第三章 『火』の四天王


「『爆炎の拳バーンナックル』!」

 ドラグバーンが拳に炎をまとわせて、ステラに殴りかかった。

 ステラはそれを剣を斜めに構えて受け流しながら前へ踏み込み、またしてもすれ違いざまの斬撃を脇腹にたたき込む。

 俺を見て覚えたという受け流しと、勇者としての攻撃力を組み合わせた、完成度の高い動きだ。

 寸分たがわず同じ場所を斬っているのも、防御力の高い敵を相手にする時の戦略の一つとして正しい。

 しかし、それでもドラグバーンに与えたダメージは、かすり傷の域を出なかった。

「ハッハッハ! 良い動きだ!」

 ステラをたたえながらドラグバーンが振り向き、またしても炎を纏った拳を振り上げる。

 だが、ステラが二回ドラグバーンの脇を通り過ぎたということは、元は同じ位置にいた俺の方へ戻ってきたということだ。

 俺はステラと入れ替わるように前へ出る。

 ドラグバーンは飛び出してきた俺へととっに攻撃対象を変更し、俺はその拳をこくてんまるで受けた。

 そのまま、拳の勢いを受け流しながら体を右回転。

 敵の攻撃力を己の回転力に変え、更にその力をやいばに乗せて、鋭い斬撃の力へと変換して斬り返す。

 俺の基本技。

「一の太刀──『りゅうじん』!」

「ぬおぅ!?

 狙いはステラが斬った場所。左脇腹の傷。

 狙いは完璧。にもかかわらず、俺の刃がドラグバーンの体をえぐることはなかった。

「ッ!?

 硬すぎる!?

 ステラの攻撃でうろこは砕けてたのに、その下の肉を斬ることすらできなかった。

 まさか『流刃』が全く効かないとは……!

 攻撃力も防御力も圧倒的。これが四天王か。

 なるほど、化け物だ。

「むむ!? 加護を持たぬせいじゃくな雑兵の身でありながら、またしても俺の攻撃を防いだ上に反撃までしてくるとは!?

 ただし、きょうがくしたのは俺だけじゃなかったらしく、ドラグバーンもまた、加護も持たない、一見雑魚に見える俺の動きに目を見開いていた。

「なんとも奇っ怪な! だが認めよう奇っ怪な剣士よ! 貴様もまた俺の敵たり得る強者であると!」

 だが、こいつは俺を見下すことも、油断することもなかった。

 ステラが追撃にしょうする光の斬撃を放つ。

 ドラグバーンはそれを腕を交差させて防ぎ、そのまま力をめるような動作に入る。

 何かの構えだと認識した直後、一瞬にして膨大な熱がドラグバーンの中に発生した。

 それを前に、俺とステラはアイコンタクトを交わす。

 当然、ドラグバーンはそんなことなどお構いなしに、交差していた腕と共に、体内の熱エネルギーを全方位に向けて解き放った。

「『爆炎解放バーンアウト』!」

 ドラグバーンを中心に、大爆発を起こしたような炎が広がっていく。

 それに対しての俺達の対応は、ステラは後ろへ、俺が前へ。

 俺がステラの盾となって攻撃を防ぐ。

「三の太刀──『きりばらい』!」

 そして、炎の裂け目を押し広げることで、広範囲攻撃を霧散させるための技『斬払い』を放ち、俺達を焼き尽くそうとしていた炎を裂いてステラを守った。

「ありがと!」

「気にするな!」

 よし、連携はくいっている。

 カマキリ魔族と戦った時に感じた、俺の剣は一対一ではなく仲間との連携でこそ真価を発揮するという考えは、やはり間違っていなかった。

 一撃でも食らえば死ぬからこそ鍛え上げた先読みと絶対防御の技術で仲間を守り、カウンターでサポートしながら仲間の攻撃を通す。

 この戦い方は、やはり強い。

 四天王にだって負けはしない。

「ハッハー!」

 いつの間にかドラグバーンが上空へ移動していた。

 さっきの炎はくらましか。

 どうやら、本命はこっちのようだ。

「『炎星大爆裂拳メテオパンチ』!」

 翼をはためかせ、拳を構えたドラグバーンが高速で落ちてくる。

 あの怪力に、自重と翼によって加速した落下速度を加えた一撃。

 その破壊力は、まさにいんせきのよう。

 直撃すればステラですら死にかねないだろう。

 だが!

「『反天』!」

「ぬぉう!?

 それを俺はあえて真っ向から迎え撃った。

 強い攻撃力は強い衝撃を生む。

 そうなれば反天の餌食だ。発生する衝撃が大きければ、反天の威力も上がるのだから。

 ドラグバーン自身の力と黒天丸との激突によって生まれた極大の衝撃は、きょうじんな鱗を貫通して体の内部へと浸透し、骨の一番もろい部分を砕いた。

 しかし、手応えでわかる。

 これは骨にヒビを入れただけの、かすり傷だ。

「くっ!?

 ドラグバーンの攻撃の勢いが止まらない。

 反天には衝撃破壊の副次効果として、敵内部に浸透した衝撃が攻撃の勢いとぶつかって相殺してくれる効果がある。

 本来なら、それで攻撃は止まる。

 だが、この化け物の攻撃は止まらず、ほんの一瞬だけ弱めてき止めることが精一杯だった。

 俺はその一瞬で反天から『わいきょく』へと技をつなげ、ドラグバーンの拳を受け流す。

 威力を弱めたにもかかわらず、ドラグバーンの拳は大地に深々と突き刺さり、巨大なクレーターを作り出した。

 地面を吹き飛ばした時の衝撃波と、拳からはじけて拡散した炎が辺り一帯をじゅうりんする。

 俺は更に技を繋げて、後ろに下がりながら『斬払い』を使い、なんとか無事に生還を果たした。

 咄嗟だったせいで『歪曲』と『斬払い』は完璧ではなく、さすがに無傷とはいかなかったが。

 それでも散らし損ねた衝撃と炎は、大体剣聖シズカの羽織とよろいが防いでくれた。

 ちょっと『歪曲』の失敗で腕を痛めて、露出してた顔に火傷やけどを負って、羽織と鎧の上から全身を打ち据えられただけだ。

 治癒魔法でも使えばすぐに治る。

「『治癒ヒーリング』!」

 とか思ってたら、俺が何かするまでもなく傷が治った。

 今のはステラの無詠唱による治癒魔法。

 その道専門で鍛えてるリンに比べれば劣るってことであまり使わないそうだが、こういう時には便利だ。

「助かる!」

「どういたしまして!」

 そんな言葉を交わしながら、ステラと前後の位置をスイッチ。

 今度はステラが前に出る。

「魔導のことわりの一角をつかさどる光の精霊よ。神のちからの一端たる聖光の力よ。光と光掛け合わせ、極光となりて我が剣に宿れ。──『聖なる剣ホーリースラッシュ』!」

 そして、完全詠唱によって本来の力を発揮した光の斬撃を、大技の直後で硬直していたドラグバーンに叩き込んだ。

 それは斬撃ではなく、剣によって打ち出された光の奔流だった。

 光がドラグバーンを飲み込んでいく。

 聖なる光が魔を滅していく。

「ぬぉおおおおおおおおおお

 ドラグバーンは絶叫を上げながら、またも腕を交差させ、正面から光の奔流に耐えようとした。

 そこらへんの魔族なら、一秒ともたずにこの世から消滅させられるだろう極光に身を焼かれながら、ドラグバーンは耐える。耐える。ひたすらに耐える。

 そして……耐え切った。

「……クックック」

 ドラグバーンが不敵に笑う。

 しかし、奴は断じて無傷ではない。

 しんの鱗は光に焼かれて溶解し、あるいは衝撃で砕け、体の内側にまでダメージは通っているはずだ。

 いける。倒せる。奴は決して無敵じゃない。

 『流刃』が効かないからなんだ。

 『反天』でかすり傷しかつけられないからなんだ。

 それは、俺達が負ける理由にはならない。

 俺一人であれば敗色濃厚だっただろう。

 だが、五年の時を経て、ようやく再び相棒ステラと共に戦えるようになった今の俺達なら勝てる!

「ハーッハッハッハッハ!」

 ドラグバーンが笑い声を上げた。

 あれだけの傷を負っても、致命傷にはまだまだ程遠いらしい化け物が笑っている。

「よもや、よもや俺の体にここまでの傷を……! 素晴らしい! 素晴らしいぞッ! 久方ぶりの楽しい戦いになりそうだ! それでこそ魔王の命令に背いてまで飛び出してきたがあったというものだッッ!!

 歓喜。

 ただただ喜びに染まり、ドラグバーンの顔が凶悪にゆがむ。

 牙をき出しにして笑う。

 竜の表情なんぞ普通ならわからないが、今のこいつは実にわかりやすい。

 あまりの形相に、ステラがちょっとあと退ずさりするほどだ。

「随分と戦いが好きなんだな」

「何をわかりきったことを!」

 ちょっとした時間稼ぎついでに口を開いてみれば、ドラグバーンはりちに答えを返してきた。

「思うがままに戦い! 蹴散らし! 踏みつぶすことで目的を果たす! 欲しいものを手に入れる! それが魔族! それこそが魔族よ!」

 まるで常識を語るかのように、ドラグバーンは言葉を重ねる。

「そして俺は戦いが好きだ! だから戦う! 雑魚を潰してもつまらん! だから強敵を求める! それだけだ! それ以外に理由などいらん!」

 なるほど、実に魔族らしい理由だ。

 譲り合いの精神というものを学べと言いたいが、無理に決まってるだろうな。

 それ以上語ることはないと言わんばかりに、ドラグバーンは更なる攻撃態勢に入る。

 鋭い牙を生やした口を開き、その中に圧縮された炎の塊が生まれた。

 ブレスか。

 だが、ここで時間稼ぎ完了だ。

「『破壊剣』!」

「ぬ!?

 ドラグバーンの背後から巨漢の『剣聖』ブレイドが襲いかかり、その巨剣でガードに使われた腕に傷を負わせた。

 ステラの攻撃の時にも盾に使って大きく損傷している腕になら、あいつの攻撃でも通るらしい。

 それでも骨にすら届いてなさそうだが。

「硬ッ!?

「『熱竜砲ドラゴフレア』!」

「うお!?

「『せいじゅんけっかい』!」

 ドラグバーンは反撃にブレスを吐き出し、業火でブレイドを焼き尽くそうとする。

 しかし、ブレイドの目の前に現れた一枚の結界が、少しの時間ブレスを防ぎ、そのすきにブレイドは結界を蹴ってブレスの範囲外にまで逃げた。

「『泥沼マッドスワンプ』!」

 同時に、ドラグバーンの足下が泥沼へと変わる。

「むむ!?

「『落雷サンダーボルト』!」

「ぐぉおおお!?

 泥沼に足を取られたドラグバーンに、魔法の雷が降り注ぐ。

 魔法が飛んできた方を見れば、つえを構えたエルばあとリンの姿が。

 やっと来たか!

「遅いぞ!」

「すまんのう。残りの竜どもが特攻してきたんじゃ。じゃが、それももう片付いた」

 エル婆の言う通り、俺達がドラグバーンを抑えていたわずかな時間で残りの竜は全滅していた。

 これで奴は一人だ。

 少なくともこの場にはもう、ドラグバーンを助けてくれる奴はいない。

 まあ、あの性格を思えば望むところなんだろうが。

「ハーッハッハッハッハ!」

 案の定、ドラグバーンはまたしても愉快そうに笑った。

「この強さ! 貴様ら聖戦士だな! 勇者と奇っ怪な剣士だけでなく、更に聖戦士が三人も! 実にたかぶる! 高揚する! 燃えたぎるッ!」

 ドラグバーンは興奮したまま全身から炎を放ち、足下の泥沼を消し飛ばした。

 ……なんだ、この感覚は?

 さっきより火力が上がっている。

 ドラグバーンから感じる威圧感が、強くなっている?

「ッ!?

 そう感じた瞬間、ドラグバーンの体に目に見える変化が起きた。

 傷が治っていく。

 そう早いペースではないが、ブレイドが斬った腕の傷も、エル婆の雷撃に焼かれた肉も、ステラの大技で負った大ダメージも、目に見える速度で回復していく。

「ふむ! ようやく、あの奇っ怪なざんも薄くなってきたか! これで少しは本気が出せそうだ!」

「なん、だと……!?

 うそだろ!?

 あいつ、あれでも弱体化してたのか!?

 その言葉が真実であると示すように、ドラグバーンが動き出した。

 さっきよりも一段階速い速度で。

「では、参る!」

 魔王軍四天王の一人、『火』の四天王ドラグバーン。

 その底は、いまだに見えない。

「げっ!?

 ドラグバーンが最初に狙ったのは、一番近くにいたブレイドだった。

 攻撃力や防御力に比べれば大したことはないが、それでもそこらの英雄よりは速いスピードでブレイドに突っ込む。

「俺かよ!?

「近かったからなぁ! 『剛竜腕撃ドラゴボム』!」

「ブレイド様!? 『聖盾結界』!」

 ドラグバーンの選択した攻撃手段は、その豪腕によるラリアット。

 それを防ぐようにリンが結界を展開したが、無詠唱の弱魔法ではあっさりと砕かれる。

 だが、しっかりと威力は削ってくれたらしく、ブレイドは巨剣を盾にしてドラグバーンの攻撃を受け切った。

「オォオオオオ!」

「うぐっ!?

 しかし、ドラグバーンは密着状態から更に力を入れ、無理矢理ブレイドを吹き飛ばす。

 地面を削りながらブレイドが飛んでいくが、まあ、剣聖の頑丈さなら問題ないレベルだろう。

 リンが慌てて走り寄っていったし、なおのこと心配してない。

 むしろ、追撃をさせないために、俺はドラグバーンに突撃した。

「『熱竜集束砲ドラゴロウ』!」

 それに対し、ドラグバーンの対応はブレスによる迎撃。

 さっきブレイドに放った火炎放射ではなく、神樹を焼き切ったのと同じ熱線のブレスだ。

 溜めなしで放ったからか大分威力が低い。

 これは好都合!

「五の太刀──『まが返し』!」

「ぬぐっ!?

 黒天丸を熱線に添え、その勢いに身を任せたまま体を一回転。

 遠距離攻撃を回転に絡め取り、軌道を百八十度ねじ曲げることで、そのまま熱線をね返してドラグバーン自身にぶつける。

 さすがに、攻撃力が上がった状態の自分の攻撃なら通るらしく、ジュウウという肉が焼ける音がした。

 それでも表面しか焼けていないが。

 ドラグバーンが自分の攻撃を食らってたたらを踏んでるうちに、俺は全速力で距離を詰めて接近。

 巨体の頭部を狙うために飛び上がり、闇を纏ったくろづきによる刺突で、大抵の生物の急所である眼球を狙う。

「ガァア!」

 それを嫌ったのか、ドラグバーンは鋭い牙を剥き出しにしたみつきで俺を殺そうとした。

 牙もまた炎を纏っている。かすっただけでもまみれになるだけじゃ済まないだろう。

 だが、俺はその動きを読み、刺突による狙いを眼球から牙の一本へと変更。

 自分の攻撃を防がれた反動と、迫ってくる顔にぶつかった勢いを利用して『流刃』を発動。

 体を横に倒して回転しながらドラグバーンの上を飛び越え、その瞬間、『流刃』による斬撃で当初の予定通り右を斬り裂く。

「ぐっ!?

 よかった。さすがに眼球になら刃が通るか。

 ちょっとしたあんを覚えながら、俺は風を発生させるあしよろいで思いっきりドラグバーンの頭を踏みつけ、少しでも体勢を崩させてから、俺の後ろに続いていたステラに攻撃を託す。

「ハァアア!」

「ぬう!」

 まずは光を纏った剣での首筋へのいっせん

 腕を盾にして防がれる。

 だが、さっきの攻撃のダメージが残ってるからか、そこそこ派手に血が飛び散っていた。

「『聖十字斬りホーリークロス』!」

「ごぼっ!?

 続いて、腕を上げてしまったことでがら空きになった胴へ、バツの字を描くような二連撃。

 効いたのか、うめいて動きが止まったドラグバーンに、ステラは少し溜めた大技を叩き込む。

「『閃光の剣フラッシュソード』!」

「ぬぉおおおお!?

 さっき奴に大ダメージを与えた技と似た光の奔流がドラグバーンを飲み込み、すごい勢いで吹き飛ばした。

 さすがに完全詠唱したさっきの技よりは弱いが、それでも技の格としては明らかに上だ。

 効いていないわけがない。

 事実、光が収まった後に見えたドラグバーンの姿は、更なるダメージによって、見るもざんな血塗れ状態となっていた。

 だが、

「ハッハー! 痛い! 痛いぞォ!」

「ちっ!」

 ドラグバーンは倒れることなく、二本の足でしっかりと大地を踏みしめて立っていた。

 しかも、与えたダメージがみるみるうちに回復していく。

 回復速度まで上がってやがる……!

 化け物め!

「攻撃を止めるな! ダメージを与え続けるのじゃ! 『全属性の裁きジャッジ・ザ・エレメント』!」

「ぐぬ!?

 エル婆が長い詠唱の末に、竜の群れを一撃で半壊させた最強技を放ち、ドラグバーンに明確なダメージを刻む。

 今回は攻撃範囲を狭めて、その分威力を上げたのか、さっきのステラの攻撃に匹敵するダメージを与えていた。

 だが、まだまだ足りない。

 この化け物を倒すにはダメージが足りない!

「オォラァアア! 『大破壊剣』ッ!」

 リンの治癒魔法で戦線復帰したブレイドが巨剣を振りかぶり、フルスイングしてドラグバーンに叩きつける。

 飛沫しぶきが舞う。

 しかし、斬れ味ではなくパワーに依存した攻撃では、もうドラグバーンは小揺るぎもしなかった。

「何っ!?

「お返しだ! 『爆炎の拳バーンナックル』!」

 反撃の炎を纏った拳が、巨剣を攻撃に使った直後でガードができないブレイドに迫る。

 それを助けに動いたのは、俺とリンの二人だった。

 アイコンタクトで、ステラとエル婆には攻撃役を任せる。

 攻撃を途切れさせるわけにはいかない!

「『三重聖盾結界』!」

 リンの発動した三枚の結界が、ドラグバーンの攻撃の威力を削り、速度を緩める。

 その隙にブレイドのそばへと駆け寄った俺が、迫り来るドラグバーンの拳へと刃を振るった。

「『歪曲』!」

 選んだのは最も確実な防御技、『歪曲』。

 これによってドラグバーンの攻撃を歪め、らす。

 結果、ブレイドは助かった。

 しかし、俺の脳裏には更なるせんりつが走る。

「ッ!?

 ドラグバーンのパワーが上がってる。

 それ自体はわかってたことだが、上がり幅が半端じゃない。

 最初に受けた時の一・五倍はあるぞ!

 冗談じゃない。

 こんなもん、神樹による弱体化の影響が完全になくなったら、いったいどれだけ強くなるんだ?

 パワーどころか総合力までも、夢の中の魔王を超えかねないぞ!

 これが四天王。魔王軍の最精鋭たる、四体の怪物の一体。

 他の魔族とは、文字通り桁が違う。

 俺の認識はまだ甘かった。

 こいつらこそが……真の怪物だ!

「やぁあああああ!!

 そんな怪物に挑む者、勇者ステラが躍りかかった。

 真の力を出せない聖剣に自らの力で光をともし、ブレイドへの攻撃を空振りして隙をさらしたドラグバーンに剣を振るう。

 狙いは首。切断できれば即死を狙える場所。

 しかし、ドラグバーンは顔だけでステラの方を向き、炎を纏った牙で聖剣を噛んで止めた。

「嘘っ!?

「ぬぅううううう!!

 ドラグバーンが首を振り、聖剣ごとステラを振り回す。

 ここで聖剣を手放し、この化け物の前で一瞬でも丸腰になったら、簡単に殴り殺されてしまうだろう。

 それがわかっているステラは、咄嗟に聖剣にしがみついてしまった。

 そんなステラに、ドラグバーンは拳を振るおうとする。

「やめろォ!」

 その拳に『歪曲』を放ってステラを守る。

 だが、この一撃を防いだところで、僅かな時間稼ぎにしかならない。

 追撃がいる!

「ラァアアア!」

「ぐっ……!?

 ブレイドがドラグバーンの頭に巨剣を振り下ろした。

 目に見える傷はほとんどつかなかったが、衝撃が脳まで届いたのか、ドラグバーンが僅かによろめく。

 効いてるぞ!

「『鉄芯柱スティールピラー』!」

「ぬぐっ!?

 続いてエル婆の魔法によって、地面から鋼鉄の柱が出てきて、ドラグバーンの腹を殴打した。

 治り切っていなかった鱗にヒビを入れ、打撃を腹に響かせ、ドラグバーンを呻かせる。

あああああ!」

「ごぼっ!?

 そこへ俺が全力の『黒月』を突き刺す!

 非力な俺の力では、普通にやってもかすり傷すらつけられないだろう。

 だが今回は鱗に入ったヒビの部分を狙い、更に立て続けの攻撃で脆くなった肉の隙間に刃を突き立てた。

 そこまでやって、どうにか俺の刃は内臓まで届き、痛みでドラグバーンのあごの力を緩ませる。

「いい加減離しなさいよ!」

「おごっ!?

 そして最後に、ステラが全力の拳をドラグバーンの頭に叩き込むことによって、ようやくドラグバーンが口を開いて聖剣を離した。

 しかし、ただでは終わらない。

 ドラグバーンは、俺達が接近しすぎたこの状況を利用して、最後に一手を放ってきた。

「『爆炎解放バーンアウト』!」

「「「ッ!?」」」

 至近距離の俺達近接組三人に向けて、ドラグバーンの体から噴き出した爆炎が襲いかかる。

 俺はドラグバーンに刺してしまってすぐには使えない黒天丸の代わりに腰の怨霊丸を抜き、片手で黒天丸をドラグバーンの体から引き抜きつつ、もう片方の手で怨霊丸を使って『斬払い』を放った。

 それでなんとか自分への致命傷は回避したが、他の二人を助ける余裕まではなく、散らし切れなかった衝撃波に吹き飛ばされて距離が空く。

 慌てて周囲を見渡せば、ステラも俺と同じように咄嗟の防御が間に合ったのか、軽傷程度で無事でいてくれた。

 ホッと安堵の息を吐く。

 逆にブレイドは全身火傷を負って割と重傷っぽかったが、まあ、大丈夫だろ。

 命に別状があるレベルではないのだから、男なら根性で耐えられる。

 それに、

「『上位治癒ハイ・ヒーリング』!」

 リンから俺達全員に、高位の治癒魔法が飛んできた。

 おかげで俺とステラは全快だ。

 全身火傷のブレイドも、戦闘継続が可能なくらいには回復した。

 その間も、エル婆はドラグバーンに攻撃を撃ち込んでいる。

 こっちも攻撃再開だ。

 俺とステラはノータイムで、ブレイドは少しだけ遅れて、再びドラグバーンに突撃した。

「ハーッハッハッハッハ! 楽しい! 実に楽しいぞ! これだけ楽しいのは魔王と戦った時以来だ!」

 またしてもドラグバーンが笑う。

 回復速度は更に上がり、もう俺が潰した眼球の再生すら終えていた。

 いったい、どれだけの攻撃を叩き込めば倒せるのか見当もつかない。

 だが、やるしかない。

 竜に近い体なら、最悪でも首から上を吹き飛ばすなり、体を真っ二つにするなりすれば死ぬだろう。

 こちとら、体を真っ二つにしても死なない老婆とかを殺してきてるんだ。

 この程度で絶望すると思ったら大間違いだぞ!

 しかし、次の瞬間、ドラグバーンは予想外の行動に出た。

「ふむ! やめた!」

 軽く。実に軽くそう言って、ドラグバーンは大きく跳躍して翼を広げ、上空へと逃れた。

 今まで回避行動すら取ってこなかったドラグバーンが、初めて逃げた。

「やめだやめだ! こんなに楽しい戦いなのだ! 弱った状態の不完全燃焼で終えるのはもったいない! 勇者とその仲間達よ!」

 ビシッと上空から俺達を指差して、ドラグバーンは一方的に告げる。

「決着はお預けだ! あの奇っ怪な樹の残滓が完全に消えた時、俺は再び貴様達の前に現れる! その時こそ、どちらかが死に絶えるまで存分に戦い尽くすとしようぞ!」

「勝手なことを抜かすでないわ!」

 エル婆がキレながら魔法を乱打する。

 ドラグバーンは神樹をへし折った下手人だ。エル婆からしたら、なんとしてでも殺してやりたい存在だろう。

 それを差し引いても、あんな化け物、少しでも弱ってるうちに倒しておかなければならない。

 そんなことは全員がわかっているからこそ、俺達は全員ができ得る限りの遠距離攻撃でドラグバーンを撃ち落とそうとした。

 だが、心の中では全員が理解していたと思う。

 あの不死身のごとき化け物が本気で逃走したら、現状の戦力で阻止するのは不可能だと。

「ハーッハッハッハッハ! ではさらばだ! また相まみえようぞ!」

 そう言って、ドラグバーンは煙幕代わりに膨大な炎を吐き出して消えた。

 追いかけることはかなわない。

 こうして、俺達と四天王の最初の戦いは、突然終わりを告げた。

 近い未来に、特大の不安の種を残して……。