番外 旅の合間の恋模様


「ハァ……ハァ……ふぅ」

 ドラグバーンを倒し、エルフの里を旅立ってから一週間。

 次の目的地へ向かう道中にあった川のそばで、大剣を持った一人の剣士が疲れた様子で座り込んでいた。

 ブレイドである。

「お疲れ様です、ブレイド様」

「ああ」

 心配そうな顔で飲み物を差し出したリンに言葉少なに対応し、受け取った水をグビグビと飲み始めるブレイド。

 リンの懸念が当たってるのか、この一週間、確かにブレイドは何かにかされるように剣を振り続けていた。

 馬車が止まれば必ず外に出て素振りを始め、体が温まってきたら俺やステラに挑んでくる。

 ボコボコにされてもやめず、くじけず、諦めず、何度も立ち上がって疲れ果てるまで戦い続ける。

 ちょっと前までとは比べものにならない熱心さだ。

 エルフの里への道中じゃ急いでたから修行より移動を優先していたとはいえ、早急に覚える必要のあった連携以外の修行はほとんどせずに楽観的な顔してた奴が、変われば変わるものである。

 ……正直、俺には良い変化にしか見えない。

 雰囲気からしてちょっと真面目になったブレイドは、一週間やそこらしかっていないというのに、目に見える速度で強くなっている。

 うらやましくなるような才能、というよりは単純にサボって鈍ってた分の感覚が戻ってきてるだけだろう。

 元々、ブレイドにはこれくらいできるだけのポテンシャルがあったということだ。

 無い力を身につけるより、あった力を取り戻す方が早いに決まってる。

 俺だって前の世界で最強殺しの剣を習得するのに数十年をかけたが、今の世界でそれを取り戻すのには十年もかかってないからな。

 まあ、ブレイドの場合は無い力も普通に追加されていっているように見えるんだが……。

 そこらへんは、さすがルベルトさんの後継者ってところか。

「やっぱり、俺には順調にしか見えないんだが……」

「いや、どこがよ!」

 俺の率直な感想に即座に反論してきたのはステラだ。

 デリケートな話題だと思ってるのか、口調の強さに反して小声である。

「あんたにはブレイドの眉間に刻まれたしわが見えないの? しかも、あれだけお気楽だった奴があんな物静かになって……どう見ても精神的に思い詰めてる感じじゃない!」

「いや、おおだろ」

 確かに眉間に皺はあるし、思い詰めてる感じなのも否定しないが、むしろ適度に追い込まれるのは成長のけつだ。

 人間、何かに追い立てられてた方が全力で走れる。

 俺がここまでの力を得られたのも、前の世界でふくしゅうしんと自責の念に追い立てられたおかげだからな。

 さすがにそれは破滅と隣り合わせの極端なパターンだろうが、ブレイドは前の世界の俺に比べれば全然安定している。

 大丈夫だろ。

「うーむ……。アー坊はブレ坊との付き合いが短いからわかりづらいかもしれんが、あれは割と無視できぬ変化じゃぞ」

「そうなのか?」

「少なくとも、ワシはブレ坊のあんな姿を見たことがない。前例がないのであれば楽観はできん」

 そういうもんかねぇ。

 俺としてはステラの入浴ののぞきを画策するような腐った性根が多少なり矯正されたように見える今のブレイドの方がよほど好ましいんだがな。

「どうしましょう、エルネスタさん……」

「そうじゃのう。とりあえず、息抜きの一つでもさせられれば少しは改善すると思うんじゃが」

 その後、二人はああでもないこうでもないと意見を出し合い続けていた。


 後日。

 旅は順調に進み、俺達は道中の街に立ち寄った。

 規模としてはリンの故郷よりは大きいってくらいの中規模の街だ。

 あそこと違って街の近くに迷宮があるわけではないが、魔王軍との戦いの最前線が近いとは言えないまでも決して遠いとも言えない距離にあるせいで冒険者が多い。

 彼らはきっと、最前線から逃れてきた魔物を狩って飯の種にしてるんだろう。

 そこそこ良い装備をしてる戦闘職が多いおかげで、俺達が紛れ込んでも目立たない。

 ちなみに、旅先でやみたらに勇者パーティーという肩書を名乗るつもりはない。

 変に注目されても良いことはないからな。

「アランくん、アランくん」

「ん?」

 街で宿を見つけて早々、コソコソとした様子のリンに手招きされた。

 リンの隣にはエルばあの姿もあるが、他の二人には声をかけていない。

 それどころか、その二人の目を忍ぶような雰囲気だ。

 ……何やら内密の話っぽいな。

「どうした?」

「ブレイド様の件についてです」

「あやつをく息抜きさせる方法をようやく思いついてのう」

 ほう。

 まあ、良いことだとは思う。

 俺としてはそこまで問題視していないが、他の三人(特にリン)はブレイドを気にかけすぎて若干調子が狂ってたからな。

 そこが少しでも改善するなら、俺としても喜ばしいことだ。

「だが、なんでこんなコソコソしてるんだ?」

「サプライズ的な感じでやりたいんですよ。あと、アランくんの協力が必要なんです」

「俺の?」

 ステラのじゃなくてか?

「うむ。今回の作戦はワシとリンの二人でやることに意味があるのじゃ。故に、アー坊には適当な理由をつけてステラを連れ出してほしい。できるか?」

「別にそれくらい構わないが、なんでステラがいたらダメなんだ?」

「ブレイド様はステラさんにもボッコボコにされてますからね」

 ああ、なるほど。

 納得した。

 そりゃ強さ関係で思い悩んでる奴が、普段自分をボッコボコにしてる奴の前でリラックスはできないわな。

 俺だって前の世界でステラに一度も勝てなかった頃は、それなりに複雑な感情を抱えていた。

 それでもよく一緒のベッドで寝たりしてたが、それは俺達が家族同然のおさなじみだからだ。

「しかし、それをバカ正直にステラに告げて、一人だけのけ者にするというのも少々心苦しい。そこで、ステラはアー坊が適当に遊びにでも連れ出してほしいのじゃ。その間にワシらは作戦を遂行する」

「わかった。そういうことなら協力しよう」

 別にステラはその程度で傷ついたりはしないと思うが、この二人の善意をあえて無視する必要もない。

 個人的には遊びに行く時間を修行に当てたい、というより当てなくてはらならないと思ってるんだが、今の俺はソロではなくパーティーの一員だ。

 修行を選んで俺一人がほんの少し強くなるより、遊びに行くことを選んでパーティーの絆が深まる方が、連携の質も上がってはるかに強くなれる。

 ソロとパーティーでは強化方法も強さを維持する方法もまるで違うのだから。

 もちろん、いつもいつも遊びに行って堕落したら本末転倒だから、そう何度もできることじゃないけどな。

 しかし、今回に限ってはやるべきタイミングだろう。

 その日は必要物資の買い出しがあったので、作戦決行は明日ということになった。


                 


「ふう。上手くだませましたね」

「リンよ、騙したとは人聞きが悪いぞ。ワシらは何も嘘は言っておらんのじゃからのう」

「ふふ。そうですね。嘘は言ってないから何も問題ありませんよね」

「その通りじゃ。では、ワシはステラの方の仕込みをしてくる。お主もブレ坊の説得をしくじるでないぞ」

「了解!」


                 


 翌日。

 俺は予定通りステラの泊まってる部屋の前にまでやってきた。

「ステラ、いるか?」

「い、いるわよ!」

 ノックしてそう問いかければ、か少し上ずったような声の返事が聞こえた後、鍵を開ける音がして扉が開いた。

 そこには当然ステラがいるわけだが……なんだろうか。何かが変だ。

 格好はいつも通りだし、何かやらかした時のようにキョドってるわけでもない。

 だが、若干緊張してるのか? そんな風に見える。

 俺とこいつの仲で何故に今さら緊張を……。

 キスした時の夢でも見たか?

 って、しまった、この思い出は俺にとってもクリティカルだ!

 落ち着け!

 作戦実行を最優先に考えて冷静になれ!

「その、だな。お前最近、ブレイドの件で少し気疲れしてただろ。だから気晴らしにどこか遊びに行かないか?」

「! い、いいけど、一番疲れてそうなリンとかは誘わなくていいの?」

 ぬ、痛いところを突かれた。

 どう誤魔化すか……。

「……二人の方が気兼ねしなくていいだろ」

「ッ! そ、そうよね! わかった! 行く! 行きましょう!」

 どうやら上手くいったようだ。

 ステラは何故かやはり少しギクシャクしてるが、それでも別に嫌そうな顔をしてるとかは一切なく、むしろ、かなりうれしそうな様子で宿の出口に小走りで向かっていった。

 そういう顔をしてくれるなら、俺としてもあいつらの言うことに従ったがあるというものだ。

 自然とほおが緩むのを感じ、しかし今後の戦いに支障が出るほど緩むわけにはいかないと己を律しながら、俺はステラの後を追いかけた。

(はうぅ……! 今の短いやり取りの声を聞いただけでも尊い……。ステラさん可愛かわいいです。アランくんも可愛いです)

(まったくじゃのう。テンパったのかデート用の服に着替えるのを忘れたのは大幅減点じゃが、それはそれで初々しくて悪くない。これはこの先も期待できそうじゃ。ほれ、リン、ブレ坊! ワシらも急いで後を追うぞ!)

(了解です!)

(何やってんだろうなぁ、俺……)


 街に繰り出した俺とステラは、どこを目指すでもなく二人並んで歩いた。

 話のネタには困らない。

 一時期離れてたとはいえ、十年も一緒にいてけん別れしたわけでも疎遠になったわけでもないんだから、意識せずとも会話は途切れることなく続いていく。

 その上、ここは初めて訪れた街だ。

 旅慣れしておらず、ちゃんと見たことのある都市が王都とエルフの里と故郷の近くにあった街くらいしかないステラは色んなものに興味を示し、なおのこと話題が尽きることはなかった。

「ねぇねぇ、アラン! あのおっきいのは何!」

「建設用の魔道具だな。素材と魔力を込めると強化レンガを吐き出してくれる、大工と城壁の頼れる味方だ」

「へー、あれがそうなのね! 王都にもあるって聞いてたけど初めて見たわ! じゃあ、あっちのずんぐりむっくりした変な格好の人達は?」

「何かの魔物への特化装備を着けた冒険者か兵士だろうな。多分、エルフの里につながってる森の中にやたらと繁殖してたあの蛇対策だ。あれだけよろいが分厚ければ毒牙は通らない」

「なるほど! じゃあ、パンツ一枚でずんぐりむっくり集団についていってるあの人は?」

「知らん。いや、本当に知らん。なんだあれ」

 ステラの質問に対して、まがりなりにも前の世界を含めれば長いこと旅をしてきた経験から答える。

 わからないものもあったし、一部自分の常識が壊れるような光景もあったから、まだまだ俺の見識も浅いのだろう。

 それでもステラは楽しそうだった。

 やがて、俺はもう何度も見た見覚えのありまくる建物を見つけた。

「冒険者ギルドか。冒険者っぽいのが多かった時点でわかってたが、本当に街と名のつく場所にならどこにでもあるな」

「冒険者ギルド!」

 ステラがより一層興奮し始めた。

「そっか! あれが冒険者ギルドなのね! すごい! 初めて見た!」

「初めて?」

 意外というか、なんというか。

 冒険者ギルドというものは本当にどこにでもあるからな。

 確か、大本はリンが所属してコキ使われてた聖神教会だったか。

 魔族と戦える人材を増やすべく、憧れに釣られてきた若者や職にあぶれた者なんかが簡単になれて食っていける職業として冒険者というものを作り──さすがに素人をそのまま戦わせたら無駄死にするだけなので、できるだけ教会による指導や支援をして人類の戦力を水増ししている組織。

 それが冒険者ギルドだったはず。

 前の世界で毎日のようにをして教会のお世話になりまくってた頃に聞いた。

 その性質上、できる限り多くの戦力が欲しいって理由で、冒険者ギルドは世界中に点在している。

 なんなら、怨霊丸を買った故郷に一番近い街にもあった。

 俺が冒険者登録したのもそこだ。

 それくらい冒険者ギルドはありふれていて、街に行ったことがある人間なら誰でも見たことがある常識の一部とすら言える存在。

 だから、ステラが冒険者ギルドを見たことがないというのは心底意外だった。

「だって、昔はお父さんが冒険者ギルドに行くのを許してくれなかったじゃない! 自警団の狩りに入れてもらうだけでも大反対したのに、冒険者なんて命の危険しかない仕事に大事なまなむすめをつかせられるかー! って言って」

「あー、そういえばそうだったな」

 子供の頃、俺達は冒険者になりたかった。

 俺達が剣を始めたキッカケが、村に来た吟遊詩人が歌っていた冒険者の剣士の唄だったからだ。

 凶悪な魔物や魔族をバッタバッタと退治して、多くの人達を救ってみせた英雄と呼ばれた冒険者の唄。

 それがカッコ良くて、二人して憧れて、それで剣というかチャンバラを始めたんだったな。

 実際、前の世界のことがただの夢だったのなら、俺達は冒険者になっていたかもしれない。

 でも、その将来設計におじさん──ステラのお父さんは大反対した。

 そりゃそうだ。

 親バカで、ステラが勇者になった時も必死で引き留めてたあの人が、娘が危険に飛び込もうとするのを見過ごすわけがない。

 そんなおじさんは、冒険者ギルドの場所を俺達が知ったら勝手に家出して冒険者になってしまうかもしれないと思ったみたいで。

 何度か街に行く機会があってもかたくなにギルドの場所を教えてくれず、俺の両親にも教えないように頼んでいた。

 だから、ステラは故郷近くの街の冒険者ギルドを見たことがないのだ。

「けど、王都でも見なかったのか? あそこにも普通にあったぞ」

「王都じゃ実戦訓練で外に行く時とか以外、基本的に城から出られなかったのよ。まだ未熟な勇者が万が一にも城から出たところを狙われたら大変だからって」

「それは……」

 理屈はわかるが、殆ど監禁じゃねぇか!

 十歳の子供がずっと城に押し込められて訓練漬けの生活。

 勇者ってのは本当に貧乏クジだ。嫌になる。

「でも、別に不満はなかったのよ? アランが頑張ってる時に自分だけ城下町に出て遊びたいなんて思わなかったし、むしろ強制的に修行させられるのはありがたかったわ。そのおかげでつらいとか怠けたいとか思う弱い自分に勝てたんだしね」

「ステラ……」

「ねぇ、冒険者ギルド、入ってみましょうよ。さすがに今はもう冒険者になりたいなんて思わないし、戦うのは魔王を倒すまでで充分だけど、やっぱり一度はちゃんと中を見てみたいわ」

「……そうだな。行くか」

 俺はそれ以上は何も言わず、楽しそうなステラに続いて冒険者ギルドへ向かった。

 ただ、その前にステラの頭をでておいた。

 ワシャワシャとではなく丁寧に、頑張ったなという気持ちを言外に込めて。

(撫でポ!? 尊すぎて召されてしまいそうです!)

(ぬう。集音魔法で音は拾えるが、この距離からでは表情が見えづらい。もっと近づけんのか!)

(ダメですよ! アランくんはやたらと気配に敏感なんです! 人混みに紛れて遮音結界で音を遮ってなかったらこの距離でもとっくに見つかってます! ここは我慢です、エルネスタ様!)

(……魔王倒したら、俺も彼女作ろうかな)

 ギルドの中は他の街と大して変わらなかった。

 死の恐怖を酒で紛らわせるために併設されたという酒場に、もろもろの手続きをする受付、依頼票の貼られた掲示板。

 その酒場で飲んだくれてたり、武勇伝を語ってたりする冒険者達。

 仲間が死んだのか暗い雰囲気のテーブルもある。

 逆にこれから依頼に行くのか、引き締まった顔で外へ出ていく人達もいる。

 新人っぽい若者達に英雄たんをモデルにした唄を聞かせる吟遊詩人の姿もあった。

 修行時代に何度も何度も利用した普通の冒険者ギルドだ。

 それもステラにとっては初めての光景。

 キラキラと目を輝かせながらキョロキョロとあたりを見回している。

「おうおう! えらく可愛らしいお嬢ちゃんじゃねぇか!」

「ここはお遊びの場所じゃねぇんだよ! 帰りな!」

 そうしたら、どう見ても冒険者に憧れてギルドまで来た夢見る少女にしか見えないステラに絡んでくる奴が何人か現れた。

 絡むくらい注視してるくせに、見てくれに騙されてステラの力をまるで測れてないあたりダメダメだな。

 上位の冒険者なら加護を識別できる加護持ちじゃなくても、相手の力量をある程度見抜くくらいはできる。

 それができていないってことは、言動の通り低ランクのチンピラなのだろう。

 だが、そんなチンピラにすらステラは目を輝かせていた。

「こういうの誰かの英雄譚で聞いたわね! チンピラ冒険者に絡まれる未来の英雄! それを華麗にたたきのめして一躍ギルド中の注目を浴びるってやつ!」

「間違っても本気でやるなよ? 人間の血の海を積極的に見たいとは思わないからな」

「わかってるわよ!」

「「「めやがって───!」」」

 俺達のやり取りを聞いて舐められてるとでも思ったのか、特に酒に酔ってるっぽい連中が襲いかかってきた。

 ステラは圧倒的な身体能力は使わず、魅せることを意識するみたいな華麗な動きで一人ずつのしていく。

 まあ、そうなるわな。

 相手は酒が入ってることもあって、下手したら故郷の自警団にすら劣る酔っぱらい低ランク冒険者ども。

 対して、ステラは人類最強の勇者。

 もうイジメだろうこれは。

 チンピラ達は十秒ともたずに全滅した。

「うぉおおお! すげぇえええ!」

「やるな姉ちゃん!」

「ふふ。これは未来のライバル登場かしらね」

 そして、チンピラを成敗したステラは、お望み通り英雄譚の主人公のごとく注目の的になった。

 その英雄譚に憧れてそうな少年少女、中々に鍛えられてる中堅、加護持ちを除けばトップクラスに見える上級冒険者。

 色んな人に注目されて嬉しそうだ。

 本当は勇者なんて大きすぎるものを背負う立場じゃなくて、もう少し気楽なこういう感じの人生を送りたかったんだろうな、こいつは。

 昔の夢が少しでもかなったような気がして、なんか俺まで無性に嬉しくなってきた。

「では私も、未来の英雄の誕生を祝って一曲歌わせてもらおうか。聞いてくれ。『勇者に恋した無才の英雄の物語』!」

 おい、ちょっと待て!

 吟遊詩人がノリノリで歌いだしたのは、明らかに俺達をモデルにしている唄だった。

 元々、俺は冒険者として各地で活動してそこそこ有名だったからか、昔のエピソードを上手く繋ぎ合わせた上で俺の内心が勝手にねつぞうされ、それはもう壮大で切ない恋物語に仕上がっていやがった。

 ステラは真っ赤な顔でそれに聞き入り、冒険者達はステラの大立ち回りの余韻と酒の勢い、それと吟遊詩人の技量もあって拍手喝采。

 俺は無言で震えながらしゅうに耐えた。

 なんの拷問だ!?


「いやー、楽しかったわ! それにしても、うふふ~♪ アランってば私のことをあんな風に想ってたのね!」

「ただの捏造だ! 忘れろ!」

 あの吟遊詩人め!

 何が『彼は加護のない身で魔族に挑む。全ては愛する勇者のため。彼女と笑い合う未来のために』だ!

 絶妙に合ってるのがまた腹立つ!

 というか、なんで謎の英雄の仕業ってことになってるエピソードまで知ってるんだ!?

 もし調べ上げたのなら、もう吟遊詩人やめて情報屋になれよ!

 超一流になれるぞ、くそがっ!

「まあ、それはともかく。アラン、今日はホントにありがとね。すっごく、すっごく楽しかったわ!」

「……そうかよ」

 ったく、輝くような笑顔になりやがって。

 そんな顔されたら気持ちが緩みそうになる。

 この幸せに溺れそうになる。

 だが、それはダメだ。

 まだ幸せに溺れて堕落するわけにはいかない。

 これ以上の幸せは、魔王を倒して戦いが終わった後に取っておこう。

「あ、リン達だ。おーい!」

 そんなことを考えてる間に宿にまで戻ってきていた。

 玄関の近くにリンとエル婆、そしてブレイドの姿がある。

 どうやら向こうもたった今帰ってきたところらしい。

 息抜きは上手くいったのか、なんとなくブレイドの眉間の皺が薄れている気がする。

「どうだった?」

「大成功でした! 本当にありがとうございます!」

 一応、小声でリンに作戦の成否を問えば、ステラ以上の満面の笑みで成功を告げてきた。

 よほど上手くいったみたいだな。

 しかし、ここまで嬉しそうにされると、何をやったのか少し気になってくる。

 機会があったら聞いてみよう。

「ブレイド、何か良いことあったの?」

「ああ。まあ、良いことかって言われると微妙なとこなんだがな……。なんつうか、大量の砂糖を食わされて無理矢理浄化された感じっつうか」

 いや、本気で何があったんだよ。

 ステラの質問に答えたブレイドの言葉は割と意味不明だった。

 大量のスイーツでも食わされたのか?

 その場合、浄化されるより先に甘いもんが嫌になりそうなもんだが。

「とりあえず、あれだな。お前らは末永く爆発しろ!」

「意味がわからないぞ……」

 前後の会話が繋がっていない。

 もしや、ブレイドは性悪二人組に頭を切開されて中身を改造されてしまったのでは?

 さすがにそれは冗談だが、まあ、何をされたにしても作戦成功なら問題ないか。

 真面目ブレイドも悪くなかったが、今の大分けんの取れたブレイドの方がやはりしっくりくる。

 もしかしたら、俺も心のどこかで気安く話しかけてくれる同性の仲間を惜しんでたのかもしれない。

 もちろん、あの不真面目野郎が好きだったわけではないが、このブレイドは完全に不真面目な雰囲気に戻ったわけではないのがグッドだ。

 ぜひとも真面目ブレイドと不真面目ブレイドの良いとこ取りをしたパーフェクトブレイドを目指してほしい。


 こうして、一つの問題が解消とまでは言わないが緩和され。

 その翌日、俺達は次の目的地に向けて旅立った。

 旅はまだまだ続く。