピールする目的で、実力を誇示した。

同世代から、「自分のほうが圧倒的に強い」と宣告されたのは初めてだったのか、沙羅は驚いた様子で聞き返した。

「C級で、グリフォンやマンティコア並ですよ。そんなに、お強いのですか?」

沙羅は戦闘前の舌戦や力量の推定ではなく、素で問うた様子だった。

純粋に聞かれた一樹は、やや気勢を削がれながらも、頷いて答えた。

「君達がC級だったのに俺が負けたら、俺は自戒の意味を込めて、陰陽師を引退するまで、毎年二人分の守護護符を作って二人に贈ると約束しよう」


実況掲示板では、大いに盛り上がっているだろう。

偉そうに宣い、随分と派手に宣伝した一樹に対して、控えていた紫苑が口を挟んだ。

「そんなに絶対に負けないと思っているなら、毎月にしなさいよ」

「良いぞ」

挑発に即答された紫苑は、神気を帯びた金剛杖で地面を突いて、怒りを露わにした。

「だったら、後悔させてやるわ。毎月くれるなんて、ありがとう!」