第八章 エルフの里の戦い、開幕
「あ!? ステラさん! アランくん! やっと帰ってきたんですね!」
神樹の扉から飛び出した俺達に声をかけてきたのは、険しい顔で
周囲には、同じく杖を構える数人のエルフがいる。
どうやら俺達を待つために、ここから結界を維持していたみたいだ。
「リン! これ今どうなってるの!?」
「敵襲です! 十分くらい前に始まりました! 攻撃は東西南北の四方向からの遠距離魔法攻撃! 威力からして多分、上位竜のブレスです!」
上位竜……!
四方からブレスを撃ってきてるってことは、少なくとも四体は残ってたってことか。
どんだけいたんだ。
そうポンポン湧いてきていいような雑魚じゃないはずなんだがな。
「既に東と西と南には、エルネスタ様、エルトライト様、ブレイド様の三人が部隊を率いて向かいました! 北は結界の境界部分に迎撃部隊が待機中! もしお二人が戻ってきたら、部隊を引き連れて北の竜を討伐してほしいというのがエルネスタ様からの伝言です!」
「わかったわ!」
「行ってくる!」
「あ! ちょっと待ってください!」
リンが慌てて止めてきたので、俺達はずっこけそうになりながらなんとか停止した。
なんだ? この緊急時に、まだ何か伝えたいことでもあるのか?
「敵の狙いは恐らく私達の分断です! 四方に散った部隊のどれか、もしくは本丸である里の入り口前にドラグバーンが現れる可能性が高いそうです! なので、ドラグバーンと遭遇した部隊は合図として空に向けて派手な魔法を打ち上げることになってます! それを見たら目の前の敵を迅速に片付け、合図が見えた場所に全員集合! それが今回の作戦です!」
「なるほどね。了解したわ!」
作戦内容を聞き終え、今度こそステラは北に向けて走った。
俺も
それでも本気を出せばステラの方がぶっちぎりで速いのだが、この状況で俺を置いていくような真似をするわけもなく、俺達は並走して戦場に向かう。
そんな中、俺は敵の行動に妙な違和感を感じていた。
分断作戦。
なるほど確かに、俺達に対して仕掛けるなら有効だ。
前回はパーティー全員でかかることで、ようやく弱体化状態のドラグバーンと張り合えていた。
だから、分断して各個撃破する。
上位竜をあんな使い方されたら、どうしても聖戦士以上の戦力で迎撃に向かうしかない。
ずっと撃たれ続けてるわけにもいかないし、結界の維持に戦力を割かれてる状態で、ドラグバーンに襲来されたら目も当てられないからな。
有効な作戦だ。
だが、果たしてあのドラグバーンがこんな
あいつなら、むしろ喜んで俺達全軍を真っ向から相手にしそうなもんだ。
何か、あいつの思惑とも違うことが起きてるんじゃないかという気がしてならない。
まさか、他の四天王が合流した?
いや、それにしては早すぎる。
エルフは斥候部隊も優秀だ。そんな凶悪な奴が近くにいたら見逃さない。
じゃあ、奴に入れ知恵してる奴がいる?
ドラグバーンの性格を思えば、そんな意見突っぱねると思うが……。
「着いたわよ! 結界の境界部分!」
考えごとをしてるうちに、第一の目的地に着いてしまった。
チッ、考えるには時間が足りない。
そもそも、大した教育も受けていない俺風情があれこれ考えたところで、どうにもならないか。
こういうのはエル
俺は剣士、戦闘員なのだから。
「勇者様! おいでになられましたか!」
「あなたがここの隊長さんですね!」
「ハッ! エルフ軍第四軍軍団長、バルザック・ボルトと申します! 不肖の身ながら『雷の加護』と英雄の称号を賜っております!」
俺達を待っていた防衛部隊の隊長は、人族で言えば中年ほどの容姿をしたエルフだった。
会議にも出席してた人だ。
エルフは
数百年は生きてる大ベテランと見た。
エル婆の話だと、数百年を生きた加護持ちの熟練エルフは聖戦士の領域に片足を突っ込むほどの強さを誇るという。
実に頼もしい!
「指揮は任せます! 私そういうの得意じゃないので!」
「了解しました! では、元族長の指示通り、勇者様方には北の上位竜討伐をお願いいたします! 我々も微力ながら全力でサポートさせていただきます! それでは、総員出撃!」
「「「ハッ!」」」
バルザックさんの指揮により、一糸乱れぬほどに錬度の高いエルフ達が結界を乗り越えて進撃していく。
俺が暴風の足鎧を使ってるのと同じように、全員が風の魔法を無詠唱で使い、
俺の知ってる魔法使いの動きじゃない。エルフ強すぎだろ。
俺も負けないように、気合いを入れながら先頭を走るステラについていった。
進行方向からは何度もブレスが放たれてくる。
かつてドラゴンゾンビが放った極大ブレスに匹敵する威力だ。
属性は風。それが十数秒に一度のペースで発射され、里を守る結界に防がれている。
竜の群れを
そこらへんの街なら、このブレス一発だけで落ちてるだろう。
それを何発も、しかも四方から食らい続けて小揺るぎもしてないのは、ひとえにエルフ達の強さとリンの力だな。
里全体を覆い尽くしてなお、あれほどの強度を保つ結界なんて恐れ入る。
無数のエルフと聖女が協力して作った結界は
あれなら安心して後ろを任せられる。
「見えたわ!」
走り続けるうちに、前方に巨大な影が見えてきた。
深緑の
ブレスの属性からして、種類は恐らく風竜。
上位竜にしては小柄で、全長は十メートルほどだ。
その代わりか、なんとも身軽そうなシャープな体型をしていた。
「キュラララララララララララ
」
俺達を認識した瞬間、風竜は
そして、全速力で後退していく。
後退、していく。
…………は?
「逃げた?」
「キュラァアア───
」
風竜は逃げながらブレスの照準を俺達に合わせた。
ステラとエルフ達が迎撃態勢に入る。
妥当な判断だが、多分それじゃダメだ!
「俺が防ぐ! 皆は攻撃と逃亡阻止を!」
そう叫んで俺は足鎧の生み出す暴風に乗り、竜と仲間達の間に陣取った。
ここで一番ダメなのは、風竜に距離を稼がれて、他の部隊から引き離されること。
そうなったら最悪、ドラグバーンが現れても合流できなくなる。
あの風竜、魔物のくせに俺より頭良さそうな動きしやがって!
だが、そう簡単に思い通りにできると思うな!
「魔導の
「! 魔導の理の一角を司る雷の精霊よ。その
俺の行動に真っ先にステラが合わせ、それを見てバルザックさん達も魔法の詠唱を始める。
数人のエルフは、万が一俺が失敗した時のために、結界魔法の詠唱をしていた。正しい判断だ。
そして、風竜のブレスが放たれる。充分に
上位竜の極大ブレス……昔は
懐かしい。だが、今はもう違う。
斬るべき
どうすれば、この荒れ狂う竜の
それを実行できるだけの能力は手に入れた。
ならば、あとは刃を振るうだけだ。
「三の太刀──『
風のブレスの中に生じた綻び、複雑に折り重なる風の
左右に分かたれた風が、俺達の横を抜けていく。
こっちの被弾はなし。
ならば今度はこっちが攻撃する番だ。
「『
「キュラ!?」
バルザックさんの放った魔法、雷の網が風竜を捕らえ、その動きを一瞬止める。
他のエルフ達の魔法もまた捕縛系が多く、風竜の動きを大きく制限していく。
そうして動きが完全に止まった風竜に向けて、満を持して勇者による本命の一撃が放たれた。
「『
繰り出されるは、三日月のような形をした光の斬撃。
ドラグバーンにダメージを与えた光の奔流、あれを三日月状の刃に凝縮した技だ。
効果範囲こそ狭いが、威力はこっちの方が高い上に、射程距離も充分。
しかも、神様によって強化された聖剣での一撃。
それが風竜に直撃した。
「キュラァアア!?」
四天王にすら通じた攻撃よりも更に強い技を食らったんだ。
いくら上位竜といえどひとたまりもなく、風竜は体を上下に真っ二つにされて地上へ落下する。
「キュ……ラァ……」
そして、風竜は生命活動を維持できずにすぐに絶命した。
……
その最後の鳴き声には、魔物らしからぬ悲痛な想いがこもっていたように感じられた。
風竜の死体から流れ出る、魔界生物特有の青い血がもの悲しく見える。
俺がそんなことを思ってしまったのは、多分…………予想通りに現れたこいつが、予想と違って悲しげなオーラを
「!?」
突如、空から高速で何かが落ちてきた。
その何かが着地した衝撃で膨大な土煙が巻き上げられ、それが晴れた時には、風竜の
「騒々しいと思って起きてみれば……まさか、こんなことになっていたとはな」
「「「ッ!?」」」
現れたドラグバーンの姿を見て、全員の警戒レベルが最大にまで上昇した。
しかし、ドラグバーンはそんな俺達ではなく、事切れた風竜に視線を向ける。
そして、おもむろに風竜の口から
「……やはりか。あの
ドラグバーンの全身から炎が立ち上る。
まるで奴の怒りがそのまま具現化したかのような火炎の渦。
卑怯者……? なんのことだ?
俺達が困惑している間に、ドラグバーンは風竜の亡骸に手をかざし、その炎で風竜を包んだ。
「せめて、俺の炎で弔ってやろう。汚されたその身を残さぬように、灰となって安らかに眠れ。……今まで世話になったな」
ドラグバーンの炎が風竜の亡骸を焼き尽くす。
俺達は、ただそれを黙って見ていた。
奴が隙を見せなかったからでもあるが、怒れる四天王の前で不用意に動ける者は誰もなかった。
それに、俺に限った話かもしれないが、いくら相手が魔族と魔物とはいえ、あんな表情での弔いを邪魔するのも気が
もちろん、ここは戦場だ。
ドラグバーンに隙があったなら、そんな感傷は無視して攻撃してる。
「さて」
ドラグバーンが俺達に向き直る。
その目に、以前は感じなかった怒りと悲しみの感情を
しかし、その感情を俺達に向けることはなく。
『火』の四天王は、驚くほど静かな面持ちで俺達を見た。
「どこぞの性悪のせいで気分が悪い。この状況も不本意だ。俺はお前達の全戦力を相手に、堂々と正面から挑んでやろうとしていたというのに。まさかこの程度の戦力しか引き連れていない勇者と遭遇してしまうとは思わなかった」
「だが」と、ドラグバーンは続ける。
「望まぬことだったとはいえ、
そう言って、──ドラグバーンは闘志を爆発させた。
「始めるとしよう。望んだ形とは少し違うが、再戦の時だ。今度こそ、どちらかが死に絶えるまで存分に戦うとしようぞ」
その気迫に、多くの戦士達が
間近で四天王の怒りを見てしまったというのも大きい。
自分に向けられたものではないとはいえ、怪物の放つ殺気に当てられたんだ。
純粋な闘志をぶつけられるよりも、精神的にはくる。
それは勇者ですら例外ではなく、
俺はそんなステラの背中をドンッと思いっきり
膝を抱えていたこいつを励ました時と同じように。
俺の気持ちも、ステラの覚悟も、あの時から何も変わっていないのだ。
だからこそ、かける言葉はあの時と同じでいい。
それで伝わる。
「大丈夫だ。俺がついてる」
「……うん」
その一言で、ステラの震えは完全に止まった。
恐怖に呑まれず前を向き。
勇者の名に
俺と勝ち星を競う時のような、ステラらしい勝ち気な笑顔で。
『勇者』ステラは、『火』の四天王ドラグバーンを見据えた。
「ほう。雰囲気が変わった。まるで別人。今の貴様の方がよほど強そうだ」
ドラグバーンも、そんなステラの変化を感じたのか、
「ならば、今一度名乗ろうではないか! 俺は魔王軍四天王の一人! 『火』の四天王ドラグバーン! この俺に立ち向かう勇者よ! 名を名乗るがいい!」
まるで決闘に臨む騎士のように、高らかに名乗りを上げた。
ステラもまた、それに名乗りを返す。
「だったら、覚えておきなさい! 私は『勇者』ステラ! 最高の相棒に支えられた最強の勇者! あんたを倒す者の名よ!」
「ハーハッハッハッハ! その威勢、大いに結構!」
二人の気迫がぶつかり合い、火花を散らす。
俺はいつでも戦いを始められるように神経を研ぎ澄まし、エルフ達もステラの勇姿を見てようやく恐怖を振り払ったのか、予定通り一人が空に向かって合図の魔法を放った。
ドラグバーンはそれに一切頓着せず、俺達を見据えて構えを取る。
「では、参るぞ!」

炎を纏った拳を振り上げ、ドラグバーンが突撃を開始した。
こうして、俺達とドラグバーンの二度目の戦いが始まる。
どちらかが命尽きるまで終わらない、正真正銘の死闘の幕が、今上がった。
「『
ドラグバーンが初手に選んだのは、前回と同じ炎を纏った拳でのパンチ。
だが、動きは同じでも、使い手の力が前とは比較にならない。
まず第一に、速い。
尋常じゃない攻撃力と防御力を持つ一方で比較的鈍重だったはずのドラグバーンが、
ルベルトさんの『
「くっ!?」
それに、なんといってもこのパワーだ。
俺もまた前と同じようにステラの前に出て、『
パワーが上がっても、技巧の伴わない力任せなのは相変わらずだから、受け流し自体は成立する。
しかし、拳の力に刀を合わせた手応えから感じるパワーは、前回の三倍以上。
それが動きの速くなった拳に乗っているのだから恐ろしい。
加えて、拳に纏う炎の熱量も上がってる。
黒天丸ならまだしも、怨霊丸じゃ五秒も接触し続けたら溶けるだろう。
直撃なんてしようものなら、命はないと思った方がいい。
「ハッハー! 本気の俺の一撃すら防ぐか! やはり貴様もまた
「『
「ぬぐっ!?」
俺の後ろから飛び出したステラが、無詠唱の光の魔法を纏った聖剣の一撃をドラグバーンに叩き込み、吹き飛ばした。
神様の言う通りなら、強化された聖剣は四天王相手でも通用するはずだが……
「ッ!? 硬ッ……!」
「ハーハッハッハッハ! 貴様、前より強くなっているな! 中々に痛かったぞ!」
ドラグバーンは軽傷。
防御力も上がってるのか、無詠唱魔法を纏っただけの通常攻撃じゃ大したダメージは与えられないらしい。
それでも、
「ぬ?」
ドラグバーンが
何故なら、傷が再生しないからだ。
前回は不死身と錯覚するほどにガンガン再生していたダメージが、今回はまるで回復の兆しを見せない。
真なる聖剣の力には、回復阻害の効果がある。
前の世界において、ステラが魔王に敗れてから俺が挑むまでの実に数十年もの間、魔王の傷は
今の聖剣は力を完全解放しているわけではないが、ドラグバーンの再生を妨げる程度の力は発揮してるらしい。
神様による聖剣強化の効果は確実に出てる。
これなら攻撃を積み重ねるなり、大技を叩き込むなりすれば、充分に勝ち目があるぞ!
「面白い! これくらいでなければ張り合いがないというものだ!」
傷が治らないとわかってもドラグバーンは一切
ドラグバーンの口の中に魔力が集い、炎の塊が生まれる。
ブレスだ。
空いた距離を利用しての遠距離攻撃。
「『
「「「『
「ぬぬ!?」
しかし、いくつもの雷の魔法がドラグバーンに直撃し、感電させて動きを止めた。
そのせいで集めていた魔力が霧散し、ブレスが不発に終わる。
バルザックさん達、エルフ部隊の攻撃だ。
ダメージこそほぼ与えられてないが、いい妨害にはなってる。
「サポートはお任せください! 我らの力では大した助力はできませんが、それでもエルフの誇りにかけて全力で奴を食い止めます!」
「「助かります!」」
礼を言いながら、俺とステラは前進。
ドラグバーンとの距離を詰める。
「
「『
「ぬぅ!」
踏み込んで拳を振り上げようとしたドラグバーンの足下に、エルフの一人が魔法で泥沼を発生させた。
それに足を取られ、ドラグバーンの体勢が崩れる。
そこへすかさずステラが斬りかかった。
「なんのこれしき!」
ドラグバーンは崩れた体勢のまま、力任せに拳を繰り出す。
俺はまたもステラの前に飛び出し、盾となる。
これが勇者パーティーにおける俺の役割だ。
そんな俺を見て、ドラグバーンは動きを変えた。
当然だ。ドラグバーンもバカではない。
このままではさっきと同じく受け流されるとわかりきってる攻撃を、そのまま放つようなことはしない。
ドラグバーンは俺という盾を吹き飛ばすために、肘の先から凄まじい勢いで炎を噴き出させ、それを推進力にして拳の速度と破壊力を跳ね上げた。
フェイントを入れようだとか、裏をかこうなんて一切考えてない、
付け焼き刃の小細工を加えることを良しとせず、徹底的に自分の強みを
剛よく柔を断つ。
そのあり方は、ある意味正しい。
「だがな」
俺の剣はそういう奴を殺すための剣術だ。
柔よく剛を制し、制した剛で敵を
敵が強ければ強いほど、俺の剣もまた強さを増す。
「『
「六の太刀──」
その自慢の剛力……利用させてもらう!
「『反天』!」
「ぬぐっ!?」
前回は骨に僅かなヒビを入れるのが精一杯だった攻撃。
しかし、『反天』もまた他の技と同じく、その
『反天』は、敵と自分の攻撃がぶつかった時の衝撃を、敵の最も
ドラグバーンの攻撃力が前回よりも上がっている以上、『反天』の破壊力もまた上がる。
懸念はドラグバーンの防御力も上がってることだったが、さすがに攻撃力の上がり幅には及ばないだろう。
さっきステラの攻撃を受けた時のダメージからして、大体前回の二倍ってところか。
それならば、充分に『反天』は通じる。
ボキリと、ドラグバーンの手首が折れる音がした。
同時に、反発した力によってドラグバーンがよろめく。
聖剣によって与えたダメージじゃない以上、すぐに回復されるだろうが隙は作った。
「『
「ぐぬぅ!?」
そこへステラの刺突がドラグバーンの胸に
切っ先に力を集中させた聖剣の一撃は、確実にドラグバーンの鱗を砕き、肉を貫き、骨を折って吹き飛ばした。
「ゴホッ!?」
ドラグバーンが血を吐く。あの化け物が血を吐いた。
効いてる! 確実に効いてるぞ!
「たたみかけろォ!」
「「「ハッ!」」」
バルザックさんの号令が響き、エルフ達が方々に散りながら、俺達の邪魔にならないように角度をつけて攻撃魔法を連射する。
ここで少しでもダメージを蓄積させる算段か。
聖剣でつけた傷を
当然、俺達もその流れに乗る。
またしても俺が前に、ステラが後ろに構えた布陣でドラグバーンに突撃した。
この布陣は俺達の連携の基本型。
対処できないのなら、対処できていないうちに、使い倒して削り切ってやる!
「ハーハッハッハッハ! よい! 実によいぞ! それでこそ倒しがいがあるッ!!」
魔法の雨に打たれ、俺達という脅威に攻められてなお、やはりドラグバーンは不敵に笑った。
その口の中に再び魔力が集い、炎の塊が生み出される。
ブレスの発射態勢。さっきと同じ光景。
だが、さっきと違って、ドラグバーンはすぐには発射せずに、更に魔力を溜めた。
当然、魔力が溜まれば溜まるほど、ブレスの威力は上がっていく。
それこそ神樹を焼き切ったあの一撃のように。
今までの攻撃で倒せないのなら、もっと火力を上げてやろうという単純な発想。
どこまでもシンプルな力押し。
だからこそ、恐ろしい。
ドラグバーンは、己が一番力を発揮できる方法をよくわかっている。
「う、撃たせるな! さっきと同じように不発にさせるのだ! 『
「「「『
エルフ達の放った雷魔法が、再びドラグバーンを穿つ。
しかし、無詠唱魔法ごとき、来るとわかっていれば怖くないと言わんばかりに、ドラグバーンは揺らがなかった。
なら!
「ステラ!」
「わかってるわ! 『
「『
ステラの遠距離攻撃に合わせて、微力ながら俺も追撃を放っておいた。
月を模した光と闇の斬撃がドラグバーンを襲う。
光が先。闇は光と全く同じ軌道を
それを、ドラグバーンは両腕を交差することで防いだ。
腕は他の部分よりも一層鱗が厚く、筋肉も硬い。
二つの斬撃は、その
「遠距離がダメなら!」
「接近戦よ! 『
ステラが俺を追い越し、ドラグバーンに目にも留まらぬ光の連撃を浴びせ始めた。
大技ではないとはいえ、一撃一撃が強化された聖剣を使った強力な攻撃。
その全てを、ドラグバーンは腕を交差したまま黙って耐える。
耐えながら、ブレスの魔力を溜め続ける。
ダメージは入っている。腕はどんどんボロボロになっていく。
なのに、ドラグバーンは揺らがない。
耐えて、耐えて、耐えて。
溜めて、溜めて、溜めて。
そして、
「ステラ! 下がって結界張れ!」
「ッ!? 『
ドラグバーンがブレスを撃とうとする直前のタイミングまで粘ったが、間に合わないと判断した俺はステラを呼び戻した。
ステラはすぐにバックステップで俺と位置を入れ替わり、同時にドラグバーンの前に防御用の結界を張る。
「「「『聖盾結界』!」」」
それを補強するように、エルフ達もまた結界魔法を使って、いくつもの結界が折り重なった。
ステラのは無詠唱だが、エルフ達のは完全詠唱だ。
ステラが接近戦を開始したあたりから、ステラを巻き込まないために攻撃をやめ、間に合わなかった時のために結界魔法の詠唱を始めていた。
やはり、エルフ達は優秀だ。
その優秀さも、あの化け物を前にどれほどの意味があるのかはわからないが。
ドラグバーンが口を開く。
俺達の猛攻に耐え続け、溜めに溜めたブレスが遂に放たれる。
「『
熱の咆哮
まるで太陽が落ちてきたかのようだった。
そう感じてしまうほどの膨大な熱量。
凄まじい密度の炎の放射。
ステラ達の結界を
「『斬払い』!」
これを防ぐ手段など『斬払い』しかない。
最後の必殺剣が使えればよかったんだが、今の俺にはまだ無理だ。まだ技量が足りない。
そして、ただの『斬払い』ではこの炎は斬れない。
炎の密度が尋常じゃないのだ。
魔力がぎゅうぎゅうに圧縮されてて、『斬払い』で斬るべき綻びが、炎の隙間が
それでも、俺は刃を振るう。
分厚い地層の境目に刃を入れて押し広げるかのごとき難易度。
しかも、一度や二度の成功では足りない。
この炎の放射が終わるまで斬り続けなければならない。
体力気力が凄まじい勢いで削られていく。
散らし切れなかった熱で、腕が焼けるように痛い。
「神の御力の一端たる守護の力よ! 魔の侵略を
そんな俺をサポートするべく、ステラが後ろから結界魔法を使った。
無詠唱ではなく、すげぇ早口で急いだとはいえ完全詠唱の魔法。
発動速度を優先した分、魔法のランクとしてはそれほどでもなく、すぐに炎に呑まれて燃え尽きたが、少しでも止めてくれたのはありがたい。
コンマ数秒でも休めれば、それだけ炎を観察する余裕が生まれる。
少しでも炎を
新たに生まれた綻びを突けば、なんとか炎を斬り裂ける!
そうして、斬って、払って、散らして。
俺はなんとか灼熱の業火を防ぎ切ることができた。
腕が熱い……! ミスリルの
これがなければ、途中で腕が燃え落ちてたかもしれない。
「『
「ハァ……ハァ……助かる」
ステラの治癒によって俺は持ち直したが、被害は甚大だ。
今の一撃でエルフ達がほぼ全滅した。
『斬払い』でできる限り散らしたから何人かは生きてると思うし、実際加護持ちで常人よりは頑丈なバルザックさんはまだ戦えそうではある。
だが、他のエルフ達は悪ければ即死、よくても戦闘不能だ。
戦力がガクッと落ちた。
対して、向こうは細かいダメージこそ積み重なってるとはいえ、まだまだ余裕の状態。
多少追い詰めたところで、たった一撃でひっくり返された。
これが本気の四天王。
どうする。この状態で削り合いに突入したとして、勝てるか?
いや、正直かなりキツいぞ。
なら、ステラの大技で一気に削りたいところだが、大技には詠唱の時間がいる。
本気のドラグバーンに大ダメージを与えられるレベルの大技となれば、詠唱時間もそれ相応に長い。
今の戦力でその時間を稼ぐ……無理だな。
それならまだ、ステラも攻撃参加させて援軍を待った方がいい。
援軍が到着するまでの時間で、勝率は大きく変動しそうだ。
「アラン……大丈夫?」
「大丈夫だ。まだ腕は動く」
それに、切り札もある。
出来たての技で安定性に欠けるからできれば使いたくないが、そうも言ってられないだろう。
前の世界では到達できなかった域にある、俺の新たな技。
見せつけてやるとしよう。
「ハッハッハ! まだ動けるだろう! まだ戦えるだろう! ならば、もっと俺を楽しませろ!」
ドラグバーンが追撃に出てくる。
俺はそれを迎撃するため、新たな刃を放とうとして……。
「『
「ぬぅ!?」
後方から飛んできた極大の魔法がドラグバーンを呑み込むのを見て動きを変えた。
マジか。思ってたよりも、かなり早い。
さすがは人類の守護者達と言うべきか。
やはり、死ぬほど頼りになる。
「神の御力の一端たる
完全詠唱された上位の治癒魔法が辺り一帯に
更に一人の巨漢戦士が疲弊した俺達の前に立ち、ドラグバーンの警戒に当たる。
駆けつけてきた頼れる仲間達を見て、ステラが彼らの名前を呼んだ。
「エルネスタさん! リン! ブレイド!」
「ステラさん! アランくん!」
「待たせたな! ワシらが来たからには、もう大丈夫じゃ!」
「おう! 速攻で上位竜ぶっ倒してきてやったぜ!」
勇者パーティー、ここに集結。
合図の魔法を放ってから僅か数分で駆けつけてきてくれた。
しかも、それぞれと共に上位竜退治に向かっていた多くのエルフ達を率いて。
そして、エルフの軍勢が
「お待たせしました。これより当初の作戦を開始します」
そう言って現れたエルトライトさんは、杖を地面に突き立てた。
それに倣って、他のエルフ達も同じ動作を取る。
「魔導の理の一角を司る土の精霊よ。我らが呼び声に応え、大いなる大地より鉄壁の城壁を生み出したまえ」
「「「魔導の理の一角を司る土の精霊よ。我らが呼び声に応え、大いなる大地より鉄壁の城壁を生み出したまえ」」」
エルトライトさんの詠唱にエルフ達が合わせ、無数の詠唱が合わさって、一つの極大魔法を作り出す。
それは、この世界を脅かす外敵を閉じ込める
事前に話し合った作戦で使用が決定されていた魔法が今、起動する。
「『
「「「『
地中からせり出した巨大な金属の城壁が、ドラグバーンと俺達の周囲を囲っていく。
まるで闘技場のような囲いの中心に敵であるドラグバーンと、俺、ステラ、ブレイドの前衛職を残しながら。
更に、
「神の御力の一端たる守護の力よ。我らの祈りを聞き届け、魔の侵略に立ち向かう我らを、幾重にも重ねた聖なる力で包み込み、守りたまえ」
「「「神の御力の一端たる守護の力よ。我らの祈りを聞き届け、魔の侵略に立ち向かう我らを、幾重にも重ねた聖なる力で包み込み、守りたまえ」」」
「「「『五重神聖結界』!」」」
今度はリンが中心となってドーム状の結界魔法を使い、城壁の内側から外側への攻撃を封じる。
その結界によって、完璧とまでは言えないまでも安全を確保した城壁の上に、どんどんとエルフ達が集結していく。
その数、実に……。
「不測の事態に備えて里の防衛に千を残し、他の全兵力をここに集結させた。エルフ軍九千、ここに見参!」
「「「見参!」」」
「ほう……!」
集まった約九千人ものエルフ達を見て、ドラグバーンが歓喜の表情を浮かべる。
勇者に、聖戦士が四人。加えて列強種族たるエルフの精鋭が九千。プラス俺。
これだけの戦力を揃えて、四天王の一人すら討てなければ人類は終わりだろう。
だが、ここまでやっても確実に倒せる保証がない怖さがドラグバーンにはある。
「ハーハッハッハッハ! ハーハッハッハッハ! 最高だ! 最高だぞ貴様達! さあ! 全員命を賭して、全力でかかってこい!」
今だって、ドラグバーンは負けるつもりなど
全ての援軍が到着し、完成した布陣は想定していた中でも最高に近い。
ここで倒せなければ終わりだ。
ここで必ず……。
「お前を倒す……! ドラグバーン!」
そうして、ドラグバーンとの戦いは、第二ラウンドへと突入した。