第三話 陰陽師国家試験

「日本の陰陽師国家試験は、夏に三次試験までの三回がある」

八咫烏達の世話で付いて来た蒼依に向かって、一樹は予定を説明した。


・一次試験 呪力測定(推薦者は免除)

・二次試験 霊符呪術(下級合否)

・三次試験 対戦試合(中級合否)


「昔は、二次試験と三次試験だけが行われていた。だけど受験者が多くなり過ぎて、足切りの一次試験が作られたんだ」

陰陽師は、妖怪変化を調伏しなければならない。

したがって調伏できない人間は、そもそも陰陽師に成れない。

それを確認するのが一次試験であるため、D級以上の陰陽師の弟子として一年以上の活動をしている人間は、最低限の足切りを免除される。

「ちなみに俺は、父さんから推薦を貰っている」

D級以上の陰陽師を推薦者に出来るならば、コネで妖怪変化を調伏できる。

陰陽師協会や、妖怪に襲われている人が問うのは、『調伏できるか、できないか』の結果だ。

コネであろうと、妖怪変化を『調伏できる』のであれば、それで良い。

本人が祓えなければ、推薦した陰陽師に責任を取らせて調伏させれば良いだけだ。そのための推薦制度である。

「そうなんですね」

和則が一樹を推薦した件について、蒼依は感心した様子を示した。

その様子から一樹は、蒼依からの評価がよろしくない和則の威厳は、僅かでも上昇しただろうかと、期待半分諦め半分で考えた。

和則が低評価なのは、借金や陰陽師としての実力のせいだけでなく、八咫烏が巣立ちするまでの世話をするために、現在同居していることが不満だからかも知れないと一樹は考える。

一樹達が住んでいるのは蒼依の家なので、本来であれば蒼依の意思が最優先される。

だが八咫烏達が成長して、常に誰かが見ている必要が無くなるまでは、補助者が必要だ。

だから一樹は、父親が役に立っていると説明して、蒼依にお許しを願い奉る次第である。

────おのれ閻魔大王。

一樹は人生で何度目になるか知れない恨み節を呟くと、受験資格や日時を説明した。

「受験資格は、中学三年生以上。ただし、陰陽師として活動できるのは一五歳以上。そして二次試験は、八月一日にある」

陰陽師国家試験は、中学三年生から受験できる。

それは高校進学率が高くなかった時代、中卒で陰陽師として働く者が居た頃の名残だ。

だが現代では、陰陽師の大多数も高校に進学している。

そのため中学三年生の見習いは、高校受験を優先して、陰陽師国家試験は高校入学後にする者も多い。

見習い達が国家資格の取得を先送りする理由は、高校受験を優先するほかにもある。

それは国家試験が単なる合否に留まらず、D級からF級までの格付けも同時に行うからだ。

一五歳前後の一年は、男女のいずれも呪力の成長が終わっておらず、伸びが大きい。

そのため一年遅らせて受験したほうが、呪力が増して順位も上がる。


『下級陰陽師は、昇格が難しい』

未成年、かつ資格取得から三年未満の下級陰陽師は、妖怪調伏の現場に単独で出され難い。

単独で出して負傷すれば、師匠や事務所が指導内容を問われるからだ。

それに師匠や事務所側も、弟子や従業員を引退や無駄死にさせたくはない。

どれだけの手間暇を掛けて育成してきたのか、そして苦労して人材を確保したのかを考えれば、軽々しく使い捨てられるような人材では無い。

そのため師匠に付かせたり、複数の陰陽師で組ませたりする形となるが、そうなると活躍しても一人の仕事ではないために、昇格するのは難しくなる。

一年早く資格を取ったために、その後に何年も昇格できないことは、少なからず起こり得る。

一年以内の昇格も不可能ではないが、最初から一つ上に格付けされたほうが楽だ。

結論として受験時期を一年遅らせるのは、真っ当な選択肢の一つである。

だが一樹は、中学三年生での受験を選択した。一つには確実に上位の成績で受かるからで、もう一つは経済的な事情からだ。

七月七日生まれの一樹は一五歳になっているので、合格すればすぐに活動できる。

「それじゃあ行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」

蒼依に見送られた一樹は、先月に足切りを終えた二次試験会場へと赴いた。


二次試験会場は、大規模イベントで有名な施設の東展示棟を借りて行われる。

縦横九〇メートルのフロアが六つあって、一つのフロアが教室一二六個分に相当する。

一つの教室に生徒三〇人が入るとすれば、一フロアだけで三七八〇人を収容できる次第だ。

陰陽師協会が借りたのは、六フロア。

そのうち三フロアは、霊符の作成会場で、机と椅子が並んでいる。

残る三フロアは、作成した霊符を用いる、実技会場となっている。

年齢による引退や、殉職によって、陰陽師協会は毎年五〇〇人以上の陰陽師を補充しなければならない。

五〇〇人以上という合格の目安に対して、七四八二人も集まった二次試験の受験者に混ざった一樹は、指定された席に座ると、スピーカーから流れる試験の説明を聞いた。

『まずは、注意事項を説明する。会場には多数のカメラが設置されており、ライブ中継されていて、全国民が君達を見ている。不正が判明すれば、失格・資格剥奪の上、五年間の受験資格停止となる。不正は慎むように』

全国民から常時見られており、録画再生もされるとなれば、不正のしようがない。

注意事項を周知した試験官の放送は、試験内容へと移った。

『二次試験の内容は、符呪だ。君達には、守護護符を作成してもらう』

符呪とは、陰陽道の呪文を書き付けた、霊符呪術のことである。

お寺や神社で出される御札や御守りの本家は、陰陽道なのだ。


仏教では、梵字や真言を入れて御札を作るが、そんな御札の起源は、『大随求陀羅尼経に、大随求菩薩の真言を書写して持っていれば、様々な利益がある』とされるところから来たと言われる。

神道では、神璽しんじなど簡単なものが多いが、明治以前の複雑なものは陰陽道の所産だ。

陰陽道で使われる急急如律令は、中国の漢代の公文書などに使われていたもので、これが修験道や密教と融合して、梵字を加えたり、神仏や絵、九字や星形を加えたりしたものとなっていった。

道教では、星辰信仰の影響で梵字や神仏の名は書かずに、円で星を表わし、線で形作ったものを使って、悪霊や災いを除く霊符を作る。

すなわち霊符は、仏教、神道、陰陽道、道教、修験道、密教のいずれであろうとも、修行した人間には作れる品だ。

逆に、霊符すら作れない人間など、陰陽師協会には不要である。


一樹の机には、予め陰陽師協会が用意した、生漉き和紙一〇枚、毛筆、朱墨が置かれていた。

『霊符は、朱墨で書いてもらう。試験時間は、三時間。その間に六枚を作成して、隣の会場に移動して実技を行う。その場で結果が数値化されて、夕方にはホームページで合否も発表される予定だ』

アナウンスを聞きながら、一樹は霊符の歴史を思い起こした。

かつて霊符は、しばしば朱で書かれていた。墨汁が朱ではなくとも、赤い紙に書かれることもあった。

古来では、朱は仙薬とされた水銀から取り出されたたんであった。

水銀を用いなくとも、朱粉や朱砂を『にかわ』という低品質のゼラチンで練り固めた朱色の墨はあって、それらは生き物を使うために気を含むとされていた。

朱で書いていたことには、明確な意味がある。

霊符を単なる墨で書くと、それらの効果が無いので効力が落ちる。

霊符作成には気・知識・技術の全てが求められ、大量生産できず、制作費が高くなり、一般人が軽々しくは持てない。

世の中には、単なるコピー用紙で作る男も存在するが、それには莫大な呪力を使っている。

────余った和紙と朱墨、分けてもらえないかな。

『それでは二次試験を開始する。はじめ』

一樹が阿呆なことを考えていると開始の合図が流れて、受験生達が一斉に筆を手にした。

一樹も筆を手に取り、朱墨に浸して、紙に呪言を書き連ねていく。

二次試験の受験日である八月一日は、陰陽道で八朔の日とされる。

朔日とは、月の最初の日であり、八朔の日であれば八月一日となる。

かつて陰陽師は、八朔の日には八朔札という御札を作り、禁中などに献上していた。

その習わしが、現代の陰陽師国家試験に受け継がれて、二次試験で御札を作る形になった。


────三時間で六枚の守護護符は、一般的には中々厳しいな。

一樹はスラスラと書き連ねながら、試験の厳しさに思いを馳せた。

最低限の道具は揃っており、日取りも良くて、受験生達は潔斎で身を清め、鎮宅霊府神への祈願や供え物もしてきたはずだ。

受験生達は、試験前に少なくとも数日は、準備期間を費やしている。

だが事前準備を行った上で、後は入魂するだけであっても、三時間で六枚の守護護符を作るのは難しい。

入魂には、気を移動させなければならず、心身への負担が大きいからだ。

────紙に入魂して効果を保たせるのは、普通に放つよりも難しい。

呪符に気を封じて、効果を長期間保たせるのは、普通に力を放つよりも遥かに高度な技術だ。

魂を注いで一枚を作るだけならば、全員がそれなりに出来る。

だが二枚となれば、二倍どころではない負担となって、精度も落ちる。

全力疾走を立て続けに行わされるようなもので、効果が下がらないことは有り得ない。

なお実技試験で使うのは三枚で、余った三枚は三次試験の試合に進んだ上位の一〇〇人だけが使用する。つまり国家試験だけであれば、二次試験を通れば済む。

そのため三次試験を諦めて、四枚から五枚に呪力を集中して、大して気を込めない『外れの札』が、二次試験で使われないことを祈る受験生もいる。

勿論一樹は、全てをきちんと作るつもりだが。


────取り敢えず五行のイメージで、五枚作るか。

一樹は一枚目の守護護符に、火行の守りを封じ込めた。

イメージしたのは火行で育てた八咫烏の朱雀で、灼熱の炎が如き気を注ぎ込んで、万難を押し返す力を籠める。

そして符に朱雀の姿を大雑把に書いて、一枚目を一〇分で書き上げた。

小鬼を振り回して遊ぶ若鳥だが、霊符に描く八咫烏には、特別な意味がある。

熊野の神の使いが八咫烏であることは、広く知られる。『鎮宅霊符縁起集説』(一七〇八年)によると、熊野の神は妙見菩薩であるとされる。

妙見菩薩は、七二種の護符を司る鎮宅霊符神と習合されている。

すなわち『八咫烏は、霊符神の使い』でもある。

霊符と八咫烏との関係は、熊野のほかにもある。日本の霊山である富士山は、陰陽道色が強い。富士山が誕生したとされる御縁年の庚申かのえさるの年は、陰陽道の庚申信仰から来ている。

そして富士山修験道における符呪『お身抜みぬき』や『おふせぎ』を集めた書は、『三足ノ烏の巻』や『烏ノ御巻』の名で残される。

一樹は陰陽道の神である牛頭ごず大王の牛王宝印を施しながら、八咫烏を霊符に描き込んでいく。

牛王宝印は二系統あって、文字を造形的に書くことと、神使である動物を組み合わせて社寺の名を形作ることだ。

後者は熊野大社の烏を使うと効果的だが、これがまさに八咫烏である。

受験生の一体どれだけが、入魂の意味と手順を正しく理解して、呪力を籠めているのか。

手順に沿って宝印を正しく施しながら作れば、霊符には呪術が篭もり、発動の際には特別な力を放つ。所詮は紙である霊符に籠められる呪力には限界があって、それを補うのが呪術だ。

これは霊符作成の試験であり、問われているのは呪力だけではない。

安倍晴明の師匠にして、二大宗家の一家である賀茂家は、呪術に長けている。

なぜなら二家で、陰陽道を世襲の技能としていた時代があるからだ。

ほかの陰陽家とは、積み重ねてきた歴史の長さがまるで違う。

さらに八咫烏達は、一樹が卵から孵して、気を送って直接育てた。ここまで条件を揃えられた受験生は、間違いなく一樹だけだ。

朱雀を育ててきたように符へ気を籠めた結果、一樹が作成した守護護符は淡く輝いていた。


────どれくらい強いのかは、ちょっと分からないな。

一樹には、受験生の中で最高の霊符を作った確信はある。

受験生どころか、現役の上級陰陽師であろうとも、莫大な陽気と神気を併せ持つ賀茂家の一樹を超える霊符など作れないだろう。

だが効果の程は、分からない。なぜなら一樹は、これまでの人生において一度たりとも、生漉きの和紙や朱墨を使用したことが無いからだ。

普段から鳩を描いているのは、作るための素材が悪いために、八咫烏の呪など籠められなくて、妥協しているのだ。

小分けの鳩は使い勝手が良くて慣れたが、試験で数枚を描くならば八咫烏だろう。

火行の護符を作った一樹は、次いで木行の青龍をイメージして符を作り、金行の白虎、水行の玄武、土行の黄竜と書き連ねていった。

元から鳩の式神符を書くので、梵字は書き慣れている。

鳩と八咫烏は同じ鳥なので、大雑把な絵も似ている。

さらに段々と書き慣れて、一枚の制作速度が早くなっていった結果、五枚の守護護符は、合計四〇分ほどで書き上がった。

一樹が育てている八咫烏は、五羽だ。

そして試験では、六枚の守護護符を作らなければならない。

五枚の守護護符には、育てている八咫烏五羽のイメージを注ぎ込んだ。

ここから残り一枚を作成するにあたって、一樹は同じ八咫烏を重複して描くことを躊躇った。

一羽だけ多く描けば、その八咫烏だけを差別して優遇している形になってしまう。それは非常によろしくない。

その様に考えた一樹は、最後に残った一枚に、意地悪そうな裁定者を描くことにした。

────あいつも一応は地蔵菩薩の一体だから、神仏に含まれるだろう。

一樹は裁定者に対して、良くない感情を持っている。

冤罪を掛けた件に関しては、二倍の気を得て手打ちとしたので、追及したりはしない。理不尽と思っていても、自分で手打ちとしたのは事実である。

だが、両親が貧乏で離婚するような家に輪廻転生させた件については、納得していなかった。

一樹が話した際「邪を祓って、魂の浄化を進めろ」と言っておきながら、活動に支障を来すレベルの非常に貧しい家に転生させるとは何事だと、恨み辛みを持っている。

一日の食事が給食だけだったことは何度もあったし、陰陽師の試験を受けに来ながら、今までの人生で朱墨を使った経験が一度も無いのも酷い話だ。

そんな裁定者であればこそ、ついでの一枚で適当に描いても心苦しくはならない。

強大な力を有するが冷酷。

一樹は六枚目の霊符に私的な感情を込めながら、最後の守護護符を作り終えた。


「終わりました」

毛筆を置いた一樹は、手を挙げて試験官の一人を呼び、作成終了を報告した。

「まだ時間は残っていますよ」

残っているどころか、三時間あるうちの一時間も使っていない。

念のために確認した試験官に対して、一樹は問題ないと言い返した。

「大丈夫です。完成していますので、次の実技試験をお願いします」

試験官は強ばった表情を浮かべると、カメラの前で中身が空の箱を差し出した。

「それでは、こちらの箱に守護護符を入れてください」

「はい、六枚入れます」

一樹は一枚ずつ順に式神符を入れると、箱を閉じて、封をした。そして二人は受験生や試験官の視線を浴びながら、実技会場へと移動していった。

その様子は、カメラの先に居る国民にも広く見られていた。

試験を実況している掲示板では、一樹の行動が取り上げられた。

◇◇◇◇◇◇

【生中継】陰陽師国家試験について語るスレpart881


1:名無しの陰陽師

・ここは陰陽師国家試験について語るスレです。

・中継映像は公式サイトから見てください。

・荒らし、煽りは徹底スルー。構うあなたも荒らしです。

・注意が必要なときは一人まで(専ブラ導入、NG登録推奨)

・次スレは>>900を踏んだ人がお願いします。

・テンプレは>>2-6あたり


前スレ 陰陽師国家試験について語るスレpart880

https://www.1ch.net/test/read.cgi/medium/11423454/

本スレ 陰陽師について語るスレpart6453

https://www.1ch.net/test/read.cgi/medium/11423945/


2:名無しの陰陽師

【陰陽師のランクまとめ】

A級陰陽師    八名 上の上

B級陰陽師   六四名 上の下

C級陰陽師  四〇〇名 中の上

D級陰陽師 一六〇〇名 中の下

E級陰陽師 三〇〇〇名 下の上

F級陰陽師 四九二八名 下の下

※人数は、陰陽師協会が掲げる大まかな目安。

※階級一つの差は、種族が異なるレベルで大きい。


3:名無しの陰陽師

【国際的な強さの目安】

S級=魔王、竜種

A級=大魔、サイクロプス、トロール、大天狗

B級=大鬼、オーガ、ミノタウロス

C級=中魔、マンティコア、グリフォン、天狗

D級=中鬼、リザードマン、タラスクス

E級=小魔、ホブゴブリン、オーク、小天狗

F級=小鬼、ゴブリン、コボルト

※強さは目安、特殊個体は階級が変わる。


4:名無しの陰陽師

【陰陽師に期待される役割】

A級陰陽師 上の上。切り札

B級陰陽師 上の下。各都道府県の現場統括者

C級陰陽師 中の上。実戦部隊長、中鬼調伏

D級陰陽師 中の下。リーダー格

E級陰陽師 下の上。一人前、小鬼調伏

F級陰陽師 下の下。呪符作成、清めの儀式

※現場に出ない偉い人は、引退した陰陽師達。


5:名無しの陰陽師

【よくある質問 その一】

Q1 どうして妖怪変化は人間を襲うの?

A1 奴等にとっては、人間の気が御馳走です。

Q2 現代兵器で倒せないの?

A2 実体が無い相手には、銃弾の物理が効きません。

Q3 どうして陰陽師は倒せるの?

A3 霊体に呪法を用いた気を当てると、効くからです。


6:名無しの陰陽師

【よくある質問 その二】

Q4 実体があれば、銃器で倒せるんだよね?

A4 妖怪も妖気で強化するので、銃でも危険です。

Q5 気で強化された妖怪だと、陰陽師も危なくない?

A5 陰陽師も気で強化したり、術を使ったりします。

Q6 どうやったら陰陽師になれるの?

A6 合格者のほぼ全員が、陰陽師に弟子入りしています。

Q7 おっさんだけど、陰陽師に成れますか?

A7 気の量次第です。死にかけた経験はありますか?

テンプレ以上


7:名無しの陰陽師

>>1-6乙彼


8:名無しの陰陽師

流石に試験期間中は、スレの消化が早いな


9:名無しの陰陽師

今日だけで6スレだ。二四時間チャット状態だな


10:名無しの陰陽師

試験を中継しているんだから、殆ど実況になるだろ


11:名無しの陰陽師

世界的に見れば、日本は平穏だよな

パリ周辺なんて、フランス軍とリザードマンの市街戦だし


12:名無しの陰陽師

市街戦するくらいなら、人間と妖怪で住み分けろよ


13:名無しの陰陽師

フランス軍=装甲車2万両、火砲八〇〇門+核弾頭五〇〇発

自衛隊=装甲車二七〇〇両、火砲三〇〇門

フランスには、フランスのやり方がある


14:名無しの陰陽師

D級は、急に難易度が上がるよな

だから中級になるんだろうけど


15:名無しの陰陽師

実際のところ、人間より強い小鬼ってどれくらい強いの?

ゴブリンを動物に例えるとどんな感じ?


16:名無しの陰陽師

海外情報だけど、F級のゴブリンで野生のチンパンジーくらいの握力

つまりゴブリンの群れは、チンパンジーの群れくらい

チンパンジーの握力は約三〇〇kgfで、成人男性の平均は五〇kgf

しかもゴブリンは武器を持っている

つまり俺達は、ゴブリンにすら絶対に勝てない


17:名無しの陰陽師

三日前に奥多摩で出た小鬼が、完全に忘れ去られた件について


18:名無しの陰陽師

巣穴に連れ去られなかっただけマシだと思う


19:名無しの陰陽師

鬼が妖気で強化するのは反則だよなぁ

そんな魔物に陰陽師をぶつけて勝てるの?


20:名無しの陰陽師

陰陽師も霊符呪術を使うから

逆に使えない人間は、陰陽師に成れない

二次試験は、それを作れるのかを確認する試験


21:名無しの陰陽師

>>17

都民ニキ、ちーっす

全ての日本人が東京に住んでいるわけじゃないからな?

お前ら、鳥取に中鬼三体が出たときは全く騒がなかっただろ

東京都で何か起きたときだけ騒ぐなよ


22:名無しの陰陽師

鳥取なんて砂丘しかないだろ

砂漠に中鬼が出たからって何だよ

砂でも掛けて、埋めておけば良いだろ


23:名無しの陰陽師

お前に頭皮が薄くなる呪いを掛けた


24:名無しの陰陽師

日本には陰陽師が多いから、多少は安心感がある


25:名無しの陰陽師

スレ乱立しすぎ

【超大型新人】今年の五鬼童を見守るスレpart3

【美少女】超大型新人な双子姉妹を語ろうpart2【投入】

【だが】陰陽師国家試験に現れた可愛い双子について【貧乳】

【陰陽師】双子の姉と妹はどちらが優秀なのか【国家試験】


26:名無しの陰陽師

試験が終わったら五鬼童の総合スレに移るだろ

だが中継動画を見たら、ガチの美少女だった


27:名無しの陰陽師

結果が出るまでは盛り上がるだろうな


28:名無しの陰陽師

(´・ω・)人(・ω・)ナカーマ


29:名無しの陰陽師

五鬼童は宣伝なんていらないのにね


30:名無しの陰陽師

A級 五鬼童義一郎(当主)

B級 春日弥生(当主の姉)、五鬼童義輔(当主の弟)

春日一義(当主の甥)、春日結月(当主の姪)

五鬼童義経(当主の長男)、五鬼童義友(当主の次男)

五鬼童風花(当主の長女)

新人 五鬼童沙羅・紫苑(当主の姪・双子)←今ここ

今後 五鬼童凪紗(当主の姪・天賦の才という噂)


31:名無しの陰陽師

最速で受験して首席でD級合格

それから直ぐに推薦でC級昇格

直系は二〇歳までには、B級昇格

本家の当主であれば、A級昇格

なお試験の時点で、C級の実力はある模様


32:名無しの陰陽師

ほかの分家も実力者揃いというか、そもそもの血統がヤバイ


33:名無しの陰陽師

今年の首席と次席の最有力候補だよな

というか殆ど確定事項だけど


34:名無しの陰陽師

おい、中継を見ろ

五七分で霊符呪術の作成を終えた奴が居るぞ!


35:名無しの陰陽師

流石に、早すぎじゃね?

まだ三分の一の時間も経ってないぞ


36:名無しの陰陽師

試験は三時間以内で六枚

合否は三枚の耐久圧力と耐久時間の合計

作成速度を上げることに意味は殆ど無い


37:名無しの陰陽師

同じ成績のときは、早く提出したほうが順位は上

でもメリットは、それだけしかない

作った霊符は三次試験でも使うから、手抜きは危ないぞ


38:名無しの陰陽師

常識的に考えて、二時間以上も早く切り上げる奴は居ない

早く作る意味が皆無に近い

むしろ早く作ると悪い結果になる


39:名無しの陰陽師

単に目立ちたいだけの奴なんだろ

これは確実に目立っている……悪い意味でな


40:名無しの陰陽師

でも二次試験に進んでいるから

足切りされない呪力があるか

中級以上の陰陽師の弟子だぞ


38:名無しの陰陽師

あ、双子ちゃんの顔がこわばった

◇◇◇◇◇◇

「嘘だろ、早過ぎないか」

試験会場に入った一樹は、当然ながら注目を浴びた。

本来であれば時間が足りないはずの試験が、僅か三分の一未満で終えられたのだ。

会場に居る試験官達が一斉に注目して、続々と周囲に集まって来る。そして一樹は、会場に用意されていた実技試験用の機械五〇台のうち、わざわざ中央にある一台まで案内された。

実技試験用の機械は、五〇トンの圧力を掛けられる油圧プレス機だ。

案内した試験官は、守護護符を入れた箱を台の上に置くと、一樹に指示を出した。

「それでは開封してください」

指示された一樹は、箱から六枚の守護護符を取り出して、テープで印を付けられているテーブルの上に並べておいた。

するとプレス機の前に居た二人の実技試験官のうち若手側が、三回サイコロを振って、一、四、六の数字を出した。


────サイコロが六までだから、六枚を作らせたのかな。

一樹が適当に予想する中、機械の前に居た実技試験官によって、一枚目の朱雀、四枚目の玄武、六枚目の閻魔大王をイメージした三枚の守護護符が選び取られた。

「残る三枚を箱に入れて、サインした紙を貼って、封をしてください」

一樹は選ばれなかった三枚を箱に入れると、テーブルに置かれていた封印の紙に名前を書き、それを箱と蓋の間に二枚貼って封印した。

「それでは実技試験を開始する」

案内した試験官に代わり、プレス機の前に立つ若手側の実技試験官が、試験の説明を始めた。

実技試験の内容は、作成した守護護符の効果を確かめるものだ。

試験には、守護護符とプレス機、そして鰹節を使う。

鰹節とは、言わずと知れた海を泳ぐカツオを食品に加工したものだ。

カツオを蒸して干し固め、黴付けと、日干しを繰り返してカチカチに固めて作る。


────一〇〇〇円もしないだろうけど、勿体ない。

一樹が二時間も早く来たからか、それとも手順を確認するためか。

三名の実技試験官のみならず、会場に居る一〇〇名の実技試験官、その他のスタッフも集まり、一樹の試験を見守り始めた。

大勢の人達と、複数台のライブカメラが見守る中、若手側の実技試験官は鰹節を三本取り出して、その先端を削り取ると、三枚の守護護符に封入した。

もう一人いる年配の実技試験官は、若手側試験官の監督を行っている。

実施者が年配側で、監督役が若手側であれば、実施者が何かしらの不正を行っても、若手側は口を出せないかも知れない。実施者を若手、監督者を年配にした協会の差配に、一樹は納得した。

今年一人目の実技試験だからか、試験官はカメラに向かい、試験内容を口頭で説明した。

「守護護符は、持ち主が受ける衝撃を代わりに引き受けてくれる。これより鰹節に圧力を加え、耐えられる最大圧力で、何秒保つのかを試験する。耐えられた圧力と時間が、受験者の成績となる」

陰陽道では、大祓おおはらえで川に流す人形は、流した者の一部として扱われる。

人形に罪や穢れを背負わせて流し、罪や穢れを流している。

かの有名な『丑三つ時に五寸釘で人形を打つ呪い』も、呪いを掛けたい相手の髪などを入れた藁人形に、相手の魂を籠めて呪っている。

守護護符は、それらと同じ理論で所有者を守ってくれる。

予め、自身の身体の一部である髪や爪などを守護護符に入れておき、本体が衝撃を受けると、代わりに衝撃を引き受けてくれるのだ。

試験に使う鰹節は、生き物のカツオであり、守護護符で守れる。所詮は魚一匹であり、加工済みの鰹節は生き物ではなく食べ物なので、残酷だという考えにもならない。

なお試験で使われた鰹節は、世間からの勿体ないという批判対策で、食品用のポリ袋に入れて受験生に渡される。

受験生は持ち帰って食べても良いし、邪魔なら捨てても良い。ようするに、陰陽師協会から受験生個人への責任転嫁である。


「それでは、一回目の圧力を掛ける」

先端が欠けた鰹節が、五〇トンの油圧式プレス機の上に乗せられて、プレス用の金属板が降りてきて、圧力が加わり始めた。

一トンが一〇〇〇キログラムで、体重五八キログラムの人間一七人分。

そして五〇トンは、体重六トンのアフリカ象八頭分となる。

まずは三〇〇キログラムの圧力から始められたが、鰹節は小揺るぎもせず、鰹節の先端を封入された守護護符も、まるで変化する様子が無かった。

一〇秒後、圧力が六〇〇キログラムに変わり、その様子がデジタルで表示される。

さらに一〇秒後には一トンに変わり、それから一〇秒後には三トンに変わり、一〇秒刻みで六トン、九トン、一二トンと上がっていく。

守護護符は、淡く輝き始めて、その光が次第に強くなっていった。

そして守護護符の気に守られた鰹節は、完全に圧力に耐えていた。


「凄い、一体どうなっているんだ」

「一枚だけで、もう例年の合格者のトップクラスだぞ」

周囲を取り巻く試験官達が、驚きの声を上げた。

未だ試験中ではあるが、試験官達が声を上げても、既に提出済みの守護護符の効果には影響を及ぼさない。

例年の合格ラインの目安は、三〇〇キログラムの圧力に三枚で合計三〇秒を耐えることだ。F級の小鬼がその程度の力であるため、最低限それくらいは耐えなければならない。

上位の一〇〇人に入りたければ、六〇〇キログラムの圧力に三枚で三〇秒以上を耐える必要がある。そんな合格ラインに対して、一樹は既に耐えられる圧力が遥かに突き抜けていた。

守護護符の試験は受験生同士の相対値ではなく、どれだけの圧力に何秒耐えたかの絶対値だ。

この後に実技試験を行う全員が、一樹より良い成績を出しても、一樹の合格は確定している。

カメラで中継されていることを想起した一樹が、平然とすました表情を作る中、担当している実技試験官が一樹に尋ねた。

「何トンまで耐えられるのか」

守護護符を立派な素材で作った経験が無い一樹は、答えを知る由もない。

だが今後の客引きのためには、インパクトが大きいほうが良いだろうと考えた。

「測定限界の五〇トンでやってみてください」

「よし、五〇トンだ」

ゴクリと、生唾を呑み込む音が聞こえてきそうな程に静まり返った会場で、プレス機が圧力を掛ける音だけが聞こえてきた。

おそらく会場の外側、インターネット上では、実況掲示板などで盛り上がっているだろう。

動画の切り抜きは禁止されているが、勝手にアップロードする人間は居る。

そちらに宣伝効果を期待した一樹は、デジタル表示されている圧力計の数値が次第に上がって行くのを見守った。


「…………五〇トン」

表示されている圧力は、五〇トンにまで到達した。

守護護符は赤く輝きながら、未だに鰹節を守り続けている。機械に繋がって、デジタル表示されているカウントは、一〇秒、二〇秒と過ぎていった。

────頑張れ、頑張ったら森の小鬼を振り回して、遊んでも良いぞ。

内心でエールを送ったとき、一樹は朱雀をイメージして作った守護護符から、「マジで?」と、嬉しそうな反応が返された気がした。

そして守護護符の気が逸れた瞬間、プレス機が鰹節を押し潰した。

「……あっ」

鰹節はバキバキと割れて、潰れた木のような姿に成り果てていく。

赤い中身がさらけ出されて、かつて魚であったことも見て取れた。

「五〇トン、二三秒です」

守護護符に籠めた気は、無言で見詰める一樹から、フイッと目を逸らしたような反応を示した後、霧散して消えていった。


若手側の実技試験官は、計測結果を述べたきり押し黙った。

僅かな時間、会場で声を発する者は無く、広い空間が静まり返った。

「あと二枚、残っていますよ」

沈黙に耐えかねたのか、あるいは興味が湧いたのか、一樹に対応する二人の実技試験官とは別の試験官が声を掛けた。

すると、一樹の実技試験を担当する若手試験官が気を取り直して、次の守護護符を手に取った。

「次の守護護符を確認する。残りの護符も、五〇トンで行って良いのか?」

実技試験には、六枚作成したうちの三枚が使われる。

これは一枚だけ偏って強い符を作成して、それが選ばれることを運に任せるようなことをされないためだ。

三枚を試せば、残る三枚が全て手抜きであったとしても、少なくとも三時間で三枚は作れると分かる。下級陰陽師の合否であれば、それだけで充分だ。

「五〇トンで問題ありません」

一樹が頷くと、試験官は二枚目の式神符と鰹節をセットして、最初から五〇トンで圧力を掛け始めた。


実況掲示板では、なぜ一トンや三トンを飛ばすのかという意見も書き込まれていた。だが単位のトンを、キログラムに直して考えるようにと諭されていた。

五〇キログラムの物体を二三秒持てる人間に、一キログラムの物体を一〇秒持てるのかを試す意味はあるだろうか。

もちろん手抜きの守護護符を混ぜているのなら、話は異なる。だが二枚目の式神符は、一枚目よりも強いと一樹は自負していた。

二枚目の守護護符は、一樹が玄武をイメージして作っている。

五神の一柱として知られる玄武は、亀の体に蛇が巻き付いた姿だ。

玄武の強固さは、亀だから硬いのとは、本質が異なる。

中国の創世神話に出てくる人類を創造した女神の女媧じょかは、人の頭に蛇の身体という蛇身人首である。

女媧と、兄または夫とされる伏羲ふっきは、南陽漢代画像磚において、蛇の尾が玄武と絡み合って書かれている。蛇の身体であるため、立つために大亀の足を用いていた。

かつて往古のとき、天を支える四極(四本の大黒柱)が欠け、九州(中国の全国土)が裂けて、世界が業火と洪水に襲われた。猛獣と鷲鳥が人を啄み、末期的な状況へと至った。

女媧は、陰陽五行の『白、黒、赤、黄、青』である『五色の石』を練って天を補修し、大亀の足を断って四柱に代えて、天を支えた。業火の元凶である黒龍を殺し、芦灰を運んで洪水を止め、世界を救った。

すなわち玄武の足とは、天を支える四柱だ。

それを分かった上で、玄武を明確にイメージした一樹は、神力を守護護符に注ぎ込んでいる。

「計測を開始する」

五〇トンのプレス機が、畏れ多くも玄武の背中に圧力を掛けてきた。

『その背には、世界すらも乗る』

一樹は言葉には出さず、内心で念じた。

玄武を記して神気を籠めた守護護符は、その神気を玄武の由来や力に変換して放つ。世界を支える玄武が、たかだかアフリカ象八頭程度の圧力に押し潰されるはずもない。

一樹と試験官達、そしてライブ映像を映している人々が見守る中、プレス機に押された鰹節は、微動だにせず姿形を保ち続けた。

「……一〇秒……二〇秒」

一分が経過して、鰹節を介して玄武に圧力を掛け続けたプレス機は、ついには押し負けたように歪みが生じてしまった。

「二枚目の試験を終了する。五〇トン、一分以上だ」

立ち会っていた実技試験官によって、機械のほうが測定限界を超えたと判断された。

そして鰹節の姿は保たれたまま、二枚目の試験は終了となった。

「そんな、馬鹿な」

「五〇トンで小揺るぎもしないなんて、絶対に有り得ない」

「一体どうなっている。歴代最高だぞ」

周囲を取り囲んだ一〇〇名の試験官達は、各々が一樹が作った守護護符の異常性を理解して驚愕した。

制作時間一〇分で、このレベルの強大な守護護符を作れるのであれば、一万枚の作成を依頼して全ての陰陽師に持たせれば、殉職者が激減するだろう。

勿論、圧倒的に格上の妖怪が相手では、一分耐えるだけでは死んでしまう。

だがB級以下同士で、互角程度までの相手であれば、おそらく確実に勝てるようになる。

顧客を取り合うライバル同士でもあり、符を渡せば術式や気の籠め方を隅々まで調べられるため、売ってくれと言われて売れるはずもない。

それでも欲しいと思った試験官達は、大多数に及んだ。そう思わなかった試験官達は、試験結果に半信半疑だった者達だけだ。

「機械のほうが壊れていたのかも知れない。機械自体を変えて、三枚目を測定すべきだ」

ついには周囲の試験官達から、物言いが入った。

一樹を担当する年輩の実技試験官は、物言いを行った別の試験官に厳しい表情を向けた後、一樹に質した。

「実技試験官の役務にて問う。一枚目と二枚目では、なぜ差が出たのか」

問われた一樹は、「一枚目の朱雀が、小鬼で遊ぶことに気を取られたからです」とは、答えなかった。説明が長くてややこしくなるし、一樹の評価を上げることにも繋がらない。

一瞬迷った一樹は、しれっと相手が誤解する言葉を吐いた。

「符に刻む呪を変えました。録画のカメラでも確認出来ると思います」

それが二三秒で一枚目が破れた原因ではないが、差が出たのは事実である。もっとも一樹は、相手を意図的に錯誤に陥らせているが。

「なぜ作る内容を変えたのか」

「様々な効果の符を作れるほうが、汎用性が高いと思いました。詳細につきましては、一子相伝です」

一子相伝とは、自分の子供の一人だけに全ての奥義を伝えることだ。

各陰陽師には家の秘術があり、それを他家が詳らかにしろとは言えないので、追及できないだろうと一樹は考えた。

なお一樹の父親が教えたのは一般的な知識であって、一子相伝でも何でもない。

一子相伝を始めるのは、一樹の代からということになる。

もしも追及があれば、そう言い張れば、とりあえず嘘ではない。

「よろしい。機械を変えて、三枚目の符を試す」

年配の試験官が指示すると、若手試験官が残った一枚の護符と鰹節を手にして、一樹を促しながら隣の機械へと移動した。

周囲の試験官達もゾロゾロと移動を開始して、隣にあったプレス機をぐるりと囲んでいく。

「それでは三枚目の試験を行う。五〇トンで良いのだな?」

「はい、大丈夫です」

若手試験官は生唾を呑み込むと、プレス機を操作して鰹節への圧力を掛け始めた。

一樹は、閻魔大王をイメージして作った符にエールを送る。


────よし、お前は適当に潰れろ。

極めて私的な感情から、一樹は三枚目の守護護符にぞんざいな扱いをした。

一枚目と同程度ほど保ってから潰れてくれれば、一樹としては充分だった。

玄武の符が守護に効果的であったならば、「亀の玄武は、守りの効果が高いのでしょう」などと、一般に分かり易く説明すれば済む。

そして閻魔大王を書いた護符の効果が薄ければ、「まあ、大した神ではないのでしょう」などと言って終わりだ。

一樹が冷然と、そして周囲が戦々恐々と見守る中、プレス機が三本目の鰹節に触れた。

刹那、守護護符に「対象を守れ」と籠めた閻魔大王の神気が、陰陽五行の火行へと流転した。神気は、瞬く間に煉獄の炎と化して膨れ上がり、五メートルほどの塊となって試験会場に顕現した。

「うわああああああぁっ!?

円となって取り囲んだ周囲の試験官達が、一斉に後退って離れた。

他方、守護護符から顕現した神気は、全長五メートルほどの閻魔大王の姿を模していた。

その神気が、鰹節に圧力を掛けるプレス機に向かって、ゆっくりと歩み寄っていく。

一樹が声を掛ける間もなく、閻魔大王を模した神気がプレス機のパンチ部分と土台を両手で掴んで、引き離すように上下へと力を込めた。

すると「ズガン」と、重くて鈍い音が、会場に響き渡った。

すぐに何かが噛み合わなくなった軽い音が続き、プレス機が空回りを始める。

閻魔大王を模した神気は、プレス機に乗せられた鰹節を優しく摘まんだ。鰹節を大切そうに取り出すと、守護護符の元へと運び、静かに添えるように置く。

閻魔大王を模した神気は、鰹節を乗せた若手の実技試験官を向いて険しい表情で一睨みし、右脚を振り上げて、勢い良く振り下ろした。

「ぐうっ」

怒りを乗せた神気が会場に吹き荒れ、気圧された若手試験官と、背後に居た一〇名前後の試験官が一斉に仰け反った。

放たれた神気は消えずに、一〇〇名の試験官達の間を吹き抜けて、広い会場を走り抜けていく。

恐ろしい形相で試験官を睨め付けた神気は、次いで一樹に向き直った。

「守護護符よ。汝は、護るべき対象を護りきった。疾く失せよ」

術者の一樹は、すかさず神気に命じた。

すると神気は頷いて、役目は果たしたとばかりに堂々と霧散して、消え失せていった。


一樹を批評していた試験官達は、誰もが言葉を失って、沈黙していた。

────威圧されて、震え上がっているな。

神気が顕現したのは、一樹にとっても予想外だった。

一樹自身が改めて考えれば、閻魔大王本人の神気を籠めたために、神気が閻魔大王の姿を現したのだと説明が付く。

だが試験官にとっては、現状は全くの意味不明だ。

神々しくも恐ろしい何かが現れて、どうすれば良いか分からずに、ひたすら畏れを抱いている。


そんな試験官達の姿に、一樹は「受験生の自分から何かを言わないといけないのだろうか」と、役割を訝しんだ。だがおかしな護符を作ったと誤解されて、試験を失格にされては堪らない。

受験生の一樹は、自ら説明を始めた。

「私は、色々な守護護符を作れます。一枚目は、汎用性の高い符。二枚目は、護りに特化した符。そして三枚目は、地蔵菩薩の化身たる閻魔大王であり、神仏です。試験に立ち会いいただき、ありがとうございました」

相手に反撃する呪いの符ではなく、あくまで神仏を描いた守護護符だと言い張った一樹は、一礼して見せた。そして三枚目の符が壊したプレス機を見ながら考える。

────コレは、もしかして俺が弁償するのか?

下手をすると、借金が増えてしまう。

一樹は蒼依への弁明に頭を抱えながら、実技試験を終了した。

中継を見守る国民、そして実況掲示板は、大変な騒ぎになっていった。

◇◇◇◇◇◇

【生中継】陰陽師国家試験について語るスレpart886


934:名無しの陰陽師

【二次試験 霊符作成】

一位 賀茂  一樹  五〇トン ※測定不能

二位 五鬼童 沙羅  一八トン 四一秒

三位 五鬼童 紫苑  一二トン 三二秒

四位 不破  惣司   六トン 四五秒

五位 橋波  龍志郞  三トン 四八秒

※測定不能=二三秒 +上限時間(機械故障) +機械破壊


935:名無しの陰陽師

Д)ポカーン


936:名無しの陰陽師

Д)ポカーン


937:名無しの陰陽師

Д)……

(⊃Д⊂)ゴシゴシ

(:Д)……


938:名無しの陰陽師

すまん、基本的なことを聞きたいんだけど

五〇トンって、どれくらい凄いの?


939:名無しの陰陽師

A級常連の五鬼童家が負けるとか、マジでワケが分からない


940:名無しの陰陽師

二位から三位がいつもの五鬼童、四位から五位がいつもの陰陽大家で、

一位だけは、なんかバグっている感じ


941:名無しの陰陽師

バグっているのは、マジでそうだと思う

一人だけB級を超えているし


942:名無しの陰陽師

二番目と三番目で実技試験会場に来た双子ちゃん

一位の結果を見て唖然としていたな


943:名無しの陰陽師

俺らのほうが唖然としたわ

そして試験官は気絶したわ

試験官も陰陽師の関係者だろうに


944:名無しの陰陽師

一位の賀茂一樹は動画も投稿している

今年五月から投稿開始

八咫烏五羽を卵から育成している

https://www.YouTubo.com/watch?v=1580IObejio-vaspo


945:名無しの陰陽師

動画㌧クス

まあ何回も貼られているけどな


946:名無しの陰陽師

五〇トンの威力とか、全く想像が付かない


947:名無しの陰陽師

守護護符って、

攻撃に反撃したり、相手を脅したりするの?


948:名無しの陰陽師

守護護符が反撃するわけないだろアホ

と、昨日までの俺なら言っていたわ


949:名無しの陰陽師

>>946

巨大なイリエワニが噛む力が五〇〇キログラムくらい

だから一トンで一〇秒を耐えられれば

ワニに一〇秒くらい噛まれても全然大丈夫……多分


950:名無しの陰陽師

噛まれたまま、水中に引き込まれたら終わりだろ


951:名無しの陰陽師

ワニとD級のリザードマンを互角と考えたら

D級陰陽師には一トンで一〇秒耐えられる護符は必須


952:名無しの陰陽師

リザードマンがワニと互角な訳ないだろ

あいつらパワーがワニ並な上に

武器が使えて、集団戦も可能だぞ


953:名無しの陰陽師

しかもリザードマンは、水陸両用型で、

川からも平気で侵攻してくる凶悪さ


954:名無しの陰陽師

リザードマンがD級とか甘過ぎだよな

あいつらC級くらいの厄介さだろ


955:名無しの陰陽師

リザードマンの皮膚は、

鱗が板になった鱗板で防御力も半端ない


956:名無しの陰陽師

拳銃程度は、鱗板で簡単に弾かれるからな


957:名無しの陰陽師

でもC級って、マンティコアとかグリフォンだろ

そいつらはリザードマンなんて餌にするんだけど


958:名無しの陰陽師

ランク一つは一〇倍の人数差って言うからな


959:名無しの陰陽師

D級中位が一トンなら、C級中位は一〇トンなの?


960:名無しの陰陽師

全ての能力が一〇倍にはならない

攻撃力も、防御力も、敏捷性も一〇倍だと、

人数が一〇倍居ても勝てる訳無いじゃん


961:名無しの陰陽師

圧力が増えると、呪力の消費量も跳ね上がる

三トンに耐えられる護符を作れれば、C級相当の呪力があるらしい


962:名無しの陰陽師

C級が三トンとして、

それを超えている連中は、どうなっているの


963:名無しの陰陽師

五〇トンとか、マジでワケが分からない


964:名無しの陰陽師

霊符に籠められる呪力にも限界がある

一〇トン超えの護符は、普通の人間が作れるレベルじゃない

絶対に神とか鬼とか宿している


965:名無しの陰陽師

今年の一位って、賀茂姓でしょ

陰陽師で安倍と並ぶ二大宗家じゃん

子孫かは知らないけど、系譜なら人間だぞ

途中で妖の血と混ざったのかは知らない


966:名無しの陰陽師

賀茂の一族なら、納得だわ


967:名無しの陰陽師

賀茂って、先祖が安倍晴明の師匠でしょ

安倍より強くても驚かないぞ

陰陽師としての血統は、

一二を争うレベルだわ


968:名無しの陰陽師

別に直系とは限らないだろ

血は混ざっているかも知れないけどさ


969:名無しの陰陽師

生まれながらの超絶ハイパーエリートだったか

陰陽師って、血統ばっかりじゃないか

つまらん、成り上がりのA級は居ないのか


970:名無しの陰陽師

小鬼から竜が生まれないように

血統を無視して化け物は生まれないんだよ

呪力は遺伝要因が強いんだから仕方がない


971:名無しの陰陽師

俺等の役に立つなら良いじゃん

超期待の大型新人枠に入れておこう


972:名無しの陰陽師

あの守護護符を作ってくれるだけでも

期待値は満たしてくれる


973:名無しの陰陽師

八咫烏五羽を育てた動画を見たけど、

若鳥で五行の術を使っていたぞ

術のほかにも明らかな異常値


974:名無しの陰陽師

護符と同じくらいヤバいのか

そうだろうとは思ったけど


975:名無しの陰陽師

先祖返りで、安倍晴明の師匠レベルの強さなら、

それくらい出来るかもしれない

安倍晴明なら、もっと出来るだろうし


976:名無しの陰陽師

『八咫烏が小鬼を狩ってきた』って動画を見てみろ

猫がネズミを持ってくる感覚で

八咫烏が小鬼を運んでいるから

ちなみに、三番目まである


977:名無しの陰陽師

うわ……いらねぇ


978:名無しの陰陽師

その動画のコメント欄、

中鬼が混ざっていますよってツッコミがあって、

「いいね」が、付きまくっているぞ


979:名無しの陰陽師

>>978

ワロタw


980:名無しの陰陽師

最近生まれたばかりの式神で

リザードマンと同じD級を軽く狩るとか

賀茂一樹

人外リスト入りで


981:名無しの陰陽師

今回みたいな結果を見ていると、

受験資格と活動開始の年齢制限は、

取り払ったほうが良いと思うわ


982:名無しの陰陽師

どうして?


983:名無しの陰陽師

上位の五人は、一年前に試験を受けても合格しているだろ

それで活躍すれば、その分だけ妖怪の犠牲者が減るじゃん


984:名無しの陰陽師

確かに陰陽師に成れる人間は、最初から相応に高い呪力を持っているよな


985:名無しの陰陽師

最近卵から孵した式神で、中鬼すら狩る奴も居るしな


986:名無しの陰陽師

陰陽師の系譜か、天賦の才覚を持つか、

幼少時に死の淵を彷徨って呪力が上がるか、

妖怪変化に触れて才覚に目覚めている集団

一五歳でなくても妖怪くらい祓えるよな


987:名無しの陰陽師

陰陽師に成る人間は、一五歳未満でも妖怪変化を祓える

逆に祓えない人間は、二〇歳になったところで祓えない

一五歳で区切る意味は無い


988:名無しの陰陽師

だったら、どうして一五歳以上なの?


989:名無しの陰陽師

労働基準法で、一五歳未満の就労が禁止されているからじゃない?


990:名無しの陰陽師

そろそろ次スレ移動だな……埋め


991:名無しの陰陽師

芸能人の子役は、働いても良いんだよな

公益性は明らかに妖怪退治のほうが高いけど


992:名無しの陰陽師

危険か否かが判断材料になるんじゃない?


993:名無しの陰陽師

一五歳で確実にC級以上の五鬼童が

D級のリザードマンに負ける姿は全く想像できない


994:名無しの陰陽師

いや、五鬼童以外もいるからリスクはある

ただし、今回の首席君は除く


995:名無しの陰陽師

一五歳未満の問題は、ちゃんと抜け道もあるぞ

陰陽師の弟子なら労働契約にならない

得られる賃金は、お察しだけど


996:名無しの陰陽師

親の仕事を手伝う場合もセーフだな

労働基準法の第一一六条第二項に定められる範囲だ

そちらも対価はお察しだが


997:名無しの陰陽師

単独で依頼を受けたければ一五歳以上だけどな


998:名無しの陰陽師

守護護符、売ってくれないかなぁ

絶対に高くて買えないだろうけどさ


999:名無しの陰陽師

守護護符は間違いなく非売品

あれは奉納されるレベル


1000:名無しの陰陽師

俺、1000を取ったら、

可愛い狐っ子に告白するんだ


1001:1001

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