第十章 戦後と新たな旅立ち


 ドラグバーン討伐から数日がった。

 戦死者達の弔いも終わり、エルフの里は順調に復興への道を歩み出している。

 とはいえ、里の被害は神樹が倒れて一部の区画が下敷きになっただけで、その時の死者もごくわずか。

 魔法を使って折れた神樹の撤去作業も進んでいるし、今はエルトライトさんが中心となって、神樹に治癒魔法をかけ続けつつ、神樹が復活するまでの間、その代わりを担えるような防御網の設営を頑張ってるらしい。

 神樹も切断面から少しずつ新しい緑が生えてきて、微弱とはいえ加護が復活してきてるみたいだから、そのうちエルフの里は完全なる復興を遂げられるだろう。

 人的被害に関しても、最後のドラグバーンとの戦いでの戦死者は三桁にも満たなかった。

 やはり、エルフ達に壊滅的な被害を与えたかに見えたあおい炎のブレスの威力を、合体魔法とガッチガチの結界で削れたことが大きかったみたいだ。

 聖女であるリンによる迅速な治癒のもあり、死者の数は最低限に抑えられた。

 今もリンによる治療行為は続いてるらしいから、重傷者がこれから死者に変わるということもないだろう。

 ブレイドもなんだかんだで死なずに済んだしな。

 ドラグバーン相手にこの程度の被害で勝てたのは快挙だ。

 今回の戦いは、まさに俺達の完全勝利と言って差し支えない。

 ……だが、それでも死者が出てしまった事実は変わらない。

 戦争なのだから仕方のないことではある。

 それでも、勇敢に戦った彼らの死を軽んじることだけは、あってはならない。絶対に。

「アラン、入るわよー」

 そうして里の様子を見ながら感慨にふける俺は今、族長屋敷の客室のベッドの上にいる。

 戦いが終わって少しした頃、気が抜けたせいで過労でぶっ倒れて数日間気絶し、今朝ようやく目が覚めたからだ。

 気絶中に一通りの治癒魔法はかけられたみたいなので体調に問題はないが、念のために今日一日くらいはベッドの上で大人しくしてろと治癒術師のリンに言われた。

 そこへ今みたいにステラが飯とかを持ってきてくれるわけだが、こうしてるとカマキリ魔族にやられて寝込んでた時を思い出すな。

 赤い顔でスプーンを差し出してくるステラという状況まで、あの時と同じだ。

「あ、あーん」

「だから、やめい。自分で食えるわ」

 ステラから飯の器を引ったくって自分で食う。

 あの時と同じように、ステラは少し残念そうな顔をした。

「なんじゃ、つまらんのう。こんな時くらい素直に甘えればよいものを」

 そんな俺達の様子を見ていたらしい新しい来客が、一切の遠慮なく部屋の中に入ってきた。

 エルばあだ。

 どうやら、このロリババアにはデリカシーというものがないらしい。

「アー坊、可愛かわい女子おなごのあーんが受け入れられんというのは、男としてどうなんじゃ?」

「……普通に恥ずかしいから嫌だ」

 そう言って顔をらす。

 ……正直、あーん攻撃は昔もしゅうしんがヤバかったが、今の成長して女としての色気をまといつつあるステラにやられると、なおさら破壊力がヤバいのだ。

 思わず顔が赤くなるのを感じる。

 そんな俺を見て何かを察したのか、エル婆の顔がニヤニヤとした腹の立つ表情に変わった。

 イラッ。

「さて、それはともかく。今日ばかりはアー坊をからかうのも程々にしておくかのう。……アー坊よ、まずはエルフを束ねていた者として、この場にいないエルトライトの分まで礼を言おう。お主のおかげでこの里は、エルフ達は守られた。心の底から感謝する。本当にありがとう」

 そうして、エル婆は深く深く頭を下げた。

 そこには、いつものひょうひょうとした雰囲気のロリババアはおらず、一人の高潔な為政者だけがいた。

「……礼は受け取っておくが、別に頭は下げなくていい。俺はステラを守るために戦っただけだし、あれはエルフ達を含めた俺達全員の戦果だ。一緒に戦ってくれてありがとうならともかく、一方的に頭を下げられる筋合いはない」

「ふふ、そうかそうか。アー坊は優しい子じゃのう」

「別にそんなんじゃない」

 本心からそう思ってるだけだ。

「では、ここからはいつも通り、仲間としての話をするとしよう。アー坊、お主の刀、二本ともボロボロじゃろう?」

「……ああ」

 俺は部屋の壁に立てかけてある、さやに納まった二本の刀に目をやった。

 こくてんまると怨霊丸。

 ドラグバーン戦でかなりの無茶をさせてしまった黒天丸もそうだが、刀剣の格に見合わない強敵に挑ませてしまった怨霊丸も、もうボロボロだ。

 黒天丸は折れる寸前。怨霊丸は溶解一歩手前。

 どっちの刀も、あと一戦でもしてしまえば砕け散るだろう。

「同じように壊されたブレ坊の大剣は予備があるのじゃが、アー坊は急に勇者パーティーへの加入が決まったからのう」

「悪いが刀の予備は持ってきておらぬ」と、申し訳なさそうにエル婆は言う。

「特に四天王クラスと打ち合えるだけの業物となると、手に入り次第、装備面で苦労しておる各地の英雄へ支給するのが基本じゃからな。旅の直前に用意するのは、さすがに無理じゃった」

「そうか」

 つまり、代わりの刀を手に入れるのは難しいってことだな。

 ただの刀ならその辺に売ってるだろうし、そこそこの名刀でも勇者パーティーを支援している国や教会が融通してくれそうではある。

 しかし、黒天丸クラスの業物はそうそう手に入らない。

 普通に考えると、とてつもなくマズい事態だ。

 得物を失った状態で次の四天王と戦えば、間違いなく死ねる。

 だが、まあ、そう悲観したもんでもない。

 幸い、装備面をなんとかしてくれそうな当てはある。

「エル婆、次の目的地とかは決まってるのか?」

「む? いや、別に決まっておらんぞ。目下の標的であった四天王の一角を討った以上、ここからは当初の予定通り、各地の魔族を順に狩っていくつもりではあったが。どこか行きたい場所でもあるのかのう?」

「ああ。俺の刀を直してくれる人がいる場所に心当たりがある」

 黒天丸は魔剣だ。

 迷宮の魔力を浴び続けることによって生まれた、人類の技術では造り出せない奇跡の逸品。

 怨霊丸も魔剣の域にこそ届いていないものの、似たような経緯を持つ魔剣もどきである。

 それに手を加え、あまつさえ打ち直しに等しい修復を施せる存在など一つしかいない。

 ステラは今いちわかってなさそうだが、エル婆は俺の言ったことだけで全てを察したらしく、「なるほど」とつぶやいた。

「『ドワーフの里』か。確かに、あやつらの力を借りられればアー坊の刀も直せるじゃろうな」

 そう。魔剣をはじめとしたマジックアイテムに手を加えられるのは、熟練したドワーフの職人だけだ。

 長生きしてるエル婆がそれを知らないはずもない。

「しかし、あやつらは相当頑固じゃぞ? いくら勇者パーティーの一員とはいえ、気に入られなければ突っぱねられるかもしれん」

「え!? 私達、魔王を倒して世界を救おうとしてるのに? 私達が魔王を倒せなきゃ、ドワーフ達も滅びちゃうかもしれないですよね?」

 ステラがごく当たり前の疑問を口にするが、エル婆は力なく首を横に振った。

「それでもじゃよ。あやつらは己の仕事に、美学や誇りでは説明がつかんほどの『こだわり』を持っておる。たとえ世界の滅びの時が目前に迫ろうとも、あやつらが仕事を妥協することは決してないじゃろう」

 だろうな。

 前の世界で俺に『反天』の技術を教えてくれたのも、今考えれば奇跡だった。

「そんな信念を持っておるからこそ、魔剣やマジックアイテムの加工などという神業を習得するに至ったのかもしれんがな」

 エル婆の言う通りだ。

 ドワーフは本当に頑固で偏屈な人が多い。

 しかも、腕の良い職人になればなるほど、その傾向が顕著だ。

 むしろ、そういう人じゃないと職人として大成しないとまで言われていた。

 だが、エル婆の心配は無用だ。

「心配しなくても、目的の人とは面識があるから大丈夫だ。俺の装備の大半はその人が調整してくれたものだからな」

「む、そうなのか?」

「ああ。修行時代に縁があった」

 少し懐かしいな。

 最初にあそこを訪れ、あの人に会ったのは三年前。

 老婆魔族を討ち取り、リンと別れた後、剣聖シズカの和服を羽織に改造してほしくて訪れたのが始まりだった。

 最初は当たり前のように「帰れ、鼻たれ小僧」と言われ相手にもしてくれなかったが、根気よく通い続けて、修行でボロボロになりながら暴風のあしよろいやミスリルを持ち込むうちに、いつしか認めてくれるようになったのだ。

 それどころか、最終的には、成長期で装備のサイズが合わなくなる度に調整してくれるほど気にかけてくれるようになった恩人だ。

 頑固じじいだが、良い人である。

「謎の英雄のことといい、アー坊の経歴には驚かされるのう……。まあ、『救世主』ともなれば、そのくらいはやってのけるということかの」

 エル婆がさりげなく口にした『救世主』という言葉。

 このことからわかる通り、仲間達やエルトライトさんには神様との会話の内容を話してある。

 というか、俺が過労でぶっ倒れてる間にステラが説明してくれたらしい。

 正直、あんな荒唐無稽な話、よく信じてくれたもんだと思う。

 それだけ、あの時の神樹に生じた尋常ならざる現象のインパクトが強かったってことだろう。

 どんな話が飛び出してきてもおかしくないと思われるほどに。

 それが魔王軍との戦いにどんな影響を及ぼすのかは、まだわからないが。

「まあ、それはともかく。ドワーフの里と一口に言っても、あやつらは世界各地の山脈やら洞窟やらに住み着いておる。アー坊が行った里はどこなんじゃ?」

てんかい山脈ってところにある里だ。場所はシリウス王国の端の端だな」

「ふむ。ここからじゃと中々に遠い。最短距離で行くにしても、最前線近くの街を含めたいくつかの街に立ち寄って物資の補給をする必要があるじゃろう。時間がかかる。となれば、ちょうどよいか」

 そう言って、エル婆は持っていたかばんの中からあるものを取り出した。

 あの鞄、よく見ればリンが鍋を取り出していたマジックバッグだ。

 なんで、わざわざそんなもんを持ち出してきてんだと不思議に思ったが、鞄の中から出てきたものを見て、そんなどうでもいい思考は一瞬で吹っ飛んだ。

「これは……!」

「エルフからの心ばかりの礼とせんべつの品といったところじゃな」

 エル婆が取り出したもの。

 それは大小二本の木刀だった。

 ちゃんとつばの部分まで作り込まれたそれは、木刀だというのにすさまじい力強さを感じる。

「折れた神樹より削り出して作ったものじゃ。木刀故に切れ味とは無縁じゃが、頑丈さは折り紙付き。ドラグバーンとの最後の攻防のように、守り重視で使うのであれば役に立つじゃろう。刀が直るまでのつなぎに使ってくれ」

「おいおい。信仰対象を加工していいのかよ……」

「ワシらの持つつえも神樹の小枝から作られとるものじゃし、今さらじゃよ。それに、少しでも世界を守る助けになれた方が神樹も本望じゃろう」

 エルフたくましいな。

 とか思ってたら、エル婆は鞄から更にもう一本の木刀、いや木剣を取り出し、それをステラに手渡した。

「ほれ、ステラも持っておくがよい」

「いいんですか?」

「ああ。聖剣に宿った神樹の力は温存しておいた方がいいじゃろう。それは四天王以外との戦闘に使ってくれ。……本当は予備の名剣があればよかったんじゃが、なまじ聖剣が破損も紛失もしない最高の剣だったが故に持ってきておらんからのう。しばらくは、それで我慢してくれ」

「いえ、充分です。ありがとうございます」

 そうしてステラは木剣を受け取り、聖剣と一緒に腰に差す。

 ふむ。これはステラとの勝負の時にも使えそうだな。

 今までみたいに真剣で寸止めするよりは安全だろう。

 あの馬鹿力を相手にするなら、あんまり関係ない気もするが。

「それと、もう一つ」

 更に、エル婆は鞄から取り出したものを机の上に置く。

 それは、ヒビだらけの一本の牙だった。

「これって……」

「ドラグバーンの牙じゃな。他にも、あやつのなきがらを解体して手に入れた素材がある。刀を直す時の素材に使えば、ただ直すだけではなく、より強く打ち直すことができるじゃろう」

 ドラグバーンの亡骸、解体したのか。

 確かに、あれだけ強い奴の素材を使えば、さぞ良い刀が打ち上がるだろう。

 ありがたく使わせてもらう。

「さて、これで伝えねばならん話は終わりじゃな。ワシはエルトライトを手伝いに行く。お主らはしばらく二人でイチャイチャしておるがよいぞ。ホッホッホッホ!」

「「しねぇよ(しませんよ)!」」

 くそっ!

 あーん攻撃に対する照れのせいで過剰に反応しちまった。

 ステラもまた、あーん攻撃の自爆ダメージが残ってるのか俺と似たような反応をし、それを見たエル婆はニヤニヤしながら去っていった。

 腹立つ。

「「…………」」

 お互い赤い顔で黙り込む俺達。

 ……最近、たまにこういう雰囲気になることがある。

 エル婆やリンによって、作為的に作られてるような気がしてならない雰囲気だ。

 ソワソワして落ち着かない。

 なのに、妙に心が満たされるような感覚になる。

 これはマズい。

 溺れてしまいそうな感じがする。

「あ、あー……」

 話題を探して口を開く。

 幸いなことに、話題はすぐに頭に浮かんだ。

 というか、こんな特大のイベントを経験したんだから、話題に困るはずがない。

 一瞬そんなこともわからなくなってたのか俺は……。

「四天王の一角を倒した気分はどうだ?」

「……そうね。ただただホッとしたって感じかしら。あんたがまた倒れるから気が気じゃなかったわよ」

「それはすまん」

「まあ、今回は左腕がないなんてこともなかったから、前回に比べればマシだったけどね」

 ステラが肩をすくめた。

 ついでに肩の力も抜けたようだ。

 会話の取っ掛かりがつかめてひと安心って感じだろう。

 俺も同じ気持ちだからよくわかる。

「強かったな……」

「強かったわね……」

 俺とステラはそろって今回の敵のことを思い浮かべる。

 『火』の四天王ドラグバーン。

 あまりに強い敵だった。

 一歩間違えれば、少しでも気を抜いていれば、死んでいたのは俺達の方だろう。

 間違っても初陣で戦っていいような相手じゃなかった。

 勝てたのが奇跡とは言わない。

 俺達の努力が、培ってきた力が、奴の命に届いたからこその必然の勝利だと思ってる。

 それでも、ギリギリだった。

「ごめんね。また無理させちゃって」

「謝らなくていい。俺の力不足が原因だ」

「それ言ったら、私も同罪だと思うんだけど?」

「そうだな。お前も弱い。まだまだ弱い。俺にすら勝ち越せない新米勇者だ」

けん売ってるなら買うわよ!?

 ステラがプンスカ怒りながら、たった今もらった神樹の木剣を構えた。

 俺も木刀に手を伸ばし、ベッドから跳ね起きてステラに斬りかかる。

 冗談のつもりだったのか、打ち込まれたステラはかなり驚いた顔だ。

 それでも、しっかり防いだだけ大したもんだろう。

 まあ、この程度で多少とはいえ反応が遅くなってるんだからまだまだだが。

「俺もお前もまだまだ弱い。だから、これから一緒に強くなるぞ。次の四天王と戦う時までにはもっと強く。魔王と戦う時にはもっともっと強く」

 今回の戦いで死線を越えて、俺はまた少し強くなった。

 より強い奴にやいばが届くようになった。

 それはステラも同じだ。

 多くの稽古を積み重ねた先の実戦は人を大きく成長させる。

 修羅場ともなれば、それを乗り越えた先の成長は計り知れない。

 特に新米なんて伸び代の塊みたいなもんだ。

 ステラはこれから必ず大きく飛躍する。

 俺も置いていかれないように気合いを入れなければならない。

 残る四天王は三人。ドラグバーンと同格の奴が三人。

 そいつら全員、経験値に変える。

 俺にだって出来たての二刀の型みたいな発展の余地しかない領域が残ってるんだ。

 そもそも、いまだに前の世界の全盛期にも届いていない。

 俺達はまだまだ強くなれる。

「早くこれに慣れたい。修行に付き合ってくれるか?」

「ええ! わかったわ!」

 俺達は勢いづいたまま、屋敷を出て近所の空き地で修行を開始した。

 実戦で得た経験を、修行で己に刷り込んで定着させる。

 これまでずっとやってきたことだ。

 そうすれば必ず成長できると知っている。

 体が、魂が、その感覚を覚えている。

 その後、修行は大いに盛り上がり、熱が入りすぎていつの間にか勝負に突入。

 病み上がりに激しい運動をしたことにより、騒ぎを聞きつけてやってきたリンに怒られた。

 代わりにステラとのギクシャクした感じはなくなり、勝負しながら楽しく笑えたからよしとしよう。


                 


 それから更に数日後。

 俺達の旅立ちの日がやってきた。

 見送りに、エルトライトさんをはじめとした多くのエルフ達が来てくれる。

 エルトライトさんはできれば全員で見送りたかったとか言ってたが、そんな大人数、見送りの場所となった里入り口に入りきらないってことで、泣く泣く厳正な抽選を行ったと言っていた。

 何やってんだ。

「勇者様方。我らはたびのご恩を決して忘れません。お声がけいただければ、いつなる時でも参上し、あなた方のために魔法を振るいましょう」

「ありがとうございます」

 最後に、そんな約束を交わしながら、エルフの族長エルトライトさんとステラが固い握手をした。

 それを見届けてから俺達は馬車に乗り込む。

 そして二頭の駿しゅんを走らせ、エルフの里を後にした。

「旅立つ勇士達に、神樹の祝福あれ!」

 後ろからエルトライトさんの大きな声が聞こえてきた。

 同時に、エルフの里じゅうから美しい花火の魔法が打ち上がる。

 それは神樹が光った時の光の粒子にも負けないだけの美しさをもって、俺達を見送ってくれた。

 俺は馬車の御者台で感嘆しながらその光景を見つめ……ふと、隣に座っているリンが浮かない顔をしていることに気づいた。

「どうした? せっかくの盛大な見送りだってのに、そんなしかめっつらして」

「え? 私、そんな顔してました?」

「してた。なんか悩みでもあるのか?」

 そう聞くと、リンは少し考えるような顔をした後、意を決したような様子で話し始める。

「その、ここ数日のことなんですけど……ブレイド様の様子が少しおかしいんです」

「ブレイド?」

「はい。すごく怖い顔をして、ずっと剣を振ってました。まるで何かにとりかれたみたいに」

 ……努力してるなら、いいことだと思うが。

「自分の未熟さでも痛感したんじゃないか? あいつにはどうも必死さが足りなかったから、いい薬だ」

 きっと死にかけた上に、前の世界では実際に死んでたって聞かされて、尻に火がついたんだろう。

 そのついた火がドラグバーンの炎である以上、そりゃ必死にもなるだろうさ。

「そうならいいんですけど……なんていうか、それだけじゃないような気がして。私の考えすぎならいいんですけどね」

 しかし、そう言ってもリンの顔は晴れなかった。

 もしかしたら、それは女の勘というやつなのかもしれない。

 ……だとすれば、バカにもできないな。

 ステラも、その女の勘で俺とカマキリ魔族の戦いに乱入してきた。

 ブレイドの様子がおかしい、か。

 気に留めておくことにしよう。


 そうして、僅かな不安の種を残しながらも、俺達は次の目的地への道のりを進んだ。