
「ここは、一体なんなんだ?」
タウラの声が、がらんとした室内に響く。タウラはいま、リリー殿下の助言をもとに呪術師を追っていた。そうして訪れたのは、ルストたちの住まうカルザート王国の東の国境付近。
そこに無数に存在する、古い遺跡の一つだった。ここにたどり着くまでに、すでにいくつもの遺跡を訪れていたタウラ。
「──もしかしてついに、見つけたのか?」
度重なる空振りを経て、期待半分、慎重さ半分の彼女の目の前に広がる光景。
それは彼女の育ったアレイスラ教会の聖堂を思い起こさせる、
しかし、細部が異なっている。それも、悪い方向で。
「いたましい……な……」
アレイスラ教会の聖堂であれば女神アレイスラの神像が置かれているはずの場所。そこには、白骨が置かれていた。
それも、何かのオブジェのように組み上げられている。大量の白骨は、幾人もの人間の
あまりにも無造作だ。そこには悪意すらなく、ただの物体として扱われていたことが伝わってくる。
「生きている人の気配も、生き物の気配もない、か」
剣を構え、慎重にそちらへと近づいていくタウラ。
「ここはすでに廃棄された施設、のようだな。ん? ここに、何かある」
白骨のオブジェの根元部分。タウラは、周囲への警戒を維持したまま
「何かの卵の殻? まるで、ここで何かが生まれたようだ……。ルストなら、これを見ただけで、たちどころに全て、推察してしまうんだろうな」
殻を眺めながら、眉を寄せるタウラ。
「持ち帰って……いや、いかんな。ルストに頼りすぎだ。ただでさえ負担をかけているというのに。それに呪術師に関わるものなら、何か
まるでそのタウラの
次の瞬間。屈み込んだタウラへと、太く長い白骨が振り下ろされたように落ちてくる。タウラは横へと転がるようにそれを
石の床に打ちつけられた白骨。
タウラの代わりに、そこにあった卵の殻とおぼしきものが粉々になり、振り下ろされた風圧で吹き散ってしまう。
「やはり、かっ! くっ。手がかりかと期待させて、それを粉砕か。この意地の悪さは間違いなく呪術師のやり口だ!」
タウラの視線の先で、石の床へと振り下ろされた長い一本の骨が、宙を舞う。人の
「骨製のリビングソードといったところか? これまた悪趣味な」
宙を舞い、横方向に回転しながらタウラへと迫る大腿骨。
タウラはそれを剣の腹でいなすようにして、
くるくると回転しながらブーメランのように再びタウラへと大腿骨が迫る。
「ふっ。見切った」
一歩、そしてもう一歩。大腿骨に向かって踏み出すタウラ。大腿骨の横回転のタイミングが、ずれる。
タウラの剣の間合いでちょうど、回転途中の大腿骨が真横を向いた形になった瞬間。
目にも止まらぬ剣速で振り抜かれたタウラの剣が大腿骨の芯をとらえ、
しかしそこでタウラの剣は終わらない。
アレイスラ教会の神官騎士として三本の指に入る実力者の本領発揮とばかりに、宙に浮いたままの大腿骨を細切れに刻んでいく。
無数の
大腿骨は、黒く変色すると、ボロボロと粉となって崩れていく。
「──また、探し直しか」
剣を
しかし手がかりもなく、どことなく意気消沈した様子。
いつもよりうつむき気味だ。
そのうつむいたタウラの視線の先で、何かが動く。
「むっ」
納めたばかりの腰の剣に手を伸ばすタウラ。
「床に落ちた大腿骨だった黒い粉が、動いている?」
粉に直接触れないように、そっと剣先ですくい取るタウラ。
それを少し離れたところで再び床へと落とす。すると、粉の一部が、まるで磁石に近づく砂鉄のような動きを見せる。
「粉で、床に線が出来ている……この線、先ほどの卵の殻の場所から延びて……」
タウラは、触れないように気をつけながらも、床に散った粉を一心に集めはじめる。
新たな手がかりを見つけたタウラの瞳に宿る光。それは、めらめらと燃え立つ炎のような熱っぽさをたたえていた。